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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第二十六章——極限の火種
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303 極限の火種

「よぉ~桐司。パシュスが主力を連れて北へ行ったぞ」

数人の暴君がハゲグ門前の焚き火を囲みながら笑う。


「ああ、知ってる。魔王の仕業で十人以上やられたらしいし、相当焦ってるんだろ」

桐司は眉をひそめた。


「手伝いに行くか? もし魔王の主力軍と当たったら、大戦争になるぞ?」

暴君の一人が尋ねる。


「焦るな。これから先、嫌でも大戦続きになる。今回はあいつ一人にやらせてみろ」

桐司は感慨深そうに笑い、暴君たちの輪へ腰を下ろした。


「ふ~ん? 本当は失敗してほしいんじゃない?」

女性の暴君が肘で桐司を小突き、からかうように。


他の暴君たちもすぐ囃し立てた。


「ははは! 桐司、お前ほんと性格悪いな!」


「意味が分からないな……」

桐司は薪を火へ放り込み続け、視線を逸らした。


「黒真珠の戦いで必死に戦ってたのって……ニフェトのためでしょ?」

女暴君がニヤつく。


「お、お前ら何言ってんだ?! 俺は役目を果たしただけだ!」

桐司は慌てて否定した。


「ふふっ、女の目をごまかせると思った? 教えてあげる―――男が女を好きになるとね、その目だけは隠せないのよ!」

女暴君は桐司を指差して大笑いした。


「だから普段パシュスとの行動避けてたのか~! なるほどな!」

他の暴君たちも一斉に茶化し、桐司はますます居心地悪そうになる。


「おい、桐司! 早く上がって来い!」

城壁の上から狙撃手が叫んだ。


「どうした?」

桐司は城壁へ駆け上がり、狙撃手から偵察ドローンを受け取る。


ハゲグ南部の鉄耳山脈に、百以上の黄色い光点が集まっていた。


「鉄耳山脈……影の旅団か?」

桐司は眉を寄せて考え込む。


「連中がここまで大規模に集結した事はない。間違いなく重要情報を掴んでる」

狙撃手は狙撃銃で遠方の砂漠を覗くが、異常は見当たらない。


「まさか……他の狙撃班は?! 周辺巡回してたはずだろ!」

桐司は焦って問い詰めた。


「全員、北の魔王調査へ回された……」


「おかしい……ずっと平穏だったのに、パシュスが北上した途端に兵を集め始めた……」

桐司は考えれば考えるほど胸騒ぎが強くなっていく。


「おい桐司、行くのか? ニフェトにいいとこ見せて来いよ!」

暴君たちは輝く大剣を担ぎながら、城壁下で笑っていた。


「いや……これは俺たちの役目じゃない」

桐司は仲間の命を危険へ晒したくなかった。


「俺たちは出番こそ少ないけど、弱いわけじゃないぞ~。ギルドの礎石を襲いに来たコソ泥は、全部返り討ちにしてきたんだからな!」

他の暴君たちが笑う。


「ほら~ニフェトが待ってるぞ~」

女暴君がからかうように笑った。


桐司は苦しそうに葛藤した。


「勇者様」

「勇者様、こんにちは」

「こんばんは、勇者様」


二百人ものNPCが赤い大屋敷を囲むように立ち、プレイヤー部隊の到着にもまるで警戒の色を見せない。


「こいつら……敵意がないぞ」

シモンは眉をひそめてパシュスへ言った。


古志はNPCを一人引っ張って来て問い詰める。


「勇者様、どうしてこんな乱暴をするんですか!?」

NPC商人は怯え、古志への好感度が下がった。


全員が無言で顔を見合わせる。NPCたちは魔王に操られているようには見えなかった。


「なぜ深夜にここへ集まっている?」

古志が尋ねる。


「ルードさんが今夜集まりがあるって言ったから、招待されて来ただけです! 何かあったんですか?」


「ルードって誰だ?」

寧々が聞く。


「連絡役の知り合いです」

NPC商人が答えた。


別のNPCを十人以上尋問しても、返ってくる答えは全く同じだった。


「どうする?」

古志がパシュスへ視線を向ける。


「まずは赤屋敷を調べる」

パシュスは命じた。


連合軍はNPCたちを脇へ押しやり、パシュスは盾を構えて自ら木扉を蹴破る。


屋敷の中には大量の蝋燭が灯され、まるで邪教の礼拝堂のような不気味さだった。


中央には巨大な幕が垂れ下がり、そこへ血文字で「開けるな」と書かれている。


布の前には死体が吊られ、その指先は鍵の掛かっていない木箱を示していた。


「開けるか?」

パシュスは古志に判断を仰いだ。


「絶対罠だ。でも開けるしかない……護心石は持ってるか?」


パシュスは頷き、片手剣で慎重に木箱を開けた。


中に入っていたのは白紙一枚だけだった。


そこには―――『勇敢 :)』と書かれている。


【おおおおおおっ!!】


突然、外から凄まじい鬨の声が響き渡った。


