385 それでも、私は信じます………
金色の法衣をまとったソフィアは、二十人ほどしか入れない粗末な円形広間に座っていた。
金色の紋様が再び両目を封じている。ソフィアは静かに両手を膝の上に置き、鼻歌を歌っていた。
ニフェトは石室の外で待ち、楽しそうなソフィアの邪魔をしたくないと思っていた。
「いい曲でしょう?」ソフィアは笑顔で尋ねた。ニフェトが来ていることには、とうに気づいていた。
それが重要?
ニフェトは黙って微笑み、ソフィアの前まで歩み寄った。
「ほら……私の隣に座ってください」ソフィアは体をずらした。
「あなたは教皇でしょう……」ニフェトは少しためらった。
「では、教皇としてニフェト枢機卿に命じます。私の隣に座りなさい」ソフィアはいたずらっぽく笑い、隣の石座を軽く叩いた。
「どうしたの?」ニフェトは苦笑しながら尋ねた。
ソフィアは両手を伸ばし、手探りでニフェトの太ももから腰へ触れ、胸元まで探った。
「今度は何を企んでるの?」ニフェトは困ったようにソフィアを押し返した。
「ここです!」ソフィアは突然ニフェトの脇の下をくすぐり、ニフェトは思わず笑い声を上げた。
ニフェトはむっとして石座から飛び降りた。「もう帰る」
「シモンに会いに行ってください」ソフィアは微笑みながら言った。白い肌は両目を覆う金色の紋様に照らされ、柔らかな光を帯びていた。
「聞いたの?」ニフェトは眉をひそめて尋ねた。
「あれほど大声で怒鳴れば、誰にだって聞こえます」ソフィアはからかうように答えた。
「ギルドの心配をしなくていいんだから、気楽でいられるわよね」ニフェトは皮肉を浴びせた。
ソフィアはふっと息を吐き、笑って受け流した。
「あなたがなぜログインし続けているのか、私には分かります。私もギルドを失ったあと、それでもログインし続けているのですから」
ソフィアの笑みは徐々に消えていったが、慈しむような表情は変わらなかった。
「それはおめでとう」ニフェトは背を向け、その場を立ち去ろうとした。
「私たちは、どちらも誰かの期待を背負っています。でも、その期待に応え続けるのは苦しい。そうでしょう?」
ソフィアの声が、ニフェトの胸の奥まで響いた。
足音が止まり、ソフィアは静かに微笑んだ。
「特に、自分の手で親友を追い出したら、その罪悪感で……息もできなくなる」ニフェトは苦笑しながら言った。
「それでも、正しい決断だったと信じているのでしょう?」ソフィアは尋ねた。
「それがそんなに重要? 見てよ。Kanatheonは今や、洞窟の中で身を縮めて暮らしている有様よ。私の英断のおかげでね」ニフェトは自嘲した。
「六口弥生がログインし続けていたら、ドイツ軍に勝てたと思いますか?」
ソフィアは問いかけると、神恩によって周囲に温かな聖光を生み出し、ニフェトを優しく照らした。
「分からない。でも、私よりはうまくやったはずよ。私はずっとギルドの内政を担当し、メンバーの要望に応えていただけ。六口弥生の忠告を無視して、彼女が何かをしようとするたびに邪魔してきた。私は、彼女より何もかも劣っている。ギルマスなんて……本当は……ただの看板よ。猿にだって務まる。私は運よくパシュスたちと知り合ったから、偶然ギルマスになれただけ。そんな能力なんて、最初から持っていなかった! ううっ……」
ソフィアの聖光に包まれたニフェトは、ついに心の壁を崩し、声を上げて泣きだした。
「それでも、皆さんはずっとあなたをギルマスの座から降ろそうとしなかったでしょう?」ソフィアは首を傾げて尋ねた。
「私が厚かましく居座っていただけよ。皆、私を追い出すとは言いづらかったの」ニフェトはうつむいて嗚咽した。
「まったく、ニフェトったら。困った子ですね。あの六口という悪魔が、遠慮してあなたを追い出せないと思いますか?」ソフィアは尋ねた。
「もちろんよ! 彼女は優しくて善良な人なの。ただ、親しくなった人にしか分からないだけ!」ニフェトは両拳を握り締め、体を震わせた。
「あなたは彼女に、本当に申し訳ないことをしましたね……」ソフィアは眉をひそめて言った。
「分かってる……」ニフェトはその一言に打ちのめされ、肩を落とした。
「彼女はあなたを信じていたからこそ、教えてくれたのですよ」ソフィアは顔を上げ、笑顔で告げた。
ニフェトは一瞬固まり、何も言えなくなった。
