402 かつての敵、今や盟友
火野良がクトゥルフに敗れてから、二日後――
「うわっ、クトゥルフはもう数百連勝してるらしいぞ!」
「強すぎるよな! 俺も戦い方を教わりたい」
「はあ……入場券は一枚百竜貨もするんだぞ。注目の試合なら転売価格が数百、下手すれば千竜貨まで跳ね上がる。高すぎて買えないよ!」
「あの火野良って奴、本当に馬鹿だよな。俺ならクトゥルフを見た瞬間にログアウトするよ。どうせゲームなのに、なんであんな必死に戦うんだ? 馬鹿なのか?」
「ハハハハハッ!」
三人の初心者が、プラムス近郊にある小さな村のオープンテラスで休んでいた。
ドガシャーン!
初心者の一人が突然背後から突き飛ばされ、木のテーブルを押し潰した。
「弁償しなさい!」NPCの女が驚いて店から飛び出し、プレイヤーを叩きながら怒鳴った。
「前も見ずにぶつかってきた奴に払わせろ!」男弓兵が怒鳴りながら振り返ると――目を真っ赤に充血させたノクシアと、険しい表情の栞、そして男剣士が道に立っていた。
六人は道の真ん中でにらみ合った。
「おい! 謝って金を払え!」初心者がノクシアを指さして怒鳴った。
「火野良は……本サーバー最強のプレイヤーよ。狭い世界しか知らない哀れな井の中の蛙には、あの人の強さなんて理解できない。豚小屋で餌さえ与えられれば満足して、誇りも自由も何とも思わない。あんたたちを本サーバーの仲間だなんて、私は絶対に認めない!」ノクシアが激怒した。
バサッ――初心者の一人が黒衣をまとい、ノクシアの眉間へ矢を放った。しかし、矢はシステムの保護に阻まれて弾き飛ばされた。
「なんだ、まだレベル五十にもなってないザコか。道理で威勢だけはいいわけだ」矢を放った初心者が笑った。
「この野郎……」男剣士が二枚の経験値カードを取り出したが、ノクシアが手で制した。
「ハッ! 怖気づいたか!? ザコが! 俺様のレベル上げを邪魔するんじゃねえ! 俺はドイツ軍の指揮官になるんだ!」初心者が大笑いした。
「こいつらなら……一枚で十分よ……」
ノクシアは初級経験値カードを一枚取り出して口へ放り込み、噛み砕いた。全身から金色の光が噴き上がり、ちょうどレベル五十へ到達した。
「白の矢!」
ドゴォォォン!!!!!!!!!!
初心者は魔法で十メートルも吹き飛ばされ、何台もの木製テーブルを押し潰した。
「もう! うちの店で喧嘩しないで! 早く弁償してよ!」NPCの女が泣き叫んだ。
初心者の仲間たちは目を見開いたまま、ぎこちなくノクシアへ顔を向けた。
「な……何なんだよ……速すぎるだろ」
吹き飛ばされた男弓兵が、慌てて地面から這い起きた。
「氷牢!」
男弓兵の両脚が氷に覆われ、身動きが取れなくなった!
「火炎弾!」ノクシアがさらに二つの小さな火球を投げつけると、男弓兵はたちまち全身を炎に包まれ、悲鳴を上げた。
「ザコが……雷導術――」
ノクシアがとどめを刺そうとした瞬間、別の黒衣姿の初心者が背後から片手剣で斬りかかった。
ヒュッ、ザシュッ!
栞の矢が初心者の剣を握る腕へ正確に命中し、その手から武器を弾き落とした。
「武器もまともに握れないくせに、何を戦おうとしてるんだ?」男剣士が嘲笑した。
栞がもう一矢放つと、初心者は慌てて身をかがめた。再び立ち上がったときには、栞がすでに目の前まで転がり込み、短弓を顔へ向けていた。
「二連矢!」
バシュッ、バシュッ! 栞は一撃で相手を仕留め、残る二人の初心者を震え上がらせた。
「お前ら、チートを使ってるだろ! 魔法職がそんなに速く動けるわけない!」初心者が怒鳴った。
「連携すら知らないくせに、指揮官になりたいだと? 夢を見るのも大概にしろ」男剣士が冷笑した。
「ログアウトしないの? さっきまで余裕ぶっていたじゃない。保証してあげる。あんたはたっぷり苦しんで死ぬことになるわ」
ノクシアは険しい表情で告げた。その手にある魔杖が、すでに熱を帯び始めていた。
「嫌だ! 頼むから見逃してくれ! 最初からやり直したくないんだ!」男弓兵が泣き叫んだ。
「悪いけど、私はもう三回も最初からやり直してるの……。私の顔を覚えておきなさい。生まれ変わって戻ってきたら、またあんたを惨殺してあげる」ノクシアは男弓兵の手を踏みつけた。
「やめろ!!! やめてくれ!!!!」
「星火連焼」
オープンテラスに凄まじい悲鳴が響き渡り、最後に残った初心者は逃げる力さえ失っていた。
ちょうどそこへ、ドイツ人プレイヤーの聖職者が二人通りかかった。
「助けて!!! 助けてくれ!!!」初心者は地獄で仏に会ったかのように駆け寄り、女司教の脚へしがみついて泣き叫んだ。