「パシュス! NPCたちが暴動を起こしました!!」

親衛隊が赤屋敷へ飛び込み、大声で叫ぶ。


パシュスは即座に大盾を掴み、そのまま戦闘へ飛び出した。


「Sind wir spät?(遅かったか?)」


「Nein, genau richtig.(いや、ちょうどいい)」


数百もの霊体が同時に転送門から溢れ出し、一瞬で魔都全体を照らし出した。


彼らは言葉を交わす必要すらなく、同時にNPCたちへ憑依し、連合軍へ襲い掛かる。


【ギルドメッセージ:(狙撃手)幹部注意!! 羅刹教の部隊が大聖堂狭道を突破、東部へ進軍中!!】


「パシュス!!!」

古志は戦いながら叫び、パシュスへ手を振った。


パシュスは複数の敵を盾で弾き飛ばし、古志の元へ駆け寄る。


「どうした!?」


「羅刹教が狭道を突破した! 東部へ向かって進軍してる!」

古志は戦闘中にもギルドメッセージを確認し、狙撃手からの警告を見て顔色を変えた。


「なんでこのタイミングで?!」

パシュスは、連合軍がNPCとの激戦で完全に足止めされている現状を見て歯噛みする。


「誘き出されたんだ!」


「古志、ここは任せられるか?!」

パシュスは焦って叫んだ。


「大丈夫だ! NPCはHPが高いだけだ! 早く銀龍の刻印から翼騎兵を借りて戻れ!!!」

古志が怒鳴ると、寧々は妖狸を召喚し、多数の敵を相手に踏ん張った。


「はぁ!? こっちは翼騎兵数人しかいねぇぞ!」

シモンは狙撃銃を下ろし、怒鳴り返す。


「西軍の羅刹教が狭道を突破した! このまま東へ向かってる!!」

パシュスは切羽詰まった声で叫んだ。


「なっ……何だって?!」


鉄耳山脈入口前の平原―――――


無数の血掌旗と黒影旗が、互いに睨み合っていた。


レナと西城勇は軍勢の中から歩み出て、ゆっくりと影の旅団の部隊へ向かう。


影の旅団側からは、白と黒の二人が前へ出た。


「火野良はどこだ?」

西城勇は交渉役が火野良本人ではないと知り、怒鳴る。


「城で待ってる。会いたいなら一人で山を登れ」

白は遠慮なく答えた。


「ふん、俺たちがまた姑息な罠に引っ掛かるとでも?」

レナは鼻で笑う。


「まずは自分のギルド連中を管理しろよ。しょっちゅう俺たちの経済区を荒らしやがって。火野良は何度も我慢してたんだ。本気で俺たちが怖がってると思ってたのか?」

ハクが嘲るように言った。


「お前……柑々の宴で見たな」

西城勇はハクの隣に立つ黒騎士を指差す。


「まぁ……」

雨間刻は気まずそうに頷いた。


「なぜ影の旅団なんかに入った?」

西城勇は見下すように問い掛ける。


「それなりの理由がある」


「やっぱり影の旅団なんて寄せ集めだな」

レナが嘲笑した。


「用件があるなら伝言を残せ。火野良には伝えておく」

白は無意味な口論を打ち切る。


「俺たちを騙してるのか? 火野良がログインしてるなら、城に引きこもってるわけないだろ」

レナはせせら笑い、西城勇と嫌な笑みを交わした。


「火野良は……城にいる」

白は言葉を詰まらせた。


「用があるなら伝言、ないなら帰れ。やるなら付き合う」

雨間刻が冷たく言い放つ。


「坊主。あの日の宴じゃオカマみたいにビビって何もできなかったくせに。好きな女一人守れず、今さら格好つけてんじゃねぇよ……」

西城勇は口角を吊り上げた。


「つまり……やるんだな?」

雨間刻は黒の騎槍を引き抜き、ザッと地面へ突き立てる。


「三十分で影の旅団の城を三つ潰す。火野良が戻ってきた頃には、仲間は皆殺しだ。そのあと紅蓮山まで来させて、最後は俺が直々に叩き潰してやる」

西城勇は薄く笑い、羅刹教の百人軍へ戻っていった。


「なんで言い返したんだよ!?」

白は慌てて問い詰める。


「関係ない。あれだけ人数を連れて来た時点で、どうせ戦う気だった……キティは?」

雨間刻は軍へ戻りながら布陣を始め、そこでキティの存在を思い出した。今の戦場なら、ちょうど役立つはずだった。


「『戦わない』って言ってログアウトした」

白は頭を抱える。


「羅刹教は修羅と狂信者が主力だ。継戦能力は低い。最初の猛攻さえ耐え切れば、勝てる!」

雨間刻の号令で、影の旅団の部隊が動き始めた。


「西城様、今回の相手は強いです。油断なさらず」

レナは険しい顔で言う。


「俺が中央を押し潰す。お前は精鋭を率いて左翼から突撃しろ」

西城勇は数の優位を理解し、それを最大限利用するつもりだった。


血掌旗がゆっくり前進する。


旅団側も次々と強化を掛け、迎撃態勢へ入った。


「羅刹教の底力を見せてやれぇぇぇ!!」

西城勇が咆哮する。


複数の狂信者が同時に過負荷を発動し、眩い光の塊となって飛び上がろうとした瞬間―――


「絶! 対! 君! 臨!」

「絶! 対! 君! 臨!」

「絶! 対! 君! 臨!」

「絶! 対! 君! 臨!」

「絶! 対! 君! 臨!」


ドォォォォォン!!


