393 絶望の中に差す光
柑々は頭から黒い布を被せられ、両手を拘束されたまま床に膝をつかされていた。抵抗することもできず、自分の死が近いことを悟った。
「言葉が分かるなら、うなずけ」突然、何者かが言った。
柑々は力なくうなずいた。
「うわああああっ!」
「あああああっ!」
突然、柑々の隣から肉が潰れ、骨が砕ける吐き気を催すような音が響いた。やがて部屋は静まり返り、柑々は両膝が生温かい液体に濡れていくのを感じた。
「通訳もなしに俺の言葉が分かる……本サーバーのプレイヤーだな?」
男の声がすぐ目の前から聞こえた。
柑々は怯えて後ろへ身を引き、何度も強くうなずいた。
「ドイツ人プレイヤーの艦に乗っていた……捕虜でなければ裏切り者だ。しかも、あいつらと一緒に隠れていた……明らかに後者だな?」
低く陰気な声が尋ねた。
柑々は一瞬固まり……黙ってうなずいた。
「ふん、認めるだけの度胸はあるらしい。一撃で楽に死なせてやる。この島には教会を建てられない。護心石があるならムー大陸へ戻れるだろう。もうドイツ人プレイヤー側につくな」
男が立ち上がり、手を下そうとする気配がした。
「待って!」柑々が叫んだ。
「何だ?」男の声が尋ねた。
「あなたたち……ムー大陸の現状を知っているんですか!?」柑々は覚悟を決めて尋ねた。
「それがどうした?」男が聞き返した。
「わ、私がドイツ人プレイヤー側についたのも、やむを得なかったんです! 仲間たちは鉱山で働かされていました。それに、あるドイツ軍将校が私を気に入って、仲間たちへ何度も嫌がらせをするようになったんです。だから私は仲間から離れ、ドイツ軍の陣営に入りました。今では本サーバーの代理指導者として、ドイツ人プレイヤーを代表してあなたたちと交渉に来たんです!」
柑々は、これまでの事情を一気に説明した。
部屋は静まり返ったままで、柑々には相手がどんな表情をしているのか分からなかった。
「何を交渉することがある?」男の声が尋ねた。
「この軍事要塞を放棄し、ムー大陸へ戻って普通に暮らしてほしいそうです。ドイツ人プレイヤーはあなたたちに領地を一区画与え、自由に発展することを認めると言っています」
柑々は唾を飲み込み、冷静に説明した。
「攻め落とせるなら、わざわざ交渉する必要があると思うか?」
男が嘲笑すると、周囲からも笑い声が上がった。
柑々は捕虜として大勢から見下されているように感じたが、彼らの勝手な言い分を黙って聞き流すことはできなかった。
「黒い森の戦い……あなたたちは参加していなかったでしょう? この城塞に閉じこもって、飲み食いして遊んでいたんでしょう? Kanatheonと銀龍の刻印が、本サーバーのほとんどすべてのギルドを率いてドイツ人プレイヤーと決戦したことを知っていますか? 私たちがどれほど多くの犠牲を出したか、分かっているんですか!? わ、私の……彼氏だって教皇都市で殺されたんです! そのとき、あなたたちはどこにいたんですか!? 今さら英雄面しないでよ!」
柑々は激怒し、相手を怒鳴りつけた。
部屋は再び静まり返った。死を目前にしながらも一歩も引かず、真正面から反論する柑々に、彼らも密かに感心していた。だが――
「俺たちはムー大陸とは違う道を選んだ。あいつらは滅び、俺たちは生き残った。それなのに、なぜ俺たちが責められる?」声が尋ねた。
「何が違う道よ!? 私たちは同じサーバーで、同じ時期に始めたプレイヤーでしょう! 城が落ちたあとは、行き着く先も同じだったじゃない!」柑々が再び怒鳴った。
「ふん、行き着く先は同じ、か。よく言ったものだ。俺たちはムー大陸のギルドから見下されてきたクズの集まりだ。なぜ俺たちが助けなければならない? それに、あいつらはもう負けたんだ。何の資格があって偉そうにものを言える?」
声には苛立ちが混じり始めた。
「わ、私だって見下されながら生きてきた! かつては一大勢力を率いる覇者だった、敗北してからは各地を流れ歩き、冷たい目で見られ続けた。でも私は諦めず、どん底から少しずつ這い上がってきたのよ! あなたたちは負けたあと、身を寄せ合って傷を舐め合っているだけじゃない!」柑々の言葉はますます容赦がなくなった。
「俺たちにだって理想がある! プレイヤーの自由のために戦ったんだ! だが、誰も俺たちの信念を理解しなかった。今でも初代ギルマスの意志を理解する者はいない!」声も柑々に怒鳴り返した。
「自分を哀れんでいる暇があるなら、少しは自分たちを変える努力をしたら? 馬鹿」柑々は軽蔑するように言った。
「女、ずいぶん偉そうだな!」声が言った。
柑々はため息をつき、答えなかった。
「顔を見せてもらおう」柑々の頭を覆っていた黒布が引き剥がされた。
守備隊の首領は柑々の顔を見るなり、呆然とした。
柑々も壁に掲げられた旗を見て、呆然とした。
「……」
部屋は静寂に包まれた。
...