「能力だけで選ぶなら、カミコが一番ふさわしいのではありませんか? 彼女より頭のいいプレイヤーなんて、きっといないでしょう。それでも六口弥生があなたを選んだのは、あなたの優しさと善良さが、彼女のあまりに厳格な統率を和らげられるからです。だからこそ、Kanatheonは数々の伝説を築くギルドになったのでしょう?」
「厳しい統率の仕方は学べます。でも、優しい心はその人が生まれ持ったものです。六口弥生はあなたの力を信じていたからこそ、迷わず強硬な方針を貫くことができた。六口弥生は、ギルドを率いる指揮官です。でも、ニフェト。あなたは……皆の心の支えなのです」
ソフィアはニフェトの隣の空いた石座を指さした。
「精神的な支柱…………?」ニフェトは呆然とし、つぶやいた。
「ラロの教えを皆さんへ示すことが、教皇である私の役目です。ニフェトにも、あなたにしか果たせない役目があります」ソフィアは微笑んだ。
「ふっ………ふふふっ……」ニフェトは首を横に振り、苦笑した。
「その善良な性格があったからこそ………私は彼女を追い出した。だから今は罪を償い、間違いから学んで、力の限りギルドを守らなければならない」
「自分を見失わないで、ニフェト。自分を信じて、正しいと思うことを貫いてください」ソフィアは答えた。
「正しいと思うことを貫く? ソフィア、教えてあげる。この世界には……善良さだけでは倒せない悪が存在する。堕落するか、敗北するか。ただそれだけよ。六口弥生は前者だった。そして、彼女のような非情さこそ、今の私に必要なもの」
ニフェトはそう言いながら、ソフィアへ歩み寄った。
「違います。私のこの言葉を覚えておいてください。あなたの善意は、いつか必ず報われます。だから、信じるものを貫いて!」ソフィアは焦って訴えた。
ニフェトはソフィアの目の前に立ち、座ったままの彼女を見下ろした。
「あなたの善良さで……仲間を救えた? あの日、石竜には全員を乗せられなかった。あなたとKanatheonの情報が漏れるのを防ぐため………私は、あの人たちを皆殺しにするよう命じた。これで分かったでしょう………自分がどうやって生き残ったのか」
ニフェトはソフィアの耳元へ口を寄せ、囁いた。
ソフィアはその場で凍りつき、ニフェトは彼女の肩へ手を置いた。
「この罪を背負って生きていく。それも責任の一つなのよ」
ニフェトはやるせない声で言い残し、その場を立ち去った。
「ニフェト!」ソフィアは声の限り叫んだ。
ニフェトが振り返ると、ソフィアは意志の力だけで封印をわずかにこじ開け、金色の瞳から涙を流していた。
「それでも、私は信じます………」
ソフィアが告げると、神恩が再び彼女の両目を封じた。
ニフェトは自嘲するように笑い、背を向けて立ち去った。
…
「松美……私を信じてる?」ニフェトはリオの小屋へ戻ると、そう尋ねた。
「101%」松美は答えた。
「残っている狙撃手を全員集めて。私と一緒に来て」ニフェトは淡々と告げた。
「狙撃手……?」松美は訝しげに尋ねた
…
「ここだよ」萌僧はニフェトを山奥の小さな村へ案内した。
二階建ての大きな建物の扉を開けると、すでにシモンが中で待っていた。
「キティさんとマイロさんは?」萌僧は不思議そうに尋ねた。
「近くへ狩りに出ている」シモンは答えた。
「ドローンを飛ばさなかったのは、音でドイツ人プレイヤーを呼び寄せるのが怖かったからでしょう?」ニフェトは尋ねた。
シモンはうなずいた。
「それで、話したいことは?」ニフェトは冷たい目で尋ねた。
「銀龍の刻印が今どうなっているか、知っているか?」シモンは眉をひそめて尋ねた。苦労の末にようやくKanatheonを見つけたのだ。何としてもギルドを救わなければならない。
「少しは知っている」ニフェトは冷たく答え、待ち伏せを警戒して周囲を確認した。
「俺たちはギルドの財産とメンバーを、三か所の避難所へ分けて隠した。最初の避難所はすでに陥落し、二つ目にいた者たちは三つ目の避難所へ逃げた………」
シモンは胸を締めつけられながら、悔しそうに告げた。
「それで?」ニフェトは目を細めて尋ねた。
「俺はドイツ軍に生け捕りにされ、拷問を受けた。奴は言った………Kanatheonが俺たちの居場所を売ったと。本当なのか!? ニフェト!」シモンは怒鳴った。
「その答えが、そんなに重要?」ニフェトは突然、冷たく笑った。
