403 ヒューズ
「こいつら、経験値が多いぞ!」
「でも数が少なすぎる。もっとたくさん見つける方法はないのか?」
初心者の一団は、毒蛍の沼地で初心者にとって格好の獲物――灯蛙と遭遇した。
彼らはゲームをじっくり楽しむこともなく、観察力にも乏しかった。そのため、六口弥生が編み出した効率的なレベル上げ方法には気づけなかった。
そもそも大半のプレイヤーは周囲に目もくれず、ひたすら最高レベルを目指して駆け抜けていく。
彼らは経験値とレベルだけを追い、沼地そのものを楽しもうとはしなかった。足元にある小さな発見にも、自分たちの周囲で進んでいる変化にも、ほとんど目を向けていなかった。
...
「おい! この紙を見てみろ……」一人が、沼地の木の幹に何枚もの羊皮紙が打ちつけられているのを見つけた。
そこには平和と繁栄に満ちた大通り、笑顔で行き交うプレイヤー、色鮮やかな街並みが描かれていた。
「ここは……プラムスか?」彼らはプラムス塔を見て、絵に描かれた場所を突き止めた。
一枚めくると、栄華を極めたハゲグに無数の灯りがともっていた。内湖の水面には銀色の月が映り、何本もの枝垂れ柳が黒い影を落としている。その光景は息を呑むほど美しかった。
「ハゲグって……焼け野原じゃなかったのか!?」彼らは驚き始めた。
さらに一枚めくると、全員がどよめいた。
壮麗な教皇都市は王都よりもはるかに絢爛だった。ワスティン大聖堂の四隅に立つ大理石の柱にまで宝石が埋め込まれているのに、道行く者たちは花でも眺めるように平然と通り過ぎていた。
「こいつら、宝石を掘り出して盗まないのかよ!? 馬鹿だな! 俺たちなら、とっくに全部剥ぎ取ってるぞ!」一人が嘲笑った。
この三つの場所が、本サーバーの初心者に許された主な活動範囲だった。そこから一歩でも外へ出れば、ドイツプレイヤーに問答無用で殺される。
最後の一枚をめくると、もう絵はなく、文章だけが記されていた。
「これは、かつての我々のサーバーの姿だ。美しいだろう? 想像もしていなかっただろう?
我々のサーバーは、決して未開の部族などではなかった。高度な文明を築き、すべての王都の設備も最高段階まで強化されていた。
ドイツプレイヤーが上陸したとき、我々は千人の精鋭と数千のNPCを集結させ、彼らとの決戦に挑んだ。命懸けでサーバーを守るために。
だが、我々は敗れ、降伏した。
ドイツプレイヤーは街にいたプレイヤーを好き放題に虐殺し、レベル五十以上の者は見つかり次第殺され、街に残ることさえできなかった。
我々は深い山中、地底、川沿いの堤防内部に身を潜めるしかなかった。
ドイツプレイヤーがお前たちに語った歴史は、すべて嘘だ。
我々は勇敢に戦い、教皇ソフィアも自ら前線に立った。
だが、教皇は死んでいない。今もムー大陸のどこかで、皆のために祈っている。
戦える者は、戦え!
戦えない者は、怒れ。
我々はレベルを上げる自由を奪われた!
戦う自由を奪われた!
探索する自由を奪われた!
楽しむ自由を奪われた!
あといくつ奪われれば、我々は立ち上がるのか?
剣一本、毒一滴。
自由を勝ち取るための武器を、今では狩りにしか使っていない。それで満足なのか!?
本来なら四次職になり、空を駆け、風を呼び、雨を操れたはずのお前たち。それで満足なのか!?
いつの日か、我々は必ず自分たちのサーバーを奪還し、地底に追いやられた賤民ではなくなる。
大戦を生き延びた者、ここに記す――」
「俺たちは……四次職になれるのか!?」初心者たちは川沿いの堤防内部期待と不安の間で揺れながら、羊皮紙を見つめた……
...
「ルース総統! ムー大陸の各地で――」副官が慌ただしく報告に駆け込んだ。
「分かっている! 人員を増やしてビラを撤去しろ! 初心者向けの教育内容も強化するんだ!」
ルースは次々と舞い込む報告書の処理に追われていた。。
「ルース総統! ビラを配っている組織の拠点を突き止めました!」ドクトンが広間へ駆け込んだ。
「どこだ!?」ルースの全身の肉が怒りでぶるぶると震えた。
「初心者の村です!」ドクトンが答えた。
「レベル五十未満の初心者が保護される仕組みを利用したのか!? くそっ! モンスターで初心者の村を包囲し、村から出にくくしろ!」
ルースは激怒し、自分のペットを残らず解き放つことにした。
...
