345 反攻のともしび
ドイツプレイヤーの目的は、城を奪うことではなかった。
森を焼き、食糧を断ち、この世界そのものを殺すことだった……
「準備はいいか?」プラムス城壁の上で、兵長がよく通る声で尋ねた。
牛車の上にいた者が手を上げて合図した。
「門を開けろ……」
兵長がうなずいて命じると、部下たちはゆっくりと城門を開いた。
城壁の松明の光が、無限の闇へ延びていく小道の前方をかろうじて照らしていた。
補給品を満載した三台の牛車がプラムスを離れ、漆黒の中にある前哨基地へ向かって進んでいった。
車隊のメンバーは黙り込み、それぞれ武器に手をかけて周囲を守っていた。
城壁の光が届く範囲を離れ、彼らは指先さえ見えない闇の中へ踏み込んだ。
脇に立つ大樹は眠れる巨人となり、車隊が去っていくのを見送っていた。
グズへ続く道は、もともと終わりのない祭りのように賑わっていた。深夜でもプレイヤーの往来は絶えず、松明は流星のように行き来していた。
だが今、この道は真っ暗だった。彼らは牛車の松明で両脇を照らすしかなく、まるで深海を進む潜水艦のように孤独だった。
涼しい風が草原を撫で、夜の中で長い草がざわざわと音を立て、守衛たちの感覚を研ぎ澄ませた。
「実際……食糧を運ぶ必要なんてあるのか……」一人の守衛が重苦しい空気に耐えきれず、自分から話題を振った。
「穀物も不作らしい。プレイヤーは自分で食べ物を集めて疲労度を回復しなければならない。腹を空かせたままじゃ武器も振れないだろ。どうやって戦うんだ?」後方の守衛が答えた。
「この食糧は前線の戦友に届けるものだ。アンドリア様が自ら選んだ物資で、士気を奮い立たせるための重要な補給品なんだぞ」年長のメンバーが言った。
「アンドリアは本当に悪くない。最初は気位の高い自信家だと思っていたけど、ギルドに入ってみたら、彼女は偉ぶったりしない。衝動的ではあるが、道理を尽くせば遠慮なく説得できる」あるメンバーが言った。
「Kanatheonに比べれば、俺たちはまだましだ。あそこのギルマスと副長はロシアサーバーで意見が食い違って、副長がギルドから追放されたらしいぞ」別のメンバーが口を挟んだ。
「まさか!」
「六口弥生のことか?!」
「適当な話を作るなよ!」他の者たちは驚き、問い詰めた。
「俺にはKanatheonに友達がいる。でも、そいつはこの件を話したがらない。お前ら、Kanatheonが以前のような荒々しいやり方をやめて、魔王侵攻に対してやけに受け身になっていると思わないか? もしあの六口弥生がまだいたなら、きっと俺たちのギルドホールで大騒ぎしているはずだ。だが、お前らは彼女を見たか?」そのメンバーは逆に尋ねた。
皆は首を横に振った。
「なら……噂は本当かもしれないな」メンバーは肩をすくめて言った。
「気をつけろ! 霧の奥に、火の光が見えるぞ!」先頭の者が鋭く叫び、車隊を急停止させた。
「松明を消せ。斥候、前に出ろ!」彼らはすぐに松明を消し、人を出して光源へ静かに近づかせた。
……
前方にあったのは、ギルドの小さな町だった。数十名のプレイヤーがここを中継の休憩所にしていた。
彼らの顔は憔悴し、痩せて頬までこけていた。おそらく疲労度はすでに尽き、眠って疲労度を回復するしかない状態なのだろう。
牛車が町へ入ると、生気のないプレイヤーたちはゆっくりと道を開けた。
「パン………」白い布の下に積まれたパンを見つけたプレイヤーがいた。
「パンだ……パンだぞ!!」一部のプレイヤーが突然車隊の間へなだれ込み、そのうち一台の牛車によじ登った。
「下がれ! これは銀龍の刻印の財産だ!」衛兵たちはすぐに武器を抜き、プレイヤーたちを威嚇した。
「頼む、パンを少し分けてくれ! 俺たちはグズの城から逃げてきて、もう行動力が底を突いてる……」ある者が衛兵にパンの配給を懇願した。
「そうだ。俺たちはずっと銀龍の刻印の統治に従ってきたんだ。今サーバーに災害が起きているなら、俺たちの面倒を見てくれよ………」
「お願いします」
疲労度が限界を迎えているせいで、プレイヤーたちの戦闘力と機動力は同時に落ちていた。
数十人が牛車を取り囲み、じりじりと迫ってくる。
