396 全部返した
「Kanatheonが現れました」部下が報告した。
パーカーは手にしていた命令書を引き裂き、南を指した。
「全軍、南へ」
黒い環が描かれた何本もの大旗が、南へと移動し始めた。
……
「アンドリア……」本サーバー側に動揺が走った。
まさか何日も経ってから戦場で再会することになるとは。それも、互いに違う陣営に立って。
同じ顔、同じ銀の鎧。それなのに掲げている旗だけが違う――あの鎧の中にいるのは、本当に同じ人物なのか?
「その旗、ずいぶん似合ってるじゃない、アンドリア…………」ニフェトは怒りで顔色を変えた。
「抵抗するなら、武力で鎮圧する」アンドリアは淡々と言った。
「たった数週間で、ずいぶん嫌な口の利き方になったわね」加奈は眉をひそめた。
アンドリアは動じず、大旗を握る手も微動だにしない。
「最後の警告だ……Kanatheonと影の旅団の者たちへ」
「いいわ、アンドリア。あの日はKanatheonを見捨てて、今日は私たちに武器を向けるのね。ようやく本性が見えたわ。騎士王なんて全部でたらめだったのよ! 苦しい時にこそ人の本性が分かるって、本当だったのね!」ニフェトはアンドリアの顔を指さし、押し殺していた怒りをすべてぶつけた。
「それが、あなたたちの選択なのね」アンドリアは寂しげに振り返った。
「いいわ。来なさいよ、銀色の犬!」ニフェトが嘲笑う。
アンドリアの足が止まった。
「あなたなら分かってくれると思っていた……」
「もちろん分かってる。ギルドのためなんでしょう! でも、あなたには最低限の筋ってものもないの!? 今のKanatheonは四十人も残っていない。それでも私は、ドイツ人プレイヤーとの協力を拒み続けてきた。どれだけ仲間が死んだと思ってるの!? あなたはどうなの!? 恩知らずの裏切り者! あなたのギルドも全員クズよ!」ニフェトは怒鳴り散らした。
「私を罵るのは構わない! でも、私のギルドを侮辱するな!」アンドリアは怒りを爆発させ、鋭く怒鳴り返した。
「へえ、悪かったわね! 頭でも撫でてあげようか? よく頑張ったわね、アンドリア! ついでに教えてあげる。あなたは私たちを殺すために黒いマントを着なきゃならない。でも、ドイツ人プレイヤーにはその必要がない。なぜか分かる? 私たちは、あなたと同じサーバーのプレイヤーだからよ!」ニフェトは軽薄に嘲笑ったかと思うと、再び怒鳴りつけた。
その時、ドイツ人プレイヤーの代表が馬を寄せ、アンドリアを隊列へ連れ戻した。
アンドリアの胸には、まだ言いたいことが山ほどあった。謝りたいことも、訴えたいことも、いくらでもあった。だが、攻撃開始の時刻が迫っていた……
「ハゲグのために! 影の旅団のために! 俺たちのサーバーのために! アンドリアには絶対に手加減するな!」ニフェトは神杖を掲げて咆哮し、ガンッと地面に突き立てた。
本サーバーのプレイヤーたちは使える限りの強化スキルを重ね、呼吸を整えながら、かつての盟友を睨みつける。
対するアンドリアの傍らに残っているギルドの騎士は二人だけ。他はすべて、ルースから訓練を任されたドイツ人騎兵だった。彼らも実力と装備は悪くない。だが、実戦での対応力はアンドリアの騎士団には遠く及ばない。
「恩知らずの裏切り者!」
「銀色の犬!」
「裏切り者ども、クソでも食ってろ!」
「どうして……いつも私ばかり……。私は、どうすればよかったの…………」
アンドリアは、世界中から唾を吐きかけられているように感じた。足首に鉄球をつけられた囚人が、海底へ引きずり込まれていくようだった。
どれほどもがいても、自分が堕ちてしまったという事実だけは変えられない。
その時になって初めて、水面に揺れる光がどれほど眩しく、どれほど幻想的だったのかに気づいた。
彼方に翻る二本の大旗が、あまりにも美しい。
けれど――自分は水面からどんどん遠ざかり、暗闇に呑み込まれていった。
「アンドリア様……あの日、あなたが騎士王だったなら、我々はあなたの誇り高き騎士でした。今日、あなたが裏切り者だというのなら、我々はあなたの卑しい猟犬となりましょう。我々の忠誠は、決して変わりません」
二人の騎士がアンドリアの左右で足を止めた。
「私の騎士……銀龍の刻印の騎士団……」
アンドリアは、自分が何者だったのかを確かめるようにつぶやいた。
胸の奥で、行き場を失っていた怒りが再び燃え上がった。
「私たちの誇りを汚す者は、絶対に許さない!!!」アンドリアは奮い立ち、兜を被ると双頭の鷲の大旗を握り締め、騎兵隊に三列横隊を組ませた。
