295 「頼み…ます………」
「追いつけねぇ! 回り込め!」
カスターは腹を押さえながら必死に追いかける。
彼は猟犬へ追いつけない。しかし賢く左右へ移動しながら音を立て、猟犬を西側へ追い込んでいく。
「私も手伝うわよ!!」
ナスティアも鬱憤を晴らすように全力で猟犬を追い始めた。
他のメンバーもすぐ仲間の位置へ向かう。
カルロフの脚力が最速だった。三つ角を抜けた時点で、すでに南迷宮へ入り、尻尾を巻いて逃げる猟犬を見つける。
「見つけたぞ!!」
カルロフが正面から飛びかかると、猟犬は即座に左へ曲がった。
カスターもすぐ猟犬の進路へ合わせて方向転換し、カルロフとの挟撃態勢が完成する。
一樹とニーナは一緒にナスティアの元へ向かっていた。だがニーナは突然立ち止まり、振り返って走り出す。
「ニーナ?!」
一樹は慌てて叫ぶ。
「無敵時間が終わる! 気をつけてください!」
…
カルロフとカスターは猟犬を袋小路へ追い込んだ。
二人は肩を並べて進み、退路を完全に塞ぐ。
「捕まえたぞ~」
光が急速に消え、二人は瞬時に元へ戻った。
フーッ……ワン! ワンワンワン!
猟犬は一瞬で凶悪な顔つきへ戻り、毛を逆立て、牙を剥いて二人へ低く唸る。
「これって………」
カルロフは急に焦り始め、嫌な予感を覚えた。
隣の気配が消え、振り返るとカスターはすでに遥か後方へ逃げていた。
「言うのが遅せぇよ!!」
カルロフは即座に逃げ出した。
「俺はもう走れねぇ! 少し耐えろ! 攻撃力は高くない! ただ鈍足デバフだけだ!」
カスターは振り返りもせず逃げる。
猟犬は地面を蹴り、カルロフの背中へ飛びついて噛みついた。
カルロフの身体は瞬時に血まみれになる。だが彼は全力で身体を振り、猟犬を水中へ叩き落とした!
水飛沫が激しく散る。猟犬は押し潰され、水面へ張り付くように沈む。
その瞬間、ニーナが東部迷宮の光柱へ飛び込んだ、全員に白光が戻った。そしてカルロフは猟犬を仕留める。
同時にナスティアと一樹も協力し、もう一匹の猟犬を撃破した。
すべての猟犬を失ったブチャは即座に弱体化し、その場へ崩れ落ちる。
小隊は隙を逃さず三つの魔石を破壊し、再びブチャへ大ダメージを与えた。
…
残る魔石は五つ。
小隊は再び迷宮へ散開する。
【警告:墜ちた大天使長・ブチャ 忍耐限界】
「なかなかやるな………劣等種族め………精霊の底力を見せてやろう!」
ブチャは逆手に構えた光槍を、自らの身体へ突き刺した。
「ぎゃあああああああああああああああ!!!!!!!!」
彼女は自分の身体を容赦なく破壊する。
大量の黒血が傷口から噴き出し、水面で膨れ上がりながら、ゆっくり二体の分尊へ変化していく。
「さあ……」
「ここから……」
「狩りを始めよう……」
三人のブチャはゆっくり迷宮の奥へ歩き出した。
…
「どうにかして、あいつらを一か所に集める………」
カスターは眉をひそめて考えるが、すぐには打つ手が浮かばない。
この時、短剣を持っているのは一樹、ナスティア、カルロフだけだった。三人は自分の役目をよく分かっており、迷宮に潜んで機会をうかがう。
ナスティアとカルロフは、それぞれブチャがゆっくり自分のエリアへ入ってくるのを見極め、そっと避けた。
ニーナはナスティアの近くにいたため、一時的に慌てる。彼女と鉢合わせるのが怖かった。
ニーナはブチャを警戒しながら、書架に手を添えて後退する。すると視界の端に、隣の書架の向こうで別の人影が現れた。三体目のブチャだった!
