344 世界を殺す者たち
本サーバーのグズの城が陥落し、ドイツのプレイヤーたちはすぐさま転送ゲートを起動してメインキャラをこちらへと送り込んできた。彼らがまず最初に行ったのは、圧倒的な実力を持つ和也を差し向け、本サーバーで最も名を馳せるトッププレイヤーの一人、西城勇を打ち破ることだった。
果たして……『銀K同盟』は、ここからどう反撃に出るのだろうか……
「羅刹教が負けた! 羅刹教が負けた! 羅刹教が負けた!」
一群のプレイヤーがドイツプレイヤーの宣伝檄文を手に、教皇都市で狂ったように叫んでいた。恐怖は冷たい風となって、隙間という隙間へ入り込み、都市全体を冷やしていった。
雨間刻は道端に落ちていた紙を拾い上げ、そこに映る西城勇の無惨な姿に目を見張った。闘技場で見た時とはまるで別人だった。
「昨日の昼には、まだ教皇都市で彼を見たのに……」柑々は震えた声で言った。
「おそらく魔王の本体キャラは、もう俺たちのサーバーへログインしている……」雨間刻は紙を握り潰し、重い声で言った。
「影の旅団と不死族の戦いは順調なの? 魔王が護心石を壊せる怪物を召喚したって聞いたけど」柑々は雨間刻の安全を心配し、彼の指をつかんで尋ねた。
「心配するな、馬鹿。不死族は数が多いだけで、実力は妖魔にも劣る。奴らは護心石を壊すわけじゃない。ただ、噛み殺された場合は確かに復活できない。立ち回りに気をつけて、仲間にぴったりついて動けば危険はない」雨間刻は、柑々が自分を心配しているのを見て、内心かなり得意だった。
柑々は白く美しい両手を豊かな胸に当て、整った眉をひそめていた。その姿は雨に濡れた花のよう、見る者の胸を痛ませた。
雨間刻が彼女を抱きしめようとした時――。
「荒道一狼はNPCを連れて城外を巡回しているんだよね。それって、かなり危ないんじゃ……」柑々がぽつりと呟いた。
雨間刻の腕が固まった。柑々の柔らかな身体はすぐそばにあり、彼女の体の香りは媚薬のように彼の思考を乱していた。
腕で彼女の身体を抱きしめることはできる。だが、その心まで抱きしめることはできるのか?
「…………」
彼は黙って衝動を押し殺し、再び腕を下ろした。
「怖がるな。俺が守る」雨間刻は柑々の乱れた髪を整え、それからこっそり指の間で彼女の髪を揉んだ。だが、彼女に気づかせる勇気はなかった。
「火野良は東部ギルドと手を組んで、グズを反攻するつもりだって聞いたよ。あなたもいずれ、魔王との戦争に加わることになる。くれぐれも気をつけてね!」柑々はようやく雨間刻を見つめ、彼のための涙を流した。
「……」
その時、二人のプレイヤーが馬車に乗って通りかかった。
「ここ二日、告白する奴がやけに多いな。見ろよ……また一組、恋人が生まれたぞ」
「声を落とせ。邪魔するな」
馬車がゆっくり通り過ぎていく――その脇では、二人が道端で抱き合い、口づけを交わしていた。
雨間刻は兜を脱ぎ捨て、まるで全てを投げ捨てるかのように柑々を胸へと抱き寄せ、深く、激しく口づけた。
柑々は抵抗しようとしたが、彼の強い腕に包まれ、拒みきれず、身体は熱を帯びて力を失っていった。
雨間刻がずっと抑え込んできた感情は、ついに爆発した。彼はさらに強く抱きしめ、ダンスのステップを刻むかのように、強引に彼女の身体を傾かせた。
柑々はどんどん低く押し倒されていった。雨間刻の強烈な感情に息が詰まり、苦しくなった彼女は突然顔をそらし、雨間刻を押し返した。
「やめて!」
「君は……まだ俺を拒むのか?」
柑々は凛々しい雨間刻を見つめ、胸を高鳴らせた。
刻がいつも兜をかぶっていなければ、女を惹きつける磁石のようなコリンより、きっともっと人気があっただろう。
けれど、彼女にはもう好きな人がいた。
黒真珠が陥落して以来、柑々は荒道一狼と一緒にレストランの経営と教皇都市の管理に専念していた。かつて黒真珠のサキュバスと呼ばれた柑々は、すでに表舞台から退き、最も原初で純粋な少女の心だけが残っていた。
雨間刻は柑々が黙ったままでいるのを見て、彼女がまだ自分を受け入れられないのだと悟り、振り返って去ろうとした。
「待って………」柑々が突然、雨間刻を呼び止めた。
「すまない……君を困らせた……」
彼は不安げに足を止め、あの衝動的な口づけを心の底から悔やんでいた。
