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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第二十六章——極限の火種
303/332

302 落とし穴

主人公たちがロシアサーバーで失われた歴史を追う一方、本サーバーでは静かに異変が広がっていた。


『人類自衛同盟』を名乗るNPC反乱組織。


互いを牽制し合う羅刹教と影の旅団。


そして今日――


彼らは、決して見つけてはならないものを見つけてしまう。

本サーバー――


「M-Bombe ist bereit.(M弾は完成した)」


「Lass uns anfangen.(始めよう)」


プラムスの貧民街の片隅にある小屋から、NPCの一団が巨大な毒ガス弾を引き出した。彼らは数人がかりで、それを馬車へ運び上げていく。


いったい、どこへ向かうつもりなのか?


ジッ、パチン!

古志はしつこい蚊を一撃で叩き潰した。


「真子、最近ハゲグの近くに引きこもってるけど、何してるか知ってる?」寧々が興味深そうに尋ねた。


「素材集めとかじゃないか? それより俺たちの進捗を気にした方がいい。魔王の消息が途絶えて、もう半月近いぞ」

古志はNPC同盟の情報を机いっぱいに広げて調べていた。


「緊張しすぎじゃない? 今の魔王、あまりゲームが上手くなさそうだし、魔都の防衛システムもほとんど強化してないでしょ。あと一か月の保護期間が終われば、そのまま潰しに行けるよ。怖がらなくていいって~」

寧々はまったく心配していなかったが、古志の胸のつかえは消えなかった。


この魔王は、あまりにも目立たなすぎる……


その時、一人の衛兵が扉を開けて入ってきた。表情は険しい。


「報告します。ハゲグ南方の沼地奥で小屋を発見しました。見慣れない黒熊の旗が掲げられており、入口には『同盟本部』との表記が確認されました」

衛兵が報告した。


「初級部隊を送って確認させろ」

飛び回る蚊のせいで古志は苛立ちを募らせ、気分転換に屋上へ向かうことにした。

...


「見ろ、この見事な大地を」

古志は満足げに塔の頂上へ立ち、ムー大陸を見下ろした。


「ん~アンドリア、またプラムスの塔を高くしたね」

寧々は遠くを眺めて眉をひそめた。


南には雲を突くほど高い塔がそびえている。


「同盟を結んでから武力で競う事はなくなった。その代わり、ギルド塔の高さで勝負するようになったんだ。まったく子供っぽい」

古志は苦笑した。


ジッ、パチン!


「この蚊、本当にうっとうしいな!!」


「三週間くらい前から増え始めたんだよね。ハゲグ湖の水も調べさせたけど、何も見つからなかったよ」

寧々は訳が分からない様子だった。


「報告によると、ムー大陸全体、特にプラムス周辺の家畜が蚊に襲われて大量死しているらしい。そのせいで食料と補給品の相場が上がっている。原因は、川の毒蛙がなぜか絶滅して、蚊が天敵を失って大量発生した生態系の崩壊だ。どうしてゲームがここまで細かく作られてるんだよ……」

古志は忌々しげに言った。


「生態系の崩壊?! かなり深刻じゃない!」

寧々は驚いた。


「根本的に解決するには、ロシアサーバーから毒蛙を持ち込むしかない。でもニフェトたちは神殿のキーストーンへ向かっているらしいし、邪魔はしない方がいい。もう少し我慢しよう」

古志はそう言いながら、また数匹の蚊を叩き潰した。


「早くロシアサーバーに行きたいな~。もう長いこと戦ってないし」

寧々は退屈そうに杖を振った。


「プラムスの闘技場に行けばいいだろ。あそこは年中無―――」


【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】


「……………………」

古志と寧々は突然表示されたシステムメッセージを呆然と見つめた。

...


空気が一変し、ギルドホールにはKanatheonの隊長クラスが数十人も押し寄せていた。


「間違いなく魔王が動き出したんだ!」

「敵対プレイヤーに遭遇したんじゃないか?」

「Kanatheonを見て攻撃してくる奴なんかいるか?!」

好き勝手に言い合い、数十人が騒然と議論を続ける。


「静かにしろ! 現場にいた奴に説明させろ!」

古志は木机を叩き、死亡後に復活したプレイヤーへ説明を求めた。


「俺たちはあの黒熊の小屋を調査してました。ノックしても返事がなく、扉を破って侵入したんです。すると突然、煙が充満してきて、多数の人間NPCに包囲されました。そのまま乱戦になって、俺は煙の中で斬り殺されました……」

