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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第四十章——城破り
361/450

360 嬉しい嘘

和也の仕掛けた紙切れの罠によって、一樹が自分にとって大切な存在だと知られてしまった加奈。仲間を守るため、彼女は一人で竜尾湾へ向かった。


「罠かもしれない……」

初めはそう疑ったが、よく考えてみれば、罠である可能性は高い。それでも、ここまで来た以上、引き返すつもりはなかった。そう判断した加奈は、ゆっくりと彼のもとへ歩いていった。


「結局……仲間を見捨てることはできなかったんだな」

和也はため息をついた。


「怖いの?」加奈は嘲るように笑った。


「加奈……第四帝国に加わる気はないか?」

和也が突然、真剣な顔で尋ねた。


「はあ? 頭がおかしくなったの? 私たちは別のサーバーのプレイヤーでしょ」

和也からそんなことを聞かれるとは夢にも思わず、加奈は耳を疑った。


「俺たちは戦いに来ただけだ。だが、このあと入ってくる統治部門の連中は違う。あいつらは、お前たちを同じプレイヤーとして扱わない。お前が追われる側ではなく、協力者として扱われるように俺が口を利いて……」


和也の表情が険しくなる。


「ふん! あんたたちは全員、私の敵よ。私のためを思っているような口を利かないで」


加奈は吐き捨てた。


「分かっていないんだ、加奈。管理チームの連中は、俺たちとは比べものにならない……。断言する。あいつらが来たら、お前たちはあのとき降伏しておけばよかったと、必ず後悔する」


和也は心から忠告したが、加奈はまるで聞く耳を持たなかった。


「わざわざ私をここへ呼び出したのは、そんな話をするため? せっかく手間をかけたのに残念だったわね! まだ負けてもいないのに、戦いもしないうちから降伏するほど臆病じゃない」


加奈は冷笑した。


「まだ分からないのか……。どうやら……一度、痛い目を見てもらうしかない」


和也は冷たく笑うと、突然、手の中に激しく渦巻く火球を生み出し、加奈へ投げつけた。


しかし、火球は加奈のすぐ脇をかすめ、その背後の闇へ飛び込んだ。


「ふふん……どうやら、命中精度も大したことは――」


加奈が嘲笑いかけたそのとき、背後から悲鳴が聞こえた。


「うわああああああああっ!」


近くに隠れていた一樹が全身を炎に包まれ、地面を転げ回っていた。


「一樹、どうしてここに?!」


加奈はすぐさま水魔法で火を消し、彼を抱き起こした。


「あいつの話なんか……聞くな……。俺はずっと、お前のそばにいるから……」


一樹は火傷を負った腕を押さえ、苦しそうに言った。


「何言ってるのよ……。私だって離れるつもりなんかないってば」


加奈は思わず頬を緩めた。胸の奥に、甘い喜びが広がっていく。


「ふふん、原霊。見逃してやったというのに、自分からのこのこやって来るとはな」


一樹の姿を見た和也は、嬉しそうに顔をほころばせた。


「この思い上がったクソ野郎。もう加奈につきまとうな!」


一樹は痛みに耐えながら、加奈をかばうように前へ出た。


和也はその一部始終を眺めながら、心の中で笑った。


「俺が妹と話しているだけだ。お前に何の関係がある?」


「か……関係あるに決まってる! 加奈は俺の……彼女だ!」


「はあ?」


「えっ……?」


和也と加奈は同時に目を見開いた。


「そ……そういうことだから」


一樹は慌てた様子で、加奈へ必死に目配せした。


加奈は一瞬で顔を真っ赤にし、うつむいたまま何も答えなかった。


妹が恥ずかしがる姿を見た和也は、突然、大声で笑い出した。


「は……はははは! これはさすがに予想していなかった! どう見ても嘘だ!だが気に入った! はははは!」


「いったい何がしたいのよ?!」


加奈は恥ずかしさをごまかすように怒鳴った。


「ははは……ああ……分かった。分かったよ……」


和也は必死に笑いを収めようとしたが、それでも肩の震えを止められず、そのまま続けた。


「そこまで城を守り抜くつもりなら、加奈……次に会うとき、俺たちは敵同士だ」


和也は淡々と言い残すと、ゆっくりとその場を離れ、闇夜の中へ消えていった。


加奈は闇に消えていく兄の背中を見送った。やがてその姿が完全に見えなくなると、気まずい沈黙が二人の間に落ちた。


「ねえ……ザコ……誰があんたの彼女よ?」加奈が突然尋ねた。


「ごめん! あのときは焦ってただけなんだ」一樹はすぐに両手を合わせて謝った。


「ふん!」加奈は顔を上げると、こぼれる笑みを抑えきれないまま、得意げに立ち去った。


...


ハゲグ――


「絶対に城壁の上で迎え撃つな。敵が攻めてきたら、迷わず城壁を明け渡せ。城内へ誘い込み、市街戦に持ち込むんだ! 銀龍の刻印から返事は?!」


ニフェトが焦った様子で問いかけた。


広間では報告が矢継ぎ早に飛び交い、全軍が戦闘準備に追われていた。


「『ドイツ軍は城内の者を皆殺しにしたあと撤退する』という情報をアンドリアに伝えてから、返事が途絶えています!」松美が答えた。


「アンドリアが援軍を出さないなら……ブチャは?!」ニフェトが尋ねた。


「黒い森の決戦以来、行方不明です! それに、加奈と一樹からも応答がありません。桐司はすぐに竜尾湾へ捜索に向かいます! 二人の小隊も待っています!」


古志は答えながら、ハゲグの地図の上で指を走らせ、大通りの防衛配置を決めていった。


「俺たちは……もう背水の陣で戦うしかない!」


ニフェトはハゲグを死守する決意を固めた。


...


ドイツ軍の双頭の鷲を掲げた大旗が、ハゲグ西側の正門前に広がる砂漠に、すでに打ち立てられていた。


「和也……どこへ行っていた?」


慌ただしく戻ってきた和也を見て、ビスマルクは眉をひそめた。


「散歩していただけです」和也は苦笑した。


「余計なことはしていないだろうな?」ビスマルクは目を細めて尋ねた。


「していません、総統」和也はきっぱりと答えた。


「敵と内通していたら……クトゥルフの地下牢に放り込んで、たっぷり苦しんでもらうからな」


パーカーは不機嫌そうに言いながら、和也に治療を施した。


「勘弁してくださいよ」


クトゥルフの地下牢を想像しただけで、和也は身震いしながら苦笑した。


「最終準備に入れ。まもなく攻城戦を開始する」


ビスマルクは四人の将軍と攻撃時刻を確認し合い、攻撃態勢を整え始めた。


「このギルドさえ倒せば、このサーバーに残るのは取るに足らない残党だけだ」


ビスマルクはハゲグの塔に翻るKanatheonの大旗を見つめ、笑った。

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