「これ……私があなたのために焼いたの。ムー大陸は飢饉に陥り始めているから、この圧縮蜂蜜クッキーなら疲労度を大きく回復できる。持っていて」柑々は恥ずかしそうに、大きな袋いっぱいのクッキーを差し出した。
雨間刻はぼんやりとクッキーを受け取り、さらに間の抜けた顔で柑々を見つめた。
「これは……どういう意味だ?」雨間刻は妙な声で尋ねた。
「死なないで!」柑々は突然命じるように言い、涙の浮かぶ顔を隠して足早に去っていった。
雨間刻は軽くため息をつき、首を振って苦笑した。自分がまだ深い泥沼の中にいるのだと分かっていた。
……
夜の帳が下り、澄んだ星空には美しい月が高くかかっていた。
銀の光が大地へ降り注ぐが、黒森に漂う湿った霧に吸い込まれていく。
銀光と水霧が黒森の空気を隅々まで満たし、夜の闇の隠れ蓑も合わさって、プレイヤーたちは朦朧とした秘境に迷い込んだかのようだった。
由里は木の幹をよじ登り、樹皮についた結晶石を抜き取り、用心深く地面へ戻った。
「これですか?」彼女は三つの尖りと八つの角を持つ晶石をイージに渡した。
「そう! 脆晶石だ!」イージはすぐにそれをリュックへしまった。
「あなたのために木へ登って道具を集めるのは喜んでやります。でも、私のステータスはあなたより高いわけじゃないのよ。むしろ弱いくらいです。どうして私が木に登るんですか?」由里はいつもどおり微笑みを浮かべていたが、その口調は彼女が怒っていることをはっきり示していた。
「技師に転職してから、僕はほとんど銃を構えて撃っていないんだ。動体視力は君より悪いよ」イージは苦笑しながら答え、彼女と一緒に別の木へ向かった。
「ブラミィは?」由里が興味深そうに尋ねた。
イージが木の根元を指さすと、ブラミィはなんとぐっすり眠っていた。
「寝顔は本当に可愛いですね」由里は長杖でブラミィをつついて起こした。その顔から、最後の微笑みも消えていた。
ブラミィは猛然と目を開き、豹のように地面へ伏せた。
「静かに……私はずっと周囲の土の震動を聞いていた。あなたは私の見張りを邪魔している」
三人は別の木へ向かい、由里は手足を使って登っていった。
「おおおお……まさか白とは……」
イージはその隙に由里のスカートの中を覗き、ニヤニヤと締まりのない笑みを浮かべた。
「あなた、馬鹿なの……」ブラミィはそのまままた寝転がった。
「ふう……もう一つ。あといくつ必要ですか?」由里は地面へ戻ると汗を拭い、尋ねた。
「あと三つくらいかな。もし僕たちが――」イージが答えかけた時、ブラミィが突然跳ね起き、片手でイージの口を塞いだ。
「人……が……いる……」ブラミィは唇の動きだけで伝えた。三人はすぐに沈黙し、武器を抜いた。
「どうして分かる?」イージは声を潜めて尋ねた。
「間違いない。私はずっと周囲の音を聞いていた」ブラミィは緊張した様子で、周囲の濃霧を見つめた。
カサッ!
数本の木の向こうで、突然、砕けた葉の音が響いた。由里とイージは、その時になって初めて、相手がすぐ近くにいることに気づいた。
「私たちの斥候は?」由里は不安げに尋ね、身体を少しずつ後ろへ引いた。
「捕まった、殺された、サボった、迷った。可能性は多すぎる……油断しないで」ブラミィはこっそり顔を出し、音のした方向を確認した。
濃霧のせいで視界は悪く、彼らには白い霧の中を、影絵のような不気味なシルエットが泳いでいるようにしか見えなかった。
「怪物ですか?」イージは小さな拳銃を握り、驚いて尋ねた。
「グズの城一帯の食料はもう消えて、生態圏も衰えている。怪物はもう……」ブラミィはそこで言葉を止めた。
六つの黒い影が前方の木々の間から浮かび上がり、ゆっくりと彼らへ歩いてきた。
三人は焦った。濃霧のせいで音を頼りに位置を探るしかなく、相手が姿を現した時には、もう近すぎた。
彼らは木の幹の後ろに隠れ、胸の内は不安でいっぱいだった。今飛び出せば、間違いなく見つかる。どうすればいい?
「来て! 登って!」由里は猿のように木の幹へ登った。
ブラミィは大きくうなずき、褒めた。
「僕、木登りなんてできませんよ!」イージは慌てて言った。
黒い影はすでに彼らのいる木の前に立っていた。距離は数メートルしかない!
