375 死のゲーム
「今だ!」
影鬼たち三人と翼騎兵は、一斉に猛攻を仕掛けた。クトゥルフは冷静に応戦したものの、腕や脇腹を刺され、じりじりと後退していく。
「痛いよぉ!」クトゥルフは子供のように両脚をくねらせ、甘えるような声を上げた。そのかかとは、すでに紫色の毒水に浸かっていた。
「死ね!」
翼騎兵は好機と見て突撃し、この憎たらしい道化師を毒水へ突き落とそうとした。
だが、クトゥルフは電光石火の速さで手を伸ばすと、片手だけで翼騎兵の突撃を受け止めた。
「いい子が空を飛ぶぞぉぉぉぉぉ!」クトゥルフは笑い、右手で大槌を振り回し始めた。
「ハハッ! ついに来たぞ!」それを聞いた観客たちは、たちまち大笑いした。
ドゴォン!!!
大槌が翼騎兵の胸を直撃した。鎧にニコニコマークを刻み込まれた翼騎兵は、山頂近くまで吹き飛ばされた。
「大丈夫か?!」三人は真っ青になり、すぐさまドイツ人プレイヤーの応急処置を始めた。
会場の観客たちは、原住民が自分たちのサーバーのプレイヤーを助けているのを見て喜び、次々と親指を立てて叫んだ。
「生かせ! 生かせ! 生かせ!」
観客たちは、クトゥルフに対戦相手を見逃すよう求めた。
クトゥルフはゆっくりと山頂へ登っていった。残る三人は阻止できず、身動きの取れないドイツ人翼騎兵から手を離し、じりじりと後ずさった。
クトゥルフは両腕を広げて観客の拍手を浴びると、黙って頷き、翼騎兵を肩に担いで山を下りていった。
紫色の毒水はたちまちひとりでに左右へ分かれ、入り口へ続く小道が現れた。クトゥルフは翼騎兵を担いだまま、闘技場を後にした。
「分かった! 観客に気に入られさえすれば、私たちは生き残れる!」女浪人はようやく生還の望みを見いだし、声を弾ませた。
「だが、どうやって戦う? 四次職の翼騎兵すら一瞬で倒されたんだ。あの道化師クトゥルフの職業は、間違いなく暴君だ!」影鬼は眉をひそめた。
「おい、何してんだ?!」
「それは反則だろ!」
会場から突然、激しいブーイングが巻き起こった。
【翻訳:ドイツチーム、全滅!】
三人は仰天した。見ると、クトゥルフは何も知らないとばかりに膝をつき、観客に許しを乞っていた――どうやら、「うっかり」翼騎兵を紫色の毒水へ投げ込んでしまったらしい。
「いい子たち、まとめて来る? それとも、一人ずつ来る?」クトゥルフはひと芝居打ち終えると、ゆっくりと歩いて戻り、笑顔で尋ねた。
「一か八か、やるぞ!」三人は武器を抜き、すぐさま攻撃を仕掛けた。
クトゥルフは今度は小盾と短刀に持ち替え、その動きはさらに機敏になった。三人はまるで幻を捕らえようとしているかのように、翻弄され続けた。
影鬼と赤毛の女が同時に挟み撃ちを仕掛けたが、クトゥルフは巧みに身をかわし、二人はゴツンと激突した。
「助けてぇ!」クトゥルフはその隙に女浪人の髪をつかみ、紫色の毒水のそばまで引きずっていった。
「今、助ける!!!」赤毛の女はぎょっとして、刀を手にがむしゃらに突っ込んだ。
クトゥルフは背中にも目がついているかのように、振り返りもせず短刀を投げた。短刀は弾丸さながらの勢いで飛び、赤毛の女の太ももを貫いた。
「うっ……怖がらないで……今、行くから……」
赤毛の女は地面に倒れてなお諦めず、腕だけで仲間のもとへ這っていった。
クトゥルフはその姿を見て、あることを思いついた。おどけた口調で女浪人に告げた。
「じっと立ってろ。髪の毛一本でも動かしたら死ぬぞ!」
女浪人は棒のように体をこわばらせ、ぴくりとも動けなくなった。クトゥルフはその頭にリンゴを一つ載せると、倒れている赤毛の女のもとへ歩み寄り、五本の短刀を差し出した。
「いい考えだ! ハハハハハ!」観客たちはたちまち囃し立て、大笑いした。
「俺にやらせ――」影鬼が名乗りを上げたが、クトゥルフにひと睨みされただけで、思わず後ずさった。
「私ならできる……」赤毛の女は痛みに耐えながらゆっくりと立ち上がり、狙いを定めて投げた!
