341 夢果つる日
ロシアサーバー――
一樹は高空からナスティアに撃ち落とされ、地面に叩きつけられた。落下ダメージでHPをミリ残りまで削られ、まともに動けなかった。
「ナ……ナスティア……」
その頃、ロシア側のプラムス城門はすでに陥落していた。影の旅団の連合軍が城内へなだれ込み、反撃能力のないロシアプレイヤーを容赦なく殺していた。
その時、逃げてきたロシア軍の一団が、草むらに倒れて息も絶え絶えの一樹を見つけた。
「おい! 魔王側の奴だ!」
「この忌々しいクソ野郎どもを殺せ!!!」
彼らは武器を掲げて突っ込んできた。一樹には抵抗する力もなく、ただ黙って処刑を受け入れるしかなかった。
ズドォォォン!!!
一発の巨大な火球が横から飛び込み、彼らを一瞬で灰に焼き尽くした。
「君か……加奈」一樹は痛みに耐えながら身体を起こした。
「黙って、ザコ。近くに敵が多いのよ」加奈は声を潜め、一樹に応急処置を施した。
その時、また別のロシア軍の一団が彼らのほうへ逃げてきた。
「こっちは安全だ! 早くこっちへ来い!」
加奈は慌てて一樹の口を手で塞ぎ、さらに彼の上に覆いかぶさって身体で隠した。敵が去るまで、そのままじっとしていた。
彼女の身体から漂う温かな少女の香りが、すぐに一樹の鼻を満たした。
「君……わざわざ僕を助けに来たのか?」一樹は驚きながらも嬉しそうに尋ねた。
「あんたがどれだけ愚かなのか見に来ただけよ……たかがナスティアなんていう、他サーバーの女の子のために……ザコ!」加奈は見下すように言った。
「嫉妬したのか?」HPが回復して体が楽になると、一樹はすぐに加奈をからかった。
「死にたいの、ザコ? 私はただ……ただ、希少な五次職を守っているだけよ!」加奈は慌てて弁解した。
「本当に素直じゃない子だな……君、ずっと友達がいなかったんじゃないか? だから僕の言葉を気にしているんだろ?」一樹はにやりと笑って言った。
「私……確かに、友達は少ないわ」
「正直に言えよ。加奈、友達なんて一人もいないんだろ! はははは」
加奈は彼の傷口に拳を叩き込もうとしたが、空中で手を止めた。その表情が、ふっと暗くなる。
「うん……」
「君の成長環境は、きっと楽じゃなかったんだな……」一樹は突然、真剣で優しい口調に変わり、加奈の最も脆い心の防壁に触れた。
「私の両親はとても古い考え方の人で……何事も兄を優先したの。私がどれだけ努力しても、成績がよくても、運動ができても、二人は私を見てくれなかった。同級生たちも、私の気性が荒いって言って仲間外れにしてきた。そうしているうちに、一人で生きることに慣れてしまったの」加奈は初めて自分の話をした。
「君、まだ高校生だろ? どうして一人暮らしなんだ?」一樹は驚いて尋ねた。
「別の街の学校へ通う必要があって、今は一人で暮らしているの。家族とはほとんど連絡していないわ」
一樹はようやく、加奈がいつも勝ち気で負けず嫌いな理由を理解した。
「だから、いつか誰かが私のために咲いてくれるって言ってくれた時、すごく嬉しかった。なんだか……私を嫌わずに、辛抱強く付き合ってくれる人が現れたみたいで」加奈は微笑み、腰からあの日一樹が出してくれた小さな黄色い花を取り出し、指に挟んでくるくる回した。
一樹は、自分の何気ない一言が、加奈にとって藁をも掴むような救いになっていたとは、思いもしなかった。
二人は気まずい沈黙に包まれた。一樹は慌てて話題を探した。
