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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第四十章——城破り
360/450

359 紙切れ遊び

教皇都市とグズ城が陥落し、Kanatheonは次に狙われるのが自分たちだと悟った。ハゲグを守るために残された時間は、もうわずかしかない……

ハゲグ城、Kanatheonのギルドホール――


「ドイツ軍はすべての王都を制圧したあと撤退し、別の者にこのサーバーを管理させる……?」

古志は加奈から得た情報について考え込んだ。


「城を捨てて郊外に身を隠し、敵が撤退してから反撃するほうがよくない?」

松美は仕方なさそうに提案した。


「だが、ハゲグとヴィニフ宮殿は、私たちが苦労してここまで発展させたんだ。そんな簡単に明け渡せるか!」

ニフェトは悔しそうに言った。


「でも、このまま守り続けたら、ギルドメンバーが、一覧の一ページに収まるほどしか残らなくなるかもしれない……」

松美はつらそうに現実を口にした。


「みんな、論理の落とし穴にはまってる。和也の情報が本当か嘘か判断できない以上、何を話し合っても意味はない」

カミコのひと言で、皆の激論は終わった。


「加奈……あいつの話は信用できるのか?」

ニフェトが尋ねた。


「知るわけないでしょ?! 私があいつとそんなに親しいとでも思ってるの?!」

加奈は興奮して腕を振り回し、ちょうど入ってきたメイドにぶつけてしまった。


「ちっ、ほんとバカ! 前も見ずに歩いてるわけ?!」

加奈は理不尽に怒鳴りつけた。


そのメイドはぼんやりと頷き、大広間へ入っていった。


「戦えるメンバーはあと100人ほどしかいない。ヴィニフ宮殿とハゲグを同時に守るのは無理だ。どちらか一城に戦力を集中させれば、どうにか一戦交えることはできる」

古志は二つの城の地図をテーブルに広げ、ニフェトに選択を委ねた。


「エルフ女王・蕾とは……連絡がついたか?」

ニフェトは、パシュスがいい知らせを持ち帰ってくれていることを願った。


「まだ見つけられていません……」

パシュスは恥じ入るように答えた。


「真子は? あいつはいつもNPCとすぐ仲良くなるだろう。お前たち、リアルで電話して連絡を取れないのか?」

古志は焦って尋ねた。


「最近はずっと私たちを避けてるし、目つきまで暗くなって……」

松美は眉をひそめた。


「カミコ……何か意見はあるか……?」

ニフェトは二つの王都の地図を見つめ、決めかねていた。


「ハゲグを守るべき。教皇都市とグズはすでに陥落した。ドイツ軍に東のハゲグまで落とされたら、北のヴィニフ宮殿は孤立し、攻められなくても陥落する」

カミコは答えた。


「六口……お前なら、どう決断する……?」

ニフェトは思い悩み、無力感に呑み込まれていた。


...


数日後――


「あいつ、嘘をつくのかな……」

加奈は上の空で大通りをさまよっていた。


連合軍が黒い森から敗走して以来、本サーバーの空気は一変した。誰もが何不自由なく暮らせた繁栄の時代は、すでに過去のものとなっていた。


ドイツ軍に関する噂が飛び交っていた。ボスを操って戦わせられる、相手の皮を生きたまま剥ぐ――さらには、西城勇の敗北と降伏を伝えるビラが、号外のように配られ、城内は粛清前夜のような恐怖に包まれていた。


「加奈……友達なんて必要ないだろ……くくっ」

和也の蔑むような笑い声が脳裏にこだました。


「ふんっ!」

加奈は道端の小石を蹴り飛ばし、誤って小柄なNPCの村娘に当ててしまった。


「ごめん!」加奈は眉をひそめ、路地裏へ入っていった。


女村人は加奈を追いかけ、加奈の手に小さな紙切れを押し込むと、かすかに笑った。


『友達を助けてあげなよ――教皇の後頭部』


「教皇……ソフィア……まさか?!」


加奈が勢いよく顔を上げると、女村人はにやりと笑い、黒い煙の塊となって消えた。


「全員どきなさい!!」加奈は魔杖を引き抜き、怒鳴った。


「な、なな、何だ?!」大通りのプレイヤーたちは慌てて両脇へ避けた。


「くそっ! 逃げ足だけは速いわね!」


加奈は暴風のような勢いでハゲグの黒木の祭壇へ駆けつけた。そこでは、ソフィアが周囲に集まったプレイヤーたちに、一人ずつ祝福を授けていた。


「火球術!!」


加奈は何の説明もせず、いきなり火球を放った。


教皇都市を脱出して以来、ソフィアの感覚は研ぎ澄まされていた。すぐさま防御障壁を展開し、間一髪で火球を防ぐ。


「加奈?! 何してるの?!」


周囲のプレイヤーたちは怯えて後ずさりし、誰もソフィアに近づこうとしなくなった。


加奈はソフィアのそばまで走ると、その後頭部を探った。すると、そこから一枚の紙切れが見つかった。


「何なの、これ?!」ソフィアは驚愕した。


「ただの手品よ」


加奈は騒ぎになるのを避けるため、急いで紙切れを手のひらに握り込み、その場を立ち去った。


「今の反応……何かおかしい……」


コリンは目を細め、加奈の背中を見つめた。


加奈は近くの路地裏へ駆け込み、誰にも見られていないことを確かめてから、小さな紙切れを開いた。


『もし仕込んだのが毒針だったら――間抜けな守魂衛の首当て。』


「まずい、次はパシュスだ!」


...


