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歪みきった征服ゲーム ――王都戦争と見えない魔王  作者: 純白
【第二部】 第二十一章——ハゲグの哀歌
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282 静寂の終わり

ロシアサーバー、プラムス――


「奴ら、もう広場に集結しています。ほぼ総出です」

幹部の一人がヴァシリに耳打ちすると、彼は何度も頷いた。


「待て、お前は――」

突然、扉の外から言い争う声が響いた。


ドンッ!


大扉が無理やり蹴破られ、完全武装の男たちが十数人、反乱軍のギルドホールへ雪崩れ込んできた。


「おお~ロコフ、我が友よ! 心配していたんだぞ――」

ヴァシリは大げさに両腕を広げ、乱入者たちを歓迎した。


ロコフは地面を見下ろしたまま、荒く息を吐き続ける。

「お前の部隊は……」


「まあまあ、友よ。酒でも飲みながら話そうじゃないか」

ヴァシリは愛想笑いを浮かべ、無理やり酒杯をロコフの手に押し込んだ。


ロコフは酒杯をヴァシリの顔の前まで持ち上げ、そのまま手を離した。

酒杯は床に落ち、粉々に砕け散る。


「お前の兵が約束の時間に来ていれば……俺たちは虫族の巣穴を殲滅できていた……」


ヴァシリは軽くため息をつき、机へ戻って自分の酒を注ぐ。

一口含むと、苦笑した。


「ロコフ、俺は“出兵を検討する”とは言った。だが、承諾した覚えはないぞ」


「俺は幽語の森の端で何人もの仲間を失った。結果はゼロだ。黒獅子軍は敗北した……それがお前の望みだったんだろう……」

ロコフは一歩前へ出る。鼻先が触れそうな距離だった。


「落ち着けよ、ブラザー。俺は三つの王都を支配してるんだ。お前より考えることが多いんだよ」

ヴァシリは困ったように肩をすくめ、薄笑いを浮かべた。


「お前は後悔するぞ……」

ロコフは袖を翻し、そのまま去っていく。


「お前もな……」

ヴァシリはロコフの背中を見送りながら、邪悪な笑みを浮かべた。


「ヴァシリ様。先ほど哨戒兵から報告がありました。爆破された大聖堂の地下室から発掘された文献ですが、翻訳が完了したそうです」

一人の枢機卿が小声で耳打ちした。


「例のNPCに翻訳させたのか? 信用できるんだろうな?」

ヴァシリは急に身を乗り出し、盟友の警告など完全に忘れ去っていた。


「は、はい。ローレンベルトという名のNPCです。現在はプラムスの娼館で休ませています」


「文献には何と書かれていた?」


「当時、魔女と交渉した人類というのは――――」

枢機卿は眉をひそめながら答えた。


バシィッ!!