「お兄さんに、自分の気持ちを伝えたことはあるのか?」
「兄は……何もかも私より上で、私のことなんて見向きもしなかった。だから兄には海外留学の機会があったのに、私は自分の努力で偏差値トップクラスの超名門高校に合格したのに、両親は見て見ぬふり。ただ適当に、おめでとうって一言言っただけ。ありえないでしょ!」加奈は怒って言った。
「本当にすごいよ」一樹が言った。
加奈は突然、顔を真っ赤にした。
「からかわないで」
「本気だよ。僕なんて運よく、ぎりぎり大学に入れただけだ。でも君は自分の努力で名門高校に受かった。すごいことだよ」一樹は誠実に笑った。
「そう……?」加奈は胸が弾み、思わず甘い笑みを浮かべた。
「君はワインみたいに、時間をかけて味わう必要があるんだ。見る目のない人には、君のよさが分からないだけだよ」一樹は加奈の髪を撫で、笑った。
今回は加奈も怒り出さず、むしろおとなしく一樹のそばに座り、彼に慰められるままになっていた。
普段のように心を閉ざした憂いが、ようやく加奈から消えていた。一樹は思いがけず彼女を可愛いと感じ、加奈の頬をそっと撫で始めた。
加奈はリンゴのように頬を赤くしてうつむいたが、一樹にそっと顎を持ち上げられた。
一樹は加奈の、熟れた果実のように赤く小さな唇へ、ゆっくりと近づいた。
「あの……私、まだ……」加奈は一樹の意図に気づき、恥ずかしそうに顔をそらした。
「加奈……君が好きだ……」一樹は片手で彼女を胸に抱き寄せ、深く見つめた。
「待って、……ザコ……だめ……」加奈は拒みきれないまま、意味もなく一樹の胸を押した。
「目を閉じて」一樹は優しく言った。
「え?」加奈は大きく驚き、全身を震わせた。
「目を閉じて」
加奈は恐る恐るぎゅっと目を閉じた。胸の奥では鼓動が暴れ、息が詰まりそうだった。
一樹の脳裏には、ナスティアのことを含め、さまざまなことがよぎった。
だが彼は頭の中を空っぽにすると決め、身をかがめて唇を重ねようとした。
二人の唇が触れ合おうとした、その時――。
【しばらくお待ちください———————————】
……
本サーバー、グズ、三十分前――
「早くどけ! アンドリア様への伝言がある!」伝令兵はノクスの命を受け、グズの城からロシアサーバーへ入ろうとしていたが、東入口の衛兵に止められた。
「守備隊長の命令でグズは封鎖中です。誰も出入りできません」衛兵は拒絶し、持ち場を守り続けた。
「アンドリア様に伝えなきゃならない重要な伝言があるんだ!! プラムスが不死族に攻撃されている!」伝令兵は怒鳴った。
衛兵は聞く耳を持たず、彼を相手にしなかった。
本サーバーが攻撃されているという伝言は、誰にも届かないまま、城外で静かに遮られた……
伝令兵は衛兵を罵り、殴りつけたが、衛兵を半歩も動かすことはできなかった。その時、彼はちょうど空の彼方を飛ぶ巨大な影を見た。それは本サーバーの守護神……大天使長ブチャだった。
……
「終わった……」
ドン!
一発の砲弾が西入口を直撃し、NPC防衛線に血まみれの穴を穿った。何人もが砲弾に胴を断たれ、地面には手足や肉片が散らばった。
グズの城の海に面した西側に、百隻を超えるモキュア海賊戦艦が現れていた。彼らは三日月の陣形を組み、千近い黒々とした砲門がグズを睨んでいた。
「Feuer!(撃て)」
無数の砲が轟き、硝煙が艦隊全体を覆い隠した。
ドドドドドドドド!!!
