339 仕組まれた突破口
本サーバーのプラムス高塔――
「皆さん見てください! この極上の絹は手触りが滑らかで、涼しく通気性もいい。下着に仕立てれば防御力と耐熱効果までつくんです。惜しいのは、プレイヤーが手作業で作らなければならないこと。値段は宝石より高いんですよ。それなのにロシアサーバーでは、これを絨毯として床に敷いていたんです。あちらの労働力は、いったいどれほど安いんですか!?」ノクスは他の上層部と一緒に床へ座り、ロシアサーバーから持ち帰った特産品を味わっていた。
「この絹、俺たちのサーバーなら四万竜貨近くで売れるぞ。ロシアサーバーへの侵攻で、俺たちは大儲けだ!!!!」シモンは、自分たちが底なしの金鉱を掘り当てたのだと気づいた。
「食糧も輸入しないといけないわ。私たちのサーバーの米はもう数か月連続で不作よ。今はハゲグと教皇都市一帯でしか栽培できなくなっているし、プレイヤーたちも飢饉のせいでそちらへ集まっているわ」ブラミィが彼に忠告した。
「ブラミィ、うちのサーバーの人口調査報告はできているか?」ノクスは美酒を一口含み、尋ねた。
「そういう細かいことは、他の人にやらせてよ。面倒くさいわ」ブラミィは絨毯の上にだらりと寝転がった。
彼女は銀龍の刻印の代表としてロシアサーバーに常駐し、戦いに参加していたため、本サーバーの内政を管理したくなかった。
「ブラミィが絶対に面倒がってやらないのは分かっていたから、もう部下に完成させてある。グズの城は食糧不足が最も深刻で、プレイヤーの六割近くが流出し、深刻な過疎化に陥っている。プラムスも三割近く流出したが、大量の初心者が加入しているから、人口はまだ純増だ。ヴィニフ宮殿はほぼすべてのトッププレイヤーを受け入れ、教皇都市も最も人気のある中継地になっている。ハゲグの人口はプラムスと同じくらいだ」シモンは羊皮紙の報告書を取り出した。
「はあ……グズ城みたいな不毛の地、魔王プレイヤーの転送ゲート所在地に設定されていなければ、正直守りたくもないんだがな……ロシアプレイヤーがグズの城防衛に失敗した経験を参考にするなら、北と東の防衛を強化する必要がある」ノクスは絨毯の上にグズの地図を広げて言った。
「南と西は?」ロシアサーバーの話になると、ブラミィはすぐに起き上がり、議論に加わった。
「西は海沿いだから、そこまで心配しなくていい。むしろ東と北には大平原があって、敵軍が集結しやすい。そこを厚く守るべきだ」ノクスは地図を指し示しながら、丁寧に説明した。
「今はプレイヤーのほぼ半数がロシアサーバーの征服にかかりきりだ。これ以上、内戦を起こすことはない。警戒すべきなのは、魔王が操るNPCだけでいい」ノクスは地図をしまい、気楽に言った。
「そういえば、今うちへ侵攻してきている魔王の裏にいるプレイヤーは、どこのサーバーの奴なんだ? どうやって俺たちのNPCと意思疎通しているんだよ。まさか……俺たちの言葉が分かるのか?!」シモンは、なぜ魔王がここまで素早く、深く自サーバーのNPCを攻略できるのか理解できなかった。
「ありえないだろ? 世界はこんなに広いんだ。俺たちだってロシアサーバーでは行く先々で壁にぶつかった。ナスティアという内通者に出会えたから、少し順調になっただけだ」ノクスは気楽に手を振って笑った。
「そう……ナスティアという内通者に出会うまでは、ね……」ブラミィは意味深に繰り返し、皮肉げに笑って絨毯の上に寝転がった。
ノクスははっと悟り、顔色を青くした。
「待て……内通者だと?!」
「ん?」シモンは訳が分からず、同じく困惑しているブラミィと顔を見合わせた。
……
グズの城――
ここはまるでもぬけの殻のようで、守備兵たちは暇を持て余し、勝手に楽しんでいた。
銀龍の刻印の男女二人のメンバーが、酒場で話していた。
「おい……銀龍の刻印のお二人さん!」一人の毒剤師が近づいて声をかけた。その口調はひどく狡猾だった。
二人は警戒し、すでに手を武器にかけていた。
「座ってもいいかな?」毒剤師は笑って尋ねた。
「名前は?」男メンバーが問い詰めた。
「春野玄。これが俺のキャラ情報だ。確認してくれ」春野玄は簡潔に答えた。
二人は春野玄のそばへ回り込み、彼のキャラ画面を確認した。情報に誤りはなかった。
「すみません。城戦が近いので、少し厳しくしているんです。どうぞ座ってください」
「構わないよ。厳しいくらいのほうがいい。なあ……俺、ロシアサーバーから伝説武器をまとまった数、こっそり運び込んだんだ。興味あるか?」春野玄はにやりと笑った。
「ロシアサーバーから本サーバーへ運び込まれた物資は、全部報告が必要なはずよ。どうやって密輸したの?」女メンバーが驚いて尋ねた。
「密輸って言ってるだろ……そこは商売上の秘密ってやつだよ」春野玄は、分かったような分からないような答えを返した。
「俺たちが君を領主の間へ連れていって尋問するとは思わないのか?」男メンバーが彼を脅した。
「俺の身には何の品物もない。罪には問えないだろ? 考えてみろよ。市価一万竜貨の神器を三千で売るんだ。どうだ?」春野玄は自信ありげに眉を上げて笑った。
二人は春野玄について、グズ南側の小屋へ向かうことにした。
「入ってくれ。品物は中だ!」春野玄は微笑みながら扉を開けた。
「待て!」男メンバーは黒布で春野玄の目を覆い、彼を女メンバーへ渡した。
「俺が悲鳴を上げるか、何かあったらこいつを殺せ」
女メンバーはうなずき、春野玄を地面に押さえつけ、長剣を彼の首筋に突きつけた。
男メンバーは聖杖を掲げ、ゆっくりと扉を押して中へ入った。
しばらくして……
「うわああ!!!!!!」男メンバーが叫んだ。
「やっぱりあんたは――」
女メンバーは即座に剣を押し下げ、突き刺そうとした――。
「早く入って見ろよ!」男メンバーは興奮して大声で叫んだ。
女メンバーは慌てて長剣を引き上げ、春野玄を押さえたまま小屋の中へ入った。中には金色に輝く武器がぎっしり置かれていた。
【伝説の騎士王長剣 (片手)
*エクス……オーバーだあああああ!!!
