380 漂流する教会
松美と萌僧が救い出した二人は、彼らをソフィアのもとへ導いてくれるのでしょうか?
救出された男女は、松美と萌僧を連れて丈の低い草に身を隠しながら、なだらかな低地を進んだ。最後は水辺にある泥穴へ潜り込み、入口を生い茂る草で覆った。
穴の中は真っ暗で、四人は押し固められた肉の塊のように身を寄せ合っていた。
「何を待ってるの?」
松美は冷たく湿った泥で全身を汚し、まるで糞溜めに浸かっているような気持ち悪さを覚えた。
「ドイツ人プレイヤーの大半が……ログアウトするのを待ってるの」
女のプレイヤーは落ち着いて説明した。男のプレイヤーは敵が現れないか警戒し、時折、草の外へ顔を出していた。
その後、三十分にわたって沈黙が続いた。互いを信用できない四人は肌を密着させ、互いの鼓動を聞いていた。
相手を信じられない松美は少しも気を抜けず、神経は限界まで引っ張られたゴムのように張り詰めていた。疲れ切っていた。
「この一か月、ソフィアはどうしてたの?」松美はついに耐えきれず、尋ねた。
男のプレイヤーはそれを聞くと、すぐに首を横に振ってため息をついた。
「元気にしています。三食きちんと食べ、三百人近くが交代で教会を守っています」女のプレイヤーは松美の目を見つめて答えた。
「三百人!? 侵略者に対抗できるの?」松美は驚いて尋ねた。
「もちろんです。私たちの大半は三次職ですし、ソフィア様もいらっしゃいます」
女のプレイヤーは自信を込めて答え、その目には怒りが燃えていた。
「助かった!」松美はようやく緊張を解き、安堵の笑みを浮かべた。
「何が助かったんだ?」男のプレイヤーは尋ねた。
「Kanatheonは指名手配されてるの。ドイツ軍が撤退する日まで、持ちこたえられないんじゃないかと思って……」
松美は肩を落とし、力なく答えた。
「そんなに状況が悪いのですか?」女のプレイヤーは表情を曇らせ、沈んだ声で尋ねた。
松美は何かを言いかけて口をつぐみ、長いため息をついた。
男のプレイヤーがサーバー内の時刻を確認すると、間もなく午前六時になるところだった。
「行こう」
四人が泥穴を出ると、青々とした斜面の下では潮が引き、幅三メートルほどの泥の帯が水際に現れていた。
「地形が変わった?!」萌僧は驚きながらも嬉しそうに尋ねた。
「ドローンの音が聞こえたら、すぐ泥の上に伏せてください。それから、聖所の場所を知られないよう、今から目隠しをしてもらいます」
松美は余計な面倒を起こしたくなかったため、うなずいて同意し、二人に案内を任せた。
三十分ほど進んだところで、松美の足元の地面が突然崩れ、冷たい水の穴へ落ちた。
目隠しで何も見えないまま、松美と萌僧は水中でもがいた。すると突然、強い水流に引き込まれ、バシャッと洞窟内の水面へ放り出された。
二人は地面へ倒れ込み、泥水を吐きながら咳き込んだ。目隠しを外すと、すでに洞窟の中。
その前には、全身泥まみれの三十人の穴居人が立ち、松明を掲げて二人を見つめていた。
「三百人、聖所……ソフィアは? 私たちを騙してないでしょうね?」
松美は険しい声で尋ねた。松美と萌僧はすでに短剣を抜き、戦いに備えている。
「先ほどは申し訳ありません。あなたたちを信用できるまで、本当の人数や状況を明かすわけにはいかなかったのです……」女のプレイヤーは謝った。
「松美……あなたなの?」
穴居人たちが左右へ道を開けると、上方から差し込んだ一筋の朝日が、中央に積み上げられた石へ降り注いだ。
長い間捜し続けていた教皇ソフィアが、その石の玉座に座っていた!