肩を並べて肉壁を作っていたNPC衛兵団は、一瞬で消し飛んだ。地面に残ったのは砕けた鎧と千切れた手足だけで、数名の瀕死のNPCが自分の断たれた腕を抱え、地面に倒れて呻いていた。
強化されていなかった外壁は一面ごと崩れ落ち、グズの城の西側には百メートル級の大穴が穿たれた。
「殺せえええ!!!!」数千名の海賊が小舟から上陸し、大穴を抜けて城内へなだれ込んだ。
「守備隊長は?!」十数名の銀龍の刻印の幹部が各入口から内側の金字塔へ急いで戻ると、城内のプレイヤーたちが海賊と激しい市街戦を繰り広げている光景を目の当たりにした。
「奴は他の連中と何とかいう買い物組に参加して、まだ戻ってないのか?!」別の者が言った。
「まずい……」彼らは守備隊長が罠にかかったことを悟った。
……
ドン!!!!!
海賊船が再び砲撃し、西入口一帯の家屋を廃墟へ変えた。
海賊たちは片手に拳銃、片手に長剣を持ち、戦闘力は異常なほど凶暴だった。その実力は二次職プレイヤーに迫るほどで、さらに城内の守備軍を分断し、包囲していった。
「俺について突破しろ!!!」数名の守備兵が自発的に突撃し、十数名のプレイヤーを率いて街道上の海賊部隊へ攻撃を仕掛けた。
海賊たちは一斉に銃を構えた――ドドドドドドドドドドドドドド。
第一射を耐えきった守備軍の騎兵は、隣の騎乗馬がすでに主を失っていることに気づいた。
振り返ると、プレイヤーの半数近くがその場で射殺され、少数の聖職者と後衛だけが呆然と立ち尽くしていた。
ドン、と音を立てて、彼は不注意にも海賊の陣中へ突っ込んだ。騎乗馬はすぐに乱れ飛ぶ刃で斬り殺された。
彼は落馬すると、十数丁の拳銃を向けられた。
「こ、降伏する」騎兵はすべてを諦め、両手を上げて言った。
海賊たちは顔を見合わせ、それから得意げに笑った。
「降伏は受け入れる……でも、捕虜は取らないのよね……」一人の女海賊があざ笑いながらドイツ語でそう言い、拳銃を騎兵の眉間へ向けた。
ドン!
……
銀龍の刻印の幹部たちは二手に分かれた。一方は守備隊長の救出へ向かい、もう一方は敵の迎撃に回った。
「お前たち、早く俺について西側の敵を食い止めろ!」幹部たちは他のNPC部隊を指揮し、防衛線を組み直そうとした。
「守備隊長より、守備隊長が戻るまで持ち場を死守せよとの命令を受けています」だが衛兵は命令の実行にこだわり、鉄柱のように動かなかった。
「敵がもう城内にいるのが見えないのか?! 早く俺について来い!!!」幹部は怒鳴ったが、衛兵は彼を相手にしなかった。
ただ一人の幹部だけが、グズでの自分の名声値を使い、南側の守備軍を説得した。
彼が百名余りの衛兵を連れて内城へ入ると、海賊はすでに内側の金字塔の底部まで攻め込んでおり、生き残ったプレイヤーたちと死闘を繰り広げていた。彼はすぐに支援へ駆けつけた。
しかし、西入口は大きく開いたままだった。海賊の大軍はグズ城を蹂躙しながら、怒濤の勢いでなだれ込んでいった。
……
「北軍と東軍は動こうとしない!」幹部は内側の金字塔の天守平台へ戻り、慌ただしく軍議に加わった。
「なぜだ! モキュアは極東の海域にいるはずなのに、どうして極西のグズに現れるんだ?!」一人の幹部は取り乱し、ムー大陸の地図に向かって咆哮した。
「奴らはきっと南へ回り込み、西から奇襲を仕掛けたんだ!! 俺たちの防衛方針を、とっくに調べ上げていたんだ!」幹部は考えれば考えるほど恐ろしくなった。この魔王は、いったい他に何を仕込んでいるのか。
「何をのんびり話してる! 敵はもう階段の下まで来ているぞ。早く反撃しろ!!!」幹部たちは武器を抜いて敵を迎え撃った。
「駄目だ! 俺がロシアサーバーへ援軍を呼びに行く!」誰かが天守平台中央の転送門へ駆け出した。
いくつもの黒い影が突然その人物に飛びかかり、もつれ合いながら殴り合いになった。
「転送門を守れ! 一人でも転送門を抜けて助けを呼んだら、俺たちの負けだ!」和也は数十名の武装NPCとともに階段を駆け上がり、転送門周辺の空間を肉体で埋め尽くした。
天守平台はすぐに血戦へ突入した。銀龍の刻印の精鋭たちは何人も斬り殺したが、NPCは狂ったように命を投げ出して食らいつき、彼らがロシアサーバーへ救援を求めに行くのを必死に阻んだ。
ドドドドドドドドドド!
