343 我々を待っていろ
三十分後――
「西城勇様!!!」レナが悲鳴をあげた。
ドン!!!
西城勇は凄まじい力で吹き飛ばされ、山城の城門を粉砕した。
和也は破片を踏みしめて羅刹山城へ入ったが、地面に敷かれた血掌の大旗は礼儀正しく避けた。
西城勇の左手は潰され、皮膚にはいくつもの水ぶくれが浮かんでいた。薄紅色の真皮が空気にさらされ、痒みと痛みが同時に襲っていた。
彼は必死の力を振り絞って立ち上がり、息を荒げながら和也を見据えた。
和也は三つの焔宝珠と二つの念力宝珠を五環魔杖の円環に嵌め込み、再びスキルの属性を変えた。ある時は火を放ち、ある時は雷を落とし、ある時は雪崩を呼ぶ。西城勇は和也の変幻自在な連携魔法に完全に打ち負かされ、和也の髪に触れることすらできなかった。
「駄目だ……攻め込むしかない。一瞬で反撃できないほど叩き込む!」
西城勇は先手を取ることにした。
彼は一息に正面から何本もの魔焔の腕を打ち出した。
「また同じ技か? ふふ、失望させてくれるな、西城教主……」和也は冷笑し、反射的に分厚い氷盾を召喚して防いだ。
「食らえ!」西城勇は突然、もう一本の魔焔の腕を左から和也へ叩き込み、右へ避けるよう追い込んだ。
拳速は砲弾のように速く、魔導士の反射神経では絶対に避けられないはずだった。
ヒュッ……しかし、西城勇の重い拳は空を切った?!
和也は危機の中で自分の手のひらに重力歪曲を発動し、重力を利用して西城勇の拳撃を押しのけていた。
「な……なんという滅茶苦茶な魔法操作精度だ……」
観戦していた者たちが驚く暇もないうちに、和也は振り向きざまに西城勇の手首をつかみ、もう片方の手で彼の喉を締め上げ、地面へ押し倒した。
「どうやら俺の勝ちのようだな、西城教主……爆焔術」和也は笑って言った。
ドン!!!
西城勇の代わりに致命傷を受けたレナは、何度も血を吐き、城壁の上に倒れた。
「守魂衛が命を救ったのか……」和也は振り返って負傷したレナを見つめ、すぐに二人の関係を理解した。
西城勇は咳き込み続け、何度も黒煙を吐いた。喉には耐えがたい刺すような痛みが走っていた。
「教主!!!!!」城壁を守っていた教徒たちは大きく動揺し、城外へ出て和也を包囲しようとした。その瞬間、数十本の巨大な氷錐が空から降り注ぎ、ドドドドドと城壁に突き刺さった。
残る四人の黒衣の魔導士は和也の近くに立ち、それぞれ違う魔杖を掲げて城壁の守備兵を威嚇した。教徒たちは動くことができなかった。
西城勇の半身は焼け焦げ、レナのHPは半分しか残っていなかった。
「降伏するか、西城教主。誰一人傷つけないと約束しよう」和也が五指を握ると、火焔はすぐに消えた。
西城勇はその言葉に震え、煙を上げる身体を再び支え起こした。片目しか開けられず、白目は高温で半ば白く焼け、視界はぼやけていた。
「西城教主、俺はもう決闘に勝った。これ以上戦えば、君の守魂衛が死ぬ。よく考えて決めるんだな。ふふ」和也は呑気にも布を取り出して魔杖の手入れをしながら、冷笑した。
「レナ……契約を解除しろ……」西城勇はろれつの回らない声で言った。
レナは西城勇を完全に無視し、周囲の者たちは必死に彼女のHPを回復していた。
「レナ!!!」西城勇が怒鳴った。
「嫌です……死ぬ時は一緒です。それもギルド規約の一つです」レナは暗い表情で言った。
「これは俺の戦いだ。お前には関係ない!」西城勇は激怒したが、その目はもう城壁の上の人影さえまともに見えていなかった。
「降伏してください……西城勇様。敗北を受け入れるにも、勇気が必要です……」レナは涙ながらに、西城勇へ敗北を認めるよう懇願した。
「違う! 羅刹――」西城勇が怒鳴った瞬間、和也は彼の腹を踏みつけ、魔法を炸裂させた――ドン!!!
