373 クトゥルフのダンジョン
ドイツ軍に生け捕りにされた本サーバーのプレイヤーたちは、死亡ダンジョンの入口へと追い立てられた。果たして、その先では何が彼らを待ち受けているのか?
「もう戦闘状態に入っている。離脱できない……」
影鬼は自分のキャラクター情報を確認しながら言った。
転送門の低い唸りが、悪夢のように彼らの思考をかき乱していた。
「どうして捕まった?」狙撃手が尋ねた。
「指定された区域の外で狩りをしていたところを、生け捕りにされたの」赤毛の女が答えた。
「俺は銀龍の刻印のメンバーだ……」影鬼が重い口調で名乗った。
赤毛の女はすぐさま影鬼の胸ぐらを掴み、壁際へ投げ飛ばした。
「卑怯者!! アンドリアとかいう騎士王なんか、死んじまえ!!!」
「仲間同士で争っている場合じゃない! 戦闘状態に入った以上、ログアウトしても危険なんだぞ!」
狙撃手は慌てて二人の間に割って入った。
「銀龍の刻印がプラムスを見捨てたから、イミギルマスは……イミギルマスは……うっ……」
赤毛の女は突然、声を詰まらせた。
「俺たちだって、できる限りプレイヤーを受け入れた……。だが、時間が足りなかったんだ……」影鬼は沈んだ声で言った。
「銀龍の刻印の幹部は、電波舎の幹部全員をフレンドリストから削除した。おかげで、私たちは銀龍の刻印がどこにいるのかさえ分からなかった……。それを裏切りと言わずに何と言うの?」
女浪人も赤毛の女を押さえていたが、銀龍の刻印を憎む気持ちは同じだった。
「電波舎だけじゃない……。俺たちは自分のフレンドまで全員削除したんだ。避難所にいる者たちを守るためにな!」影鬼が憤然と言い返した。
「あの時、電波舎の仲間が百人近くフィールドにいたのに……私たちは……」
女浪人は嗚咽を漏らし、それ以上話せなくなった。
「止めなくていいのか?」近衛兵が狙撃手に尋ねた。
「今のうちに言いたいことを言わせたほうが、ダンジョンに入ってから揉めるよりはいいだろう?」狙撃手は眉をひそめた。
「お前たちは何か言いたいことはないのか?」
近衛兵は隅にぼんやりと座っている、残りの七人に尋ねた。
「もういい……。あいつらはとっくにログアウトしている。今はただの人形だ」狙撃手は首を横に振った。
「ほら、もうその辺にしておけ」
近衛兵が割って入り、影鬼を引き離した。
「さっき、近くに大勢のドイツ人プレイヤーが集まっているのを見た。何が起きているのか、誰か知らない?」
落ち着きを取り戻した女浪人が尋ねた。
「時間割みたいなものを見た……」影鬼が答えた。
「笑顔のピエロが、ゲラゲラ笑う顔のついた大槌を持っているポスターが、大聖堂の側面に掲げられていたぞ」近衛兵が言った。
「ポスター……時間割……観衆……。まるで球技の試合じゃないか?」
狙撃手は断片的な情報を繋ぎ合わせた。
「球技の試合?」一同は眉をひそめた。
「いや、球技の試合なら死者は出ないはずだ。おそらく、闘技場のような催しなんだろう……」狙撃手は険しい顔で言った。
「闘技場……。それじゃ、私たちは家畜扱いじゃない……」女浪人は歯を食いしばった。
「罠だとしても、ここに残れば確実に殺される。だったら、パーティーを組んで入るしかない」
狙撃手は重い口調で告げた。
【システムメッセージ: 近衛兵XX パーティーに参加】
【システムメッセージ: シャドウ・レイスXX パーティーに参加】
【システムメッセージ: 浪人女XX パーティーに参加】
近衛兵、影鬼、女浪人は同意して頷いたが、赤毛の女だけは反応を示さなかった。
「俺はごく普通の小さなギルドのギルマスだ。大手ギルド同士の因縁に口を挟む資格はない。だが、俺は生き延びなければならない。今もフィールドで俺を待っている仲間がいるんだ。お前が今日まで残っているのにも、きっと理由があるんだろう。でなければ、とっくに諦めていたはずだ。今は耐えろ。復讐を果たすまでは、何としても生き延びるんだ」狙撃手は眉をひそめながら言った。
「入りましょう……イミが私たちのために払った犠牲を思い出して……」女浪人に説得され、赤毛の女はようやく不承不承ながら頷いた。
【システムメッセージ: 赤毛の女XX パーティーに参加】
こうして、彼らはようやく即席のパーティーを組んだ。
「俺たちはダンジョンに入る。一緒に行こう」近衛兵はログアウトしたプレイヤーの人形たちに声をかけた。
「いいよ!」少女の人形は緊張感などまるでなく、あっさりと応じた。
「どっちでもいいけど……」少年の人形も立ち上がった。
残る三人は返事をしなかった。
「ここに残れば虐殺されて、訳も分からないまま死ぬことになるぞ」狙撃手が付け加えた。
すると、さらに一人の人形がパーティーに加わった。
本サーバーの七人パーティーは黙ったまま転送門をくぐり、未知の世界へ足を踏み入れた。
【お待ちください───────────────────】
...