ヴァシリは彼を平手打ちで壁まで吹き飛ばした。


「フレーバーテキストなんぞ誰が気にする?! 馬鹿かお前は?! 俺が知りたいのは『異端巫王ウィッチ・キング』を召喚する方法だけだ!!」


「も、もう少し時間が必要だと……」

枢機卿は慌てて回復術で自分を治療し、驚いた顔で立ち上がる。


「失せろ! さっさと翻訳を終わらせろ!」


「ヴァシリ様、攻城戦が近づいています……そろそろ防衛配置を――」

別の幹部が怯えながら進言した。


「巫王さえ支配できれば、こんな細かいことに悩む必要もなくなる……」

ヴァシリは独り言を漏らしながら、机の戦略図へ歩いていった。


「砲弾の半分は海に捨てろ。上陸後は火砲を使う暇なんてない」

ナスティアは鍛冶師たちに命じ、海賊船を衝角戦向けに改造させていた。


「まさか……虫族が海戦でここまで便利とはな」

カルロフは砲弾箱を丸ごと海へ放り投げる。

ドボンドボンと水柱が何本も上がった。


「もっと早くあいつらと出会えていればね……」

ナスティアはバッグを開き、ほんのり熱を持つ竜玉を片手で持ちながら考え込む。


カルロフはため息をつき、振り返って再び弾薬運びへ戻った。

「こんなの食えもしないし、武器にもならん……はぁ、時間の無駄だったな」


「まさか、それをプレゼントにするつもりじゃないだろうな?」

カスターは戸惑った顔でナスティアを見た。


「ありえないでしょ?! 私はそんな馬鹿じゃない!」


「そうか~? でも一昨日の夜、かなり楽しそうだったぞ?」

カスターはナスティアの耳元へ顔を寄せ、からかうように囁いた。


「み、見られてたの?」


「真っ暗な中で七色に光る玉なんて、誰でも見るだろ? はははは!」

カスターは腹を抱えて笑った。


「光る玉がどうしたって?」

ちょうどカルロフが砲弾箱を抱えて戻ってきた。


「魔法の話だよ。お前の頭じゃ分からんから、そのまま運んでろ」

カスターはカルロフを茶化し、足元の缶詰を蹴って渡した。


カルロフはつまらなそうに去っていく。


「で~どうだった?」

カスターはニヤニヤ笑いながら、さらに話を掘り下げてナスティアを逃がさない。


「まあ……悪くなかったかな~」

ナスティアは間抜けな笑みを浮かべ、甲板の手すりに寄りかかって水平線を眺めた。


「修正されたのか? 何もできなかった感じ?」


「関係ないでしょ? 他にやることないの?」


「あるさ……でも、お前のほうが気になるんだよ……」

カスターがナスティアの肩へ手を伸ばした瞬間、彼女が放った二本の氷柱がその動きを止めた。


「寝言は寝て言え!」

ナスティアは鋭い視線でカスターを睨み、中指を立てる。


「はぁ~お前がダメなら……ニーナと少し話してくるか~」

カスターは笑いながら言った。


「おい……死にたいの……?」

ナスティアは瞬時に魔法杖を握り、冷たい声で返した。


「冗談だって~冗談~。下の牢で女海賊と遊んでくるだけだ」

カスターは意地悪く笑い、そのままゆっくり船内へ降りていった。


ちょうどその時、ニーナが船内から上がってくる。


「ナスティア様。一樹さんが、船尾上部の操舵席へ来てほしいと言っていました」


ナスティアは船尾へ向かい、一樹かずきの姿を見るなり表情をぱっと明るくした。


「どうしたの、一樹君?」


「海蛇族と戦った経験って多い? この海賊船で航行してたら、絶対に海蛇族の注意を引くと思うんだ」

一樹は指で輪を作り、望遠鏡代わりにしながら言った。


「海蛇は見えた?」

ナスティアは一樹が作った指の輪に顔を寄せ、遠くを覗き込んだ。


彼女は少し身を屈めて手すりへ寄りかかり、その身体はぴったり一樹に触れていた。

二人は船尾の隅で親密な姿勢のまま、白い砂浜と緑の海を眺める。涼しい風が頬を撫で、一樹は人生でこれほど幸せを感じたことがなかった。


「あらあら~海蛇は見えないけど、小蛇なら一匹捕まえたわね」

ナスティアは顔を横に向け、悪戯っぽい笑みで一樹を見上げた。


「や、やめてよナスティア……」

一樹は恥ずかしそうに目を逸らし、手すりへ伏せて海を眺めた。


「悩み事?」

ナスティアは隣に立ち、そっと彼の身体へ寄り添いながら尋ねる。


「僕たち……恋人なの?」


「誰が君と恋人だって? あはは」


「で、でも……僕たちもう……」

