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歪みきった征服ゲーム ――王都戦争と見えない魔王  作者: 純白
【第二部】 第二十一章——ハゲグの哀歌
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283 ハゲグの哀歌

「進軍」

ニフェトは静かに命じた。


ゲームのBGMが瞬時に壮大な戦争行進曲へ切り替わる。

虫族で構成された生きた森が、一斉にハゲグへ突進した。


「ヴァシリ様!! 虫族がハゲグへ出現しました!!」

哨戒兵が全力疾走で報告へ駆け込んだ。


「どれくらいだ?」

ヴァシリは騎兵団と共に、大聖堂跡地で待機していた。


「およそ三千です……」

哨戒兵は苦い顔で答えた。


騎兵団はそれを聞いた瞬間、一斉に顔面蒼白となる。

騎獣たちまで不安げに嘶いた。


彼らは、たった六十騎しかいない。


「出撃だ! まず制空権を取り戻す! それとロコフへ救援を要請しろ!」

ヴァシリはそう言い放ち、騎兵団を率いてハゲグへ向かった。

...


「ロコフ大公!! ハゲグが攻撃されています! 虫族三千が進軍中です!!」

哨戒兵はマラソンでも走り切ったかのような勢いでグズへ駆け込んだ。


「三千だと?!」

ロコフは愕然とする。


「どうやら、眠っていた巨人を目覚めさせたようですね……奴ら、本気で戦争機械を動かし始めた……」

幹部の一人が眉をひそめた。


「ふざけるな! なぜ俺が反乱軍を助けなければならん?! それならこの隙にプラムスを落としたほうがマシだ!」

ロコフは怒声を叩きつけた。


哨戒兵は怯えきり、言葉を失う。


「ロコフ大公。我々のサーバーは長く戦火に晒されてきました。反乱軍とは一蓮托生の運命です。どうかご再考を」

幹部たちは次々と出兵を進言した。


「…………くそったれ!」

...


全員が装備を整え、甲板へ並んでいた。

一方カスターは木箱へ腰掛け、黙々と武器を研いでいる。


「ニーナ、俺の娘よ。こっちへ来なさい」

マキフは盾を置き、片膝をついた。


彼は愛娘を名残惜しそうに見つめ、親指で優しく頬を撫でる。


「大した財産は残してやれない……これは大事に持っていなさい。もし今回、父さんが帰れなかったら……幽語の森の小さな村へ逃げて、友達を頼れ。お前は船に残るんだ。危なくなったらすぐ逃げろ」


マキフは護心石の嵌められた先祖代々の装飾品をニーナへ渡した。


「帰ってくるよ。パパも、ナスティアも、鍛冶屋のおじさんたちも、みんな帰ってくる!」

ニーナは気丈に微笑み、腕輪を受け取った。


AIですら、この奇襲は爆薬を抱えて溶岩へ飛び込むような狂気だと計算していた。

それでも、ニーナの優しい笑顔を見ると、不思議と胸が救われる。


「いい子だ、ニーナ……」

マキフは娘の額へ口づけし、強く抱き締めた。


「価値はある……ニーナのためなら……全部、価値がある……」


そう自分へ言い聞かせ、盾を持って立ち上がる。


「始まる……」

ナスティアは遠くの夕陽が黒雲に呑まれていくのを見つめた。

海面には白波が立ち始めている。


「帆を上げろ――!」

「帆を上げろッ!」

「出航だああっ!」


バサッ――


海賊船は血のような赤旗を掲げ、荒波を切り裂きながら進み出した。


「ナスティア様! このまま航路を維持したら、海蛇族の縄張りへ突っ込みます!」

カルロフが叫ぶ。


「ええ……それでいいのよ!」

ナスティアも緊張した様子で手すりを握り、マスト上の一樹を見上げた。


一樹は暴風雨など意にも介さず、遥かな海を見つめている。


海賊船はまるで災厄そのもののように黒雲を巻き上げながら、あの静かな楽園へ向かっていった。


「1700メートル!!」

測距兵が全力で怒鳴る。


狙撃手たちは一斉にスコープを調整した。

ハゲグ全体に、死を待つような重苦しい空気が広がっていく。


無人機が城壁から飛び立ち、真正面から虫海へ向かう。


「1500メートル!!」


「装填!」


ガチャッ――

彼らは揃った動きで火属性弾へ交換した。


「弱点は口と脚関節だ……」

狙撃手は偵察機越しに虫族の弱点を確認し、即座に照準を合わせる。


「1200メートル!!!」

測距兵は空へ信号弾を撃ち上げ、城壁の守備兵たちの鉄のような顔を赤く照らした………


「撃てぇ!!」


バァンッ!

