374 獣の檻に閉じ込められた狩人
果たして、生きて脱出できる者はいるのか?
【翻訳:ドイツチーム、三名死亡。残り四名!】
先を行く四人が階段を上りきると長方形の空間へ出た。
正面に待ち受けていたのは、十六枚の扉が並ぶ煉瓦の壁だった。
扉は四段四列にで壁一面に均等に並び、壁には各段を行き来するための鉄製の梯子が掛けられていたが設置されている。
「扉が全部開いている……絶対に罠があるわ」冷静な女浪人は頭上を見上げ、驚きの声を漏らした。
その頃、狙撃手と男の人形はまだ階段で話していた。
「つまり、協力すれば全員で生きて脱出できるのか?!」狙撃手は希望を見いだしたように目を見開いた。
「これはあくまで俺の推測――」
男の人形の頭が突如として左右に割れた。巨大な大剣の刃が、彼の体を頭から真っ二つに斬り裂いたのだ。
「勘の鋭いガキは大嫌いなんだ……」
いつの間にか背後までついてきていたピエロが、半身を血に染めながら邪悪な笑みを浮かべた。
狙撃手は半秒ほど硬直し、すぐさま銃を構えた――
バキィッ!!
ピエロが大剣を横薙ぎに振り抜き、狙撃手を壁へ叩きつけた。胸を完全に押し潰されされた彼は、肉塊のように潰れたまま壁にめり込んだ。
【翻訳:土着チーム、三名死亡。残り四名!】
指示を出す者が、もういない。前方にいた仲間たちは驚愕し、一斉に振り返った。
ピエロは肩をすぼめ、可愛らしく手を振って別れを告げると、大げさに床を踏み鳴らしながら立ち去った。音の鳴るピエロ靴のキュッキュッという音も、まるで幽霊のように一瞬で消えた。
「くそが!!」近衛兵は大盾を掲げてピエロを追い、残る仲間たちもすぐ後に続いた。
だが、退路はすでに騎士像に塞がれ、ピエロの姿も跡形もなく消えていた。
彼らはすっかり怯えきり、ようやく言い争いをやめると、互いに背中を預けながら新たな部屋に向き直った。
...
【システムメッセージ:死亡ダンジョン終了まで 32:21】
三段目の右端の部屋が突然、赤い光に照らされた。しかし、四人は動こうとしなかった。
「早くボタンを押せよ! もう時間がないぞ」
ピエロはいつの間にか背後の騎士像の肩に座り、足をぶらつかせながら笑っていた。
四人は怒りを堪えるしかなかった。誰が好き好んで死にに行くというのか。
その時、背後から矢が一本飛んできた。女浪人が刀を振るい、真っ二つに斬り落とす。
【翻訳:観客の歓声を聞かせてやろう】
たちまち部屋が賑やかな歓声で満たされたが、パーティーにとってはこの上なく皮肉なものだった。
「気をつけろ! 骸骨の弓兵だ!」影鬼が慌てて叫んだ。
ヒュッ! さらに一本。
二体の骸骨弓兵が左右の壁に開いた四角い穴から姿を現し、パーティーへ次々と矢を放った。
「行って!」女浪人が援護するなか、影鬼は鉄梯子を駆け上がった。
影鬼は部屋へ飛び込むと、壁に赤く光るボタンがあるのを見つけ、覚悟を決めて押した。
すると左右の壁から十数体の骸骨が現れ、さらに激しい矢の雨をパーティーへ浴びせ始めた。
「何も止まってないじゃない!」女浪人と赤毛の女は、左右から飛んでくる矢を必死に弾いた、全身に何本もの矢を受けた。
その時、骸骨たちが突然消えた――
「分かった! まず地上へ戻れ!」地上にいた近衛兵が叫んだ。
今や三階と地上では、それぞれ一つの部屋が緑色に光っていた。