ポチャン……短刀は毒水の中へ落ちた。
「ちゃんと……ちゃんと狙ってよ! 私じゃなくて、ちゃんとリンゴを狙って!」女浪人が悲鳴を上げた。
「短刀なんて使ったことないのよ……」赤毛の女はもう一本投げたが、刃は女浪人の頬をかすめ、浅い傷を残した。
観客たちはどっと笑った。
「早く!! 痛い!!」毒水はすでに女浪人のふくらはぎまで達していたが、彼女は身動き一つできなかった。
「今、行く!!!」ヒュッ――
二人の姿が忽然と消えた……。
「えっ?! どういうことだ?!」観客たちはたちまち驚きの声を上げた。
「……」
クトゥルフは二人がいた場所へ駆け寄ると、すぐさま貴賓席を睨みつけた。
今や山頂でクトゥルフと対峙しているのは、影鬼ただ一人となった。
「なら俺が……いい芝居を見せてやる!」影鬼は大声を上げ、短剣を手に斬りかかった――バシン!
クトゥルフは裏拳で短剣を弾き飛ばした。その凄まじい力に、影鬼の体は独楽のように何回転もした。
「しまった!」
影鬼が防御できなくなった一瞬を狙い、クトゥルフは短刀を振り上げ、その頭へ突き刺した!
「ハハハハハ!」観客たちは大笑いした。
影鬼がゆっくりと目を開けると、まだ生きており、どこにも傷はなかった――だが、口には一輪の菊の花が挟まっていた。
「ぺっ! どういうつもりだ?!」影鬼は菊の花を吐き捨てた。クトゥルフはすでに短刀をしまい、両手いっぱいに花を抱えている。
「女の子にはお花だよぉ!」クトゥルフは可愛らしい声を作って言った。
「ふざけるのも大概にしろ!!!」
……
【システムメッセージ: 生存 06:47】
影鬼はほとんどの体力を使い果たし、全身には、まるで花籠のように色とりどりの花が挿されていた。
クトゥルフはさっと手を伸ばし、影鬼の耳元に最後の赤い花を挿した。
「残念だよ。君は失敗した……」クトゥルフは苦笑し、ゆっくりと武器を大剣に持ち替えた。
会場の観客たちは影鬼に声援を送ることもなく、ただ冷ややかに見つめていた――やはり、彼らが原住民に情けをかけることはないのだろう……。
「俺は……負けない……」影鬼は弱々しく反撃した。
クトゥルフはその短剣を難なく弾き飛ばすと、左手を影鬼の肩にそっと置いた。それだけで、影鬼はたちまち膝をついた。
クトゥルフはゆっくりと大剣を振り上げた……。影鬼は最後までクトゥルフの仮面の奥にある目を、まっすぐ見据えていた。
「……」
影鬼の不屈の意志に気づいたクトゥルフは、突然動きを止め、大剣を下ろした。
そしてその場にしゃがみ込み、影鬼の顔をじっくりと眺めた。
「君は……とてもいい魂を持っている……」
クトゥルフが右手で邪悪な笑みを浮かべた仮面を引き上げると、その下からもう一枚の悲しげな仮面が現れた。ただし、その仮面は顔の上半分だけを覆っていた。
「君にふさわしい敬意を払おう……」
クトゥルフがそう告げたとき、影鬼は初めてその口を目にした。口内には、サメの歯よりも鋭い牙がびっしりと並んでいた。
クトゥルフが噛みつくと……影鬼の顔の半分が消えた。
クトゥルフは影鬼を押し倒し、四肢をへし折ると、生きたまま貪り食い、最後には跡形もなく腹へ収めた。
血まみれの顔に悲しげな仮面をつけたクトゥルフは、周囲の観客を見渡した。
食事を終えると、クトゥルフはうつむき、邪悪な笑みを浮かべた仮面を再び下ろした。そして魂まで入れ替わったかのように両腕を広げ、観客の歓声を浴びながら、ショーの幕を下ろした。
結局……クトゥルフが自ら獲物を見逃すことは、最後まで一度もなかった……
【エリア放送: 次の試合は――】
……
一時間前、闘技場の観客席――
「ルース様、こちらが専用席です」二人のドイツ人プレイヤーが大扉を開けると、ルースは透けた服をまとった二人の美少女を抱き寄せながら席についた。
「ルース様、お酒をどうぞ」淡い緑髪の少女が恭しく美酒を差し出した。
