↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第四十四章——忘れられた歴史
391/450

390 思わぬ敵

栞は暗い地下道で何度も同じ場所を回り、長い時間をかけてようやく地上へ戻った。


すでに日は暮れていた。指定時刻をとっくに過ぎていることは、栞にも分かっていた。


耳を澄ませても何の物音もしない。栞は素早く地上へ飛び出し、小屋の陰へ身を隠した。


「大聖堂はどっち!?」栞は慌てて周囲を見回した。大聖堂は現在地の南にあったが、教皇都市の出口はさらに南端にあるはずだった。


ほかに選択肢はない。栞は静まり返った大通りへ忍び込み、崩れかけた小屋を遮蔽物にしながら進んだ。


そのとき――骨と皮だけに見えるほど痩せ細った、馬ほどの大きさの屍犬が、前方の大通りを横切った。


口には鋭い牙がびっしりと並び、四肢には凶悪な鉤爪が生えている。捕まれば、栞は間違いなく死ぬ。


栞は壁の角に身を伏せ、屍犬が遠ざかるのを待った。


ところが突然、屍犬が鼻をひくつかせ、ゆっくりと振り返った。


栞は驚き、物陰を伝って三軒先まで後退した。


屍犬から栞の姿は見えず、栞も音を立てていない。だとすれば……。


栞は鏃で髪を一房切り落とし、その場で手を離した。予想どおり、夜風は屍犬のいる方向へ吹いている――匂いを嗅ぎつけられたのだ。


屍犬はゆっくりと向きを変え、栞が隠れていた角へ歩き始めた。匂いが濃くなるにつれ、その足取りも速くなっていく。


屍犬は匂いを追って小屋の奥へ入り、脱ぎ捨てられた革鎧を見つけると、すぐさま飛びかかって引き裂き始めた。


栞は最も匂いが染みついた革鎧を脱ぎ、囮として残していた。今や下着姿となった栞は、その間に街中を駆け抜けていた。


苦労の末に大聖堂の正門まで戻り、仕方なく衛兵に助けを求めようとした。しかし、衛兵はすでに撤収しており、教皇都市には誰一人残っていなかった。


「最悪!」栞は見学ツアーに参加したことを激しく後悔した。


ノクシアも男剣士もログインしていない。栞は自力で生き延び、教皇都市から脱出するしかなかった。


さらに一頭の屍犬を避け、屋敷街へ忍び込んだ。


栞は廃屋の中に大勢の子猫が隠れているのを見つけた。子猫たちも、通りを巡回する屍犬から身を隠しているらしい。


匂いさえ残さなければ、屍犬には見つからない。


栞が立ち去ろうとすると、子猫が革靴に前足をかけ、餌をねだるように鳴き始めた。


栞は慌てて静かにさせようとしたが、子猫たちはますます大きな声で鳴き、二頭の屍犬に気づかれてしまった。


バウッ! バウバウッ!


「お願い! 静かにして!!」栞の目には焦りの涙が浮かんだ。


栞では屍犬に勝てず、走って逃げ切ることもできない。追いつかれれば、確実に殺される。


屍犬はすでに廃屋の外を取り囲み、匂いを探して嗅ぎ回っていた。木の壁の隙間から、荒い鼻息と喉の唸り声がかすかに聞こえてくる。


「ごめん……私を恨まないで」

栞は眉をひそめ、二匹の茶色い子猫を掴むと、大通りへ放り投げた。


驚いた子猫たちが激しく鳴き叫び、その声を聞いた屍犬が駆け寄ってくる。


直後、大通りから肉が潰れ、手足が引きちぎられる音が響いた。


栞はすぐに窓から飛び出し、花畑へ向かって全力で駆けた。


南大門はもう遠くに見えている。栞は屍犬が追ってきていないか、慌てて後ろを振り返った――そこには大槌を手にし、全身を血に染めたプレイヤーが立っていた。遠くから栞を見つめ、不気味な笑みを浮かべている。


栞は肝を潰し、必死に速度を上げた――ドンッ!


突然、何者かが横から飛びかかり、栞を地面へ押し倒して力任せに押さえつけた。


「放して! 助けて――!」栞が甲高い悲鳴を上げた瞬間、口を塞がれた。


「静かにして! 助けに来たの!」女プレイヤーが焦った声で告げた。


女プレイヤーが本サーバーの言葉を話していると分かり、栞はようやく安心して口を閉じた。


そこで栞は、女プレイヤーが腕章を着けていないことに気づいた。


腕章を持たない本サーバーのプレイヤーということは――


「大戦を生き延びた……古参プレイヤー!?」栞は驚きの声を漏らした。


「静かに! 一頭、こっちへ来てる」

女プレイヤーの表情が険しくなった。


栞の悲鳴を聞きつけた屍犬が、ゆっくりと花畑の奥へ入ってくる。


女プレイヤーが手で二度合図を送り、突然口笛を吹いた。すると花畑から巨大な虎が飛び出し、屍犬へ飛びかかり、激しく噛みつき合った。


大虎は一撃で屍犬の胸元に張りついた薄皮を引き裂いた。屍犬が振り向いて反撃しようとした瞬間、すぐさま押し倒す。大虎はその喉元に牙を食い込ませて激しく振り回し、ゴキッという音とともに首の骨をへし折った……そして、そのまま花畑の中へ姿を消した。