レナの視界が真っ暗になり、腹の奥に千本の針を刺し込まれたような激痛が走った。
「レ……レナ!!!」西城勇は愕然とし、大声で呼びかけた。
レナは痛みで城壁に手をつき、身体を丸めたまま、西城勇に答えられなかった。
「答えろ! レナ!」西城勇はついに涙を落とした。抉られた腹部のダメージエフェクトを押さえ、もう片方の手を前へ伸ばして道を探りながら、見えないまま城内をさまよった。
「彼女はまだ生きている。だが長くはもたない。君が降伏さえすれば、すべての羅刹教メンバーを見逃すと約束しよう。レナも、君も含めてだ」和也は死ぬまでという条件を変え、西城勇が自分の口で降伏すると言うことだけを求めた。
「俺が命惜しさに怯える男だと思うのか?!」西城勇は激怒して反論した。
「君には護心石があるかもしれない。だが、君のギルドの他の者たちはどうだ? レナはどうだ? 君はギルマスだ。ギルドのことを考えてくれると期待している」和也は辛抱強く言った。
「西城勇様………」レナが弱々しく応えた。
「レナ……契約を解除しろ……」西城勇は、レナに自分を諦めてくれと懇願した。
「死ぬ時は一緒……です………」
聖職者たちの回復は、すでに彼女の出血速度に追いついていなかった。それだけ西城勇の傷が深刻だということだった。
それでも和也はまったく気にしていなかった。むしろ、西城勇が生きていることを望んでいた。
「三度目は聞かない。降伏か、武力か」和也は五環魔杖を掲げた。西城勇は眉間が熱くなり始めるのを感じた。
「降伏してください……西城勇様………」周囲の信徒たちが次々と説得した。
西城勇の胸には、さまざまな感情が渦巻いた。己の武道への追求か、それとも友情か。
彼は突然、涙をこぼし、ゆっくりと膝をついた。
「言え……俺、西城勇は、降伏する、と」和也は平淡に言った。
「俺、西城勇は、投……降する」西城勇は頭を垂れ、心が灰になったような声で言った。
【システムメッセージ: スクリーンショットが保存されました】
【システムメッセージ: スクリーンショットが保存されました】
【システムメッセージ: スクリーンショットが保存されました】
和也は西城勇が降伏した証拠として、何枚も画像を撮った。
「よろしい、西城教主。君たちには三日やる」彼は魔杖をしまい、嬉しそうに言った。
「三日……?」西城勇は弱々しく尋ねた。
「三日後、我が軍は紅蓮山を粛清する。殺して赦さずだ。出ていけ。この三日は尊厳と引き換えに得た貴重な時間だ。他の者にはない特典だよ。三日後、我々が再び会わないことを願っている」和也は笑って言った。
五人の黒衣の魔導士は堂々と正門から去り、恐慌に包まれた羅刹教の者たちを残していった。
「このサーバーも……所詮この程度か」
和也は微笑みを浮かべ、衣を軽く払うと、幽鬼のごとく静かに夜の闇へ消えていった。
……
深夜、プラムス大通り――。
「グズが落ちたな。銀Kがここまで失策するとは思わなかった」
「俺たちには関係ないだろ。それより明日どこでレベル上げするか考えたほうがいい」
装備の修理を終えた二人のプレイヤーが酒場へ休みに向かっていると、数名の銀龍の刻印のメンバーに足を止められた。
「キャラ情報を開いてください」彼らは即座に武器を抜き、二人を威嚇した。
「は? なんでだよ?!」二人は従おうとせず、警備隊と口論した。
突然、十数個の赤い点が二人の心臓の位置に止まった。
「協力しなさい。さもなければ、その場で処刑します」由里が二人に警告した。
複数の狙撃手が城内の大鐘楼に駐屯し、城内のすべてを監視していた。
二人は仕方なく画面を開き、銀龍の刻印の者たちに検査させた。二人の面子は完全に潰された。