「早く登りなさい、馬鹿!」ブラミィは焦って言った。
「無茶すぎませんか?!」イージは不器用に木の幹へしがみついたが、まったく登れなかった。
「木の後ろにいる者、名を名乗れ……」黒い影はすでに彼らに気づき、低い声で言った。
「イー――」イージは正直に答えようとしたが、由里に引っ張られた。
「私は大麻、彼はコカイン、もう一人はニコチンと申します」由里は真面目な口調で嘘をついた。そのあまりの平淡さに、三人がただの無害な通行人だと信じてしまいそうになるほどだった。
「地面に伏せろ。ステータス画面を開け」黒い影が命じた。
彼らには選択肢がなく、大人しく従うしかなかった。
「え……ブラミィ……?!」黒い影の声が、急に高く弾んだ。
「松……松美?!」ブラミィは顔を上げ、黒い影がKanatheonの偵察小隊であることに気づいた。
「なんてことだ……もう少しで君の喉を裂くところだった。どうして黒森にいるんだ?」松美はほっと息をつき、隊友たちを周囲へ散らして警戒させた。
「プラムス城の砲台を強化するのに素材が必要なの。私たちは素材を集めているところ。あなたたちは?」ブラミィが逆に尋ねた。
「ニフェトがKanatheonの情報部をグズ周辺へ派遣して、魔王の実力を探らせている。私はその小隊を率いている」松美は答えた。
「私たちの斥候を見ませんでしたか?」由里は違和感を覚え、尋ねた。
「一人だけ見た。でも、彼はこちらの質問に答えず、うなずくだけだった」松美は眉をひそめて思い出しながら答えた。
「おかしい……誰かに会ったら必ず私たちへ報告するよう命じていたのに……」ブラミィは訳が分からず言った。
「終わった……夢葬者だ……」イージはすぐに嫌な予感を覚えた。
「夢葬者って何?」皆は分からず、尋ねた。
「あの斥候は本人じゃない……夢葬者の偽装です。魔王側の者が成りすましていたんです!」イージは驚いて叫んだ。
「走れ!!!」松美は、自分たちの位置がすでに露見していることに気づいた。
だが彼らが振り返った瞬間、白霧の中に赤と青の光の塊が浮かび上がった。
二人の魔獣使いが、それぞれ火鳥と氷虎を連れて姿を現した……
「Gefunden(捕捉した)」火鳥の魔獣使いが言った。
……
「炎鷹はボスじゃないの?! どうして従わせられるのよ………」由里は火鳥を見て、魂が抜けるほど怯えた。
「魔獣使いよりさらに上位の隠し四次職かもしれない………」ブラミィは武器と華麗な装備から、相手が並外れた実力者だと察した。
「逃げますか?!」イージはすでに二つの閃光弾を取り出し、安全ピンを抜く準備をしていた。
「松美、あなたたち――」ブラミィは言いかけて、Kanatheonの小隊がすでに姿を消していることに気づいた。
「包囲しろ!」松美と隊友たちは猿のように身軽に木へ登り、上から大量の目潰し粉を撒いた。
火鳥が翼を一振りすると、大量の火の羽を放ち、すべての目潰し粉に火をつけた。燃える粉は花火のように風に乗って舞い散り、近くの草地に火がつくと、ようやく冷たい霧が晴れた。
双方は正式に姿を見せ合った。
火鳥の女と氷虎の男が並び立ち、本サーバーの九人を迎え撃った。
「助けを呼ぶ時間を与えるな。瞬殺しろ!!」
Kanatheon小隊はすぐに急降下攻撃を仕掛けた!
火鳥は翼を盾のように広げ、大きな火球を生み出して自分を守った。
「気をつけろ!」松美は間一髪で身体を止めたが、それでも三人の隊友が火球へ飛び込んでしまった。
ボウッ!!!
