366 愚か者
暗黒時代にも……あえて危険を冒し、善意を貫く愚か者はいる……
真昼――寧々はたった一人でハゲグ山脈を越え、森を抜けると、教皇都市の廃墟へ密かに戻ってきた。
教皇都市はほぼ完全に破壊されていたが、ドイツ軍は特別な目的に使うため、領主の塔だけをわずかに修復していた。あの夜の凄惨な戦いで流れた血は今も地面にこびりつき、かつて神聖だった大通りは、呪われた緋色に染まっている。ここで一体どれほどのプレイヤーが処刑されたのか、寧々は想像するのも怖かった。
涼しい風が廃墟を吹き抜けると、恨みのこもった泣き声まで聞こえてくるようだった。
それでも寧々は歯を食いしばり、街外れの草むらに身を伏せて進んだ。
そのとき、二人のドイツ兵が大通りを巡回してきた。二人は楽しそうに話し込んでおり、道端に潜む寧々には気づいていない。しかし、何より恐ろしいのは、二人が連れている屍犬だった。
寧々は全身を震わせた。それでも九十を超える命を背負っている以上、勇気を出して進まなければならない。
四つん這いになって柑々の花園へ入り、ドイツ兵の気配を少しでも感じるたび、すぐに動きを止めた。
屍犬の嗅覚は非常に鋭い。そのため寧々は、花摘み猿の脇の下に生えた臭い毛を服の中に詰め込み、自分の匂いを覆い隠していた。同時に、その悪臭を嫌う屍犬が近寄らないようにしている。
「くそ……。森が伐採されて、花摘み猿もほとんどいなくなった……。これからどうやって忍び込むか、考えないと……」
ドイツ軍の巡回隊が立ち去るのを待ち、寧々は再び先へ進んだ。
花の香りが次第に濃くなり、ついに最初の仲間と再会した。
「にゃあ……」一匹の小さな黒猫が深い草むらから飛び出し、すぐに寧々の頬へ顔をこすりつけてきた。
そう――寧々が命懸けで教皇都市へ戻ってきた理由は、ただ猫たちに餌をやるためだった。
「会いたかったよ!」寧々がすぐに黒猫を撫でると、猫はおとなしく仰向けになり、腹を見せて甘えてきた。
教皇都市が陥落して以来、寧々は飼っていた九十匹以上の猫たちが餓死してしまわないか、毎日心配していた。松美から百賢の旅が撤退したと聞いてからは、三日に一度、教皇都市へ忍び込んで餌をやっている。
寧々がリュックを開け、茹でた魚の身を地面に投げると、匂いを嗅ぎつけた猫たちが四方八方から押し寄せ、魚を分け合うように食べ始めた。
「たくさん食べてね……」
夢中で餌を食べる猫たちを見つめながら、寧々はぺこぺこの腹を押さえ、苦笑した。ゲームの中ではすでに二日間何も食べておらず、道すがら採った花の蜜だけで空腹をしのいでいた。
本サーバーのプレイヤーたちは地下へ隠れることを余儀なくされ、地上で畑を耕せなくなったため、安定した食料源を失っていた。それでも活力度のため、毎日危険を冒して地上へ狩りに出なければならない。
しかし、出かけたまま二度と戻らないプレイヤーも多かった……。
猫たちは突然一斉に振り返り、別の方向へ走り出した。
「どこへ行くの?」寧々はがっかりした声を上げた。
ゆっくり這ってあとを追うと、突然、濃厚な脂の香りが鼻を突いた。
匂いのするほうへ這っていった寧々は、何羽もの七面鳥の丸焼きが花畑に置かれているのを目にした。
「えっ……七面鳥の丸焼き……?」
猫たちが夢中で肉にかぶりつく中、寧々の腹もぐうううっ、と雷のような音を立てた。
「少しだけなら……」
食欲がとうとうプライドに勝ち、寧々は猫たちの間へ割って入り、子猫たちと肉を奪い合った。
久しぶりに味わう肉の旨みがたちまち体中へ染み渡り、温かい脂が胃へと滑り落ちていく。
七面鳥の肉を一口食べただけで、何百輪分もの花の蜜より腹が満たされた。飢えきっていた寧々は、爪の隙間についた脂まできれいに舐め取った。
そのとき、自分の背後に黒い影がそびえ立っていることに気づいた。
「まずっ――」
寧々は即座に召喚杖を抜いて反撃しようとしたが、ドイツ人プレイヤーに手首を踏みつけられ、地面へ押さえ込まれた。
