371 愚忠
Kanatheonの面々が地下洞窟で息を潜めている頃、銀龍の刻印はどうしているのでしょうか?
大きな鉄檻の錆びた扉が開かれた。
「起きろ」ドイツ人プレイヤーが、床に倒れている三人に柄杓一杯の氷水を浴びせた。
三人は髪も髭も伸び放題で、街をさまよう物乞いのようにぼろぼろの服をまとっていた。
「まだ痛むか?」一人のドイツ軍将校が檻へ入り、三人の後頭部を指さして尋ねた。
三人の記憶は、数時間前、洞窟を守っていたところで途切れていた……
あの洞窟には、大勢のプレイヤーと莫大な財宝が隠されていた。。中には大勢のプレイヤーと莫大な財宝が隠されていた。そこへ突然、数百人のドイツ軍が現れたのだ。次に目を覚ましたときには、両手を枷で繋がれ、監獄に放り込まれていた。
「ずいぶん口が堅い。敬意を表するよ」将校は微笑んだ。
三人はすぐに周囲を見回した。十数人は収容できる大きな鉄檻には、すでに自分たち三人しか残っていなかった。
「お前たちのギルドに三つの隠れ家があることは分かっている。残る二つの座標が欲しい。最初に口を開いた者だけは生かしてやる」将校が告げた。
三人が黙り込んだままでいると、将校は首を振ってため息をついた。
「昔、誰かから聞いたことがある……口の堅い者を吐かせたければ、こちらはそれ以上に手強くなければならない、と」
獄卒が拷問具を並べた台を運び込んだ。指を挟む器具や歯を抜く器具、眼球を抉る錐などが所狭しと置かれ、そのすべてに血の跡がこびりついていた。
ドイツ人プレイヤーが拷問具を打ち鳴らすカン、カンという音を聞いただけで、三人は肝を潰した。意志はすでに限界まで追い詰められていた。
「お前が銀龍の刻印の指揮官、シモン……だな? こっちへ来い」ドイツ軍将校は人差し指で手招きし、命令した。
シモンは将校の前に立ち、黙ってうなずいた。
そう、奴らはすでに銀龍の刻印の最初の拠点を突き止め、壊滅させていた。
「口を開くか、それとも二度と口を利けない体になりたいか?」将校は冷酷に尋ねた。
シモンが黙り続けると、将校は部下に命じ、枷をはめたままの両手を石板の上へ置かせた。ハンドルが回され、上部の鉄板がゆっくりと押し下げられていく、ゆっくりと押し下げられていく……。
「ぐあああああああっ!!!!!!!」
爪が砕け、その破片が肉へ食い込んだ。シモンは激痛で気を失いかけた。
「銀龍の刻印が持つ、残り二つのギルド宝物庫の座標を言え」将校が迫った。
「悪いなぁ。パンでもくわえながら喋ってるような、お前の言葉はさっぱり分からねえよ……」シモンは凶悪な笑みを浮かべて答えた。
ポイントアイテムはシモンの皮肉までうまく訳せず、将校は意味が分からず困惑していた。
「よし、もう一人を連れてこい」将校は再び指を曲げ、部下にもう一人を自分の前まで引きずってこさせた。
「お前は素直に話せるいい子か?」将校は影鬼の頬を軽く叩いて尋ねた。
「I go to school by bus……ハハハハハ!」影鬼は声高らかに言い放った。
シモンも一緒になって狂ったように笑い出す。将校は飛び膝蹴りを叩き込み、影鬼の前歯をへし折った。ほかの衛兵たちも二人を散々に殴りつけた。後ろにいた司教は恐怖のあまり、魂が抜けたように立ち尽くしていた。
「これ以上、俺にやらせるな。お前を殺しても、俺には何の得もない」将校は眉をひそめ、影鬼の喉元へ剣先を突きつけた。
「待ってくれ!」司教が悲鳴を上げた。
「ずっと待っていたよ……」将校は剣先を止め、期待に満ちた目を向けた。
「こいつに何も教えるなああっ!」シモンが怒鳴った。
「どうせ遅かれ早かれ、ほかの場所も見つけ出される! だったら、奴らと取引したほうがいいだろ!」司教は焦って訴えた。
「座標を言え!」将校が大声で脅しつけた。
「俺たちを殺さないと約束してくれるか?」司教が条件を持ち出した。
「お前たちに聞いているのは、俺の時間を節約するためにすぎない。自分が対等に取引できる立場だとでも思っているのか?」将校は冷然と言い放った。
「い……いえ……」司教は震えながら答えた。
「だが、面白い提案だ。ルスと話し合ってみよう」将校は笑みを浮かべ、衛兵とともにその場を離れると、声を潜めて命じた。
「盗聴用アイテムを残して、姿を隠せ。会話だけ拾え」
……
「お前、正気か!?」シモンが即座に怒鳴りつけた。