「うわあ!!!」彼らはたちまち全身を炎に包まれ、負傷して逃げ出した。
だが彼らが数歩走ったところで、火球の中から虎の咆哮が響いた。全身に氷の棘をまとった白虎が炎を破って飛び出し、一人の足に噛みついて火球の中へ引き戻した。
「くそっ!!!」
松美は何本もの飛刀を投げ、相手の注意をそらそうとした。だが相手はずっと火球の中に隠れたままで、外へ出て近接戦を挑もうとしなかった。
「魔獣使いが、こんな戦術を取れるのか?!」
他の隊友たちは、こちらが人数で勝っているにもかかわらず劣勢に追い込まれるとは思ってもいなかった。
「逃げるぞ! 深追いするな!」松美は同伴者を救えず、彼らが引き裂かれている時間を使って逃げるしかなかった。
女魔獣使いが前方を指さすと、火鳥は双翼を広げ、一本の火の刃のように前方へ横なぎに斬り払った。
「早く伏せろ!」松美が叫び、火鳥は彼らの背中すれすれを通り過ぎた。
一帯の林は烈焔に斬り倒され、滑らかな切り口は黒く焦げて燃え上がった。
火鳥は両脚の爪を地面に立てて急停止し、再び双翼を広げて火球となり、スキルのクールタイムを待った。
「うわあああああああ!!!」
彼らが息をつく暇もなく、氷虎がすぐに飛びかかった。二人の隊友が同時に肩を噛まれ、火球の中へ引きずり込まれて虐殺された。
「僕の閃光弾を食らえ!!!!」イージは安全ピンを抜き、閃光弾を火球の中へ投げ込んだ。
ピ――ピ――ピ……ピ・ピ!
ドン!!!!!!!
強烈な光が一閃し、半径五十メートル以内のプレイヤーたちは一斉に耳鳴りに襲われた。二人の魔獣使いも衝撃で平衡感覚をやられ、立っていられなくなった。
「今だ!! 殺せ!!」
松美はすぐに刀を構えて女魔獣使いへ突きかかった。動きの遅い火鳥は反応が間に合わなかった。だが氷虎は、主以外のプレイヤーを守るために自ら飛び出し、松美を押し倒した。
「こ……この畜生め!! うわあ!!!」
松美の左腕は氷虎にがっちり噛みつかれ、激しく振り回された。やがて、ゴキッという音とともに引き千切られ、血が泉のように噴き出した。
「持ちこたえろ、松美! 今行く!!!」
他の者たちはすぐに駆けつけ、戦闘に加わった。現場は混乱の渦に呑まれた。
ガン!
突然、遠方から三条の黒雷が木々を突き破って飛来し、火鳥に正確に命中した。火鳥は爆ぜるように重傷を負った。
「ザコども、敵を甘く見るんじゃないわよ………」加奈が知らせを聞きつけて駆けつけた。
「まずい……逃げるぞ……」
二人の魔獣使いは、源魔師である加奈が戦闘に加わったのを見ると、すぐに召喚獣へ突撃を命じ、自分たちはその隙に逃走した。彼らの姿が消えた瞬間、召喚獣も光の塊となって消えた。
「ふう……ありがとう、加奈。助かった……」松美は冷や汗を拭って言った。
「銀龍の刻印が、どうして技師を偵察に出しているんだ?」一樹はイージを見て、不思議そうに尋ねた。
「違います。僕たちは砲台を強化する素材を集めているんです。たまたまあの二人の魔獣使いに遭遇しただけです」イージは答えた。
「あの二人が、魔王陣営のプレイヤーよ」加奈は重い声で言った。
三人は顔を見合わせた。どうりであれほど強いわけだった。
「私たちはすでに黒森で彼らと小規模な衝突を起こしている。向こうが大部隊を出して、私たちを捜索してくるかどうかは分からないわ」加奈は地図を開き、不安げに言った。
「それって、私たちもかなり危ないのでは?」ブラミィは驚いて尋ねた。
「あなたたちはさっき派手に騒いだでしょう。きっと多くの魔王軍を引き寄せるわ。ここで少し身を潜めなさい」加奈は苛立たしげに言った。
「こんにちは、加奈さん。何か情報は掴めましたか?」由里が微笑んで尋ねた。
加奈は彼女の緊張感のない笑顔に強い嫌悪感を覚え、顔をそらして言った。
「彼らは急いで攻城する気はないみたい。別の狙いがあるようね……」
「急いで攻城しない? どういう意味だ?」松美は慌てて尋ねた。
「私たちは羅刹教の逃亡兵を数人見つけた……源魔師が一人で西城勇に決闘で勝った、二万竜貨は返したらしい。それと彼らは……グズの城一帯で森を焼いている」一樹が言った。
「木を焼く? 何の得があるの?」ブラミィが尋ねた。
一樹は顔の筋肉をこわばらせた。骸骨のように痩せたその顔に、重い空気が漂う。
「おそらく……彼らは俺たちのサーバーの生態系を破壊している」
「生態系を破壊?」皆は訳が分からなかった。整地に時間を使う魔王など、どこにいるというのか。
「彼らの目的は征服ではない………私たちの世界を滅ぼすことよ……」加奈が結論を口にした。
「世界を……滅ぼす?!」皆が驚きの声をあげた。
以前から続く飢饉の原因が、少しずつ見え始めていた。
……
もはや敵の目的は、勝利ですらない……




