381 最後の光
ついに教会の居場所が知られてしまいました……ソフィアはどんな決断を下すのでしょうか?
ソフィアは石の玉座に静かに座り、何も話そうとしなかった。小さな口をわずかに開いては閉じ、何かを言いかけてためらっている。
「ほら……」松美は周囲に気づかれないよう、ジュースのボトルを一本、ソフィアの膝の上へそっと差し入れた。
ソフィアは驚いて飛び上がり、反射的にボトルを押し返した。声の主が松美だと分かって、ようやく落ち着きを取り戻す。
「これは?」ソフィアは両手でボトルをつまんだり撫でたりしながら尋ねた。
「ジュース」
松美は、ハゲグで別れてからソフィアがまるで別人のように変わってしまったことに気づいた。
活発で、いたずら好きだった教皇はもうどこにもいない。今のソフィアは、自分の命を懸けて行き場を失ったプレイヤーたちを守っている。その姿を見て、松美は使命を果たしたあと、蕾のまま枯れていった聖白花を思い出した。
ソフィアはすぐに蓋を開け、一気に飲もうとして動きを止めた。数滴の甘い果汁がすでに唇へ飛び散り、久しく甘味を忘れていた舌を潤すと、味覚が鮮やかによみがえった。それでもソフィアは少しためらい、唇についた雫を舐め取ったをそっと舐め取った。
「ありがとう……とてもおいしい! ほかの人にも少し残しておきたいのですが、いいですか?」ソフィアは無邪気な笑みを浮かべた。
松美はソフィアを呆然と見つめ、次にほとんど減っていないジュースへ目を向けた。無性に腹が立ってくる。
「自分で飲みなさい……」
「私はもう十分です。ほかの人にも――」ソフィアは穏やかに微笑んだ。
「もう一口飲んで!」松美はジュースをソフィアの胸元へ押し戻した。
ソフィアがもう一度ほんの少しだけ口をつけると、松美は突然その頬をつかんで口をこじ開け、ジュースを流し込んだ。
ソフィアはすぐにジュースが鼻へ入ってむせ返り、慌てて松美の腕を叩いた。それでも松美は手を放さず、ボトルが空になるまで飲ませ続けた。
ソフィアは上半身をジュースで濡らし、口を開いて松美を怒鳴ろうとした。しかし、口の中は甘い果汁で潤っている。たまらず顔についたジュースを指ですくい、口へ戻して舐め取った。
松美は物乞いのようなソフィアの姿を見ると、天を仰いで長いため息をついた。空になったボトルを力任せに投げ捨て、落ち込んだ様子で頭を抱えて座り込む。
「どうして残ることを選んだの?」松美は冷たく尋ねた。
「教皇はログインし続けなければなりません。そうしなければ、大量の神恩を失ってしまいます」ソフィアは答えた。
「いっそ……教皇なんてやめればいいじゃない」松美は歯を食いしばって言った。
「法衣は職業の証であると同時に、責任の証でもあります」ソフィアは答えた。
「私たちのギルドは、財産とそばにいる仲間を守るために残ってる。でも、あなたのギルドはもう全滅したんでしょう? わざわざログインして苦しむ必要なんてないじゃない」松美は眉をひそめて尋ねた。
ソフィアはうつむいて指をもてあそんでいたが、苦しげだった顔に、清らかな笑みがゆっくりと広がったがゆっくりと広がった。
「心の中には、いつだって守りたいものがあります。それが必ずしも正しいとは限りません。それでも、理想を守り抜くことは幸せなことだと思うから、私は残りました」
「好きにすれば……」松美は指先で泥に円を描いた。
「あなたが無理やりジュースを飲ませたのも……悪い手段で正しいことをしたのでしょう? だから、私はあなたを責めません。私たちは、他人の選択に口を出しすぎていたのです。だから、ログアウトしたプレイヤーたちのことも責めません。ただ、守りたいものが違っただけです」
ソフィアは老修道女から贈られたラロの経典を胸に抱き、暗闇の中にわずかな慰めを見いだした。
そのとき、萌僧が石の玉座のそばから、不思議そうに眺めていた松美を眺めていた。
「何よ?」松美はぶっきらぼうに尋ねた。
萌僧は二人の間へ歩み寄り、しゃがみ込んだ。
「今ログアウトして、現実でカミコを起こせば解決するんじゃない? ここで十二時間も待つ必要ないよね?」萌僧は眉をひそめて尋ねた。
「……」松美は固まった。
「……」ソフィアも言葉を失った。
「ん?」萌僧は石のように固まった二人を見つめた。
【システムメッセージ: フレンド 松美 ログアウト】
「いつ気づいたの……」ソフィアは呆れたように尋ねた。
「松美とカミコの話を聞いたときから、何かおかしいと思ってた」萌僧は口を尖らせて答えた。
【システムメッセージ: フレンド カミコ ログアウト】
「……」二人は再び沈黙した。
「ニフェトは兵を出して、私を助けてくれると思いますか? どうして松美は、あんなに自信がなさそうだったのですか?」ソフィアは不安そうに尋ねた。
「ニフェトは……六口をギルドから追放してから、人が変わったんだ。どんなときもKanatheonの利益を最優先に考えるようになった最優先にするようになった。自分の過ちを埋め合わせようとしてるみたいに……」萌僧はため息交じりに言った。