海賊たちは一歩ずつ迫り、守備軍の居場所を一段ずつ奪っていった。彼らは金字塔の階段上でイワシの缶詰のように押し合いへし合いになり、何人かは足を踏み外して脇から転がり落ちた。
「援軍はまだか?! 支援が必要なんだよ!!!!」幹部は天守平台の上で血まみれになりながら戦い、狂ったように叫んだ。
東入口へ突然巨大な影が突入し、彼女は横なぎに腕を振るって数十名の衛兵を吹き飛ばした。
ブチャは翼騎兵に続いてグズの城へ突入した。海賊たちが内側の金字塔を包囲攻撃しており、状況は危機的だった。
彼女は翼を羽ばたかせて高く飛び、内側の金字塔の底部にいる海賊軍の中央へ、致命的な突撃を仕掛けた。
ドン!!!
海賊の一帯が百メートルも蹴り飛ばされ、空中に何本もの鮮血の軌跡を引いた。
「ブチャが来た! 膝と翼を攻撃しな!」女海賊はブチャを見ても驚かず、仲間たちに相手の弱点を攻撃するよう指揮した。
数百名の海賊が拳銃を取り出し、一斉に射撃した。ブチャは黒翼で身を守らざるを得ず、しばらく攻撃できなくなった。
だが……
「はあっ!」一人の狂戦士が和也を追って斬りかかった。
和也は踊るように身をひねり、斧撃を避けた。余裕すらあった。
狂戦士は逆上し、大斧を掲げて力任せに振り下ろした。
和也は目を動かし、背後にいた銀龍の刻印の魔導士を自分の前へ引き寄せた。
ゴン!
狂戦士の大斧はちょうど魔導士の後頭部に叩き込まれた。だが、同じ陣営のためダメージは発生せず、それでも魔導士は昏倒した。
和也は短剣を後ろから魔導士の背中へ刺し込み、そのまま裂き開いた。
狂戦士は大きく驚き、もう軽々しく攻め込めなくなった。
【システムメッセージ: ギルド守護像 ブチャ大天使像 HP残り20%】
【システムメッセージ: ギルド守護像 ブチャ大天使像 戦闘から離脱中】
その時、ブチャは密集した銃弾によって重傷を負い、ちょうどニフェトが設定していた戦闘離脱用のHP安全ラインが発動した。彼女はすぐに戦闘から離脱し、傷の回復に入った。
海賊たちはブチャを追い払うと、再び天守平台へ攻め上がった。
最後まで生き残ったプレイヤーたちは、金字塔頂上の転送門の前に追い詰められた。
海賊たちは一斉に拳銃を掲げた……。
「ま……待ってくれ、俺たちは――」彼らはすぐに両手を上げて降伏した――。
ドドドドドドドド!