五本の雷光が地面へ叩き落ちた。


天地が揺れ、全員が同時に地面へ倒れ込む。


両軍は一斉に足を止め、攻撃できなくなった。


「止まれ!!」

西城勇は即座に進軍を止め、煙が晴れるのを待つ。


五人のタイラントが黄金の大剣へそれぞれ足を掛け、円陣を組むように宙に留まっていた


その中央――金竜へ騎乗した桐司が、Kanatheonの旗を手に立っている。


「ニフェトギルマスの名において命じる! 全員下がれ!!」

桐司が腕を振り上げて咆哮し、金竜もそれに合わせて唸り声を上げた。


「忌々しいKanatheonめ……」

レナは魔導書の紋章が刻まれたギルド旗を怒りの目で睨みつけた。


桐司と五人の暴君は、怒涛の中に置かれた小石のように、二つの潮流を隔てていた。


「おいおい……この場面、想像以上に刺激的じゃねぇか。ははっ!」

五人の暴君は百戦錬磨だったが、百人以上に平原で囲まれた経験はなかった。全員のアドレナリンが跳ね上がり、神経が研ぎ澄まされていく。


「休め!」

白はKanatheonの軍旗を見るなり、影の旅団に武器を下ろすよう命じた。下手な接触で戦闘が始まるのを避けるためだった。


深夜の涼風が吹き抜けるが、草原の空気はますます熱を帯びていく。


「Kanatheonの者ども、さっさと道を開けなさい。拳も刃も、当たってからでは遅いわよ」

レナは長槍で桐司を指し、怒鳴った。


「レナ副長、協定では東西軍は狭道を半歩も越えないと定められています。なぜ兵を率いて東部領域へ踏み込んだのですか?」

桐司はKanatheonの軍旗を掲げ、わざと堂々とした口調で問い返した。


心臓は激しく脈打っていた。だがサーバーのため、ギルドのため……そしてニフェトのために。桐司はこの場へ出て、事態を調停すると決めた。


「さっき羅刹教の本城が毒ガス弾で襲撃され、二十人以上がその場で毒で即死した。あなたたちはなぜ防げなかったの?!」

レナは激怒して言い返す。


「すでに調査員を派遣しています。この件は見た目ほど単純では―――」

桐司は説明しようとした。


「まだ旅団をかばう気?! 協定には、ギルド間戦争を厳禁し、戦力は外部サーバー征討に温存する。あらゆる武力衝突は銀K連合が鎮圧すると書かれているわ。私たちは何度も襲撃された。あなたたちは何の責任を取ったの?! ノクスかパシュスを呼びなさい!」

レナは怒りを爆発させ、同盟の代理ギルマスとの面会を求めた。


「二人は今、対応中です。現在は俺が―――」

桐司は胸を張って言った。


「あなたは何者なの?! 羅刹教に説明できるなら、私たちは自然に退くわ!!」

レナの鋭い声は頂点に達し、かえって冷徹な響き。


西城勇は終始一言も発さず、ただ静かに桐司を見つめていた。


実のところ、今回の出兵はレナの意志ではなかった……西城勇本人の命令だった。


西城勇が襲撃状況を尋ねるたび、レナはあえて事を小さく伝えてきた。衝突を避けるためだった。だが―――今回、本城が爆破されるところを彼はその目で見てしまった。


「俺は……Kanatheon幹部の桐司です。この件は必ず、俺自身がアンドリアとニフェトに報告します。二度と―――」

桐司が答えている途中、西城勇が前方へと身を翻し、大炎の拳を叩き込んだ。


ドン!


火花が四散し、女暴君が横薙ぎの大剣で西城勇の攻撃を受け止める。


「Kanatheonの使者を攻撃するなんて……正気なの?!」


彼女はすでに西城勇の様子がおかしいと察していた。彼が殺気を放った瞬間黒衣を羽織った瞬間、すぐさま桐司の前へ飛び込んだのだ。


桐司の手にあったKanatheonの大旗に火が移り、瞬く間に炎へ呑まれて布切れとなる。


「西城勇様!」

レナと数名の狂信者が慌てて西城勇を引き止めた。


だが彼の顔は氷のように冷たく、宴で見せた間の抜けた姿とはまるで別人だった。


「どけ……」


「早く退いた方がいい……」

レナは目で桐司へ警告した。今夜は必ず血の海になる。


金竜の不安がゆっくりと桐司の胸へ伝わってくる。彼は前方にいる五人の仲間を見つめ、さらに手元の焼け焦げた軍旗を見た。


ここで退けば、Kanatheonの統治の威信は風に消える……


「羅刹教! 今すぐ下がれ!!!」

桐司は軍旗を投げ捨て、熱線騎槍を構えて西城勇へ突きつけながら怒号した。



本当に耐えられるの……? さすがに無茶だよ……

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