「ルース様、ブドウをどうぞ」青髪の少女は口移しで食べさせた。ルースはそのまま彼女の尻をつかみ、少女と熱い口づけを交わし始める。背後の護衛たちも、思わず横目で見ていた。
「ハハッ! もうすぐ試合が始まる。続きはあとだ!」ルースは二人の細い腰を抱きながら笑った。
「ルース様……撤軍したら、プラムスを私にくださるとおっしゃいましたよね……本当ですか?」緑髪の少女は艶めかしく尋ね、ルースの腹を指先でなぞった。
「それは君の働き次第だな……」ルースはいやらしく笑った。
「それから……銀龍の刻印の連中を皆殺しにしてほしいの」青髪の少女は顔を曇らせた。
「銀龍の刻印には、協力すれば見逃すと伝えてある。悪いが、その頼みは聞けない」ルースは困った顔で答えた。
「だったら、アンドリアを私に渡して!」青髪の少女は納得できずに言った。
「このルースは、君たちがきちんと俺に仕えてくれれば、装備も金も食料も全部与えると約束した。だが、復讐を手伝うとは約束していないぞ……」ルースは困り果てたように言った。
「待って、イミ! あの二人、アリアと美保じゃない?!」緑髪の少女が驚いて叫んだ。
「えっ?!」イミもぎょっとした。
二人は闘技場内のスクリーンを見上げ、そこに映る二人の姿に驚愕した。
「ルース! 私たちを騙したのね!」イミは激怒し、すぐさまルースを突き飛ばした。
周囲の護衛たちは即座に武器を抜き、二人を殺そうと身構えた。
「女の子を傷つけるな!」ルースは慌てて護衛たちを制止した。
「早く二人を助けて!!!」緑髪の少女が切羽詰まった声を上げた。
「話を聞いてくれ。あの二人は指定区域の外で活動していたところを捕まった。確かに規則を破ったんだ。俺にも手出しはできない」ルースは両手を上げて言った。
「何もできないはずがないでしょう? あなたはこのサーバーの管理者よ。もしかして……私が……」イミはルースの前でゆっくりと膝をついた。
「待て!」ルースは顔つきを引き締め、イミを立たせた。
「駄目なものは駄目だ。これは規則なんだ。そんなことで君につけ込むつもりはない。分かるな?」
「でも、あの二人が……私たちのギルドには、もうほとんど生き残りがいないの……プラムスをもらっても意味がない!」緑髪の少女は泣きながら訴えた。
「ルース……お願い、私たちを助けて」イミもルースの腕にすがりついて懇願した。
若く美しい二人の少女にすがりつかれ、ルースは困ったように笑い、とうとう折れた。
「はあ……君たちには本当に困らされるな。クトゥルフは……このサーバーの生ける伝説だ。奴は誰ともつるまず、何を考えているのかも分からない。だからこそ神秘性があり、求心力は……俺よりも強い! しかも、奴は自分の狩りを邪魔されるのが何より嫌いだ。下手をすれば、俺まで厄介事に巻き込まれる」ルースは不安そうに言った。
「二人が危ない!!!」本サーバーのパーティーが円形の部屋へ入り、そのうちの一人が鉄槍に貫かれて死ぬのを見て、二人の少女は悲鳴を上げた。
「最後まで生き残るかもしれないじゃないか? はあ……もし危なくなったら、そのときは俺が二人を転送してやる。クトゥルフにはまた目をつけられるだろうな。君たち、俺に優しくしてくれよ」ルースは困ったように言った。
イミは自らルースの胸へ飛び込み、その丸々とした頬に口づけした。
「ありがとう」
「……い、いや……どういたしまして」
あまりにも心のこもった口づけに、ルースは、イミが――自分に惚れたのだと勘違いしてしまった。
……
あまりに心のこもった口づけに、ルースはイミが本当に自分へ惚れたのだと勘違いしかけた。
やがて二人が毒水へ追い詰められると、ルースは管理画面に手を伸ばした。
二人の姿が消えた直後、スクリーンの中のクトゥルフがゆっくりと貴賓席を見上げた。邪悪な笑みを浮かべた仮面が、まっすぐルースを捉えていた。
ルースの笑みが凍りついた。
クトゥルフはルースを許すのでしょうか……