「ちっ、面倒くせえ。教皇都市へ行こうぜ」彼らは怒りのあまり、プラムスを離れた。
……
「大変な任務を終えて戻ってきました~」由里は狙撃手たちが駐屯する鐘楼へ戻り、休憩した。
「お疲れ」狙撃手は両脚を窓辺に乗せたまま、目はずっと無人機のレーダー画面を見つめていた。取り逃がしが出るのを恐れていたのだ。
「でも、私はギルドのために働くのが好きなんです。分かりますか? 地位が高くて権限のある人間こそ、こういう重要な任務を担うべきだと思うんです」由里は突然、誠実な口調で言った。
狙撃手は彼女に白い目を向け、何も答えなかった。
「とはいえ、毎日同じことの繰り返しだと、やっぱり疲れますね」由里は独り言のように言い、それでもどこか楽しそうだった。
「君の言葉にはまったく説得力がない」狙撃手は適当に受け流しながら、無人機を操作して城内を巡回させた。
「明日、私は城外へ出ます……」由里が突然言うと、狙撃手は動きを止め、二人は互いに見つめ合った。
「なぜだ?」狙撃手は真剣に尋ねた。
「イージが照準器を作るために脆晶石を集める必要があるんです。ノクスは城内の砲台の射程が足りないと判断して、私を同行させることにしました」由里は口を尖らせ、城壁の外に広がる漆黒の世界を遠く眺めた。
「脆晶石は黒の森の黒尖樹に生える。あそこはもう魔王に占拠されている……他に同行者はいるのか?」狙撃手は心配そうに尋ねた。
「警備隊が数名……もし私が戦死したら、あなたのことを思い出します」由里は表情を変えないまま、深い情を感じさせる言葉を口にした。
「変なことを言うな!」相手は彼女に白い目を向け、再び無人機へ意識を集中した。
由里は課金ショップのポイント画面を開き、染髪剤を何度も確認しながら、狙撃手に配色の意見を何度も尋ねた。
二人はしばらくふざけ合った後、それぞれの作業に戻った。
「気をつけろよ………壁の外はもう安全じゃない」狙撃手が突然、感傷的に言った。
由里は顔を上げ、静かに彼を見つめた。
「うん」
……
プラムスギルド高塔――。
「絶対に駄目です!」ノクスは初めて、アンドリアにきっぱりと反対した。
「私たちは全サーバーから叩かれているのよ。無能龍なんて馬鹿にされている!」アンドリアは怒りをあらわにした。
「衝動的にならないでください、アンドリア様。我々はまだ魔王の切り札を把握していません。分かっているのは、彼らに千名近い海賊と不死の大軍がいることだけです。本体の実力がどれほどかは、まだ不明です」シモンもアンドリアを止めようとした。
「いずれ戦う時は来る。ならば、彼らが足場を固める前に正面から叩くべきよ!」アンドリアは全力を尽くし、魔王と決戦することを主張した。
「アンドリア様、我々にはもっと情報が必要です……」ノクスは重い口調で言った。
「そう?! あなたは数か月も本サーバーにいながら、魔王が海賊と不死族の部隊を手に入れていたことさえ調べられなかった。それでよく、私に時間をくれなんて言えるわね?!」アンドリアの怒りの炎は、机上の地図を燃やせそうなほどだった。
「毎回の城戦で、我々は手一杯でした。防衛だけで人手は完全に吸い尽くされていた。魔王の動向を調べる余力など、どこにありましたか? Kanatheonの主力はロシアサーバーに常駐していましたが、彼らも魔王の手がかりを追う中で死傷者を出しています。これは全サーバーの責任です。アンドリア、すべての責任を一人で背負わないでください」ノクスは核心を突いた。
彼は、アンドリアがグズを守れなかったことを自分を責めており、それを理由に怒りをぶつけているのだと分かっていた。普段ならノクスはいつもアンドリアに譲る。だが、魔王への出兵は本サーバー全体の生死を決める。だからこそ、出兵は断固として拒まなければならなかった。