「下がれ!!!!」パン! 狙撃手が空へ向けて発砲し、警告した。
周囲のプレイヤーたちは驚いて後ずさったが、少しずつ怒りをにじませ始めた。
「少し分けましょう。暴動を起こして強奪されるのが怖いです」車隊のメンバーが提案した。
「駄目だ! これは兵糧だぞ!」別のメンバーが反対した。
彼らは板挟みになり、最後はコインを投げて決めることにした――配る。
白い布がめくられると、その場のプレイヤーたちがどよめいた。
「銀龍の刻印は、プレイヤーの苦境を理解しています。今から一人につきパンを一つ配ります。秩序を守ってください!」メンバーの大半は最後尾の牛車に集まり、秩序維持に当たった。
「ありがとう!」
「アンドリア様に感謝を」
「助かった!!!!」
プレイヤーたちはパンを受け取ると、すぐに大口で食べ始めた。そのみすぼらしい姿に、メンバーたちも胸を痛めた。
「あの、パンを二つもらえませんか? 俺は賞金首任務でハゲグまで行って、友達と合流しないといけないんです……」一人の双剣士が懇願した。
「駄目です! 一つだけ!」女狙撃手が彼を叱りつけた。
「お願いします………」双剣士は両手を合わせ、彼らに食い下がった。
「おい、止まれ!」車隊のメンバーが、白い布をめくってパンを盗もうとしている暗殺者を見つけた。
暗殺者は一つを口にくわえ、両腕に十数個のパンを抱えて一目散に走り出した。
「泥棒だ!」メンバーはすぐに笛を吹き鳴らした。
パン!
女狙撃手は黒衣に切り替え、暗殺者を撃った。弾丸は胸を貫き、暗殺者は十数個のパンと一緒に地面へ倒れた。
鮮血がパンを濡らし――それがプレイヤーたちの獣性に火をつけた。
多くの者が地面に散らばったパンへ飛びついた。車隊のメンバー全員が黒衣に切り替えてプレイヤーたちを止めようとしたが、誰も聞かなかった。
女狙撃手が再び銃を構えようとした瞬間、双剣士に牛車の上から引きずり下ろされた。
ザシュ、ザシュ!
二本の長剣が彼女の腹を貫いた。
「あなた……よくも……」
彼女は驚愕して相手を見た。
「お前たちが俺たちを追い詰めたんだ! 責めるな……俺を責めるなよ!!」
双剣士はすぐにパンを自分のリュックへ流し込み、女狙撃手の胸を踏みつけて長剣を引き抜くと、混乱に紛れて逃げ出した。
「くそっ! 早くここを離れるぞ!」
他のメンバーは難民たちを追い払った後、急いで彼女を救い起こし、車隊を連れて慌てて出発した。
しばらくして、彼らはようやく黒森の中にある、隠れた小湖のほとりの前哨兵站へ到着した。
前哨基地の指揮官がすぐに車隊を迎えた。
「なぜ遅れた?」
「さっきグズの城の難民に襲われました」車隊のメンバーがしみじみと言うと、指揮官も首を振ってため息をつき、それ以上追及しなかった。
火を起こして照明にすることができないため、前哨基地の中は真っ暗だった。
飢えたメンバーたちはパンをつかむなりむさぼるように食べ、疲労度を回復させた。
「何か情報はありますか?」メンバーが尋ねた。
「自分の目で見るか?」前哨基地の指揮官が逆に尋ねた。
衛兵隊は前哨基地の指揮官に好奇心を刺激され、彼について前哨兵站を離れた。
……
彼らは薄暗い黒森を抜け、三十分ほどかけてようやく森の端まで忍び寄った。木の後ろに身を潜めると、占領されたグズの城が再び目の前に現れた。
前哨基地の指揮官がグズの城の入口を指さした――黄色地に双頭の鷲を描いた大旗が、高々と掲げられていた。
「あの旗………どこかで見たことがある」メンバーは考え込んだ。
「当然だ……中世ドイツの神聖ローマ帝国の双頭鷲だ。現実にも存在した、ドイツ系帝国の紋章だよ」前哨基地の指揮官は、意外にも歴史に詳しかった。
「魔王がそれを旗にしているということは………」メンバーは言いかけて口をつぐんだ。
「その通りだ。おそらく魔王はドイツサーバー出身のプレイヤーだろう」前哨基地の指揮官は、すでに魔王の背景を見抜いていた。
「グズの城の北東で何が起きたんですか……」傷の癒えた狙撃手は歴史の講義に付き合う気はなかった。北東側の焼け落ちた森に海賊の死体がびっしり吊るされ、大量の海賊が森の外で隊列を組んだまま中へ入れずにいるのを見つけた。