「ドイツ人プレイヤーが来たぞ!!!」反抗軍に加わった数人の初心者が村へ駆け込んだ。
栞は慌てて笛を吹き鳴らした。初心者の村の周囲に散らばっていた仲間たちは、すぐさま村内へ引き返した。
「早く戻れ! ドイツプレイヤーは初心者の村に入れないぞ!」十数人が村の入口へ走った。
そのとき、別の初心者たちが手をつないで人間の鎖を作り、村の入口を塞いだ。
「どけ!」ビラを貼っていた初心者たちは人間の鎖に阻まれ、村へ入れなかった。
「何をしてるの!?」
栞は驚いて彼らを引き離そうとしたが、初心者たちは互いの腕を固く組み、びくともしなかった。
「お前たちのせいで、最近ドイツプレイヤーが狩場を封鎖し始めたんだ! 俺たちはレベルを上げられない! 全部お前たちの責任だ!」人間の鎖のリーダーが怒鳴った。
「正気なの!? 私たちは仲間でしょう!」
栞は涙を流しながら、必死に彼らを引き離そうとした。
「消えろ!」人間の鎖を作った初心者たちが栞を突き倒した。
ドイツプレイヤーと、筋肉の塊のような人狼が数十体が村の入口へ殺到した。初心者たちは安全地帯の外に締め出されたまま、足の遅い者から次々と押し倒され、たちまち人狼に引き裂かれて肉片となった。
「早く入って!」
栞は人間の鎖のわずかな隙間へ体をねじ込み、地面を蹴って左右へ押し広げた。
初心者たちは慌ててその隙間を抜け、村内へ逃げ込んだ。
「くそっ! 他のプレイヤーの迷惑も考えない身勝手な奴らめ! 死ね!」人間の鎖のリーダーが全力で蹴りつけた。
栞は村の外へ弾き飛ばされ、数メートル先に転がった。
「うそっ……!」
背筋が凍った栞が振り返ると、人狼はすでに目の前まで迫っていた。牙の隙間にこびりついた腐肉の臭いまで漂ってくる。
「走れ!!」栞のそばに残っていた数人は必死に駆け出し、村の入口から左右へ散ったが、すぐに人狼に引き裂かれて肉片となった。
「私……もう一度アカウントを買って戻ってくる。それから、お前を八つ裂きにしてやる」
栞は人間の鎖のリーダーの襟をつかみ、額に青筋を浮かべて睨みつけた。
「やってみろ!」人間の鎖のリーダーがもう一度栞を蹴り飛ばした。
栞は再び地面に倒れた。目を開けると、二体の人狼が顔めがけて飛びかかってきていた……
二体の人狼が初心者の村の保護区域へ踏み込んだ、その瞬間――
正午。灼熱の太陽が照りつけ、青空には雲一つなかった。
しかし、空は少しずつ白く染まり、ブーンという低い音が響き始めた。
室内の光に異変を感じたルースは、すぐさま窓辺へ駆け寄り、険しい表情で空を見上げた。
「お前とは約束を交わしたが、初心者保護の設定だけはどうしても変えられなかった……。ついに作動したか、サーバー最後の安全装置――ヒューズ」
ルースは空に向かって重々しく呟いた。
...
「うわあっ!!」栞は反射的に両腕を上げて身を守った。
ザシュッ! 血が飛び散り、人狼の胸を白金の聖槍が貫いた。噴き出した狼の血で、栞の全身が真っ赤に染まった。
「ヒューズだ……逃げろ! 初心者の村から離れろ!!!」
ドイツプレイヤーたちは空の異変を目にした途端、一目散にプラムスへ逃げ帰った。
人狼は痛みに激昂し、栞に牙と爪をむいた。
白金色の槍がひねられると、バキッという音とともに人狼の胸が砕け、その体が宙へ持ち上げられた。
栞は空から放たれた強烈な光に目を眩まされ、そばに立つ二つのしなやかな黒い影しか見えなかった。
【警告: 悪魔属性および魔王属性のプレイヤーは、ただちに初心者の村周辺から退去してください】
光り輝く隕石が、初心者の村の中央へ落下した!
……だが、不思議なことに激しい爆発は起こらなかった。
爽やかな風が吹き抜け、辺りには花の香りが漂い始めた。
初心者たちは腕で目を覆いながら、村の中央で輝く強い光を必死に見つめた。
【システムメッセージ: 初心者の村の村長が初心者の村の支配権を喪失】
純白に輝く生命体が村長のそばに立っていた。村長はその姿を見るなり、すぐさま跪いた。
それは女性の姿をした生命体で、眩い光を放っていて、まともに直視することさえできない。その神々しい美しさを前に、誰もが息を呑んだ。
一歩踏み出すと、その背に六枚の巨大な神翼が広がった。
百を超える天使が初心者の村を取り囲み、守りを固めた。人狼たちはたちまち一掃されていった。
【システムメッセージ: 第五大天使長 精霊女王 蕾が出現】
【システムメッセージ: 第五大天使長 精霊女王 蕾が初心者の村の支配権を掌握】
「ラロが創りしものは、私が守る」蕾はそう告げた。
...
決戦の日が来たのか!?




