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見えない魔王——歪みきった征服ゲーム  作者: 純白
【第二部】 第二十四章——書庫の狩猟
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296 「覚悟を決めないとね………」

「嘘……嘘だ……パパが……」


ニーナは父の死を知り、その場でブチャの足元に膝から崩れ落ちた。瞳は空っぽになり、戦意を完全に失っていた。


「ニーナ、早く逃げろ!」カルロフはすぐに彼女を迷宮へ引き戻した。


ようやく獣挟みが外れ、ナスティアは抜け出すと、マキフの遺体のそばに膝をついた。震える両手で何かをしてやりたかった。だが、すべてがもう遅すぎた。


その時、自分がニーナから贈られた護心石の指輪をはめていることに気づいた。父娘と過ごした一つ一つの時間を思い出し、ナスティアは不意に拳を握り締め、獣挟みでできた傷を包帯で巻いて立ち上がり、涙を拭った。「あなたを失望させたりしない……」



ブチャの攻撃も視界もすでに本棚を貫通するようになっていたため、彼らはもう大声で情報を交換することをためらわなかった。


「おい! 族長の言葉を覚えてるか!?」一樹は投げ槍を避けながら叫んだ。


「翼の悪魔……光こそ闇!!」カスターが大声で答えた。


「なんでゲームのヒントってもっと分かりやすくできないんだよ! プレイヤーを困らせて達成感でもあるのか!?」一樹が怒鳴った。


「彼女は光が見えてないのよ!!」遠くからナスティアの叫び声が響いた。


「な、何だって!?」カルロフが遠くから叫び返す。


「今、迷宮全体で……光があるのは中央だけ! ほかの場所は全部闇に沈んでる! 早く中央に集まって!」ナスティアが叫んだ。


「分かった!!」



全員が次々と大書庫の中央へ到着した。だが、足首を負傷したナスティアは走るのが一番遅く、あと数歩届かない。


ヒュゴン!!!


【システムメッセージ: フレンド ナスティア HP残り20%】


血が飛び散り、飛矛が彼女の肩を貫いた。だがナスティアは、ぎりぎり中央の光が差す範囲内に倒れ込んだ。


【警告: 堕天使長―ブチャ 聴覚感知中】


彼らは即座に口を閉じ、息をすることすらためらった。


ブチャの光矛の切っ先がカスターの目の前をゆっくり彷徨っている。だが攻撃は来ない。ブチャはゆっくりと身を屈め、耳を傾けた。ブチャの吐く冷たい吐息、その装甲が擦れ合う音を。


ナスティアは致命的な出血で昏倒している。


ニーナの胸の奥に怒りが燃え上がり、呼吸が荒くなり始めた。


ブチャはゆっくりとニーナの方へ顔を向け……立ち上がる。


ほかの者たちは必死に手を振り、首を横に振って、ニーナに衝動的に動くなと伝えた。


その時、ブチャは一樹に背を向けていた。一樹の目には、ブチャの背甲に浮かぶ紫紋がむき出しになっているのが見えた。


一樹は迷わず前へ飛び出した。ブチャは即座に背後へ一突きする。幸い、一樹は寸前で足を止め、矛先は彼の目の前で止まった。


ニーナは大天使長が自分に背を向けた隙に、すぐナスティアのそばへ滑り込んだ。


ブチャは再び振り返り、ニーナのいる方をじっと見つめた。光矛が前方で揺れ、標的を探している。


「だるまさんがころんだ~」カスターは声を出さず、唇の動きだけで呟いた。


ブチャが視線を何度も変える。そのリズムを読んで、カスターは一歩前へ踏み出した。


ブチャが激しく振り返り、光矛がカスターの鼻先で何度も揺れた。


ニーナは気配を殺し、無言でナスティアの手当てを始めた。


一樹、カルロフ、カスターはそれぞれ別方向からブチャへの接近に成功した。だが同時に、彼女の攻撃範囲にも入っていた。


今の距離では、ブチャの攻撃を避ける時間などない。先に動いた者が、確実に犠牲になる。


誰が行く?


彼らは同時に、最も静かに動ける一樹へ視線を向けた。


「よし……」


一樹は短剣を握り締め、ブチャの首裏に浮かぶ光紋を狙い、一歩踏み出す――


カキッ!


