378 抹消された身分
第四帝国は初心者たちを管理するため、新たな制度を敷き始めていた。一方、行方不明になったソフィアを捜す松美と萌僧は、北部で不穏な光景を目撃する。
「プラムス王都で、雑貨商人のライトを捜してください」村長は優しく微笑んだ。
【システムメッセージ: プラムス王都で雑貨商人ライトを捜す】
二人の初心者は喜び勇んで初心者の村を駆け出した。
緑の山々、澄んだ川、どこまでも広がる空。なんて自由でのびのびとした世界なのだろう!
「翼騎兵って職業があるらしいぞ。飛竜に乗って、あちこち冒険してみたいな!」
剣士は草原に寝転がり、幸せそうに転げ回った。
「僕はこのゲームの痛覚システムのほうが心配だよ。ゲームの中で受けた痛みが脳に直接伝わるらしいし、魔法使いの火炎魔法なんて受けたら、死ぬほど痛いに決まってる」
聖職者は思わず法衣の襟元をかき合わせ、不安そうに言った。
「だからこそ聖職者が重要なんだろ! 現実じゃ味わえない生き方を体験することこそ、RPGの醍醐味なんだ! 俺が領主になったら、敵を生け捕りにして、じっくり遊んでやる!」
剣士は得意げに言った。
「お前は生活リズムのほうを心配しろよ。昼夜逆転してる人も大勢いるんだから」聖職者は呆れたように言った。
二人は初心者の村からプラムスへ向かう者が必ず通る街道を進み、小さな町へたどり着いた。まだ町まで百メートル以上あるのに、低く響く竜の唸り声が聞こえてくる。
「見ろ!! 飛竜だ!!」
剣士は一頭の赤い飛竜が町の石塔の上でうずくまって休んでいるのを見つけると、狂ったように駆け出した。
「おい! 絶対、一撃でやられるって!」聖職者は慌てて剣士を引き止めた。
「違うって……あれはプレイヤーだ! この町はプレイヤーに支配されてるんだよ! 俺たち、プラムスに着いたんだ!」
剣士は王都を埋め尽くす無数の黄色い旗――双頭の鷲を描いた大旗を指差した。
「プラムスに……ドイツの旗が?」
聖職者は戸惑いながらも、剣士について王都へ向かった。
町は簡素な木の城壁で守られ、入口では二人の重装騎士が警備していた。
二人が町へ入ろうとすると、衛兵たちに呼び止められた。
「Armband (腕章)…」衛兵は二人の右腕を指差して尋ねた。
「なんで英語なんだ? 腕章って何だよ? 俺たちは初心者の村を出たばかりで、商人のライトを捜しに――」
剣士は興奮したまま騎士の鎧へ手を伸ばし、たちまち乱暴に突き飛ばされた。
「Zurück!下がれ)」
二人の騎士が剣を抜いて突きつけると、剣士は驚いて慌てて転がるように離れた。
「勇者様、初心者クエストの『雑貨商人ライトを捜す』を進めているのですか?」
白い修道服をまとったNPCの修道女が町から出てきて、微笑みながら尋ねた。
二人は身を寄せ合い、震えながらうなずいた。もう一言も口にしようとはしない。
「私についてきてください」修道女は二人を町へ招き入れた。
騎士たちはそれ以上止めようとせず、胸を張って持ち場へ戻った。
「さすが王都だな。衛兵まで初心者の村の村長より怖いよ」剣士はまだ怯えながら言った。
「違います、勇者様。ここはローテン城です」
修道女は笑みを浮かべ、二人を中央広場へ案内した。
「うわあ!!」二人は目を見開いた。まるで中世の中央ヨーロッパの町へ迷い込んだかのようだった。
オレンジ色の瓦屋根を載せた淡い黄色の家々が、通りに沿って整然と建ち並んでいた。窓の下には小さな花籠が吊られ、どの通りの角にも馬が水を飲める長方形の水飲み場が設けられている。
飛竜が伏せている石塔は町の中央にあり、粗い竜砂石を積み上げた赤い外壁を備えていた。
この町では、NPCは例外なくドイツ語しか話さない。プレイヤーは、町にわずかしかいないNPCの修道女に通訳してもらうしかなかった。
初心者がこの町へ来ると、決まって一つの疑問を抱く。ここは本当に自分たちのサーバーなのか?