バンッ! 加奈はギルドホールの扉を蹴り開けた。


ニフェト、カミコ、古志、桐司はまだ話し合いを続けていた。四人は一斉に肩を跳ねさせ、その場で固まった。


「パシュスはどこ?!」加奈は怒鳴った。


「砲台でリオと防衛策を話し合ってる……どうしたんだ?」ニフェトはすぐに答え、怯えながら聞き返した。


加奈は踵を返そうとしたが、ふと何かに気づき、ニフェトのもとへ歩み寄った。彼女を木のテーブルに押さえつけると、片手で背後から腹の前まで腰回りを探り、もう片方の手をスカートの中へ差し入れた。


「か、加奈?! 何してるのよ?」ニフェトは恥ずかしそうに声を上げながら、身をよじった。


加奈の指先がぴたりと止まり、ニフェトのベルトから一枚の紙切れを抜き取った。


「ただちにギルドホールのすべての扉と窓を封鎖しろ。侵入者は見つけ次第、殺せ」


カミコは即座に事態を察し、衛兵たちにすべての出入り口を固めるよう命じた。


「さっき、誰かがあんたに近づかなかった?!」加奈は焦って問い詰めた。


「え? さっき? だ、誰もいないけど……?」


ニフェトは服を直すのに気を取られ、よく考えずに答えた。


「さっき、メイドが誤ってお前の服にお茶をこぼした」カミコが指摘した。


「そういえば……それがどうしたの?」ニフェトはわけが分からない様子だった。


加奈は説明している暇もなく、深呼吸してから、ゆっくりと紙切れを開いた。


『最後は、君がいちばん大切にしている人にしようか? くくっ……』


ニフェトから見つかった紙切れには名前が書かれていなかった。だが、その瞬間、加奈の脳裏に一樹の姿が浮かんだ。


「ザコ……」


加奈がフレンドリストを開くと、一樹はハゲグの西門にいた。彼女はそのまま扉を飛び出し、困惑する仲間たちだけがホールに取り残された。


「カミコ、説明してくれ!」古志が問い詰めた。


「加奈の反応と、加奈と和也の特別な関係から考えると、おそらくドイツ側のスパイがニフェトへの接近に成功したことに気づいたんだろう」

カミコは眉をひそめて答えた。


「近づいてくる……私に?」ニフェトは紙切れを仕込まれていた腰元をさすり、怯えた表情を浮かべた。


...


ハゲグ西城壁――


「もう少し沼地を増やして、あいつらの移動速度を落とそう……」


一樹は城壁の外に広がる城壁外の平地を沼地へ変えていた。その姿は、草原にいる羊のようにひどく目立っていた。


火花が閃いた――


ドカン!!!


加奈は邪魔な物を一気に吹き飛ばし、野馬のような勢いで一樹のもとへ突進した。


「か……加奈?」一樹は目を見開いた。


「伏せろ、ザコ! ドイツ軍に狙われてるぞ!」


加奈は腕を一樹の首に回し、鮮やかなレスリングのタックルで地面に押し倒した。


だが、しばらく経っても……辺りには虫の声が聞こえるばかりで、敵襲の気配はなかった。


「怪我はない? 小さな針に刺されたりしてない?」加奈は手を伸ばし、一樹の体を探った。


「つかむなって! くすぐったい、ははっ!」一樹は笑いながら、加奈の手をつかんだ。


加奈は鼻をすすり、目に涙を浮かべて一樹を見つめた。


「私……和也があんたを殺すんじゃないかって……」


「どうして狙いが俺だと分かったんだ? ニフェトやアンドリア、ソフィアたちのほうが価値の高い標的だろ?!」


一樹は顔を引きつらせ、両脚を震わせた。


「あいつが、私の大切な――」


うっかり口を滑らせた加奈は、突然自分の口を平手で叩き、耳まで真っ赤になった。


「お前が大切にしてる……人? えっ!?」一樹は喜びに目を見開いた。


「大切な友達よ! ニフェト、ソフィア、パシュス……そうだ! パシュスも!」


加奈は今になってパシュスを忘れていたことに気づき、再び城内へ駆け戻った。


「大丈夫か……加奈……」


一樹は心配そうに、その背中を見つめた。


...