「お前がボタンを押した瞬間、地上に赤い部屋が現れた。俺がすぐに飛び込んで赤いボタンを押したら、二つの部屋が同時に緑へ変わったんだ。骸骨も消えた」近衛兵は息を切らしながら説明した。
「つまり、協力して赤く光った部屋の仕掛けを全部作動させるのね!」
彼らが頭上を見上げると、四階と二階に同時に赤い部屋が現れた。
「よし! 影鬼と赤毛の嬢ちゃんは上へ行って仕掛けを作動させろ。俺は地上に残って攻撃を引きつける!」近衛兵が提案した。
「死んでもそいつとは行動しない!」赤毛の女が拒絶した。
「ああ、もう面倒くさい! なら、お前は別の部屋を担当しろ!」近衛兵が苛立たしげに怒鳴った。
ひと騒ぎした末、ようやく全員がそれぞれの位置についた。
「四階、準備できた!」影鬼が叫んだ。
「二階も準備できた!」赤毛の女が叫ぶ。
「今だ!」近衛兵が大声を張り上げた。
二人が同時にボタンを押した瞬間、六十体近い骸骨弓兵が出現した。だが、二つの部屋は赤く光ったままだった。
「まだ終わってない! 三段目の右端と、二段目の左端が赤くなった!」
近衛兵は大盾を掲げ、矢の雨に耐えながら周囲を確認した。
仲間たちはその指示を聞くと、すぐさま指定された部屋へ駆け込み、仕掛けを作動させた。
最後の二つのボタンが押されると、四つの部屋が一斉に緑へ変わった。、骸骨弓兵たちも再び消えた。
回を重ねるごとに赤い部屋の数は増え、解除するまでにますます時間がかかるようになった。今や地面には雑草のように無数の矢が突き刺さり、足の踏み場すらほとんど残っていなかった。
近衛兵の全身には無数の矢が突き刺さっていた。女浪人は動きやすくなるよう、一本ずつ丁寧に抜いていった。
「急いでくれ……あと何回も持ちこたえられそうにない……」近衛兵が苦しげに呻いた。
...
十分後――すべての部屋がようやく緑色に変わり、右側の石壁が開いて通路が現れた。
影鬼と二人の女はすでに重傷を負っていた。互いの体から矢を抜き、傷を包帯で覆ってから梯子を伝って地上へ下りた。
「終わった! 早くここを……」
女浪人は傷口を押さえながら喜びの声を上げたが、突然足を止めた。
全身を血に染めたピエロが最後の緑色の部屋に立ち、二本の片手剣を手に、静かに三人を見つめていた。砕けた大盾が、近衛兵の傍らに転がっていた。足元に倒れている近衛兵はすでに反応がなく、ゆっくりと光の塵になって消えていく。
【翻訳:土着チーム、四名死亡。残り四名!】
...
強い光が目に突き刺さり、耳をつんざくような歓声が空まで轟いた。
三人が足を踏み入れたのは、楕円形の闘技場だった。周囲の観客席は満員だった。
飛び交う言葉も掛け声も、どれも聞き覚えのないものだった。本サーバーのプレイヤーたちは、自分たちが闘闘技場へ投げ込まれた獣そのものだった。彼らの命など、入場券一枚ほどの価値しかない。
【翻訳:ドイツチーム、四名死亡。残り三名!】
三人が小高い丘へ駆け上がると、ちょうどピエロが向こう側の入口から滑稽な足取りで走り込んでくるところだった。
ピエロは尻を突き出し、人差し指を唇に当てて、観客に静かにするよう促した。
「シーッ!!!」観客たちはすぐさま声を揃え、どっと笑った。
ピエロは満足そうに頷くと、ゲラゲラ笑う大槌を取り出し、入口の脇に身を潜めた。
「Blitzkrieg!(電撃戦)」
一人の翼騎兵がグリフォンに乗り、闘技場へ突入した。
その後ろから三次転職を終えた賢者が走り出す――その瞬間、ピエロが全力で大槌を振り抜いた。
ドゴォン!!!!