「さっき……蕾が現れた」前哨基地の指揮官はその場所を指して言った。
「精霊女王が?!」皆が驚いて尋ねた。
「ああ……新星が白昼に輝くような光だった。間違いなく蕾だ。私に分かるのは、彼女が銀白色の天使を連れて現れ、強い光が走った後、今の光景になったということだけだ。もう三十分ほど、魔王部隊の姿は一つも確認していない。だから安心して話している」指揮官は自嘲気味に笑った。
「油断しないでください、指揮官」狙撃手が注意した。
「見ろ!」メンバーがグズの城の東入口に動きを見つけた。隊列を整えたプレイヤーの一隊がグズを離れ、北東の森へ向かっていく。
「まさか………」
前哨基地の指揮官は大きく緊張した。これは魔王が初めて、本体プレイヤーを大規模に動かした行動だった。
メンバーたちは興味に駆られて望遠鏡で確認し、一斉に驚愕した。
「奴らの重装部隊はどこだ?!」彼らは、魔王の百人部隊に重装兵が数名しかおらず、残りは全員黒衣をまとい、長い魔杖を手にしていることに気づいた。
「あの装備……まさか……」狙撃手が驚きの声を漏らした。彼女は魔法職の習性と装備を最もよく知っていた。
「百人の………賢者………?!」
「まずい! 彼らは北東の森へ向かっている。おそらく蕾と衝突する! アンドリア様とKanatheonに警告しなければ!」前哨基地の指揮官は普段こそ無駄話が多いが、頭は極めて冴えていた。
彼らは大急ぎで前哨兵站へ戻り、プラムスへ情報を伝えた。
……
小さな白鳥が加奈の肩に止まった。
「魔王は……ドイツプレイヤー。百人の賢者が……蕾を攻撃する準備をしている?!」加奈は大きく驚き、ニフェトからの密書を読み上げた。
「僕たちはどう動くべきだ?」一樹が心配そうに尋ねた。
「ニフェトはもう軍を集めている……魔王軍の動向を掴み次第、攻撃に出るつもりよ……」加奈は不安げに言った。
「怖いのか? 珍しいな」一樹が興味深そうに言った。
「相手はドイツプレイヤーよ………」加奈は浮かない顔で言った。
……
「Kanatheonは精霊城とハゲグで戦力を集めている。俺たちも動こうぜ!」コリンは興奮して言った。
「戦争……神の恩寵を、なんと無駄にする行いでしょう」ソフィアは一日中経文を研究しているせいで、口を開けば神や信仰の話ばかりだった。
「おい、ソフィア。いい加減に目を覚ませよ。お前、退屈で変な奴になってるぞ!」コリンは不満げに言った。
ソフィアは経典を閉じ、一人で大聖堂の地下室へ向かった。
……
「ソフィア、私の子。今日は読めない字でもあったのかい?」老修道女は笑顔でソフィアを迎えた。
「こんばんは、姉様。今日は辞書を聞きに来たのではありません。道理を教えてほしくて来ました」ソフィアは木の机の前に座り、老修道女と話した。
「何に悩んでいるの?」老修道女は慈しむように尋ねた。
「魔王は……森を焼いています。もし彼が私たちを皆殺しにするつもりなら、それは彼にとって得になるのでしょうか?」ソフィアは、ドイツプレイヤーの盲点を率直に口にした。
老修道女は淡く笑い、ゆっくりと息を吸った。
「技術の発展とともに貪欲は育ち、人は神の御心から離れ始めました。人はいつだって、より多くを求めるものです」
「でも彼らは私たちを労役させるべきであって、私たちの世界を滅ぼすべきではないはずです」ソフィアは訳が分からなかった。
「魔王もラロの一部です。ならば当然、その存在には意味があるのでしょう」老修道女は微笑んで答えた。
「ラロに直接聞ければよかったのですが………」ソフィアは苦笑した。
老修道女の顔色が変わり、ソフィアの目をじっと見つめた。
「表情が変ですよ………」ソフィアは怖くなった。彼女は、老修道女にひどく殴られたことをまだ覚えていた。
「ラロに従うには、真心から信じなければなりません。悟りへ至る道は人それぞれです。ラロを生きなさい、私の子」老修道女は自分の古い木珠の首飾りを外し、ソフィアの手に渡した。
【システムメッセージ: 老修道女の古い木珠のロザリオを獲得しました】
「これはどんな聖遺物ですか?」ソフィアは素直に贈り物を受け取ったが、特殊能力は何も見えなかった。