「これからローテン城の町役場へ向かい、登録を行います」NPCの修道女は言った。
「ローテン城? ここはプラムスじゃないの?」
聖職者は驚いて尋ねた。町を行き交う者は少なく、しかも見かけるプレイヤーの半数が全身を金色の装備で固めている。初心者ばかりで親しみやすい場所だという二人の想像とは、あまりにもかけ離れていた。
「ローテン城は、初心者の村とプラムスを結ぶ街道に位置する、初心者を受け入れるための前哨の町です。初心者の村を出た者は全員ここで登録を行い、その後、第四帝国から支給される物資を受け取ります」
修道女は二人を町役場へ案内した。中では大勢の初心者が木の机の前に列を作っている。二人はそこでようやく本サーバーの言葉を耳にし、一気に親しみを覚えた。
「えっ、どうして登録なんか――」聖職者は尋ねた。
「それでは、私はここで失礼します、勇者様。このあとは担当の者から説明があります」
修道女は微笑んでうなずき、大通りへ戻っていった。
「なあ、何の登録か知ってるか?」剣士は前に並ぶ弓使いへ尋ねた。
「知らないよ。俺も今来たばかりなんだ」弓使いは困ったように答えた。
「奴らは俺たちの人口を監視してるんだ……」後ろに並んでいた魔法使いが冷たく言った。
「人口を監視? どうしてだ?」三人は眉をひそめて尋ねた。
「奴らが話してる言葉を聞いてみろ。奴らこそ魔王……侵略者だ」
魔法使いはフードを目深に下ろし、声を潜めた。
「ま、魔王?!」
三人が驚きの声を上げると、魔法使いは怯えて慌てて後ずさった。
「静かにしろ!」近くの衛兵が怒鳴りつけると、全員すぐに口を閉ざして列へ戻った。
やがて二人は木の机の前まで進み、台帳に自分の名前と職業を書き込んだ。すると、机の向こうにいた将校から腕章を一本ずつ渡された。
本サーバーの初心者たちは何も分からないまま、質問することもできず、腕章を手に町役場の広間で待っていた。
「気をつけ!」入口を守る騎士が厳しい声で叫んだ。
広間にいた衛兵たちは一斉に姿勢を正し、胸を張った。
水晶の鎧をまとった翼騎兵が広間へ入ってきた。その後ろには、辞書を手にした夢葬者が付き従っている。
「休め」翼騎兵が言うと、衛兵たちは休めの姿勢を取った。
守備隊の統制の取れた動きに、初心者たちはたちまち目を奪われ、翼騎兵へ畏れを抱いた。
翼騎兵は初心者たちを一瞥すると、ドイツ語で話し始めた。続いて、夢葬者がその内容を通訳する。
「皆さん、こんにちは。私はデューク伍長です。第四帝国を代表して、皆さんを歓迎します」
デュークはさらに話を続けた――
「ご覧のとおり、我々はこのサーバーのプレイヤーではありません。約一か月前、第四帝国はこのサーバー最精鋭の軍事勢力を撃破し、第四帝国に降伏しました。
ご安心ください。第四帝国には皆さんを傷つける意思も、その手段もありません――レベル50までは。
レベル50に達すると、システムによってPVP機能が解放されます。その時点で、皆さんと我が軍は自動的に敵対関係となります。
ですが、ご安心ください。以下の規則を守る限り、第四帝国から皆さんを攻撃することはありません。
1)いかなるギルドにも加入、設立、支援してはならない
2)開放エリアでは、番号入りの腕章を必ず着用する
3)開放エリアでは、我々のプレイヤーを攻撃してはならない
4)腕章を着用していない身元不明のプレイヤーを発見した場合、帝国の巡回兵へ通報する
何か質問はありますか?」夢葬者はそこまで通訳し、初心者たちを見回した。
「うわ……ゲームするのにも規則を守らなきゃいけないのか?!」
「俺、もうやめる!」
「こんなんじゃ気楽に遊べるわけないだろ?!」
初心者たちはたちまち騒ぎ始めた――
「慌てないでください。まずはこちらの装備をご覧ください。皆さんのレベル上げに役立ててもらうため、武器と補給品を無料で配布します。そうです。お気づきのとおり、武器にはすべて呪いがかかっており、対人型ダメージ-30%になります。しかし、レベル上げには影響しません。代理指導者の指示に従えば、今までどおりゲームを楽しめます。規則を忘れないでください。それでは、解散して構いません」デュークは言った。
衛兵たちは、上質な鋼で作られた武器や防具、大量の補給品が詰まった袋を次々と運び出した。
一人のプレイヤーが大剣を持ち上げてみると、自分の片手剣よりわずかに重いだけだった。盾に至っては、ダイヤモンドのように硬い。