加奈は一目散に城内へ戻ると、大通りの脇に座り込んだ。息を整えて気持ちを落ち着かせ、考え始める。


「一樹を殺すつもりがないなら、どうしてこんな小細工を……?」


コツン……小さく丸められた紙が、加奈の後頭部に当たった。


加奈はすぐに振り返ったが、路地裏には誰もいなかった――すでに監視されている。


「和也のクソ野郎、私を弄んでるの?!」


加奈は激怒し、紙玉を拾って中を確認した。


『へえ、君の大切な人って、あの原霊の一樹だったんだ……』


加奈はその場で固まった。またしても和也の罠にはまり、自分の弱点をさらしてしまったことに気づく。すぐさま壁際に身を縮め、周囲にいる者すべてがドイツ人プレイヤーの変装ではないかと怯えた。


紙切れを裏返す。


『6時間後――サーバー時間の深夜3時に、竜尾湾へ来い。さもないと…… :)』

最後には、火で焼きつけられた笑顔のマークが残されていた。


「はぁ……」

誰かの命が懸かっているかもしれない以上、加奈には無視できなかった。


...


陥落したグズの城――


「和也……さっき、どこへ行っていた?」ビスマルクが尋ねた。


「ハゲグへ偵察に行っていただけだ」和也は微笑んで答えた。


「妹に会いに行ったんだろ?」クヴィロは片眼鏡にそっと手を添え、笑った。


「妹?」ビスマルクが聞き返した。


「ああ……」和也は憎々しげにクヴィロを睨みつけた。


「我が軍の作戦に支障をきたすつもりはないだろうな、和也?」


ビスマルクはゆっくりと和也を睨んだ。


「絶対にありません、ビスマルク総統」和也は真剣な表情で答えた。


「では、準備しろ。大賢の主力が来た……」ビスマルクは振り返り、転移門を見つめた。


転移門はゆっくりと輝き始め、黒い軍服に身を包んだ源魔師(ソース・メイジ)たちが、次々と本サーバーへ降り立った。彼らの眼差しは百賢の旅の者たちよりも老練で……さらに冷酷だった。


...


深夜、ハゲグ北城壁――


「加奈……まだ寝ていないのか?」パシュスは、城壁の上をこそこそと移動する加奈に気づき、声をかけた。


加奈はびくっと跳び上がり、すぐさまわざとらしく振る舞い始めた。


「はぁ……一樹が地形をめちゃくちゃにしたから、私が様子を見てあげてるのよ」加奈は大げさに首を振った。


「一樹なら……もう一時間もログアウトしてるぞ?」パシュスは眉をひそめた。


「ろ、ログアウトしてるから、私が手伝ってるんじゃない! 夜番ご苦労さま!」加奈はパシュスのそばへ歩み寄り、わざとらしく肩を叩いた。すると、案の定、首当ての隙間に小さな紙切れが挟まっていた。彼女はそれをこっそり抜き取った。


「本当に大丈夫か? 俺も一緒に城外へ行こう。今は城壁の外も危険だからな」パシュスは自ら付き添いを申し出た。


「だめ! あんたは夜番があるでしょ。何かあったら、すぐニフェトに報告するのよ! 私はもうすぐログアウトするから……じゃあね!」


加奈は城門の通行記録に残らないよう、そのまま城壁から飛び降りた。


「妙なやつだな……」パシュスは後頭部をかき、あくびをしながら立ち去った。


...


加奈は城壁の下に身を隠し、紙切れを開いた――


『もし彼女が飲んだものが毒薬だったら――ギルマス』


「やっぱりニフェトだ。和也はもう、私たちのギルドの構成まで把握してる」


加奈は紙切れを地面に捨て、一人で東にある竜尾湾へ向かった。


城壁の下に残された紙切れを、何者かが拾い上げた。


「加奈……」一樹は心配そうにつぶやいた。


...


ハゲグ城外の隠れ小屋――


「魂素……もうロシアサーバーには行けない。どうやって魂素を手に入れればいいんだ? あと少しなのに……」


リオは小屋の中で思い悩んでいたが、ふと、加奈がこっそり尾根を駆け上がり、海辺へ向かっていくのを目にした。


声を上げようとしたそのとき、今度は一樹が加奈のあとをついていくのが見えた。二人はこそこそと同じ方向へ消えていった。


「まさか、あの二人?! おお……加奈はもう16歳になったのか? 一樹、犯罪だけはやめろよ……」


リオはへへっと笑い、うっかりオイルランプを倒してしまった。小屋はたちまち燃え上がった。


「まずい!」


...


三十分ほど進み、加奈はようやく約束の海岸へたどり着いた。やはり和也は一人、浅瀬に立潮風に吹かれながら、微笑んでいた。


「加奈! また会ったな」


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