ちょうど小石を踏み砕いてしまった。


ブチャが瞬時に身を翻す。


ザシュ―――


「…………………………」


全員の動きが一瞬で止まった。


ブチャは空中で静止し、光矛がチンと音を立てて床へ落ちる。身体はゆっくりと光の塵へ変わっていった。


「…………」


ニーナはブチャの首元から短剣を引き抜いた。


【システムメッセージ: 堕天使長―ブチャ を撃破しました】

【システムメッセージ: ブチャの片翼を獲得】

【システムメッセージ: マグドール大書庫の使用権を獲得】

【システムメッセージ: レベルアップ!】


全員の身体が金色に輝き、同時にレベルアップする。


大書庫には柔らかな光が満ち、書物を封じていた黒い影も消えていった。


ブゥン――


すべての共鳴短剣が一つに融合し、精巧な彫刻が施された短剣へ変わって石畳へ落ちた。


【システムメッセージ: 伝説短剣・大書庫の秘匿者 を獲得

物理ダメージ:3372~3903

必要レベル:350

特殊効果【静寂の楔】

*対象に命中した時、強制的に沈黙状態を30秒付加する(同一対象には3分間のクールタイム)

*大書庫の何らかのギミックを開けられるようだ】


広間の中央には、黒い大翼――ブチャの断翼だけが残されていた。ついに手に入れたのだ。


...


一樹は断翼を拾い上げ、大事そうにリュックへしまおうとした。だがカスターに腕を掴まれる。


「それは何だ?」カスターは一樹の手を乱暴に引っ張った。


「大天使長の翼だよ」一樹は苦笑いで答える。


「超レアアイテムなんだろ?」カスターは冷静に言った。


「もちろん!」


「俺に渡せ」


一樹は即座に翼を抱え込み、二歩後ずさった。「待てよ、お前なにする気だ!?」


「気にするな。俺たちは協力関係だろ。さっきナスティアはハゲグの鍵を渡した。今度はこっちが戦利品を保管する番じゃないか?」カスターの目つきが徐々に険しくなっていく。


一樹はナスティアとカルロフを見る。二人は冷ややかに見守るだけで、止めるつもりはなかった。


「カスターはただの協力者として私に同行しているだけよ。私に彼を縛る権限はないわ。それに、私は彼の言い分にも一理あると思う」ナスティアはカスターを擁護した。


「待ってくれ、お前らこの翼を持ってても意味ないんだぞ!」一樹は焦って叫ぶ。


「用途を説明しろ」カルロフが眉をひそめた。


一樹は少し考え込み、Kanatheonがブチャを従えた情報だけ共有することにした。ただし、プレイヤーに片翼を探させるという、最も核心的な部分だけは伏せておいた。


「なんでそれを早く言わねぇ!?」カスターが激怒する。


「俺が翼を欲しがりすぎて、一瞬忘れてただけだ! でも全部の大天使長が仲間にできるわけじゃないから、勘違いするなよ!」一樹は外交問題になるのを避けるため、慌てて弁解した。


「見せろ。もし騙してたら、その場で首を切り落とす」カスターは再び手を差し出した。


一樹は渋々翼を渡す。ナスティアとカルロフもカスターの横へ集まり、翼の説明文を覗き込んだ。


【アイテム説明:片翼

墜落した大天使長ブチャの黒翼。実質的な用途は存在しない】


「ほらな、嘘なんか言ってないだろ!」一樹は眉をひそめ、翼を奪い返した。


「今回は貸しを作っといてやる。分かってるな? 俺たちは対等な関係だ」カスターは一樹を乱暴に引き寄せ、目で脅しをかける。


一樹はすぐに頷いた。ナスティアが軽くカスターに肘を当てる。カスターが手を離した瞬間、一樹は翼ごと床へ倒れ込んだ。


「ニーナ! どこ行くんだ?」カルロフは、ニーナが黙って迷宮へ入っていくのに気づき、慌てて呼び止めた。


「シッ……少し静かにさせてあげて……」ナスティアは沈んだ声で言った……明らかに、マキフの遺体を見に行ったのだ。


「で、これから……本を探すんだよな?」カルロフは図書館中に並ぶ無数の古書を見回し、早くも吐き気を覚えた。


一樹がどうやって松の精霊辞典を探せばいいのか悩んでいると、ナスティアが軽く彼の背中を突き、中央の台座にある小さな穴を指差した。


「この武器……攻略用アイテムでもあるんじゃない……?」


カスターは、たった今手に入れた伝説短剣をそこへ差し込んだ。


地面がすぐに変化する。さらに短剣をゆっくり捻ると、大書庫の中央から巨大な水晶がゴゴゴとせり上がった。そこから何本もの光が迷宮内の本棚へ反射し、特定の古書を正確に照らし出す。