アンドリアは悔しさと怒りに唇を噛み締め、何かを言い返そうとしたまま言葉を失った。
「アンドリア様、ノクスはすでに城外調査の人員を手配しています。今、最優先すべきなのはKanatheonと連絡を保ち、情報を交換することです。できる限り魔王軍の動向を掴みましょう!」シモンが助け舟を出した。
「どれくらい時間がかかるの?!」アンドリアは焦って尋ねた。
「答えられません、アンドリア。どうか我々を信じてください。全員、すでに全力で動いています」ノクスは厳しい顔で言い、アンドリアの気勢は少しずつしぼんでいった。
「あなたは……私に何をしろと言うの?」アンドリアは悔しげにうつむき、地図を見つめながら尋ねた。
「飛んでください! 騎兵団を率いて、各王都の間を飛び回るんです。今、初心者たちは不安に揺れ、トッププレイヤーたちも自発的な行動を組織しようと蠢いています。あなたが姿を見せれば軍心を安定させられますし、同時に銀龍の刻印の求心力も高められます。状況が許すならプレイヤーたちの質問にも答え、皆を団結させて、共に敵へ立ち向かわせてください」ノクスは真剣に言い、地図を閉じた。アンドリアがこれ以上、軽率に出兵しないようにするためだった。
「プラムスの防衛は整っているの?」アンドリアは眉をひそめて尋ねた。
「ご安心ください、アンドリア様。すでに手配済みです」シモンは微笑んで答えた。
「いい知らせを持ってきなさい」アンドリアはそう言い残し、部屋を出る直前にふと振り返って、二人へ謝った。
「ノクス、シモン………ごめんなさい。さっきは言い方がきつすぎたわ」
「気にしないでください、親愛なる人」シモンは口先のうまさを発揮し、ここぞとばかりにアンドリアをからかった。
ノクスも笑ってうなずいた。彼はもうアンドリアとの付き合い方に慣れていた。
アンドリアは満足げに去っていき、ノクスの笑みはすぐに消えた。
「この戦いは、かなり厳しくなるぞ………」ノクスは改めて地図を開き、苦い表情で見つめた。
「ああ……大聖堂の火災は偶然じゃない。奴らは自分たちがグズの城を落とすことを分かっていて、時間を計算して俺たちの精鋭プレイヤーを焼き殺そうとしたんだ」シモンはうなずいた。
「この魔王は、ゲームの仕組みの細部をあまりにも理解しすぎている。いったい何者なんだ……」ノクスは重い口調で言った。
カンカンカンカンカンカンカンカンカン!
警鐘が突然鳴り響き、二人の顔色は一変した。彼らは武器を抜き、ギルド塔の外へ飛び出した。
鐘の音はすでに止んでおり、複数のメンバーがノクスのもとへ走ってきた。
「魔王軍か?!」ノクスが先に問いただした。
彼らの顔は紙のように白かった。まるで魔王軍に遭遇するより恐ろしいことが起きたかのようだった。
彼らの手には一本の矢があり、矢柄には一枚の紙が巻きつけられていた。
ノクスとシモンが一緒に手紙を広げた瞬間、心臓が鉄のように沈み込んだ。
西城勇が黒焦げになった姿で跪き、命乞いしている写真が手紙の中央に印刷されていた。その下には大きな文字が一行書かれていた。
【俺、西城勇は、降伏する】
「羅刹教が……降伏した?!」シモンは大きな衝撃を受けた。紅蓮山に根を張る羅刹教は常時百名以上のプレイヤーを抱えた、本サーバーでも頂点に近いギルドのはずだった。それが一瞬で打ち破られたというのか?!
「羅刹教が敗れた………」
その知らせは疫病のように、瞬く間にムー大陸の隅々まで広がっていった。
彼らは、新秩序がすでに降臨したことを悟った。
ノクスは右下に小さな文字があることに気づいた。
【Erwartet uns :) 】(我々を待っていろ)
これはもう、戦争ではない……心理戦だ……