海賊たちは一人も残さず、すべての守備軍をその場で処刑した。
「魔法松明の準備はできているか?」和也は海賊の仲間に言った。
「できている」
「よし、ギルドの礎石を破壊しろ!」
彼らはギルドの礎石のそばにしゃがみ込み、次々と刃を振り下ろした。
【システムメッセージ: ギルドの礎石耐久度(97/100)】
【システムメッセージ: ギルドの礎石耐久度(65/100)】
【システムメッセージ: ギルドの礎石耐久度(48/100)】
【システムメッセージ: ギルドの礎石耐久度(33/100)】
【システムメッセージ: ギルドの礎石耐久度(12/100)】
【システムメッセージ: ギルドの礎石耐久度(00/100)】
【システムメッセージ: グズ湿台 にある銀龍の刻印のギルドの礎石 が破壊されました】
【システムメッセージ: グズ湿台王都戦争が終了しました。すべての王都戦争が完了するまで、殺戮状態機能を一時封鎖します】
「任務失敗……急いでハゲグの防衛へ戻る……」
ブチャは迷うことなく翼を羽ばたかせ、全速力で飛び、グズから逃れた。
ロシアサーバーへ通じる黒い転送門は、すぐに消えた。
和也はキーストーンを取り出し、慣れた手つきで下の鍵穴へ差し込んだ。
新たな黒い転送門が同じ場所に現れ、その表面に波紋が激しく揺れた。
全身を神器で固めた複数の源魔師が、転送門を抜けて本サーバーへ入ってきた。
金髪碧眼で白い肌をした一人の男の源魔師が、七枝の聖杖を手に本サーバーへ入った。
和也と他のプレイヤーたちは、すぐに頭を下げて迎えた。
「和也、魔法松明の準備はできているか……」源魔師が尋ねた。
「できています、ビスマルク元首」和也は胸を張って言った。
ビスマルクはサーバー時間を確認し、心の中で静かにカウントダウンした。
「Entzünden! (点火)」ビスマルクが命じた。
……
【しばらくお待ちください———————————】
「WTF?!」ロシアサーバーへ侵攻中だったプレイヤーたちは、まずいと直感した。
漆黒のトンネルを抜け、千人近いプレイヤーが同時に大聖堂の聖嬰室へ転送されて戻った。中では人が人の上に重なり、プレイヤーたちはまともに動けなかった。
「何が起きたの?!」ニフェトが真っ先に叫んだ。
「ノクス!! 何が起きたんだ?! まさか王都が落とされたなんて言うんじゃないだろうな!!!」アンドリアも同時に咆哮した。
「暑い……」
「おい!!! ここの草の山が燃えてるぞ!!!」
聖嬰室に保管されていた糧草が……ちょうど悪意ある放火を受けていた。
糧草から濃い緑の煙が立ち上り、聖嬰室を満たしていく。
イワシの缶詰のように押し込まれたプレイヤーたちは恐怖に呑み込まれ、多くの者が声を上げて悲鳴をあげた。
一部のプレイヤーは帰還のスクロールで王都の教会へ転送しようとしたが、火災のせいでシステムに戦闘状態と判定され、転送道具を使用できなかった。
「早く消せええ!!!」
「駄目だ! これは魔法だ!」
「私に任せろ!!!!!」
魔導士たちは慌てて糧草のほうへ押し進もうとした。だが、プレイヤーたちは緑の煙を吸い込むと意識がぼやけ始め、身体を制御できなくなっていった。
糧草には毒が仕込まれていた!
