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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第四十七章――決死隊
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407 待ってろ!

夜明け。東の空が白み始めた。


大地はまだまどろみ、草の葉は朝露をまとってゆっくりと目を覚ましていく。


だが、Kanatheonの避難所では、すでに出発の支度を整えた者たちがいた。


避難所の入口にある、リオのトタン小屋――


加奈、寧々、松美が地中深くから上がり、トタン小屋の内扉を開けると、ニフェトと一樹が小屋の中で待っていた。


雷鳴のようないびきが響いていた。松美がいたずらっぽく部屋の隅を指さすと、パシュスが盾を枕にして眠っていた。


「どうしてログアウトして寝ないの?」

松美は作業台に突っ伏し、ゴーグルをつけたまま眠っているリオを起こさないよう、小声で尋ねた。


「なるべくログインしたままにしてるの。どうせ現実の体も眠りに入るから」

ニフェトは微笑み、三人に温かいお茶を注いだ。


加奈は、ニフェトの両手がわずかに震え、目の下に濃い隈ができていることに気づいた。


「眠ってないの?」加奈は眉をひそめて尋ねた。


「誰かが入口を見張らなきゃ。外がどうなってるか分からないから」ニフェトは苦笑し、湯飲みを差し出した。


早朝の空気にはかすかな冷気が漂い、三人が手にした湯飲みの温もりがひときわ心地よかった。


「護心石はちゃんと持った? 加奈」

一樹は心配そうに尋ね、そっと加奈の頬を撫でた。


「だ、誰があんたなんかに心配してほしいって言ったのよ、このザコ」

加奈は耳まで真っ赤になったが、一樹の手を振り払わなかった。


「カミコは?」ニフェトは真っ暗な地下通路の奥を見つめた。


「寝てる」松美は苦笑しながら首を振った。


「ログインして、見送りもしないつもり?」ニフェトは眉をひそめた。


「どうせ現実じゃ朝から晩まで一緒だし、私が戦死したら言い訳できなくなるんだから、今度はあちこち遊びに連れていけってさ」

松美はこの任務が自殺行為に等しいと分かっていたが、不思議と気持ちは軽かった。


「寧々……行く必要はない。いや、本当はKanatheonの誰も行く必要なんてないんだ。今ならまだ小隊を抜けてもいい」ニフェトはつらそうに言った。


「ドイツプレイヤーの習性をよく知ってるから、きっと役に立てる。行かせて」寧々はきっぱりと言った。


【システムメッセージ: フレンド 古志 ログイン】


「悪い、腹を下した。早く起きすぎたな。装備の準備はできてるか?」

古志の顔は青ざめ、唇まで白くなっていた。


加奈、寧々、松美は装備を床に並べた。どれも黒を基調とし、指輪までくすんだ灰黒色だった。


「覚えておけ。光を放つスキルやアイテムは使うな。暗闇ではすぐに見つかる」

「移動中は、できる限り透明化状態を保て」

「リオの小屋を出たあとは、現実世界のメールでしか連絡できない。だが、メールは中枢AIに解析・検閲されるため、送受信には少なくとも数分の遅延が生じる」

「つまり、不測の事態が起きても救援は来ない。分かったな?」

古志は厳しい表情で言った。


三人はうなずいた。


「もし構わないなら……財産はここに預けていけ。この任務は不確定要素が多すぎる」古志は重い声で言った。


三人は目を瞬かせ、考え込んだ。古志の言うとおり、死後にドイツプレイヤーへ財産を奪われるくらいなら、ギルドの仲間に残したほうがいい。


寧々は所持していた四千竜貨と、数点の希少装備、それに少しばかりの貴重な玩具を机の上に置いた。


一方、加奈と松美は何の反応も示さず、羊貨一枚さえ出さなかった。


「二人は出さないの?」寧々が不思議そうに尋ねると、加奈と松美は顔を見合わせた。


「私はプラムスで死ぬつもりなんてない……生きて帰ってくる」加奈は不敵に笑った。


「カミコは私が生きようが死のうが気にも留めてないけど、それでも私には生きる理由があるから」松美は気まずそうに言った。


全財産を預けようとした寧々を、全員がじっと見つめた。まるで自分で死亡フラグを立て、プラムスで命を落とすと決めつけているかのようだった。


「私にだって……生きる理由はあるんだから!」寧々は慌てて、装備をすべてかき集めてリュックへ戻した。


「よし! 三人とも必ず生きて帰ってこい。武運を祈る」古志は三人に一礼し、脇へ退いた。


「今回は……私が本拠地に残る。もうお前たちを救うための人員を回すこともできない。くれぐれも気をつけて」


ニフェトが念を押すと、三人は黙ってうなずいた。


三人は黒一色の装備を身につけ、革靴を履き、手袋をはめ。


ニフェトはパシュスを叩き起こした。パシュスは眠そうな目で三人にうなずき、小扉の先にある分厚い鉄扉を開けた――


涼風が、閉ざされていた小屋の中へ一気に流れ込んだ。


淡青色の空に、夜明けの金色が差し始めていた。


「今のドイツ時間は深夜だ。まもなく、ドイツ人プレイヤーの中で最も戦力の低い夜勤部隊が城の守りを引き継ぐ。一時間以内に鉄耳山脈へ着き、影の旅団のメンバーと合流しろ」


古志が告げると、三人はそれ以上言葉を交わさず、濡れた草を踏みしめてリオの小屋から飛び出し、南へ駆けていった。


…


ほどなくして、三人は再びハゲグ城の勢力圏へ入った。海沿いを進み、ハゲグを迂回することにした。


波音に紛れて足音を消した。だが、その波音は背後から近づく機械音までかき消していた。


一機の黒環偵察機が、森の中を縫うように飛んでいた……


...