城壁から灼熱の赤い閃光が一斉に撃ち放たれた!


前方の虫族が一斉に緑の血飛沫を噴き上げ、次々と倒れていく。

火属性弾は数体の虫族戦士をまとめて貫通し、肉と甲殻を派手に吹き飛ばした。


城壁の上では硝煙が立ち込め、狙撃手たちは即座に次弾を装填し、再び銃を構える。


バァン!

再び城壁から弾幕が放たれ、また一帯の虫族が撃ち抜かれた。


「1000メートル!」


ガガガガガガガ――カチン。


技師たちは狂ったように砲座を回し、砲口を最大仰角まで持ち上げる。

最大射程を取るためだ。


虫海がゆっくりと金属製スコープを埋め尽くしていく…………


「弾道確認! 撃て!」


ゴォォォォォォォ――


三本の黄金色の交差する弾道が、わずかな放物線を描きながら前方の闇へ突き刺さった。

遠方で大量の緑色の虫血が一気に炸裂する。


アンドリアは原基虫を率いて正面突破を仕掛け、そのままエンジニア砲台の黄金弾道へ真正面から突っ込んだ。


ビシャッ!

弾丸が地面を抉り、土砂を周囲へ撒き散らす。


彼女の目の前で数十体の虫族が一瞬で数万の肉片へ砕け散った。

穿たれた弾痕は即座に虫の体液で埋まっていく。


「死ね虫ケラァ!!」

技師は出る杭を叩くように、アンドリア軍団の中央へ砲口を固定した。


ゴォォォォォォォ――


アンドリアの虫族部隊は死の光線によって中央から真っ二つに切り裂かれ、百メートルにも満たない平原で全滅した。

そこには無惨な虫族の死骸だけが広がっている。


三基の砲台は交差射撃を行い、互いを援護し合う。

火力は一瞬たりとも途切れない。


ロシア軍は、わずか数百メートルの距離で虫族第一波へ壊滅的損害を与えていた。


ユニット死亡のブザー音が魔都制御室へ鳴り響く。


青色で表示された虫族軍は画面右方向へ突撃していたが、前線では赤い光点が次々と瞬き、ユニット死亡地点を示していく。


砲台火力は常軌を逸していた。

ニフェトは画面上で赤点が一本線に繋がっていくのをはっきり見ていた。

それは、そのまま射線を意味している。


「ニフェ──」バンッ。

通信ボイスから加奈の悲鳴が聞こえた直後、銃声が響く。画面上にある加奈の部隊の光点が、一瞬で粉々に吹き飛んだ。


「頑張ってぇぇぇ!! 突っ込め────!!」画面に向かって叫ぶニフェトには、ただ焦りながら見守ることしかできなかった。


仲間たちは死体の山と化した戦場を突き進んでいく。


その時───ピコン!


百近い死亡音が同時に鳴り響き、画面中央の青い光が巨大な赤円へ変わった。


「仰角マイナス20、前方80ヤード。撃て!」

城内へ隠れていたロシア軍砲兵が角度を微調整する。


ドォン!


紫紅色の火球が流星のように黒虫海へ落下した─────


ピコン!