「ソフィ……ア?」
松美は驚きのあまり短剣を下ろし、そのまま穴居人たちにソフィアの前まで連れていかれた。
ソフィアは両手で松美の顔に触れ、指先で何度もその輪郭を確かめた。
「松美……あなたなのね……本当に、あなたなのね!!」
ソフィアは松美を強く抱きしめ、声を上げて泣いた。松美は窒息しそうになったが、ソフィアは松美が再び腕の中から消えてしまうことを恐れているかのように、決して腕を緩めなかった。
松美はソフィアを押し返したくなかった。それでも、どうしても聞かなければならない。
「ソフィア……目をどうしたの?!」
ソフィアの両目は金色の聖紋に封じられ、何も見えなくなっていた……。
「ソフィア様、この二人は大丈夫でしょうか?」誰かが尋ねた。
「この二人は……信用できます」ソフィアは涙を拭いながら答えた。
穴居人たちはすぐに散っていった。
「ソフィア、少し食べ物を分けてもらえませんか? 僕たちはもう何日も何も食べていないんです」萌僧は丁寧に尋ねた。
「食料なら……二週間前にすべて底をつきました……」
「えっ!?」松美と萌僧は声を揃えた。
「はぁ……事情を説明します……」
ソフィアはため息をつき、ゆっくりと状況を話し始めた……。
…
「それで、自分の両目を封じて神恩を維持しているの?」松美は重い声で尋ねた。
ソフィアは黙ってうなずいた。
「私はどの大聖堂にも駐留していないため、教皇の『移動教会』効果が発動し、近くで戦死したプレイヤーが私のそばで復活するようになりました。ですが、移動教会は絶えず私の神恩を消費します。神恩が尽きれば……私は教皇の職を失い、枢機卿に戻ってしまいます。ほかに方法がなかったので、自ら両目を封じ……その代わりに神恩を得るしかありませんでした」ソフィアは暗い表情で言った。
「あなたの軍は? コリンはどこ?」萌僧は周囲を見回したが、洞窟内には汚れきった三十人の難民しかいなかった。
ソフィアはうつむき、かすかに唇を動かした。
「残っているのは……私たちだけです……」
「……ソフィア、コリンは自分の身を守ることにかけては抜け目がない人よ。絶対に最後まで生き残るはずでしょう?」
松美は信じられず、さらに問い詰めた。
「移動教会によって集まってきたプレイヤーは……ほとんどが初心者でした。私たちの指示に従わず、ドイツ軍に見つかって捕らえられ、次々と殺されました。私たちはどうにか陽動で敵を引き離しましたが、その後、雪狼営が現れ、完膚なきまでに打ちのめされました。百人近くが戦死し、コリンも乱戦の中で命を落としました。私は生き残った者たちを連れて北へ逃げましたが、雪狼営に追われるたびに拠点を移さざるを得ず、二度も移動しました。
最後にたどり着いたのが、この潮汐丘陵地帯です。そのとき、私のそばに残っていたのは五十人にも届きませんでした。私は……ラロに祈りました……。すると、潮の流れで入口を隠せるこの洞窟を見つけ、ようやく身を落ち着けることができました。
ですが、食料を集めに外へ出る勇気はなく、数人を、ほかのギルドへ助けを求めに向かわせることしかできませんでした……それでも、誰一人戻ってきませんでした。けれど、ようやくあなたが現れた……Kanatheon! Kanatheonが来てくれるのですか!? 何人いるのですか!?」
ソフィアは突然、興奮して尋ねた。
「こちらも……数十人しかいないの。私たちも、あなたに助けを求めるつもりだった……」松美は申し訳なさそうに答えた。
「松美さん、このリストを見てください」
女のプレイヤーは、赤字で「機密」と押された一枚の紙を差し出した。
「これ……本サーバーの実力者全員の名が載った指名手配リスト?!」松美たちは驚きの声を上げた。
「私たちは四人の犠牲を出しながらも、ドイツ軍の上級将校を一人暗殺しました。そのリュックから、このリストを見つけたのです。ソフィア様が最上位で……『最優先で殺害、交渉は一切禁止』と書かれています」女のプレイヤーは説明した。
「軍を率いるニフェトとアンドリアでさえ二位と三位なのに、二人には『交渉は一切禁止』なんて書かれていない……」萌僧は眉をひそめて言った。
「移動教会……だから、軍を持つギルマスよりも危険視されているの?」松美は眉をひそめ、考え込んだ。
「松美……私たちをここから救い出してくれませんか?」ソフィアは切実な声で尋ねた。
「ここへ来たのは私たち二人だけ。それに、雪狼営は西の森に監獄を一か所設けている。カミコも現実でKanatheonの状況を伝え続けてる。今すぐあなたたちを連れ出すのは無理だと思う。私は急いでギルドへ戻って、ここの状況を報告しないと」
松美が洞窟内を見回すと、誰もが黄色い肌をして骨が浮くほど痩せ細っていた。このままでは、敵に攻められなくても、もう長くは持たない。
「待って……行かないで……外へ出た人たちは、もう何人も戻ってこなかったの!」
ソフィアは松美の袖をつかみ、泣きながら懇願した。
「ソフィア……ニフェトに報告するには、私は戻らなきゃいけないの。そうしなければ、Kanatheonの仲間を救援に動かすこともできない」松美は自分がここを離れなければならないと分かっていた。
「ニフェトが兵を動かして、私を助けに来てくれると誓える!?」ソフィアは感情を抑えきれずに叫んだ。
松美には答えられなかった。
ニフェトはもう変わってしまった。それに、ソフィアのそばには三十人しかおらず、相手はドイツ人プレイヤーの精鋭だ。少しでも冷静に考えられる者なら、ソフィアを見捨てて南へ向かい、影の旅団を頼るだろう。
洞窟の入口から突然、ゴボゴボと音が響き、松美と萌僧は驚いて顔を見合わせた。
「敵!?」松美は驚いて尋ねた。
「違います……潮が満ちてきたのです。これで安全です。今、入口は水面下二メートルにありますから、ドイツ人プレイヤーには見つかりません。次に潮が引いて入口が現れる十二時間後まで、ここから出ることもできません」女のプレイヤーは説明した。
「十二時間……ここで待つしかないわね」松美は苦笑した。
「十二時間後、再び潮が引くと……入口の下半分が水面上に現れます。そのときが、私たちにとって最も危険です……」女のプレイヤーは付け加えた。
「お願い、松美……」ソフィアは再び懇願した。
「はぁ……」
松美は義理と忠誠の板挟みになっていた。
…
皆さんが松美の立場なら、ソフィアを残して戻りますか……?