画面がまだ読み込まれていないうちから、気温が急激に下がり、冷たい風がヒュウヒュウと吹き荒れるのを感じた。
「クトゥルフ! クトゥルフ! クトゥルフ!」
勇壮な歓声が次々と湧き起こり、何者かの名を連呼していた。
【システムメッセージ:死亡ダンジョン終了まで 44:59】
「これは……?!」影鬼は驚愕した。
「闘技場よりも危険そうだな……」狙撃手が険しい顔で言った。
彼らが降り立ったのは狭い足場だった。正面の階段を下りた先には複雑な迷宮が広がり、狭い通路の脇には底知れぬ深淵が口を開けている。落ちれば、確実に全身が砕け散るだろう。
「見て!」女浪人が向こう側の同じ高さにある足場を指差した。そこではドイツ人プレイヤーの七人パーティーがすでに武器を抜き、慎重に迷宮へ足を踏み入れていた。
「遅れるな!」近衛兵が真っ先に階段を駆け下りた。
本サーバーのパーティーは迷宮の入口に置かれていた松明を手に取り、暗闇に包まれた迷宮の奥へと進んだ。
「迷宮の中でドイツ人プレイヤーとPVPするんだろ?!」影鬼はたちまち自信をみなぎらせた。
「人数が同じくらいなら、私たちだって負けない!」女浪人も力強く同意した。
「いや……おそらく、迷宮の中にはもっと多くの危険が潜んでいる……」狙撃手は経験に裏打ちされた口調で言った。迷宮の入口の両脇にはもともと騎士の像が並んでいたが、右側からすでに二体の像が消えていることに気づいていたのだ……。
...
地面からかすかな震動が伝わり、鎧の隙間同士が擦れ合う音が響く。本サーバーのパーティーは一歩ずつ慎重に地下迷宮の奥へ進んでいった。
影鬼が小石を一つ、通路脇の暗闇へ投げ込むと、小石はたちまち闇の中へ消えた。一分経っても、底に落ちた音は聞こえない。
「落ちたら……ダンジョンの外へ転送されるのか?」影鬼は不安げに言った。両腕を広げて体のバランスを取りながら、苔に覆われた階段をゆっくりと下りていく。
「落ちれば即死だろう。誰か護心石を持っていないか? 先頭を歩いてくれないか?」狙撃手も武器をしまい、目の前の道に意識を集中させた。
ゴゴゴ……再び、かすかな震動が伝わってきた。
「私、私!」女の人形が楽しげに前方へ駆け出した。周囲をまるで警戒していない。
「あの子、馬鹿なの? こんなに個性の強い人形、今まで見たことがないわ」冷静な女浪人が苦笑した。
「お嬢さん……この先は危険だ。俺の後ろに隠れていろ……」近衛兵は腕を横に伸ばして女の人形を制し、そのままパーティーの先頭に立って道を切り開いた。
「格好つけるなよ。あいつはただの人形だ」狙撃手は首を横に振った。
「それでも女の子だろ」近衛兵は眉をひそめた。
通路の突き当たりを左へ曲がると、再び下へ続く階段が現れた。
「わっ! この煉瓦につまずくところだったよ」女の人形が大げさに声を上げた。
「もう少し静かに動け!」影鬼はすぐに女の人形を支え、そのまま先へ進んだ。
「ドイツ人たちが私たちを見ているんでしょう?」赤毛の女は、まるで何千もの目に見張られているかのように、真っ黒な天井を見つめた。
「銀龍の刻印のプラムス闘技場と同じだ。戦場の霧を発動すれば、こんな演出は簡単にできる」影鬼が言った。
隠されていたスピーカーから突然声が流れ、影鬼は驚いて危うく暗い裂け目へ落ちかけた。
【翻訳:くそっ、クトゥルフの罠は失敗だ! 頑張れよ、よそ者ども!】
「何の罠だ?!」近衛兵はすぐに足を止め、周囲の壁を調べた。
「さっきの床の煉瓦に、クロスボウの印があったよ!」女の人形が笑顔で言った。
一同の顔が引きつった。自分たちがつい先ほど、死神とすれ違っていたことに気づいたのだ。
ゴゴゴ……。
地下迷宮に再びドイツ語の放送が響いた。
【翻訳:ドイツチーム、二名死亡。残り五名!】
パーティーの緊張はさらに高まり、極めて遅い足取りで進んでいった。
その時、背後から鎧がガチャガチャと鳴る音が迫ってきた。先ほどの甲冑騎士像が動き出し、足並みを揃えて階段を下りてきたのだ。
「急げ!」狙撃手に急かされ、一行は罠に構う余裕もなく走り出し、円形の足場へ駆け込んだ。
甲冑騎士像は円形の足場の外でぴたりと止まった。まるで迷宮内のプレイヤーたちを先へ追い立てているかのようだった。