一樹は慌てて言った。


「それだけで決まるもの?」

ナスティアは面白そうに問い返す。


「やっぱり……僕じゃダメなのか……」

一樹は暗い顔で俯き、身体を覆う虹色の輝きまで、気分に合わせて弱くなった。


「君はリストに入ってるよ、一樹君」


「何のリスト?!」


「デートリスト。しかも一番上」

ナスティアは愛しそうに一樹を見つめた。


「じゃあ……システム翻訳に頼ってばかりじゃダメだな。自分で少しロシア語を勉強しないと」


「ふふっ、じゃあ簡単なのから始めようか」

ナスティアは嬉しそうに笑った。


「例えば?」


「поцелуй меня」

ナスティアは笑いながら言う。


「どういう意味?」


ナスティアはそっと一樹の頬へ手を伸ばし、熱っぽい目で見つめた。


「キスして」


二人は抱き合い、互いの体温を確かめ合うように、熱いキスを交わした。


その時、カルロフが砲弾箱を抱えて船内から上がってきた。


「カルロフさん、船首の大砲を取り外したいんです。手伝ってもらえますか?」

ニーナはカルロフのもとへ駆け寄り、慌てて尋ねた。


「いいぞ。船尾へ砲弾を運び終えたら――」

カルロフは額いっぱいに汗を浮かべながら、優しく答える。


だがニーナは、彼の荒れた大きな手をぎゅっと掴んだ。

頬を赤く染めた姿は、とても愛らしい。


「ダメです! 今は上へ行っちゃダメです! 船首のほうで、カルロフさんの力が必要なんです!」


「わ、分かったよ、ニーナ」

カルロフは締まりのない笑顔を浮かべ、砲弾箱を下ろしてニーナについて行った。

...


魔都制御室――


「本サーバーの防衛準備はできた?」

六口が真剣な顔で尋ねる。


「ムー大陸の各地に強力なNPC部隊を巡回配置しました。どの王都が攻撃されても、最低一部隊は三十分以内に到着できます。問題ありません」

ニフェトは答えた。


「アンドリア、競技会を欠席して本当に大丈夫なの?」

六口はまだ不安そうに問いかける。


「問題ないわ。ノクスが処理してくれる。それに荒道一狼が人類自衛連盟の本部も突き止めた。場所はプラムスの娼館の一室。普段からNPCの出入りが多いらしく、夢葬者を店員に偽装して潜入させたけど、連中は他のNPCと何も変わらなかった。だから今は様子見よ」

アンドリアは淡々と答えた。


「よし! 短期決戦だ。ロシアのハゲグにある黒獅子ギルドの礎石を一気に破壊するぞ」

六口はようやく安心し、目の前の戦いへ意識を集中させた。


ロシア・ハゲグ城。

二人の狙撃手が城壁の上で雑談していた。


「今回、虫族が攻めてくるって話だろ? 弾薬も全部火属性仕様に変えられたわ」


「三つも王都があるんだ。まさかハゲグが狙われるなんて、そんな不運あるか? それに火砲も五門あるし、大丈夫だろ」


「ははっ、仮に虫族が来ても、俺たちの遠距離火力なら一キロ外から殲滅できるさ!」


「はは~まあ見てろよ。そろそろカウントだ」


【5、4、3、2、1。


第5回攻城戦開始――――――】


突然、ハゲグ全体を激震が襲った。

前方の農地一帯が同時に崩れ裂け、城壁の守備兵たちは危うく壁から振り落とされかける。


ブブブブブブブブブブブブブブ――――


守備兵たちは余震の中で立ち上がる。

やがて土煙がゆっくり晴れ始め、その奥で揺れる黒い影が見えてきた。


「俺たち……終わった……」


城壁前方には、膨大な虫族の軍勢が現れていた。

まるで山脈のように果てが見えず、半分の幽語の森そのものが這い寄ってきたかのようだった。


無数の虫族戦士が牙を剥き、爪を振り上げている。

その中には数メートル級の槌頭巨蟲も混ざっていた。さらに後方には超巨大な糞転がし虫が一匹。十メートル近い巨大泥丘へ張り付き、ハゲグの城門へ身体を向けている。


狙撃手たちは一気に混乱した。

一人が慌てて測距器を覗く。


「三キロ……虫族の隊列が三キロ続いてる……」


「三キロ……虫族一体のサイズから計算すると……」

隊長は小さな手帳で急いで計算し、そのまま呆然と仲間を見た。


「およそ……数千匹……」


他の狙撃手たちも狙撃銃を下ろし、あの虫脚の森を見つめる――


ハゲグは終わりだ……



始まる……

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