386 奪われた身分
仲間たちが少しずつ追い詰められていくのを見て、柑々は再びサキュバスとしてのやり方を使うことを決意しました。
街道沿いの露店――
「この蛇皮はいくらだ?」通りかかった大剣士が尋ねた。
「三十九狼貨だ。この蛇皮は水を通さないうえ、表面の凹凸のおかげでしっかり握れる。武器の柄に使えば攻撃力に補正がつくし、沼地で戦うときは攻撃速度まで上がる。安いよ!」プレイヤーは懸命に売り込んだ。
「おい! 俺の蛙皮は蛇皮より弾力があって軽いから、そのまま攻撃速度が上がるんだ。お前の大剣には、こっちのほうが合うだろ?」隣のプレイヤーが口を挟み、二人は客を奪い合い始めた。
突然、二人のドイツ兵が鉄馬に乗り、胸を張って通りかかった。二人とも、まったく同じ高級装備を身につけている。
通りにいたプレイヤーたちは次々と道の脇へ退き、二人に深々と頭を下げた。
ドイツ兵は二人の店主の前で止まり、腕章に記された番号を指さした。
「0102、0089。Was ist los?(何事だ)」一人が尋ねた。
本サーバーのプレイヤーたちはドイツ語を理解できなかったが、よく使われる簡単な質問だけは、オウムのように真似をして覚えていた。
「さっき、この大剣士が俺から品物を買おうとしたんです。そこへこいつが客を横取りしに来たから、言い争いになりました」蛇皮商人は説明した。
「商売は自由でしょう! 買うかどうかを決めるのはプレイヤーです。私は自分の商品を売り込んだだけですよ。軍人様、私の言うことが正しいでしょう!?」蛙皮商人は反論した。
二人のドイツ兵は魔王プレイヤー専用の翻訳辞典を使って話の内容を理解すると、ドイツ語で言葉を交わし、腹を抱えて笑った。プレイヤーたちは顔を上げることさえできなかった。
チャリン、チャリン。
ドイツ兵はゴミでも捨てるように二枚の竜貨を放り、二枚の獣皮を買った。そして騎槍の先に引っかけて大剣士の前へ差し出し、英語で尋ねた。
「どちらが欲しい?」
「へ……蛇皮を」大剣士は怯えて肩を縮めながら答えた。
「持っていけ」ドイツ兵は笑った。
「Thank you.」大剣士は思いがけない厚意に戸惑い、両手を震わせながら蛇皮を受け取った。
「Danke……ドイツ語で答えろ」騎兵は騎槍を持ち上げ、大剣士の喉元へ突きつけた。
「ダ……ダンカ?」
大剣士が発音を間違えると、二人の騎兵は声を上げて笑い、正しい発音を教えた。
大剣士が蛇皮を持ち去ると、ドイツ兵は蛙皮をぼろ布のように泥の中へ投げ捨てた。さらに鉄馬で踏みにじってから、露店をあとにした。
本サーバーのプレイヤーたちは二人をじっと見送り、その姿が地平線の彼方へ消えてから、ようやく再び動き始めた。
ドイツ軍の占領から、間もなく五十日を迎えようとしていた。
本サーバーの初心者たちは、ドイツ人プレイヤーの統治にも慣れ始めていた。ドイツ人プレイヤー側も本サーバーのプレイヤーに少しずつ自由を与え、行動できる範囲はプラムス周辺からハゲグや大聖堂一帯まで広がっている。小さな店も次々と生まれ、本サーバーは、表面上はようやく敗戦の暗い影から抜け出し、復興を始めていた。
プラムス商業塔――
柑々は顔を上げ、ルースが大切に保管している名画を眺めていた。どれも古典絵画を模した名画で、ドイツサーバーのプレイヤーたちがゲーム内で描いたものだった。
「絵を描く余裕まであるなんて……ドイツサーバーって、いったいどんな国なの?」柑々はドイツサーバーに対し、さまざまな想像を膨らませ始めた。
ガチャッ。ドイツ軍の将校が大広間の扉を開けた。
「柑々総統、ご要望の千五百人分の食料はすでに用意できています。また、鉄耳山脈の安全区域の整備も完了しました。三十人の部隊を編成し、交代で駐留させます。こちらが当番表です」
端正な顔立ちの、金髪のドイツ人将校が、英語で報告した。
「ありがとう……。でも、この仕事を頼んでから、まだ三時間しか経っていないのだけど………?」柑々は驚きながら報告書を受け取った。
「これが私の務めです。それでは失礼いたします、総統」将校は表情を崩さず、敬礼して立ち去った。
柑々は報告書を開き、机に散らばった書類の間へ、記憶していた位置どおりに差し込んだ。
そのとき、鉄扉が再び開いた。
「柑々総統?」将校は再び大広間へ入ったが、柑々の姿が見当たらなかった。
柑々ははっとして、並べかけた書類を腕で崩し、そのまま机の陰へ身を屈めた。
バサバサッ……紙と本の山が床へ滑り落ちた。
将校は柑々が慌てて片づけているのを見つけた。柑々は恥ずかしさで顔を真っ赤にしていた。
将校は自らしゃがみ込み、柑々の片づけを手伝い始めた。