要求レベル:780
物理攻撃力:800
魔法攻撃力:2300
固有効果:『不可視の結界』、攻撃時、剣身が透明になる】
【ファウストの指輪(指輪)
*死体は生者より信じられる……
レベル要求:50
特殊効果:『無尽の奴役』、魔物(中型以下)を撃破した時、25%の確率で相手の死体を5分間支配する】
並んでいるものはすべて、希少なエピック装備か、伝説級のレジェンダリー装備だった。
「ここにあるの、全部見たこともない上等品じゃないか!!!」
二人は子供がクリスマスプレゼントを探すように、興奮して宝物を漁った。
「もっといい品もあるぞ」春野玄は笑って言った。
「早く見せて!」男女のメンバーは待ちきれない様子で言った。
「待て待て。君たちだけじゃ購買力に限界がある。もし五十人の客を紹介してくれたら、君たちをVIPに昇格してやる。新しい品が入った時は、優先的に購入できるぞ」春野玄は宝箱を閉じ、二人へ言った。
「五十人だと? どこで五十人も探すんだ?!」男メンバーは眉をひそめた。
「グズには駐屯部隊がいるじゃない! あの人たちも退屈で仕方ないはずよ!」女メンバーははっとして言った。
「言っておくが、俺の倉庫にはもっといい品がある。警備兵を連れてくるような真似をしたら、仲間が品物を全部移す。妙なことはするなよ」春野玄は眉をひそめ、二人に警告した。
「分かった! 次はいつ会う?」二人は待ちきれない様子で尋ねた。
「攻城戦の時にしよう。どうせ誰も攻めてこないし、君たちも全員きっちりログインしているだろうからな」春野玄は提案した。
「よし! 攻城戦開始から六時間後、この小屋で会おう」男メンバーは興奮して言った。
「約束だ!」春野玄は満足げに大笑いし、二人が去っていくのを見送った。
周囲に誰もいないことを確かめると、彼は二階へ上がった。そこではドーンと和也が彼を待っていた。
「彼らは同意しましたか?」ドーンが尋ねた。
「もちろん同意したよ。こんな伝説武器、誰が拒めるんだ?」春野玄は腰帯に差した神器を見せ、得意げに言った。
「時間は」NPCが冷たく尋ねた。
「攻城戦初日、六時間後だ」春野玄は答えた。
「よし。これは忠誠への報酬だ」NPCはゴミでも投げるように、伝説の革鎧を二つ放った。
「うわっ! 本当にありがとうございます!!」
春野玄は飢えた犬のように装備を拾い上げ、その姿には品のかけらもなかった。
「我々は金銭を求めているわけではありません。大聖堂を攻め落とした後、荒道一狼を我々に引き渡してくれればいいだけです」ドーンは神器など気にも留めず、復讐だけを見ていた。
「いえいえ、和也様。私たちは大人しくあなたの言いつけどおりに動きます」春野玄はすぐに口を挟んだ。和也が神器の供給をやめることを恐れていた。
「余計な要求はするな」和也は窓を押し開け、幽鬼のように去っていった。
だが、魔王陣営には確かに本サーバーの言葉に通じたプレイヤーがいた……
……
「俺たちは金のために奴の仕事をしてるんじゃないぞ!」ドーンは口汚く怒鳴った。
「もちろん金のためじゃないさ。でも、ついでに稼げるなら完璧だろ?」春野玄は満足げに伝説の革鎧を確認した。
「彼らがどうやってこれほど多くの上等な装備を手に入れたのか、非常に怪しいですね」ドーンは革鎧を拾い上げ、不審げに言った。
「どこから来たかなんてどうでもいい。使えればそれでいいんだよ!」春野玄は気にする様子もなく言った。
ドーンは装備の性能を確認した。いつもどおり、性能とは別に、和也が供給する武器にはいくつか灰色になった能力があり、表示は??????となっていて、読むことも使うこともできなかった。
「怪しいですね……」
……
やはり……最も恐ろしい敵は、いつだって身近にいるものだ――