「当たり前だ! ふざけるな! 仲間を売って、自分たちだけ助かろうとしたのか!?」シモンはニフェトに指を突きつけて怒鳴り、天井から埃を降らせた。
「あなたたちがあの夜、Kanatheonを見捨てたのも同じでしょう?」
ニフェトの目は氷のように冷え切り、そこにはドイツ軍にさえ向けたことのない憎しみが滲んでいた。
「俺たちは前から、Kanatheonにも撤退して戦力を温存するよう説得していただろう!? 王都を捨てたくなかったのは、お前たちだ!」シモンは言い返した。
「王都を捨てて、洞窟ネズミのように暮らせっていうの!? あの夜、私たちはあと少しでドイツ軍の主力を撃破できた! それなのに、あなたたちは何をしていた!? 穴を掘って逃げる準備よ! 六口……六口弥生がいたら、必ずドイツ軍を倒していた! あなたたちみたいな臆病者なんて必要なかった!」
ニフェトは狂ったように怒鳴り、神杖を地面へ突き立てて光の紋様を生み出した。廃屋全体が激しく揺れた。
「だが、俺たちはドイツ軍にお前たちの情報を漏らしていない! 自分たちが負けたからといって、味方に責任を押しつけるつもりか! この卑怯者!」シモンは立ち上がり、ニフェトと激しく言い争った。
「Kanatheonの人間は………死を選ぶ。敵に見つかれば見つかれば、死ぬまで戦う。銀龍の刻印の情報を漏らした者はいないよ」
かつて盟友だった二人が罵り合う姿に耐えられず、萌僧は慌てて説明した。
「えっ!? でも………ニフェトは………」シモンは一瞬固まり、後ろめたそうにつぶやいた。
ニフェトは胸を激しく上下させ、込み上げる怒りを必死に抑えながらシモンを睨みつけた。
「すまない………俺の誤解だった。ドイツ軍は俺を避難所へ帰らせ、アンドリアに降伏を勧めるよう命じた。でも、その前にKanatheonが銀龍の刻印を売っていないことを確かめたかったんだ。今すぐ戻る――」
シモンは謝罪して立ち去ろうとしたが、ニフェトの周囲に浮かぶ聖印がまばゆい光を放っていることに気づいた。
「ドイツ軍は、あなたを避難所へ戻した……それなのに――Kanatheonの領地まで来たの?」
ニフェトは一語ずつ力を込め、神杖をねじ折りそうなほど強く握り締めた。
「すまない……俺は――」シモンは自分に非があると分かっており、再び謝罪した。
「すまないだと!? 萌僧、加奈はどうして負傷したの?」
ニフェトは目を見開いて尋ねた。白目には真っ赤な血管が浮かび、誰も視線を合わせられなかった。
「ドイツ軍の……追っ手と戦ったから」
萌僧は一瞬固まり、ニフェトがこれほど怒っている理由を理解した。
「話を聞いてくれ。俺にも事情があったんだ………」シモンはため息をついた。
「ドイツ軍を避難所まで連れていくのが怖かった。だからKanatheonを隠れ蓑にした。そうでしょう?」
炎のように赤かったニフェトの眼差しが深淵のように暗く沈んだ。
「でも、追っ手は全員殺した! 俺は――」シモンは両手を合わせ、必死に謝った。
ニフェトは自分の喉を指さし、片手を上げて合図を送った。
ヒュッ――パァン!
一発の狙撃弾が窓ガラスを打ち砕き、シモンの喉を貫いた。シモンは喉に開いた血まみれの大きな穴を押さえながら呻き、床の上で陸に上がった魚のようにもがいた。
「大地の聖歌!」
ニフェトは入口に範囲回復スキルを展開した――その魔法陣は、シモンの目の前ぎりぎりにあった。
「ごほっ、ごほっ! うっ………ごほっ」
シモンは片手を喉から放し、ニフェトの回復スキルへ向かって這い始めた。指の隙間から、血が勢いよく噴き出す。
シモンの指が緑色の魔法陣へ届こうとした、その瞬間――
「すまない…………」ニフェトはシモンの手を踏みつけた。指先から回復魔法陣までの距離は、爪の半分ほどしかなかった。
物陰から現れた松美がシモンの髪をつかみ、目を閉じて顔を背けながら、その首を斬り落とした。
シモンの指からようやく力が抜け、全身が光の粒子となって消えていった。
「誰にだって事情があるのよ…………」
ニフェトはため息をつき、松美たちを連れ、その場を去った。
しかし、二階の暗がりから二対の目が、その一部始終を見ていた。
「どうする?」マイロは尋ねた。
「まずはアンドリアのところへ戻ろう……一からやり直すのよ……」キティはため息交じりに答えた。
皆さんは、ソフィアとニフェトのどちらを支持しますか?