「早く逃げろ!!!」
ダダッ! ダダッ! ダダッ! ダダッ!
「走れ! 騎兵が追いついてくるぞ!」
馬のいななきが、もうすぐ背後まで迫っていた。
「くそっ、来い!!! 氷牢!」
「馬鹿! 立ち止まるな!」
後方から悲鳴が響いた。
「三倍速!」
大地が激しく揺れ、本サーバーのプレイヤーたちはついに草原でドイツ人プレイヤーの騎兵隊に追いつかれ、取り囲まれた。
「アンドリア様、ここには五人しかいません! もう一人が逃げています!」騎兵長が草原の反対側を指さした。
アンドリアはすぐに馬を走らせ、わずか数秒で逃げたプレイヤーに追いついた。
相手は二次職の魔法使いにすぎなかった。腰の後ろをアンドリアの槍で刺されて倒れ、傷口から血が噴き出した。
アンドリアは長いため息をついて馬から飛び降り、紫髪のプレイヤーを縛ってプラムスへ連れ帰ろうとした。
男の魔法使いを仰向けにすると、青白い肌と顔立ちが昔のノクスに三割ほど似ていることに気づいた。
男の魔法使いは弱々しく命乞いをした。その姿を見たアンドリアの脳裏に、ノクシアと再会した時の光景が蘇った……。
「くそでも食らえ! 裏切り者!」
「裏切り者! アンドリアは絶対に私たちを売ったりしない!」
「きっと戻ってくる! 必ず再起するんだ!」
アンドリアの体がぐらりと揺れ、その場に崩れ落ちて泣き始めた。
「私は……いったい何をしているの!?」アンドリアは悲しみと怒りに任せて地面を殴り、声を上げて泣いた。
騎兵長はすぐに駆け寄ってアンドリアを抱き起こし、近くの木の下まで連れていった。
「あの人たちは……みんな、私たちのサーバーの初心者なのよ!!!」アンドリアは胸を痛め、泣き叫んだ。
「アンドリア様、ご自分を責めないでください!」
騎兵長も胸を痛めた。これほど落ち込んだアンドリアを見るのは初めてだった。
「あの人たちがどうなったか知ってる!? 家畜みたいに虎の檻へ投げ込まれ、餌にされたのよ! 私たちは初心者を守って外敵と戦うどころか、自分たちが生き残るために初心者を捕らえて殺している。そんなことに何の意味があるの!?」
アンドリアは騎兵長の胸当てを掴み、涙を流しながら訴えた。
「私たちはもう負けたのよ、アンドリア」由里が不意に現れて言った。
「だから何?」アンドリアは激しく睨んだ。
「銀龍の刻印は、もう覇者じゃない。私たちも責任を果たし、城内のプレイヤーを避難させた」由里が言った。
「まだ努力が足りないのよ!」アンドリアは激怒し、最も大切にしていた紅水晶の騎槍を地面へ突き立てた。
「銀龍の刻印が全滅するまで戦うつもり?」由里の言葉が核心を突いた。
アンドリアはすぐに迷いを見せた。
「逃げましょう。また逃げて、生き延びればいい」由里は冷たく言った。
「由里! アンドリア様を刺激するな!」騎兵長が激怒した。
「いいえ、あなたたちは自分勝手すぎる。本サーバーのプレイヤーはみんな自分勝手よ。アンドリアは私たちのために、これほど多くの苦しみを背負ってきた。それなのに、私たちは彼女のために一度くらい犠牲になることもできないの? プラムスが陥落してから、アンドリアは一か月近くほとんど口を利かなかった。ログインすることに意味があると思う? このゲームを楽しんでいると思う? ただ責任のために続けているだけよ。このゲームはもう、彼女にとって重荷になっている。正直に言えば、私はアンドリアが逃げるべきだと思う。銀龍の刻印を捨てて、そのまま姿を消せばいい」
由里は冷静に、容赦のない言葉を並べた。しかし、その決意は鋼のように揺るがず、誰にも反論できなかった。
「由里、私があなたたちを捨てて逃げると思う?」アンドリアは不快そうに尋ねた。