賢者は一撃で平たく潰され、即死した。
【翻訳:ドイツチーム、五名死亡。残り三名!】
ドイツチームには、まだ一人の司教が通路内に残っていた。ピエロは賢者の肉塊から大槌を引き抜くと、大笑いしながらクッションシューズをキュッキュッと鳴らし、司教を通路の奥へ追い返していった。
「Nein!!(嫌だ!!)」
翼騎兵は焦りのあまり涙を流し、通路へ戻ろうとしたが、すでに騎士像が両側の入口を塞いでいた。
通路の奥から、恐ろしい打撃音が響いてきた……。
【翻訳:ドイツチーム、六名死亡。残り一名!】
【翻訳:ここが最後の闘技場だ! クトゥルフは今回、まず強いドイツチームを始末し、土着チームを残した。どうやら最後を盛り上げるつもりらしい。今度はどんな新しい遊びを見せてくれるのだろうか?!】
実況が興奮した声を上げた。
「そうか……あいつはクトゥルフっていうのか……」本サーバーのプレイヤーたちは、歓声の主がこのピエロだと、ようやく確信した。
翼騎兵が丘へ駆け上がると、三人はすぐさま武器を抜いた。
「Nein! Nein! Nein! Hilfe!(嫌だ、嫌だ、嫌だ! 助けてくれ!)」翼騎兵は慌てて手を伸ばした。
三人はわけが分からず、ドイツ人プレイヤーがドイツ語でまくしたてるのを聞いていた。
「助けてくれ!」
翼騎兵は突然、英語に切り替えた。
「どうして俺たちがお前を助けるんだ?」影鬼が聞き返した。
「違う! 互いに助け合うんだ!」
ドイツ人プレイヤーは、なんと一時的な共闘を持ちかけてきた。
三人は半信半疑のまま、返事をしなかった。
その時、闘技場の四隅から紫色の水が溢れ出し、瞬く間に地面を覆った。水位は次第に上がり、小高い丘へ迫り始める。
「毒の池だ。俺たちが立てる場所はどんどん狭くなる」翼騎兵が言った。
赤毛の女が刀を振り抜いたが、グリフォンが翼を激しく羽ばたかせて防いだ。
「おい、早まるな!」影鬼が慌てて叫んだ。
「立てる場所はどんどん狭くなってるのよ! こいつは空へ逃げて、私たちが先に死ぬのを待てるじゃない!」
赤毛の女が二度続けて剣を突き出すと、三人はすぐさま翼騎兵を取り囲んで攻撃した。空へ逃げられれば、自分たちだけが毒水に呑まれる。その可能性に気づき、影鬼と女浪人も武器を構えた。
「待て! 今の俺はお前たちの――――」
ドゴンッ!
突如として現れたクトゥルフが、翼騎兵をグリフォンの背から地面へ引きずり落とし、その勢いのまま大槌を振り抜きグリフォンのくちばしを粉砕した。
グリフォンはたちまち気絶して紫色の水へ落ち、そのまま毒で死んだ。
「何をそんなにムキになってるんだよ……」
クトゥルフが大槌を担いで四人へ歩み寄ると、観客席からたちまち笑い声が上がった。
「どうしてゲームを楽しもうとしないんだ?」
クトゥルフは笑いながら、ゆっくりと丘の頂へ登ってきた。
「もう駄目だ……精いっぱい戦って、観客に気に入ってもらうぞ!」
翼騎兵は片手剣と小盾を取り出した。自分たち三人より強いはずの翼騎兵が、あれほど怯えている、ピエロのクトゥルフが彼より遥かに強いことは分かった。
「観客のみんなを笑顔にしようじゃないか……」
クトゥルフはそう言いながら、ゲラゲラ笑う大槌についた血を拭った。
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