ニーナはその場で凍りつき、すぐ自分の口を押さえ、書架に張りつくようにしてゆっくりしゃがみ込む。
ブチャは奇妙な気配を嗅ぎ取り、指を伸ばし、二冊の古書の隙間を押し広げた。そして血走った眼球を本の隙間へとねじ込み、ニーナの頭上すれすれを覗き込む。
ニーナは今、何もできなかった。
ブチャはまだ諦めず、ゆっくりしゃがみ込む……
ニーナは二本の黒い指が目の前の二冊の本の間から突き出し、古書をじわじわ押し広げていくのを見つめた。
ブチャの大きな血眼が本の隙間に現れる────だが、誰も見つからない。
一樹が間一髪でニーナを抱えて逃げ、悲鳴を上げないよう口を押さえていたのだ。
ブチャは長い髪を軽く梳き、悠然と立ち上がり、再び獲物を探して歩き始める。
一樹はニーナを抱えたまま全力で走り、力尽きてからようやく彼女を下ろした……実際には数十メートルほどの距離でしかない。
ニーナはようやく落ち着きを取り戻し、恐怖で泣き出した。
「いい子だから泣かないで、ニーナ。まだ近くにいる!」
一樹は慌てて彼女をなだめる。幸い、ブチャは別の方向へ曲がり、二人から離れていった。
「うう……ごめんなさい、一樹様。さっきはもう死ぬと思って……抵抗することもできませんでした……」
「大丈夫。誰にだって弱くなる時はあるよ」
一樹は苦笑した。
「一樹様、どうして私を抱えて逃げたのですか? 私たちが助かったのは、ただ運が良かっただけです」
ニーナは水晶のように純真な目で、不思議そうに尋ねる。
「大事な人のために危険を冒す。それが勇気なんだよ」
一樹はニーナの頭を撫でながら笑った。
「勇気は……人をこれほど不合理に動かすものなのですか?」
「それも人間らしさの一部だよ」
【システムメッセージ: ニーナ が固有ログを記録しました】
ニーナはうつむき、考え込んだ。
「僕は魔石を壊しに行く。君も気をつけて」
一樹は周囲が安全だと確認し、動き出すことにした。
…
「カスター!」
カルロフはカスターが体力切れで倒れているのを見て驚き、すぐ駆け寄って抱き起こそうとする。
「こっちへ……俺の短剣を持って魔石を壊せ……」
カスターは額いっぱいに汗を浮かべ、短剣を差し出した。
カルロフは急に足を止める。
「お前の短剣はニーナに渡したはずだろ……?」
「何を言っている? 早くこっちへ来て俺の短剣を受け取れ!」
カスターは突然、彼に向かって走り出した。
「まさか……幻影か?!」
カルロフは慌てて後退する。
「来いよおおおおおおお!!!!!!」
幻影は突然、肌を黄色く変え、眼窩を落ちくぼませ、まるで悪鬼のように叫びながら短剣を振り上げ、カルロフを執拗に追い回す。
ブチャたちは幻影の警報を聞き、すぐそこへ駆け出した。
カルロフは仰天し、大股で全力疾走する。
幻影は少しずつカルロフに引き離され、何度か角を曲がるうちに彼の姿を見失った。
その身体はゆっくり霧散する、最後には共鳴短剣へ戻って水中に落ち、光を放った。
この時、三体のブチャは迷宮西部へ引き寄せられ、短剣の周囲を巡回していた。
全員の準備は整っている。あとは水中に落ちた短剣を拾えば四本揃い、魔石を破壊できる。
三体のブチャは、鎌を持つ死神のように短剣の周囲をうろついていた。
「石を壊す準備をしろおおお!!!!!」
カスターが再び大声で叫ぶ。
ブチャたちは即座に迷宮北部へ駆け出した。
「悪いな………」
彼は眉をひそめて呟く。
「ぎゃあああ~!!」
すぐにマグドール大書庫へ、マキフの悲鳴が響き渡った。
カルロフは隙を見て走り出し、短剣を拾う。