「もう安全よ。あなたは誰? どうして大聖堂に潜り込んでいたの!?」

女プレイヤーが問い詰めた。


「私は栞……。大聖堂の見学ツアーに参加したあと、地下道に閉じ込められて、やっとの思いで逃げ出したんです。教皇都市の外まで連れていってもらえませんか?」

栞は必死に頼んだ。


女プレイヤーは栞の腕章を見て身元を察すると、警戒しながら周囲を見回した。


「南大門まで戻って衛兵を捜せばいいわ。この花畑を真っすぐ走り抜ければ安全よ。一人で行って」


「あなたは逃げないんですか?」栞が驚いて尋ねた。


「無理よ……ドイツ人プレイヤーに捕まったら、私のほうが厄介なことになる」

女プレイヤーは眉をひそめた。


「大戦を生き延びた兵士だからですか!?」

栞は突然問い詰め、女プレイヤーの襟元を開いた。そこには、やはりギルドの紋章が刻まれていた。


女プレイヤーは驚き、すぐに栞を突き放した。


「双翼の魔導書……あなた、Kanatheonの人なんですね!!!」

栞は興奮のあまり涙を流した。


女プレイヤーの表情が険しくなり、その手にはすでに黒いマントが握られていた。


「私を見なかったことにして……」女プレイヤーが無表情で告げた。


「えっ?」栞は意味が分からず、聞き返した。


「私が助けた初心者は、あなたが初めてじゃない……。でも、以前その中の一人に居場所を売られた……だから今はもう……私の正体を知られたまま、誰かを帰すわけにはいかないの」

女プレイヤーは黒いマントを強く握り締めた。大虎はすでに栞の隣に現れている。


「あいつ、初心者用の腕章を着けてる。レベル50未満なんだろ?」

突然、一人の男プレイヤーが英語で尋ねた。


「早く伏せて、フール!」女プレイヤーが驚いて叫んだ。


「気にするな。この辺りの屍犬は全部始末した」フールは笑った。


「聞いてください! 私はあなたの居場所を売ったりしません! だって、私はあなたたちの同盟者だから!」

栞は必死に訴えた。


「同盟者? 何の同盟者よ?」女プレイヤーは眉をひそめた。


「私は……銀龍の刻印の秘密メンバーです!」

栞はとっさに嘘をついた。ノクシアから聞いた歴史によれば、Kanatheonと銀龍の刻印は最も重要な同盟関係にあったからだ。


「銀龍の刻印が……よくも私たちの前に顔を出せたわね!」

女プレイヤーは召喚杖を栞の喉元へ突きつけた。


「えっ!? 待って! 私は同盟者ですよ!」栞は焦りのあまり涙を浮かべた。


「私を馬鹿にしているの?」

女プレイヤーは召喚杖を栞の喉元へさらに強く押し当てた。


「早く殺せ。衛兵に気づかれたら面倒だ」フールが言った。


「待って! 本当のことを言います……。私は銀龍の刻印のメンバーじゃありません。ノクシアというプレイヤーと一緒にレベルを上げていただけです。私はレベル50にも届かない新米で、ゲームのことなんて何も分かりません!」

栞は両手を上げて降参した。


「ふざけるな! ノクスは黒い森の戦いで死んだ! あいつの死亡通知が表示されるのを、この目で見たんだ!」

女プレイヤーが怒鳴った。


栞は突然目を輝かせ、何度も瞬きをした。


「黒い森の戦い……本サーバーの連合軍が魔王と戦った戦いですよね!?」

栞の瞳が眩しいほどに輝いた。女プレイヤーの脅しにも怯まず、さらに問いかける。


「早く答えろ! ノクスがお前を寄越したのか!? アンドリアの指示を受け、Kanatheonの居場所を探らせるためだろう!」

女プレイヤーが再び怒鳴った。


「アンドリアは……死にました」

栞はうつむいた。


「死んだ!? いつだ!?」女プレイヤーとフールは、同時に驚きの声を上げた。


「分かりません。昨日、本サーバーを裏切ったプレイヤーから聞きました」

栞の表情には深い悲しみが浮かんでおり、嘘をついているようには見えなかった。


「寧々さん、こいつはかなりの情報を持っていそうだ。教皇都市の外へ連れ出してから話を聞こう」

フールが言った。


「分かった。ついてきて!」寧々は栞の背中を押し、フールとともに東門へ向かった。

...

猫好きの寧々でさえ、もう初心者を信じられなくなったのでしょうか……?

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。