松美は加奈と寧々を先導し、慎重に斜面を越え、川を渡り、森を抜けていった。


鉄耳山脈のうねる稜線が、前方にかすかに姿を現した。


松美は不意に森の中で二人を制止し、海岸線を指さした。細い煙の柱が空へ昇り、その下ではドイツ人プレイヤーの海防隊員三人が火を焚いて暖を取っていた。


「ザコ、さっさと行くわよ。何を見てるの?」加奈は苛立たしげに言った。


「観察、予測、行動――それが暗殺の極意よ。これから牢獄を襲う私たちにも、同じ原則が当てはまる。海岸のドイツ人プレイヤーを殺しておけば、鉄耳山脈までの道も安全になるでしょ。あいつらは三次職にすぎない。私たちなら簡単に始末できる」


松美は木の幹に身を隠したまま、小声で説明した。加奈と寧々は感心したように目を見張った。


...


「ふぁぁ……」海防隊のドイツ人プレイヤーたちは、浜辺の焚き火を囲んでぼんやりしていた。


「気を抜くな……もうすぐ士官が見回りに来るぞ」重装備の隊長が注意した。


「夜勤って最高だな! 新世界に入れるだけのポイントも、そろそろ貯まったはずだ」もう一人が笑った。


「何が最高だよ。現実じゃ真夜中なのに、ゲームの中は朝じゃないか」


一人が不満そうに空へ愚痴をこぼした。


突然、三人の足元に、ふくらはぎまで覆う分厚い氷が張った。


「氷牢だと!?――」


重装備の隊長が愕然とし、盾を構えようとした。その瞬間、松美は三人の周囲を素早く一周し、シュルッと縄でまとめて縛り上げた。


「焔爆術!」加奈は三人の足元に火を放った。


ドンッ!!


巨大な煙の塊が海岸線から立ち昇った……

...


鉄耳山脈北側の森の奥――


マイロは苛立ちを顔に浮かべ、腰に手を当てて片足を揺らしながらサーバー時刻を確認した。


「あと二分……Kanatheonの連中は来ないかもしれない。最終点検をして、俺たちだけで出発する」

マイロは装備の確認に取りかかった。


その頃――


「よっ」キティはKanatheonの三人を連れ、自分の仲間たちと合流した。


「あれ、白は?!」加奈は驚いて尋ねた。

白は決死隊に加わっていなかった。代わりにいたのは――雨間刻だった。


「こいつには、どうしてもプラムスへ行かなきゃならない理由があるのよ」

キティが意地悪く笑うと、雨間刻は彼女をにらみつけた。


「俺は暴君だ。俺が加わったほうがパーティー編成のバランスもよくなる。今回の任務は俺が指揮する。それでいいか?」


仲間たちに異論はなかった。


雨間刻はプラムスの地図を広げ、説明を始めた。


「地下監獄はプラムスの南側にある。俺たちは東城壁から潜入する。まず地下道で接近し、見張り塔の狙撃手を始末する。そのあとは裏路地を通って監獄へ向かう。最後の難関は、幅二十メートルの馬車道だ。ここが作戦中、最も見つかりやすい場所になる。絶対に気を抜くな。監獄へ入ったら戦闘は避ける。三階の火野良を救出したあとは、何があっても南へ脱出し、初心者の村まで走れ。村に入れば安全だ」


雨間刻はプラムスの地図に一本の線を引いた――東から入り、途中で南へ折れる経路だ。最も重要なのは、プラムス塔を中心とする半径三百メートルの警戒圏を完全に避けることだった。


加奈がすぐに手を挙げた。


「東城壁の内側にある地下道だけど、見て……北に一本、中央に一本、南に一本ある。全部、見張り塔へつながってる。妙な設計ね」

加奈は眉をひそめた。どう考えても不自然な造りだった。


「確かに妙だ。だが東側一帯にはドイツ人プレイヤーが駐屯している。地上は通れない。地下道へ入ったあとは臨機応変に動くしかない。そうしなければ監獄へたどり着くのはもっと難しくなる」

雨間刻もすでに問題には気づいていた。だが手元の情報は限られており、柑々の地図を頼るほかなかった。


「柑々には連絡して、協力を頼んだの?」松美が尋ねた。


「いや。柑々を……こんな危険に巻き込むわけにはいかない。あいつは狼の巣のど真ん中にいる。もし見つかれば、柑々自身が危険なだけでなく、俺たちの作戦まで露見するかもしれない」

雨間刻は眉をひそめた。


「ドイツ人プレイヤーは二時間後の真夜中に交代する。城壁の守備兵は九割近くがいったん城内へ戻り、新しい守備兵が城壁へ上がるまでに五分間の空白が生まれる。その間、城壁全体を守るドイツ人プレイヤーは十人にも満たない。そのうち一人を一撃で倒せれば、警報装置を解除して城内へ潜入できる」

寧々は地図の東城壁を指でなぞりながら説明した。


一同は思いがけない情報に、表情を明るくした。


「どうしてそんなことを知っている?」雨間刻が驚いて尋ねたが、寧々はただ笑うだけで答えなかった。


「これ以上、付け加えることはない……全員の武運を祈る。出発だ」

雨間刻は地図を巻いた――決死隊は、ついに出発した。


雨間刻の思いはすでに、数十キロ先にあるプラムスの地下監獄へ飛んでいた……


「火野良、待ってろ!」

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