小隊は、光に照らされた本を大書庫中央へ運び込んだ。


「古代魔法禁書、古代金貨、アトランティス伝説……松の精霊辞典!」一樹は、カビ臭く黄ばんだ本の山からついに松の精霊辞典を見つけ出した。


「これだけ犠牲を払って……ようやく月羅族の少女の謎を解けるのね……」ナスティアはため息をつき、迷宮の奥を振り返る……そこには、水の中に横たわるマキフがいた。



本サーバーのハゲグ塔――――


「六……六口……」ニフェトは六口弥生を見た瞬間、顔を真っ赤にした。


「普通にしてくれる!? こっちまで恥ずかしくなるんだけど!」六口弥生は羞恥で顔を赤くしながら、軽くニフェトを叱る。


「意外すぎるよ。全然訛りないんだね」


「ハーフと訛りは関係ないでしょ?」六口弥生は反論し、再び魔王の情報を取り出して調べ始めた。


「なんで会うの怖がってたの? リアルのほうがゲームのキャラよりずっと可愛いじゃん。雰囲気も全然違うし」ニフェトは、滝のような深青の長髪と整った東洋系の顔立ちを見て感嘆した。


「街でジロジロ見られるの嫌いだから……仲いい人としか出かけないの。あとはずっと家に引きこもってる……」六口弥生は恥ずかしそうにしながら、また紙で顔を隠した。


「家族に色々言われないの?」


「一人暮らしだから……」


「え?」ニフェトは聞き取れず、聞き返した。


「あ~、手掛かりなしか。またロシアサーバー戻らなきゃだね」六口弥生は急に話を切り替え、大げさに言った。


「そういうのは古志に任せればいいじゃん。全部自分たちで抱え込む必要ないよ」ニフェトは六口弥生の手から紙を抜き取った。


「それ古志と真子の報告書なんだけど! じゃなきゃ情報どこから来るの? 役割分担まで細かく説明しなきゃ駄目?」六口弥生は理不尽そうに抗議し、紙を奪い返した。


「そんな焦らなくても~。見つからないなら無理しなくていいって!」


「準備は万全にしないと。ロシアサーバー制圧は、最速で、一番苛烈な手段で終わらせる必要があるの」六口弥生は苦い表情で言った。


「なんでそんな急いでるの……まさか君……」ニフェトは大慌てで問い返した。六口が不治の病にでもかかったのかと思ったのだ。


「チッ! 変な想像しないでよ! 魔王がもうすぐ動くの!」


「なんで分かるんだ?」ニフェトは不思議そうに聞き、ようやく情報へ意識を向けた。


「人類自衛連盟の指導者はまだ見つかってない。でも、そこに繋がってるNPCギルドは十数個もあるの。たぶん全部同じグループよ」六口弥生は紙を一枚ずつめくっていく。そこには様々な組織名が書かれていた。


「古志が昼夜ずっと監視してるけど、行動は普通のNPCと何も変わらない。訛りもないし、会話も自然。特別なイベントにも参加してない」


「調教師協会、鍛冶師商会、鍛剣工房……。これ全部、昔からあるNPCギルドじゃん。魔王の創造物なわけないよ」ニフェトは紙を次々とめくる。どれも見覚えのある名前ばかりだった。


「だからこそ厄介なの。あいつら、人類自衛連盟の宣伝を続けてる上に、資金援助までしてる。そのせいで連盟の求心力がどんどん上がってるのよ」六口弥生は不安そうに言った。


「もし、こんな数のNPCギルドが一斉に反乱を起こしたら……想像もしたくない」


「ロシアサーバーは領主の管理が杜撰だったから、ナスティアに付け入る隙を与えたんじゃないの?」


「楽観しないで。準備は徹底しないと……」六口弥生は眉をひそめ、紙を重ねた。


「私はみんなを信じてるから平気だよ」ニフェトは久々に本サーバーへ戻ってきたばかりで、気分良さそうに言った。


「そうだ! みんなで精霊宮の温泉行かない?」松美が提案する。


「松美、温泉入りたいの? それとも女エルフが温泉入ってるの見たいの?」かみこ(カミコ)が突然問い詰めた。


「うっ………」松美は一瞬言葉に詰まる。


「息抜きも大事だよ!」ニフェトは笑った。


「行こう行こう!」


彼らは賑やかに家を出ていき、机の上の情報をすべて置き去りにした。


「あなたたちも……覚悟を決めないとね………」


六口弥生は机に散らばる資料を見つめ、小さくため息をつきながら呟いた。


大書庫の攻略は終わった。


だが――

本当に恐ろしいものは、まだ姿を現してすらいない。


ロシアサーバーで、何かが静かに動き始めている。

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