騎兵が報告した。


「最初から待ち伏せされていたか……」

古志は考え込む。


その時、一人のNPC衛兵がホールへ駆け込んできた。


【古志隊長、報告します!我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

衛兵が報告する。


「またか?! 場所はどこだ?!」


【幽語の森西部の小屋です】


そこへさらに別の衛兵が駆け込んできた。


【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

別の衛兵も報告する。


「場所は……?」

古志は内心驚きながら尋ねた。


「大聖堂の隣にございます」

衛兵が答える。


すると慌ただしい足音と共に、十数人の衛兵が一斉にホールへ雪崩れ込んできた。


【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】

【報告、古志隊長。我々は新たに同盟の秘密小屋を発見しました】


ホールは静まり返り、全員が古志を見つめた。


「全隊長は精鋭部隊を率いて各地の小屋を捜索しろ。狙撃手を直ちに同行させ、待ち伏せを防げ。急げ!」

古志は必死に場を統制しながら、同時にパシュスと銀龍の刻印へ報告を送り、地図へ小屋の位置を書き込んでいく。


「すごく巧妙に隠されてるね……」

寧々はムー大陸各地に散らばる小屋の位置を見て驚嘆した。


森、沼地、洞窟、さらには水中にまで人類自衛同盟の小屋が発見されていた。


「どうして同じタイミングで現れたんだ……」

古志はまったく答えが出ず、地図を睨み続ける。


三十分後、パシュスがハゲグの塔へ戻ってきた。


「古志、状況はどうなってる?」

パシュスは髪留めを外して金髪をかき上げ、そのまま地図へ歩み寄った。


ニフェトと六口弥生がロシアサーバーへ移ってから、彼が代理ギルマスの役目を担っていた。カミコほど先を読む事はできず、足りない分を自分の足で補うしかなかった。


「衛兵から複数の隠し小屋発見の報告が来ています。さっき下位部隊を一つ偵察へ向かわせたんですが全滅しました。だから今は精鋭部隊を投入しています」

古志は地図上の赤点を指し示した。


「この時間だと、もうかなりログアウトしてるだろ。精鋭部隊の人数は足りてるのか?」


「足りません。中位部隊まで動員して穴埋めしています。狙撃手も十数人集めて連携させていますが、こちらには十分な魔導士が―――」

古志は焦りながら説明を続けた。


【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】


「中位部隊だ!」

パシュスはさらに多数の死者が出たのを見て、一気に緊張を強めた。


「20%警告が出ていない。一撃死されたか、救援要請も出せなかったんだ。あの隊には―――」

古志は小隊構成を分析する。


【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】

【システムメッセージ: ギルドメンバー XXXX HP残り0%】


「精鋭部隊まで?!」

その場の全員が息を呑んだ。


【ギルドチャンネル パシュス:全員行動停止!! 全任務を中断しろ!! その場で待機!!】


百羽以上の白い小鳥がギルドホールの窓から飛び出し、夜空へ散っていく。


「どうするつもりだ?」

古志は眉をひそめて尋ねた。


「俺が直接見に行く。お前たちも同行しろ」

パシュスは、自分の管理下でギルドにこれほどの犠牲が出た事を受け入れられず、足早にハゲグの塔を出て行った。


「でも人手が足りないよ!」

寧々はパシュスの腕を掴み、慌てて問いかける。


「プラムスの主力を撤退させる。その間は銀龍の刻印に防衛を任せる」

パシュスは迷いなく答えた。


「待って! 先に銀龍の刻印の部隊集結を待った方がいい! もし私たちが離れた隙に、羅刹教が狭道から影の旅団へ攻め込んできたらどうするの?!」

古志は顔色を変えた。


パシュスはそこでようやく我に返る。


「チッ……」


ノクスは報告を受けると即座に銀龍の刻印を招集し、シモン率いる部隊へKanatheonの防衛引き継ぎを命じた。


両軍はプラムス北部の平原で合流し、慌ただしく情報交換を始める。周囲のプレイヤー動向まで気を配る余裕はなかった。


「気をつけろよ~」

シモンは苦笑しながらパシュスの肩を叩き、パシュスはそのままKanatheon主力部隊を率いて北へ進軍した。


その混乱の隙を突き、一隊の交易馬車がプラムスを出発し、グズへ向かっていく―――だが、混乱するギルド側は誰一人として……


馬車はゆっくり西へ進み、高山と渓流を越えていく。


やがて分岐路で停止した。


左は紅蓮山、右はグズ湿台。


車列はゆっくりと紅蓮山方面へ進路を変える。


「レナ様、交易馬車隊が到着しました!」

羅刹教の見張りが報告した。


「どうして遅れたの? また影の旅団に襲われたんじゃないでしょうね。城へ運び入れなさい!」

レナは苛立ちながら命じた。


彼女は城壁の上から、山道を登ってくる馬車隊を監視していた。


「開門!」

レナが命じると、血掌門がゆっくり開き始める。


「何か問題でもあったのか?」

西城勇がホールの奥から姿を現した。


赤髪は濃い茶色へ変わり、皮膚にも深い皺が刻まれ、以前よりすっかり年老いたような印象を与えていた。


「交易馬車が遅れたのよ」

レナは教徒たちが馬車へ登り、積荷を調べる様子を見下ろしていた。


その時、西城勇は一台の馬車の上空で、大量の飛蚊が次々と墜落しているのを目撃する。


「危ない!! レナ!!」

西城勇は閃光のような速度でレナへ突進し、彼女を突き飛ばしたまま二人まとめて城壁下へ転落した。


直後、緑色の光が爆ぜ――ブシャァァッ!


羅刹教の本城から、巨大な毒雲が噴き上がった。


パシュスは圧倒的な武力で複数の小屋を制圧したが、発見されたのは毒蛙から作られた小型の毒煙弾だけだった。


「報告です、パシュス様……我々は大型の屋敷を発見しました……およそ二百名のNPCが集結しています」

一人の衛兵が再び報告する。


「またか?! 待て……この情報、誰が集めてる? 早すぎるだろ」

古志は情報源に疑念を抱き始めた。しかし報告内容はあまりにも正確で、どこがおかしいのかすぐには分からない。


「二百人だと……銀龍の刻印へ援軍を要請しろ!」

パシュスは即座に命じた。


「なら狭道はどうする?」

古志は再び警告する。


「魔王の主力軍が出たなら、そっちを優先して叩くに決まってる!」

パシュスは完全に頭に血が上っており、もう聞く耳を持たなかった。


シモンはKanatheonからの援軍要請を受けると、ノクスへ報告した。ノクスは渋々それを許可する。


銀龍の刻印の軍勢も北へ向けて進軍を始めた。


その平凡だったはずの夜―――東西を隔てる関所は、完全に無防備となった。



しまっ、た……


【キャラ名変更のお知らせ】

かみこのクールな性格をより引き立たせるために、これからはカタカナで「カミコ」と表記することにしました! 表記の変更でご不便をおかけしてしまい、本当にごめんなさいね (>人<;)

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