「だ……大地聖歌!」ニフェトは必死の思いで群衆の上へ聖杖を掲げ、仲間たちを回復した。
だが、糧草の火はますます激しく燃え広がり、端のほうにいた何人ものプレイヤーが炎に巻かれたまま、まったく身動きできなかった。
「うわああ!!! 痛い痛い痛い!! うわああああああああああ!!!!!!!!」彼は声が枯れるほど叫んだが、何の役にも立たなかった。生きたまま焼かれ、黒焦げの炭になった。
炎は一人からまた一人へ燃え移り、聖嬰室はたちまちこの世の地獄と化した。
本サーバーの数百名の精鋭、無数のギルマスや幹部が一緒に焼却炉の中へ閉じ込められ、次々と意識を失い、煉獄の劫火に焼き殺されていった。
一樹は大水流を呼び出そうとしたが、大聖堂の中には自然の力がまったく存在しないことに気づいた。
「助けてええ!!!」その悲痛な叫びが外へ届くことはなく、ただ虚しくかき消されるだけだった。
「どけ!」西城勇は大火の中を突っ切って壁際へ走り、拳を煉瓦壁へ叩き込んだ。
ドン! 大聖堂全体が震えたが、煉瓦壁にはひび一つ入らなかった。
ドン! もう一発叩き込んでも、反応はなかった。
「どけえ!」火野良は大剣を掲げ、煉瓦壁へ重く斬りつけたが、わずかに石片を削っただけだった。
彼らは、大聖堂が神恩の加護を受けており、煉瓦壁まで強化されていることに気づいた。本来は外敵を防ぐための壁が、自分たちを閉じ込めて殺す罠に変わっていた。
「聖職者は早く集まって!」ニフェトが慌てて言うと、複数の司教がギルドの区別もなく彼女のそばへ押し寄せ、一緒に聖歌を歌って仲間たちのHPを維持した。
他の者たちも役割を分担し、気絶したプレイヤーを火のそばから引き離していった。
ゴゴ……
大聖堂が揺れた。
ゴゴ……
天井から砕けた石が落ち、多くの者が負傷した。
ゴゴ……
聖嬰室上方の煉瓦壁にひびが入った。
ドン!
荒道一狼が拳で煉瓦壁を粉砕し、すぐに聖嬰室内の高温に喉を焼かれた。
数十人の柑々がロープを伝って降りてきた。
「早く! 早く逃げて!!!」彼女たちは力を合わせ、プレイヤーたちを運び出した。
「無垢なる聖間!」ソフィアは崩れた壁の外から叫び、聖嬰室の上方に金色の神符を召喚した。それが室内の魔法の火を押さえ込み、冷たい空気がようやく聖嬰室の中へ流れ込んだ。
「早く…………行って………」ニフェトと聖職団は最後の瞬間まで残ったが、体力が尽きて倒れ、最後は柑々に救い出された。
それでも、数十人が先ほどの大火で命を落としていた。
多くの者が重度の火傷を負い、大聖堂内の百名以上の修女が草地へ駆けつけ、負傷者の応急処置にあたった。
「どの城が落ちた?!」アンドリアは柑々をつかみ、咆哮した。
柑々の鏡体は無表情でアンドリアを見つめていたが、本体は恐怖で全身を震わせていた。それをアンドリアに見抜かれた。
「どの城だ?!」アンドリアは柑々の目の前へ詰め寄り、怒りを爆発させた。
「知らないよ! 私たちは大聖堂から煙が上がっているのを見て、すぐ駆けつけただけだよ!」柑々は瀕死の負傷者たちの呻きを目の当たりにし、恐怖でどうしていいか分からなくなっていた。
「ギルド画面を開いて確認しろ、馬鹿ども!」荒道一狼は腕を横に伸ばし、柑々を守った。
ニフェトは必死に意識を保ちながら確認した。ヴィニフ宮殿とハゲグは無事だった。
アンドリアはギルド画面を開いて見た瞬間、膝から力が抜け、地面に倒れ込んで呟いた。
「終わった……グズの城が落ちた……」
「彼らは神殿のキーストーンを持っていませんよね……?」ソフィアは口元を押さえ、驚いて言った。
「もし持っていたら……?」アンドリアは呆然とした顔で言った。
彼らは一瞬で沈黙した。もっと恐ろしい悪夢が、これから降りかかるのだと分かっていた。
この魔王は……ロシアやアメリカサーバーとは比べものにならない……まったく別次元の存在だった。
……
終わった……