部屋の天井からは十本の鎖が垂れ下がっていた。彼らが立つ円形の床には無数の水溜まりがあり、中央には排水口が一つ開いている。
「出口は向かい側だ……だが、遠すぎないか……」狙撃手は円形の床と出口との間に大きな空間が口を開けており、飛び越えられないことに気づいた。
突然、出口のほうから、ピエロ靴が床を踏むようなキュッキュッという音が聞こえてきた……。
色とりどりの衣装をまとった大柄なピエロが出口に立ち、遠くからパーティーと向かい合った。
口角が目尻の下まで吊り上がった、邪悪な笑みの仮面を被っており、その大げさな表情は見る者をぞっとさせた。
「皆さん、こんにちは! 土着の友人たちよ。私のダンジョンへようこそ!」
ピエロは宮廷貴族のように指先をしならせて胸元に添え、腰を深く折って一礼すると、英語で挨拶した。
「おい……俺、英語は分からないぞ」近衛兵は緊張しながら盾を構えた。
「挨拶しただけだ。返事をする必要はない……」狙撃手は密かにライフルへ弾を装填しながら言った。
「ハロー!!」少女の人形が大きく手を振り、楽しそうに笑った。
「ありがとう! そちらのお嬢さんの炎のように情熱的な笑顔は、冬の日差しのごとく、私の心に積もった冷たい雪を溶かしてくれました。お礼に、皆さんへヒントを差し上げましょう!
ジグソウ……では、さようなら!」
ピエロは再び一礼すると、階段を上って立ち去った。
「待て! 何が殺人鬼なんだ?!」狙撃手が叫んだ。
「この鎖と関係があるのかしら?」女浪人は鎖に触れたものの、引く勇気はなかった。
「これのこと?」女の人形が片手で鎖を一気に引き下ろした!
「おい! やめ――」
ガガガガッ!
十本の鉄槍が背後から突き出した!
女浪人は間一髪で上体を後ろへ反らし、槍の穂先は眼窩の寸前で止まった。
「誰か救急キットを持っていないか?!」近衛兵が叫んだ。
少女の人形ともう一人の少年の人形は、どちらも布装備の後衛職だった。二人は避けきれず、鉄槍に胸を貫かれ、まるで生贄のように宙へ掲げられた。
「待ってろ! 今、槍から抜いてやる!!!」近衛兵は少女の人形の体を抱え、力を込めようとしたが、狙撃手に止められた。
「待て。唯一の聖職者はもう……」狙撃手が眉をひそめた。
鉄槍は男の人形の尻から突き刺さり、首を貫いていた。
血が巨大な鉄槍を伝って床の水溜まりへ流れ落ち、中央の穴へと導かれていく。
【翻訳:土着チーム、一名死亡。残り七名!】
【翻訳:ハハッ! あとは火さえあれば丸焼きにできるな!】
ドイツ語の実況が彼らを嘲笑した。
少女の人形の顔は紙のように青ざめ、弱々しく手を伸ばして近衛兵に助けを求めた。口からは大量の血が溢れ出している。
間もなく、彼女は力尽きた腕を下ろし、鉄槍に貫かれたまま失血死すると、光の塵となって消えた。
【翻訳:土着チーム、二名死亡。残り六名!】
「くそっ……」近衛兵は悔しげに歯を食いしばった。
「自業自得よ。放っておけばいいわ」赤毛の女が冷たく言った。
「おい、もう我慢の限界だ! 一日中、縁起でもないことばかり言うのはやめろ! これでどうやって協力しろっていうんだ?!」近衛兵が憤然と言い返した。
「喧嘩はやめろ! 奴らに見られているんだぞ!」狙撃手は二人を押しやり、円盤状の部屋から離れさせた。
やがて床を流れる血が必要な量に達すると、石煉瓦の道が浮かび上がり、出口と彼らのいる円盤を繋いだ。
一行は階段を上りながらも言い争いを続けていた。狙撃手は首を横に振ってため息をつき、しばらく距離を置こうと後方へ下がった。
「さっき、あいつは殺人鬼と言っていた……」今まで一言も話さなかった、低い声の男の人形が自ら口を開いた。
「何か特別な意味があるのか?」狙撃手が眉をひそめた。
二人は最後尾で階段を上っていた――すぐ脇の暗がりに浮かぶ邪悪な笑みにも気づかずに。
「二十一世紀のホラー映画に登場する殺人鬼のことだ。ある者たちが、死の罠をいくつも仕掛けられた屋敷から脱出し、その過程で自らの罪を償っていく物語だった」男の人形は考え込みながら言った。
狙撃手はすぐさま、先ほどの部屋を思い浮かべた。
「教えてくれ……お前の推測を」
…