「あっ、いいの、いいの! 自分でやるから!」柑々は慌てて将校を押しのけようとした。
「お気になさらず」将校はそのまま片づけを続けた。
「ドクトン……あなたは特別な人なの?」柑々は唾を飲み込んで尋ねた。
「どういう意味でしょうか、総統?」
ドクトンは金色の眉をわずかにひそめ、宝石のような緑色の瞳で柑々を見つめた。
「私……あなたは特別だと思うの」柑々は恥ずかしそうにうつむきながら、ドクトンが持っていた紙を奪い返した。
「柑々総統も……特別なお方です。真夏に咲く赤い花のように鮮やかでありながら、秋に実る白い綿のように清らかで、誰も汚すことなどできない」
ドクトンが微笑んで答えると、柑々は思わず目を見開いた。これほど自然な褒め言葉を聞いたのは初めてだった。以前の口先だけのならず者とは、比べものにならない。
「それで、何か用?」柑々は机を片づけ終えると、尋ねた。
「ルース総統がお会いになりたいそうです」ドクトンは答えた。
「今日は忙しいから、明日にするつもりよ」柑々は答えた。
「それと、安全区域の設計図に一か所、修正が必要です。その紙は――」
ドクトンは柑々の机に積まれた紙を探し始めた。
「ドクトンさん!」柑々は焦って呼び止めた。指先をそろえ、長い髪を耳にかけ、整った横顔をドクトンに見せると、不安げに眉を曇らせた。
「ルースさんは……最近、何かと理由をつけて私に近づいてくるの。昨日は乱暴にされて、傷までつけられた……ここよ――」
柑々は襟元をそっと開き、艶めかしい鎖骨を見せた。
「こほん、総統……」
ドクトンはわずかに眉をひそめたが、胸の奥に湧き上がる興奮までは隠せなかった。
「彼……ここにも触ったの」
柑々は木の机へ腰を下ろし、紙の束とドクトンの手を尻の下へ押さえ込んだ。
チャイナドレスの裾にあるスリットをそっと開くと、細く長い脚が露わになった。陶器のように白く滑らかな尻の曲線は、細い腰へと続いている。
柑々の指はスリットをさらに引き上げ、ゆっくりと、ゆっくりと太腿の内側へ近づいていった。熱に浮かされたような瞳は、ずっとドクトンだけを見つめている。
「ここが………とても痛いの……」
「何が……間違いないの?」ドクトンは唾を飲み込んで尋ねた。どうやらドイツ軍には、本当に厳しい軍規があるらしい。
「何が……本当なの?」柑々はドクトンの耳元へ顔を寄せて囁いた。
ドクトンは突然、机の上にある物を腕で払い落とし、柑々を机へ押し倒した。
「待って!」柑々は突然ドクトンの手をつかみ、怯えた表情を浮かべた。「ルース様が不機嫌になるのが怖いの……」
「では、お望みではないのですか?」ドクトンは眉をひそめて尋ねた。
「嫌です」柑々はきっぱりと言った。
ドクトンはため息をつき、柑々を放した。
「総統、ご自身の言動にはお気をつけください。私に誤解させないように」
ドクトンは軍服を整えると、その場を立ち去った。
柑々は急いで床に散らばった書類を拾い、記憶していた位置へ一枚ずつ並べ直した。
勤務表、物資の搬入記録、部隊の配置、巡回経路――ばらばらの書類に散っていた情報がつながり、机の上にプラムスの防衛図が浮かび上がった。
ドイツ人プレイヤーの防衛地点、人数、路上の障害物、さらにはルースの部屋まで、ひと目で分かるように記されている。
干し草の山のように見えた机の散らかりは、ドイツ軍にこの防衛図の存在を悟らせないための偽装だった。
「絶対に………成功させる」
柑々は地図の端を強くつかみ、浮かない表情で服を整えた。
コンコン――また誰かが扉を叩いた。
「誰!?」柑々は驚いて尋ね、散らばった紙をすぐに机の中へ押し込んだ。
「柑々総統、捕獲班の隊長がお会いしたいそうです」扉の外にいた衛兵が告げた。
「入って!」柑々は髪を整えて気持ちを落ち着かせると、たちまち艶めいた笑みを浮かべた。
鉄扉が開き、桃色の髪をした女騎兵が入ってきた。
柑々はすぐにため息をついた。
「ご報告します……柑々様。本日捕らえた者たちの準備が整いました」女騎兵は告げた。
「どこで捕らえたの?」柑々はわずかに目を見開いて尋ねた。
「グズ近くの海岸です」女騎兵は答えた。
「そう。ご苦労様」柑々は安堵し、うなずいて礼を言った。
女騎兵は虚ろな表情でうつむいたまま、無言で背を向けた。
「待って!」柑々は突然、女騎兵を呼び止めた。
「ルースに配置転換を願い出てみる?…………アンドリア」柑々はため息交じりに尋ねた。
アンドリアは一瞬、体をこわばらせたが、何も言わずに立ち去った――最初から最後までうつむいたまま、大広間を一度も振り返らなかった。
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