「アンドリアの隠れ家だって、遅かれ早かれ見つかる! だったら少しは頭を使ってドイツ人プレイヤーに協力したほうがいい! うまくいけば今を生き延びて、いつか再起できるかもしれないだろ!」司教は必死に反論した。
「奴らが約束を守ると、どうして分かる!?」シモンは死んでも屈するつもりなどなかった。
「従わなければ、ドイツ人プレイヤーは俺たちを殺す。そして俺たちの所持品から……地図を手に入れる……」司教が声を潜めて告げた。
それを聞いたシモンは激怒し、司教の胸ぐらをつかむと、声を押し殺して問い詰めた。
「全員に地図を暗記させてから、消去しろと言ったはずだ。なぜ地図を持ったままなんだ?」
「まさか……捕まるなんて思わなかったんだよ!」司教は心外そうに訴えた。
「早く消せ! 今すぐだ!」シモンが命じた。
「両手を拘束されてるんだぞ! できるなら、とっくにログアウトしてる!」司教は焦って言い返した。
「シモン……もう妥協したほうがいいんじゃないか……」影鬼も態度を軟化させ、降伏するよう勧めた。
「それでも、お前たちは本気でアンドリアの隠れ家を吐くつもりなのか?」シモンは落胆して尋ねた。
影鬼は青ざめた顔で視線を落とし、やがて小さく首を横に振った。だが、司教だけは暗い表情のまま答えた。
「これが一番合理的な判断だ……心配するな。アンドリアも分かってくれる」
「分かった……」シモンは司教のそばへ歩み寄ると、自分の左右の手枷をつなぐ鎖をゆっくりと握り締めた……
それを同意と受け取った司教は、安堵したように続けた。
「これはギルドのためなんだ。俺たちは――ぐっ!!!」
……
三十分後――
「何か聞こえたか?」戻ってきた将校が尋ねた。
「言い争う声が聞こえました。そのあとは静かになりました」衛兵が答えた。
「朗報だ、我が友よ。ルスが条件を受け入れ――」将校は笑顔で扉を開けたが、鉄檻の中にはシモンと影鬼しか残っていなかった。
そして……シモンの手枷を繋ぐ鉄鎖は、血に染まっていた。
「本当に忠義に厚い男だ……仕方ない。シモンを連れていけ」将校は眉をひそめて命じた。
シモンは、かつて銀龍の刻印が使用していたギルドホールへ連行された。しかし今や、そこには第四帝国の双頭の鷲を描いた旗が掲げられていた。
「ルス総統、こいつは降伏に同意した者を殺しました」将校は敬礼して報告した。
「私の情報源を殺したのか……」ルスがゆっくりと立ち上がり、地鳴りのような低い声を響かせた。
シモンは、これほど醜いプレイヤーを見たことがなかった。
「実に勇敢で決断力がある。気に入ったぞ」ルスは突然、笑みを浮かべた。
「ドイツ語で礼でも言ってほしいのか?」シモンは囚われの身となっても、敵にまったく気圧されていなかった。
衛兵たちはシモンの挑発に反応せず、ルスも笑って受け流した。
「ギルドの秘密を守るために仲間を殺し、敵の首領を前にしても一歩も引かない……お前ほど信用できる男が、この世にほかにいるだろうか? ハハハハハ!」ルスは大笑いし、城主の椅子にどっかりと腰を下ろした。
二人の衛兵が左右からシモンを押さえつけ、ルスの長机の前に座らせた。
マホガニー製の大きな執務机は新品同然だった。ドイツ人プレイヤーたちは塵一つ残さず磨き上げ、天板にはワックスまでかけていた。
シモンが二本の指で机を軽く撫でると、そこに刻まれた思い出が次々と脳裏に蘇った。
アンドリアがプラムス攻略後に行った演説、最初の城戦で奇襲を受けながら必死に城を守ったノックスの姿、グリフォンに乗ったアンドリアが窓を突き破って飛び込んできた瞬間――数々の記憶が走馬灯のように脳裏をよぎった。
だが今、城主の席に座っているのは騎士王アンドリアではなく、外国人の太った下品な男だった。
「そんな目で見るな。お前たちのギルドの椅子が小さすぎるんだ」ルスは、かつてアンドリアのものだった椅子に、その巨体を懸命に押し込んでいた。
シモンはルスを冷たく睨みつけ、まだ死ぬわけにはいかないと自分に言い聞かせた。せめて――司教が消滅した際に拾い、血まみれの指の間へ隠した地図だけは、焼き捨てなければならない。
「ここが恋しいか?」不意にルスに尋ねられ、シモンは我に返った。
心の内を敵に見透かされぬよう、シモンは答えなかった。
ルスは微笑むと、机の下から黄色と赤の薬瓶を一本ずつ取り出した。
「これが何か分かるか?」ルスは薬瓶を大切そうに手に取り、蝋燭の明かりにかざして眺めた。
シモンは首を横に振った。
「赤は毒薬。黄色は自白剤だ」ルスは笑って言った。
ゲームの中とはいえ、本当に毒薬を選べますか……?