「それはただの木の珠です。けれど、ラロへの信仰を表しています。子よ、教皇であるあなたは、乱世でこそ重い責任を背負っています。頑張りなさい」老修道女は、もう一度慈しみに満ちた微笑みを送った。
……
「報告します、ビスマルク総帥。我が部隊はすでにこのサーバーへ進入しました」和也は総帥に一礼して報告した。
「総人数は?」ビスマルクが尋ねた。
「二百九十七名です」和也が答えた。
「四将は到着したか?」ビスマルクがさらに尋ねた。
「ヴェッカー、キャロル、オットーはすでに到着し、部隊を集合させています。パーカーは基地で食糧を集めており、到着は明日になります」和也が答えた。
「よろしい。次の攻城目標について、意見はあるか?」ビスマルクは本サーバーの地図を開いて尋ねた。
「ここです……」和也は教皇都市をまっすぐ指さした。
「面白い」ビスマルクは地図をしまい、金髪を軽く整えて笑った。
「精霊女王は対処しますか?」和也が尋ねた。
「放っておけ。彼女と戦うのは面倒すぎる。海賊を幽語の森の周囲へ回して包囲させ、注意を分散させればいい。我々には百賢団だけで十分だ……」ビスマルクは自信ありげに笑い、背後に立つ百名以上の黒衣の魔法職を振り返った。
……
Kanatheonの者たちはカミコを囲み、彼女の計算が終わるのを待っていた。
カミコは紙に向かっていくつもの式を書き込み、それからゆっくりと羽根ペンを置いた。
「いけそうか?」ニフェトが不安げに尋ねた。
カミコはため息をつき、首を横に振った。
「半月後……私たちはすべての食糧を使い切る」
彼女は地図を広げた。ヴィニフ宮殿の周囲は黄色と赤色の区域に分けられていた。
「赤はすでに農地になっている場所。黄色は開発できる農地です。ただし農地開発には大量のNPCと補助工事が必要になります。たとえば湖から水を引く、適した種を集めるなどです。少なくとも一か月はかかります」カミコが補足した。
「ハゲグは?」パシュスが尋ねた。
「ハゲグはもともと砂漠です。開発できる農地は限られています」古志は地図上に、親指二本分にも満たない小さな区域を丸で囲んだ。
「農地開発に人手を割くわけにはいかない……魔王はいつ攻めてくるか分からない」ニフェトは、どの王都も失わないと心に決めていた。
「桐司が翼騎兵隊を率いてグズ周辺を巡視したところ、魔王の本体は三百人未満だと判明しました。戦えます」パシュスが言った。
「戦える、とは?」カミコは眉をひそめて尋ねた。
「我々の食糧が尽きる前に魔王を倒し、グズを奪還するということです」パシュスは真剣に言い、何人もがうなずいて同意した。
「古志、あなたの意見は?」ニフェトが尋ねた。
彼女は、古志が策を用いてハゲグとプラムスの内鬼を一掃した後、彼を重用していた。今では彼が六口弥生の位置を引き継いでいる。
「いずれ戦うしかありません。問題は、いつ、どこで戦うかです」古志も出征に同意した。こちらに残された時間は少ない。
数十対の目がニフェトに向けられた。今、彼女は一人で重い決断を下さなければならなかった。
本サーバーの命運を……
「火野良――影の旅団、イミ――電波舎、コリン――聖なる園、藍牧牧――牧藍の歌、そして西城勇――羅刹教。各ギルドのギルマスへ書状を出して。明日、教皇都市に集合………」ニフェトの一言一言は玄鉄のように重く、彼女は両手を木の卓に置いた。
幹部たちは息を呑み、静かにニフェトが言葉を終えるのを待った。
不安げなニフェトは、ちょうどパシュスと目が合った。彼の揺るぎない眼差しは、荒海に浮かぶ流木のように彼女を安心させた。
「私たちは魔王と決戦します……」ニフェトは勇気を振り絞り、出陣を決めた。
大広間には歓声も、叫びもなかった。不満の声もなかった。羽虫の羽音さえ聞こえそうなほど静かだった。
幹部たちはニフェトに深く一礼し、それから互いに肩を組んで大広間を出ていった。
「あなたでも、同じ決断をしたでしょう……六口……」皆が去った後、ニフェトは両手を握りしめ、全身を震わせながら言った。
……
決戦の火は灯った。だが、その行き先はまだ誰にも見えない……