「思わない。だから私たちを率いて戦って! 私は死ぬのが怖い。それでも、あなたと一緒なら死ねるわ、アンドリア。信じて。銀龍の刻印のみんなも死ぬのは怖い。でも、あなたと一緒なら死ねる。みんな死ぬのは怖い。それでも、あなたと一緒なら戦える。それが銀龍の刻印よ。」
由里は淡々と言った。
アンドリアは胸を強く打たれ、涙を流しながら笑った。
「何よ……この会話」アンドリアは涙を拭いながら言った。
「それで、私たちは死ぬの?」由里が笑って尋ねた。
「いいえ……私が何とかする」
アンドリアは立ち直り、騎兵隊に初心者たちを解放するよう命じた。
「私が……自分で片をつける」アンドリアは穏やかに笑った。
「由里……シモンもノクスも、もういない。もし私に何かあったら……ギルドをあなたに任せる」アンドリアが突然言った。
「うん、分かった」由里は迷わず引き受けた。
プラムス塔――
「アンドリア嬢、今日はいつもの納品がありませんでしたね」ルースは眉をひそめた。
「もうあなたには仕えない、ルース」
アンドリアは双頭の鷲の大旗を地面へ投げ捨てた。
「おや? アンドリア嬢、何か不愉快なことでもありましたか?」ルースが心配そうに尋ねた。
「私は……もう自分の手で、本サーバーの初心者を殺したくない」アンドリアは吐き捨てるように言った。
「一日の人数を五人まで減らしましょうか? 君の負担も軽くなるでしょう。君は大切な存在なのですよ、銀龍の刻印のギルマス、アンドリア嬢」
ルースは立ち上がり、アンドリアの前まで歩み寄った。
アンドリアの心はすぐに揺らいだ。五人だけなら、ギルドを存続させられる!
「いいえ、断るわ」
だが、アンドリアの決意はすでに固まっていた。
「はあ……私は君がとても気に入っています。できれば、ずっとそばに置いておきたい。だが、もう決めたのですか?」ルースが名残惜しそうに尋ねた。
「うん」アンドリアは頷いた。
「わかりました。では、取り決めどおり、人数を差し出せないのなら、君のギルドから徴収します。誰を差し出しますか?」
ルースが尋ねると、アンドリアは深く息を吸った。
「私を」
アンドリアはルースを睨みつけた。
「……」
ルースは何も言わなかった。
...
「警告! 南から大型戦艦四隻が接近中!」
プラムス沿岸の巡回兵から急報が入り、ドイツ人プレイヤーたちは海岸へ集結して迎撃態勢を整えた。
艦隊が射程圏内に入った、そのとき――掲げていた旗が双頭の鷲旗に替わった!
「ハロー!!!!!!」柑々が船上から勢いよく手を振った。
「柑々総統!?」
ドイツ人プレイヤーたちは仰天した。
四隻の艦が接岸すると、柑々は真っ先に砂浜へ駆け下りた。
「攻撃しないで! 攻撃しないで! 追放の島のプレイヤーたちよ。もう降伏したの!」柑々は満面の笑みで叫んだ。
「そんなことまで成し遂げたのか!? 彼らは――」
ドイツ人プレイヤーたちが振り返る。
二百人もの血のような真紅のネームが、赤旗を担いで次々と下船してきた。そのカルマ値は底知れないほど低く、ドイツ人プレイヤーたちさえ戦慄した。
「私はこの人たちとはまったく面識がないけど、ルース総統なら信頼できると判断してくれたの。こちらがギルマスよ。わざわざムー大陸へ戻って活動することを決めてくれたの」
柑々は一人の狂信者をドイツ軍士官の前へ押し出した。
「あなたの名前とギルド名を教えてください」
ドイツ軍士官が尋ねた。
「アビル。性殿騎士団だ」
アビルと柑々は一瞬だけ視線を交わした。柑々の口元に、かすかな笑みが浮かんだ。
彼らは本当に、降伏するために戻ってきたのでしょうか……?