「第一列! 突撃!」アンドリアが騎槍で前方を指すと、ドイツ人プレイヤーの騎兵たちはすぐに躊躇した。
「突撃……? 正面から?」ドイツ人プレイヤーが驚いて聞き返す。
「突撃! 指揮官は私だ! さっさと行け!」アンドリアは騎槍を掲げて前方を指した。
第一列のドイツ人プレイヤーは、仕方なくKanatheonへ正面から攻め込んだ。
Kanatheonは万全の態勢で待ち構えていた。騎兵たちがそのまま突撃すると、一樹、加奈、カミコ、白のスキルで足を鈍らされ、そこへ火野良率いる近接部隊が反撃に出る。騎兵隊はたちまち大量の死傷者を出した。
「第二列! 楔形陣を組んで突撃!!!」アンドリアが大声で命じた。
第二列の騎兵たちは動揺したが、軍令に逆らうこともできず、無謀にもKanatheonへ突っ込んでいく。
二陣のドイツ人騎兵が互いに進路を塞ぎ合い、Kanatheonにまともな損害を与えることもできず、影の旅団の攻撃から逃れることもできない。
「護心石は持っている?」アンドリアが尋ねると、二人は頷いた。
「第三列、私に続け!」アンドリアが叫び、最後の一列となったドイツ人プレイヤーたちが凄まじい勢いで本サーバーの部隊へ突撃した。
ドイツ人プレイヤーによる先の二陣は砂山のように崩れ、Kanatheonと影の旅団にあっさりと打ち破られた。
アンドリアはギルドの騎士たちと共に、ニフェトへ真っ直ぐ突っ込んでいく。
「ニフェト!!!!!!!!!!!」アンドリアは紅水晶の騎槍を構え、咆哮した。
「アンドリア!!!!!!!!!!」ニフェトも神杖を振るい、迎え撃つ。
いくつもの魔法が光を放ち、二人の騎士は次々と倒された。
アンドリアは宙へ跳び上がり、槍先をニフェトへ真っ直ぐ向ける。
間一髪、火野良が馬の腹を切り裂いた。雨間刻はアンドリアと軍馬が離れた一瞬を見逃さず、巨大な槍を突き上げる。
ザシュッ――真紅の花が鮮やかに咲き誇った。
「がはっ! うっ、げほっ、げほっ……」
鮮血が豪雨のようにニフェトの顔へ降り注ぐ。
雨間刻の巨大な槍はアンドリアの体を貫き、そのままニフェトの頭上で止まり、太陽を遮った。
その瞬間、ニフェトの目の前に六口弥生の幻がよぎった。アンドリアと本サーバーで遊んだ日々が、泡沫のように次々と脳裏に浮かぶ。
ニフェトは瀕死のアンドリアと無言で見つめ合い、堪えきれず涙をあふれさせた。
「私を責めないで」ニフェトは唇を噛み、涙を必死に堪えながら言った。
「魔都へ攻め込む前……あなたは私に護心石をくれた。今……あの護心石の借りも、まとめて返すわ……銀龍の刻印がKanatheonに負っていた借りも、げほっ――これで全部返した。これからは……もう、お互い関係ない……。早く行って……パーカーが来る……。」
アンドリアは幸せそうに微笑んだ。ようやく、自分を解放する方法を見つけたのだ。
ニフェトは呆然とした。
ドイツ人プレイヤーたちのあまりにも無謀な突撃は、最初からアンドリア自身が仕組んだものだったのだ。
そうすれば、表向きはルースとの約束に従いながらKanatheonを救い、自分の命で二つのギルドのわだかまりにも区切りをつけられる。
ニフェトは何も言えなかった。魂まで奪われたように、膝から力が抜けていった。
「次は……手加減……しないからね」アンドリアは自信ありげに笑い、ニフェトの目の前で雨間刻の槍の上から光の粒となって消えていった。
「ア……アンドリア!!!」ニフェトは堪えきれず泣き崩れた。この瞬間になって初めて、自分たちがどれほど親しい友だったのかを思い知った。
目を真っ赤にしてドイツ人プレイヤーたちを睨みつける。今すぐ八つ裂きにしてやりたいほど憎かった。
ジジジジジ……。
「危ない!!」パシュスが飛び込んでニフェトを押し倒し、大盾で一発の魔砲を受け止めた。装甲が熱を帯び、柔らかく変形していく。
「捕まえた……」パーカーが笑った。
いつの間にか……黒い環が描かれた大旗が西の草原に現れていた。
パーカー率いる黒環ギルドが、すでに到着していた。
敵の旗を掲げても、彼女は最後まで銀龍の刻印の騎士王でした……
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来週は家族が会いに来る予定なので、更新のタイミングが少し不規則になるかもしれません。更新が難しそうな場合は、分かり次第すぐに皆さんへお知らせします。
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