再び巨大な赤円が画面上へ浮かび上がる。


赤い火柱が噴き上がり、紫色の火液が豪雨のように周囲へ降り注いだ。


「うわああ!!」

虫族意識へ接続していた数人のプレイヤーが悲鳴を上げる。


紫炎はユニットを呑み込み、生きたまま炭へと焼き尽くしていく。


「俺について飛べぇ!!」

セランは銀羽蜻蛉の群れを率い、銃弾の雨を掻い潜りながらハゲグへ向かって左右へ飛び回る。


狙撃手たちは即座に対空射撃を開始し、数体の銀羽蜻蛉が撃ち落とされて地面へ墜落した。


ハゲグ守備軍の火力は凄まじい。

だが虫族は、まるでフロントガラスへ叩きつけられる豪雨のようだった。

ワイパーでどれだけ押し戻そうと、空いた隙間は即座に次の虫族で埋め尽くされる。


「1番、2番砲台装填!!」

ついにロシア軍へ最初の命懸けの装填時間が訪れる。


この瞬間、抵抗している砲台は一基のみ。

他の虫族たちは一斉に全速力で突撃を開始した。


「200メートル!!」

測距兵が叫ぶ。


「狙撃班は第二城壁まで撤退!!」城壁上の弓兵と狙撃手は即座に離脱し、大勢の盾兵が城壁へ駆け上がって防衛位置を引き継いだ。


その時、銀羽蜻蛉が三号砲台へ集中攻撃を仕掛け、火砲を撃てない状態に追い込んでいた。


「登れ!!」六口弥生はついに火力網を突破し、城壁へ到達した。


火力がふっと途切れ、ハゲグは数秒の静寂に包まれた。


砲台の上で薬莢が地面に落ちる澄んだ音だけが、大通りにも路地にも響き渡る。


シィィ……ジジジジ……


百を超える原基虫が同時に城壁へよじ登り、たちまち二十人のNPCが体を貫かれ、城壁下へ投げ落とされて引き裂かれた。


「来たぞ!!」NPC衛兵たちは即座に城壁へ押し寄せた。


虫族は蜘蛛のように足を城壁へ突き刺して体を固定し、鋏のような口で狂ったように噛み裂く。城壁上にはすぐさま血の花が飛び散った。


「再集合!」ハゲグの指揮官は第二層の内城壁にプレイヤーを集め、狙撃手たちは再び隊列を組んだ。


「撃て!」


パン――。


城壁へ上がったばかりの虫族がまた撃ち殺され、壁下へ落ちて仲間に踏み潰されていく。衛兵NPCは遠距離火力の援護を受けながら虫族に食い下がり、虫族は一時城壁を落とせなかったが、それでも多くの人間衛兵を噛み砕いていた。


「そろそろだね……」ニフェトは画面上の赤点が農地から城壁へ押し寄せ、さらに少しずつ城内へ染み込んでいくのを見て、糞転がし虫を戦場へ投入する決断を下した。


「いいぞ! 火力を維持しろ!」指揮官が叫んだ。


ウウウウウ――。


二座の砲台が再び火を噴き、密集した火力網がまた空を覆うように虫族へ降り注いだ。


ゴゴゴゴゴゴゴゴ――。


突然、農地から激しい震動が伝わってきた。


「敵の攻城兵器が来ます!!」測距兵が悲鳴を上げた。


「何だあれは?! 大砲で吹き飛ばせ!!」指揮官はすぐさま虫族の攻城兵器へ火力を集中するよう命じた。


糞転がし虫は、城壁よりも高いほどの巨大な丸い糞玉をハゲグの城門へ向かって押していた。


ドンドンドンドンドンドンドンドンドンドンドン!!


糞転がし虫の腹部はたちまちぐちゃぐちゃに撃ち砕かれた。


「う……うあああ!!」糞転がし虫を操っていたリオは、システムを伝って脳を焼き焦がす、腸を引き裂かれるような激痛を必死に飲み込み、


「俯角マイナス七十。撃て!」


ズドンッ。紫の火球がちょうど彼のすぐ横で炸裂したが、リオはすべてを無視して突進を続けた。


「三百メートル!! 急げ!」


「そのクソ城門、開きやがれぇぇ!!」リオは奮い立って咆哮し、虫足で最後のひと押しをしようとした、その瞬間――。


ズドン。


糞転がし虫は紫砲の直撃を受け、その場で虫液を四方へ撒き散らして爆裂死した。しかし糞玉だけは慣性でゆっくりとハゲグの城門へ転がっていく。


内壁のプレイヤーたちは、巨大な糞玉がボウリングの球のように城門へ転がるのをただ見つめるしかなかった。「お……終わった!!」


ドゴォォォン!!!!