「うわ、見てくれ!」あるプレイヤーが武器の下に付いた小さなタグを見つけた。そこには「ドイツ製――ギルド・マーラ」と書かれている。
「ドイツ製だって?! 絶対に最高品質の装備だ! ははははは!」
初心者たちはクリスマスでも迎えたかのように装備を平等に分け合い、ローテン城を出て、再びプラムスへ向かった。
「この装備、なかなかいいな」剣士は新しい装備を試したくてうずうずしていた。
「やっぱり、どこか変だよ……」
聖職者は聖杖を手の中で弄びながら、心の中ではどうにも受け入れきれずにいた。
「いい装備なもんか! きっと奴らはレベル50の狩場に高レベルのモンスターをこっそり放ち、お前たちを殺そうとしてる。あるいは、レベル50になった奴から始末するつもりだ」
魔法使いが再び姿を現し、重々しく言った。
「はあ?! 初心者を殺して何の得があるんだ?」二人は驚愕した。
「奴らは殺人鬼だ。金なんてどうでもいいんだよ」魔法使いは歯を食いしばって言った。
「彼らと知り合いなの? どうしてドイツ人プレイヤーのことをそんなに詳しく知ってるんだ?」聖職者は尋ねた。
「それは、私が――ただの勘だ」
魔法使いは何かを言いかけて口をつぐみ、暗い表情を浮かべた。
「レベルを上げて遊べれば、それでいいだろ。ギルドなんてどうでもいいって!」
剣士は満足そうに片手剣を振り回した。
ローテン城が見えなくなった頃、魔法使いが再び姿を現した。
「ギルドは重要なんだ! このゲームにおける、あらゆる権力の中心なんだよ!」魔法使いは興奮して言った。
「お前、何者だ? なんか怪しいぞ」剣士は眉をひそめて尋ねた。
「ノ……ノクシア……」女の魔法使いは恥ずかしそうに答えた。
「また男プレイヤーの女キャラか……」剣士と聖職者はすぐに目を合わせた。
「一緒にレベル上げする?」聖職者は尋ねた。
「うん。私が二人をすぐにレベル50まで引き上げる。そのあと、ドイツ人プレイヤーの支配から逃がしてあげる。私には分かる……このサーバーには、まだ降伏していないギルドが必ずある! 私たちは抵抗しなきゃならない!」
ノクシアは目を血走らせ、激しい口調で言った。
…
松美と萌僧は、行方不明になったソフィアとその仲間たちを捜すため、北へ向かっていた――
「くそっ……密書が使えないだけで、こんなに不便だったなんて! もう限界……はぁ……はぁ……はぁ……」
松美は小さな滝から萌僧を引っ張り上げた。
「ありがとう……ありがとう……」
萌僧はやっとのことで這い上がったものの、松美の胸へ倒れ込み、色っぽく息を弾ませた。
「おい……触るな! 気持ち悪い奴!」松美は萌僧を突き放した。
二人はハゲグ北部の森を抜け、いくつもの山脈を越えた。途中でいくつもの荒れ果てた村を通ったものの、聖なる園の痕跡はどこにも見つからない。
「ああ……頼むから、ここじゃありませんように……」萌僧はため息をついた。
二人の前には丘陵地帯が広がり、海水が低地へ流れ込んで、いくつもの小さな湖を作っていた。
「ここは地形が複雑ね。ソフィアがここに隠れていたら、見つけるのは無理よ」松美は眉をひそめて言った。
「大変そうだね……」萌僧は何気なく道端の白い菊を摘み、指先でもてあそび始めた。
花びらが風に舞い、ゆっくりと丘の下へ落ちていく――その先で、星のような光がきらりと瞬いた。
「ん?」萌僧は腹ばいになって前へ進み、様子を窺うと、少し離れた浅い湖で、数人のドイツ人プレイヤーが一人のプレイヤーを追っているのを見つけた。
逃げていたプレイヤーはドイツ人プレイヤーに追いつかれ、水の中へ押さえつけられた。湖の水がたちまち赤く染まっていく……。
「よかった……ソフィアじゃなかった」萌僧は口を尖らせ、独り言を漏らした。
「ソフィアが何?!」松美は驚いて尋ねた。
「なんでもない」萌僧は首を横に振り、そのままぼんやりしていた。
「違う! 何を見たの?!」
「一人のプレイヤーが、ドイツ人プレイヤーに生け捕りにされた……」萌僧は左手の山腹を指差した。
二人は、ドイツ人プレイヤーたちが捕らえたプレイヤーを森の中へ連行していくのを見つめた。
「そういえば! 道中で出会うドイツ人プレイヤーが増えて、本サーバーのプレイヤーが減ってると思わない?」松美は突然その異変に気づいた。
昨日はハゲグ周辺でまだ本サーバーのプレイヤーを見かけたのに、今日は、今捕まった者以外、一人も目にしていない。
「ソフィアも……捕まったと思う?」萌僧は驚いて尋ねた。
「確かめる方法は一つしかない……」
松美は深く息を吸い、短剣を抜いた。
…