ドイツ人プレイヤーは人差し指を立て、静かにするよう合図した。
寧々は必死に抵抗したが振りほどけず、声を上げることもできない。ただ憎々しげな目で睨み返した。
そのドイツ人プレイヤーは巻き毛で、肌は白く、彫りの深い顔立ちをしていた。何より目を引いたのは、穏やかな微笑みと、どこか物憂げな瞳だった。その瞳の奥には、数え切れないほどの物語が隠されているように見える。
「英語は話せる?」ドイツ人プレイヤーが英語で優しく尋ねた。
寧々は眉をひそめながら頷いた。
「この魚は、君が持ってきたのか?」彼は寧々の魚の身をつまみ上げて尋ねた。
寧々が驚きながら頷くと、彼はすぐに微笑んだ。
「どうして自分で食べないんだ? 活力ももう底をつきそうなのに」
「それは猫ちゃんたちの餌だから……」寧々は唾を飲み込み、恐る恐る答えた。
「ここの猫は君が飼っているのか? 君は何者だ、城主なのか?」ドイツ人プレイヤーは驚いて尋ねた。
「城主の友達」
「えっ? 猫に餌をやるために、命懸けで戻ってきたのか!? 馬鹿だな。でも、勇気はある! はははっ!」
ドイツ人プレイヤーは大笑いし、そのまま花畑に腰を下ろした。
「何が目的なの?」寧々は敵と親しくなる気などなく、警戒しながら尋ねた。
「何だと思う?」ドイツ人プレイヤーは微笑んで聞き返した。
「私を……殺すつもり?」
「どうして俺が君を殺すんだ?」
「だって、私たちは敵でしょ?」寧々はわけが分からなくなってきた。
「そうなのか?」ドイツ人プレイヤーは首を傾げて微笑んだ。その笑顔は陽射しよりも温かかった。
寧々は胸を高鳴らせ、俯いたまま何も言わなかった。
「君の名前は?」端整な顔立ちのドイツ人プレイヤーが尋ねた。
「寧々」
「会えて嬉しいよ、寧々。猫娘さん」ドイツ人プレイヤーは笑った。
「あなたは?」寧々が頬を赤らめて尋ねると、ドイツ人プレイヤーの笑みが一瞬消えた。
「俺は……フール」フールは笑って答えた。
寧々は直感的に、それが本名ではないと悟った。だが、なぜそう思ったのかは分からない。
「これで俺たちは友達だよね?」フールはハンバーガーと牛乳を取り出し、笑顔で尋ねた。
食べ物を目にした寧々は、もう遠慮していられなかった。勢いよく食べながら頷いた。
フールはガツガツと食べる寧々を静かに見つめながら、子猫たちをじゃらしていた。
「寧々さんは一人なのか?」フールが突然尋ねた。
「も……もちろん!」
寧々はすぐに頷いた。死んでもKanatheonの隠れ場所を明かすつもりはなかった。
「本当に?」フールが眉をひそめると、寧々はもう一度大きく頷いた。
「これを持っていけ。少なくとも五日間は戻ってくるな。猫には俺が餌をやるから、心配しなくていい」
フールは大きなパンを三つ差し出した。
「えっ……どうして?」寧々は勇気を出して尋ねた。
「この街で祝典が開かれるんだ。千人を超えるドイツ人プレイヤーがやって来る。戻ってきたら必ず見つかって、色魔のルスが持っている檻に入れられるぞ」フールは真剣な表情で言った。
「どうしてあなたを信じなきゃいけないの?」寧々は眉をひそめて尋ねた。
「自分の直感を信じてみなよ。そろそろ行ったほうがいい。巡回隊もそろそろ来る」フールは穏やかに微笑み、寧々に告げた。
「どうして……私を助けてくれるの?」寧々は、この謎めいた美青年に興味を抱いた。
「うーん……猫が好きな奴は、みんないい人だろ? はははっ」フールには、寧々の質問が馬鹿馬鹿しく思えた。
「また会える?」寧々は思わず尋ねた。
「ちゃんと生き延びれば、もしかしたらな。まあ、誰にも分からないさ。じゃあな、寧々さん」
フールは笑顔で手を振ると、立ち上がって花畑をあとにした。
寧々は地面に座り込んだまま、ぼんやりと彼の背中を見送った。
「これが……ドイツの男の人?」
寧々は、すっかり攻略されていた。
猫好きに悪い人はいない――本当に、そうなのでしょうか?