ハゲグの第一正門に数メートルの破口が開き、茶色がかった黄色い糞玉は砂泥のように砕けて城内へなだれ込んだ。強烈な悪臭が立ち込める。


「どんな犠牲を払っても突っ込めぇ!!」アンドリアは虫族を率いて、破口へ狂ったように雪崩れ込んだ。


「破口を撃て!!」指揮官が怒鳴ると、内壁のプレイヤーとNPC、数百人分の火力が同時に城門の破口へ叩き込まれた。


城内へ突入した虫族は瞬く間に無惨な死骸を晒し、破口の糞山の下でことごとく撃ち殺された。


しかし、守軍が放った狂乱の弾幕は、すでに脆くなっていた城門をも容赦なく撃ち抜き、数千もの蜂の巣のような穴を穿っていった…


ドゴン!! 二匹の四足巨頭虫が、満身創痍の城門を今度こそ完全に破砕して城内へと突入した。


ついに城門は虫族に突破された……


わずか数秒で数十匹の虫族が城門へ雪崩れ込み、四方へ広がり始める。城門付近に散っていたNPC衛兵たちは一人ずつ殺され、引き裂かれた体は欠片すら残らなかった。


「指揮官! どうしますか!?」周囲の守軍は完全に取り乱していた。もはや虫族の侵入を止められそうにない。城内にはまだ三百名の守軍が残っており、適切に配置すればまだ時間は稼げる。


指揮官が考え込んだ、その時――。


「天虹衝撃!!」


ドゴォォン!!


上空から響き渡ったその咆哮と共に、十数騎の飛竜とグリフォンが空から城門の破口へ急降下し、虫族と乱戦を繰り広げる。瞬く間に血肉が飛び散った。


「ヴァシリ様の騎兵団だ!!」


「打って出てヴァシリ様を援護しろ!! 破口を塞げ!!」指揮官は神杖を抜き、内城の軍勢を率いて自ら前線へ向かった。


「うおおおお!!」数百人のロシアプレイヤーが怒涛のように城門へ押し返す。虫族はたちまち数の優位を失い、大量に斬り殺されながら城門へ後退していった。


「ニフェト! 損害報告!!」六口弥生は戦況の悪化を見て、焦って叫んだ。


「九百ユニットが戦死。残存兵力は約二千百です」ニフェトは即答した。


「内城の守軍も出てきた……もう十分……」かみこ(カミコ)が静かにつぶやく。


「全軍撤退!! ハゲグ城壁の外まで下がれ!!」六口弥生、アンドリア、ニフェトが同時に絶叫し、虫族は城門前に大量の死体を残したまま、無残にハゲグから撤退していった。


「勝機だ!! 追撃しろ!! 俺たちは――――」ヴァシリは全身を血で染めながら拳を突き上げた。


「ヴァシリ様!!」偵察兵が髪を振り乱し、まるで悪鬼のような叫び声を上げる。その場にいた幹部たちは思わず凍りついた。


「早く言え!!」ヴァシリが怒鳴る。


「つ……津波が来ます!!」


「……何だと?」


突如、夜空が黒雲に覆われ、地面の砂泥が微かに震え始めた。


反乱軍は地鳴りのような轟音に導かれるよう海辺を見つめ、同時に武器を落とした……


ハゲグはゆっくりと巨大な影に覆われていく……


高さ二十メートル近い超巨大津波が巨人のようにハゲグへ襲いかかり、その波頭を踏みつけるように赤旗の戦艦が突き進んでいた――――――。


しかも津波の中には、巨大な何かの影まで見えている。


「Это моё возмездие!!!!!!(これが私の復讐よ!!)」


ナスティアは船首で薔薇水晶の杖を高く掲げ、赤旗を背負いながらハゲグへ咆哮した――そして船下の海水を氷竜へ変え、ハゲグの高塔へ激突させた!



奴ら、すべてを賭けてきたか……

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