ナスティア、一樹、ニーナはすでに中央で待機していた。
「うおおおおおお!!!!!!」
マキフの悲鳴が突如として絶望の怒号へと変わり、大書庫に肉を破壊する凄惨な打撃音が響き渡る
四人は死に物狂いで魔石を叩き続け、マキフが殺される間一髪のところで、ちょうど注意を引きつけることに成功した。
三体のブチャは空へ飛び上がる。しかし地面へ轟撃を放とうとした瞬間、四人が魔石を破壊した。
二体の分身は黒煙となって消え、力が一つへ収束する。ブチャの本体が地面へ激しく叩きつけられた。
「さっさとくたばれ、この野郎!」
四人は一斉に飛びかかり、再び猛攻を浴びせる。
【システムメッセージ: 墜落した大天使 ブチャ 瀕死】
ブチャは翼を振り、一同を吹き飛ばした。そして最後の魔石の上へ降り立つ。
「魂鎖術!」
ブチャは片手で魔石を引き抜き、紫の力を吸い上げる。魔石はそのまま砕け散った。
次の瞬間、ブチャの背甲に紫紋の刻印が浮かび上がる────破壊すべき場所が、ブチャ自身へ変わったのだ。
ブチャが横一文字に手を払うと、迷宮の床に無数の光点が浮かび上がった。
彼らは足元の光点を慎重に避けながら、迷宮へ身を潜めた。
だが………
「下等種族め………見えているぞォ!!!!!!」
ブチャは跳躍し、脚を引き絞るように構えると、迷宮奥の一樹へ向けて光槍を正確に投げ放つ。
光槍は彼の額をかすめた。もし勢いを止められなければ、頭を吹き飛ばされ即死していた。
「はあああっ!!」
ブチャは次々と光槍を投げ放ち、一同は慌てて左右へ飛び退く。
「どういうことなの?!」
ナスティアが取り乱して叫ぶ。
「ギミックが変わったんだ! ヒントを思い出せ!!」
カスターが反対側から怒鳴る。
先ほどまで鉄壁だった書架は、今や紙のように光槍で貫かれ、頼りにならない。
彼らは浅い水たまりに這い出た蛙のように、ブチャから丸見えだった。
その時、ナスティアが不注意で水中の光点を踏んでしまう。
「きゃああ!!!」
巨大なトラバサミが彼女の足首へ噛みつき、動けなくなる。
ブチャはちょうどカルロフへ光槍を投げ終えたところだった。振り返り、ナスティアを見据え、手のひらに新たな光槍を生み出そうとする。
「この野郎、俺を狙えぇ!!」
ナスティアの悲鳴を聞いたカルロフは、命知らずにもブチャの正面へ飛び出し、挑発した。
ニーナもカルロフの捨て身を見て、中央の光の区域から飛び出す。
だが、ブチャは二人をまるで相手にしない。
「ギミック……!?」
カスターはこれまでの情報を必死に思い返し、自分たちが何かを見落としていると確信する。
ブチャは再び弓を引くように構えた。カルロフとニーナがどれだけ叫んでも止まらない。
「下等種族め………」
ブチャは嘲笑し、全力で光槍を投げ放つ。
一本の光線が正面から襲いかかる。ナスティアは足首が千切れそうになるほどもがいても動けない。
ザァァァァァァ────鮮血の飛沫が、冷たい水面へと激しく飛び散った。
「パパ!!」
ニーナが悲鳴を上げる。
マキフは最後の力を振り絞り、ナスティアの前へ飛び出して光槍を受け止めた。
ナスティアはその場に立ち尽くし、呼吸することすら忘れる。
「ナスティア様……ニーナを…どうか……頼み…ます………」
光槍は彼の身体を貫いていた。マキフはかすかに笑い、そのまま力なく崩れ落ちていく……
【システムメッセージ: 鍛冶師―マキフ 死亡】
【システムメッセージ: 鍛冶師―マキフ パーティーから離脱しました】
「マキフウウウウウウ!!!!!!」
…
まさかマキフだったなんて……嘘だろ……(/Д`)