「Kanatheonの利益を最優先にする……どういう意味ですか!?」
ソフィアは石の玉座から立ち上がり、声を荒らげた。
洞窟内は静まり返り、全員が二人の会話へ耳を傾けた。
「Kanatheonも洞穴に隠れてる……。最初は、あなたたちが北の果てまで逃げて戦力を温存していると思ってた。だから、人を送って助けを求めたんだ。まさか移動教会のせいで居場所が知られ、ドイツ人プレイヤーの精鋭部隊を引き寄せていたなんて……。あなたを救い出すには、Kanatheonも全員を動員する必要があると思う……。ニフェトがどう決めるかは……」萌僧は沈んだ声で言った。
ソフィアは静かに座り直し、それ以上何も話さなかった。
【システムメッセージ: フレンド カミコ ログイン】
二人は松美の人形を見つめた……。
【システムメッセージ: フレンド カミコ ログアウト】
【システムメッセージ: フレンド ニフェト ログアウト】
「たぶん……少し時間がかかりそうだね」萌僧はもう一度ため息をついた。
【システムメッセージ: フレンド ニフェト ログイン】
【システムメッセージ: フレンド ニフェト ログアウト】
【システムメッセージ: フレンド ニフェト ログイン】
【システムメッセージ: フレンド ニフェト ログアウト】
「えっ……?」
萌僧はニフェトのログイン履歴を呆然と見つめ、違和感を覚えた。
…
人々は洞窟の中で本を読み、眠り、あるいは話をして過ごしていた。これほど過酷で単調なログイン生活に耐えているのは、ソフィアを守るため――自ら両目を封じた教皇を守るためだった。
萌僧はやわらか舌ネコに変身し、あちこちで撫でてもらおうと甘えながら、上機嫌で過ごしていた。
プクッ……入口の水面に二つの泡が浮かんだ。
周囲のプレイヤーたちは、その小さな泡に気づかなかった。
水中から突然、一本の潜望鏡が伸び、洞窟内の様子を覗き始めた!
潜望鏡は左から右へゆっくりと動き、中央にいるソフィアを発見した。
「教皇を発見……」
潜望鏡がさらに右へ向くと、目の前に一足の革靴があった!
男のプレイヤーは片腕を水中へ突っ込み、ドイツ人の夢葬者を一人を引きずり出した。
「ふざけるな!!」
男のプレイヤーは問答無用でドイツ人プレイヤーと激しく戦い始めた。ドイツ人プレイヤーは短剣で急所を狙い、男のプレイヤーはその攻撃を必死に受け流しながら、相手を取り押さえようとした。
周囲のプレイヤーたちは最初、誰かが戦闘訓練をしているのだと思っていた。しかし、短剣がぶつかるたびに大量の火花が飛び散り、ついにドイツ人プレイヤーの肩にある白狼の紋章に気づいた。
「侵略者が入り込んだぞ!!」誰かが怒鳴った。
「待て! 殺すな――」
男のプレイヤーが慌てて叫んだが、すでに手遅れだった――
大勢の初心者が一斉に飛びかかり、混乱のあまり夢葬者を何度も斬りつけて殺してしまった!
「何をしてるんだ! 殺したら復活して、ここの場所を報告されるだろ! 縛り上げるだけでよかったんだぞ!!」男のプレイヤーは焦りのあまり涙を流した。
「何が起きたのですか!?」ソフィアは石の玉座から驚いて尋ねた。
「前と同じです……ドイツ人プレイヤーが、また私たちの洞窟内で死にました!」女のプレイヤーは慌てて答えた。
ソフィアは両脚から力が抜け、石の玉座へ崩れ落ちた。
「急いで撤退するぞ! 潮が引いて入口が露出するまで、入口が露出するまで!松美さんの人形はこちらで運びます!」男のプレイヤーはすぐに装備をまとめ始めた。
「いいえ。私がここに残れば、皆さんは神恩の効果を受けられます。少しは役に立てるはずです」
ソフィアは松美の人形へ顔を向け、静かに言った。
「ソフィア様は目が見えないのですから、戦えません!敵にここまで入られたら、もう逃げ場はありません!」女のプレイヤーは焦って言った。
「それなら、ここを死守します!!!!」
ソフィアの体から金色の光があふれ、神恩の効果が一気に跳ね上がった。
「チッ――武器を用意しろ! 入口に使える罠スキルをすべて仕掛けるんだ!」男のプレイヤーは叫んだ。
洞窟内のプレイヤーたち、慌ただしく戦闘準備を始めた。
「早く戻ってきてよ……松美!」萌僧は灰色で表示された松美の名前を見つめて言った。
…
一頭の石竜が、白狼軍の野営地へ降り立った――
「Achtung!(気をつけ)」狼隊隊長が叫んだ。
五十人の狼兵が一斉に姿勢を正した。
「教皇は見つかったのですか?」白い修道服をまとった修道女は尋ねた。
「ご報告します、パーカー大将。派遣した十人の偵察員のうち、一人が教皇を発見した直後に死亡しました。その死亡地点から、おおよその位置は把握できています」狼隊隊長は報告した。
「それでは……始めましょう」
パーカーは白い手袋をはめ、狼隊軍を率いて出陣した。
…