「うえっ、何よこいつ?」女司教は顔をしかめ、薄汚い野良犬でも追い払うように神杖で初心者を突き放しながら、脚を引っ込めた。
「あ……あいつらが俺を殺そうとしてるんだ!」初心者はノクシアたち三人を指さした。
三人は驚いた。ノクシアはまだ戦闘状態にあるため、黒衣を脱ぐことができない。
「俺に何の関係がある!?」男司教は初心者を蹴り飛ばし、女司教とともに足早に立ち去った。
「栞……教えて。初心者が最初の護心石を手に入れるのは何レベル?」ノクシアが笑顔で尋ねた。
「レベル八十」栞が答えた。
「そう。残念ね」ノクシアは初心者へ邪悪な笑みを向けた。
「氷牢!」「雷導術!」
栞がノクシアの殺人を目にするのは、これが初めてだった。
ノクシアのすべての動きには無駄がなく、スキル同士のつなぎも完璧だった。栞はようやく、ノクシアがただ自慢していただけではないと確信した。
「あなたは本当に……銀龍の刻印の副長なの?」栞が興奮して尋ねた。
「本当かどうかなんて、どうでもいい。初心者が抵抗する理由になるなら、それで十分よ」ノクシアは平然と言った。栞は心の中で笑い、真面目なときのノクシアは案外かわいいと思った。
「まずい……早く行きましょう!」先ほどの二人のドイツサーバーの司教が慌てた様子で、来た道を走って戻ってきた。
三人が不思議に思って振り返ると、逆さ十字架を担いだ黒ずくめのプレイヤーが五人、道を歩いてきた。
五人は鍛え抜かれた肉体に聖句を刻み、平然と歩いていた。
「ほう、PK解放か! 見どころがある」一人が足を止め、ノクシアへ笑いかけた。
「燃える逆十字のギルド紋章……灰になっても忘れはしない。性殿十字軍!」ノクシアは、まさか長い時を経て、このムー大陸で宿敵と再会するとは思ってもみなかった。
「いやいや、性殿十字軍はもう過去のものだ。今の俺たちは性殿騎士団だ」アビルが笑った。
「どちらも同じよ」ノクシアは吐き捨てた。
「さっきはなかなか勇敢だったな。どうして人を殺した? 楽しむためか?」アビルが興味深そうに尋ねた。
「あいつらはドイツ人プレイヤーに寝返ったうえ、火野良まで嘲笑った。あんな奴らを仲間だなんて、私は絶対に認めない!」ノクシアが怒鳴った。
「ふふん、なかなかの腕前だ。キャラクターを作り直したのか? 名前は?」アビルが尋ねた。
「ノ……ノクシア」ノクシアは気まずそうに答えた。
侵略者に正体を見破られるのを恐れ、名前を変え、女性キャラクターとして作り直していたのだ。
「ハッ、銀龍の刻印の副長だろ」アビルが笑った。
ノクシアは何も言わず、否定も肯定もしなかった。
「銀龍の刻印のギルマスは誰だ?」アビルが尋ねた。
「アンドリア」ノクシアが答えた。
「幹部は?」
「イージ、シモン、ブラミィ、由里。何のために聞くの?」ノクシアは眉をひそめた。
五人の狂信者は互いにうなずき合い、そのうちの一人がNPCの女を押しのけて遠ざけた。
「ノクス……初心者を集めて秘密ギルドを作れ。レベル五十未満の保護制度を利用し、本サーバーの歴史を広めるんだ。ビラは俺が印刷して渡す。俺たちは反撃を始める」アビルが声を潜めて告げた。
「反撃? どうやって反撃するんだ……」ノクシアはやるせなさそうに呟いた。
「俺から柑々に連絡する。初心者の村の辺りにいろ。向こうから接触してくる」
アビルは笑って彼女の肩を叩いた。骨まで砕けそうな勢いで、HPが一目盛りずつ減っていく。
「お前たち……何か策があるのか?」
ノクシアは喜びに目を輝かせた。五人の力強い背中を見つめていると、まるで夜明けが見えたような気がした。
「ふん。見ていろ」アビルは笑い、手を振って立ち去った。
「柑々……よし! やれるだけやってみよう!」
ノクシアは目元を拭い、もう一度背筋を伸ばした。
栞は、自分が今まさに激動の時代の渦中にいるのだと悟り、これから始まる歴史に胸を高鳴らせた。
...
「こちらが直近二日間の人口報告です」ドクトンは人口報告書を差し出した。
ルースは険しい表情で書類に目を通した。
宝物庫の広間には紙をめくる音だけが響き、重苦しい空気が漂っていた。
「まさか火野良の影響力がここまで大きいとは……。空羽谷、竜尾湾、幽語の森周辺では、高レベルプレイヤーが明らかに減っている」
彼らの世代交代計画は順調に進んでいた。今や本サーバーの初心者の大半はドイツ人プレイヤーに反感を抱いておらず、古参プレイヤーはほとんど姿を消している。
「ローテン城の部隊に撤退命令を出せ。任務は完了だ」ルースが不意に告げた。
ドクトンは表情を曇らせ、ルースと視線を交わした。
「ヒューズがやって来る」ルースはうなずいた。




