251 第四種接触
その場のプレイヤーたちは意味が分からず、互いに顔を見合わせる。
ナスティアはようやく笑いを抑え、涙を拭う。顔を上げて聖職者の真剣な表情を見た瞬間、また笑いが込み上げ、彼を指さして狂ったように笑った。
「何がおかしい?!」聖職者は羞恥と怒りで声を荒げる。
「民の敵? はははは! やっと分かったよ、ヴラジの言ってたことが」ナスティアは腹筋が崩壊するほど、腹を押さえながら言った。
「ふざけるな! 我々はヴラジを打ち倒した勝者だ!」
ナスティアはまた大笑いする。聖職者の頬が熱を帯び、次第に気まずさが広がった。
「ヴラジを倒した? あいつはただ、お前たちに好きにやらせていただけだ。視線は最初から他サーバーに向いていた」
「口は達者だな……だが現実は、ただの打倒された独裁者だ!」聖職者は嘲笑する。
「独裁者? 一番ヴラジにこき使われたのが誰か、分かるか?
その人間はずっとヴラジを支え、何も言わず、最後の最後までこのサーバーのプレイヤーのことを考えていた。政策のために心を砕き、細部に至るまで自ら動いた。お前たちにそれができるのか?!」重傷のナスティアは目を見開いて一歩踏み出し、取り憑かれたように咆哮した。その迫力に反乱軍は思わず一歩退く。
「遠回しに自分を褒める必要はない。我々もお前の貢献は理解しているが――」聖職者は言い淀む。
「ははははは! あたし?! あたしがそんなに偉いか?! 違う、その人間こそヴラジだ!
新人装備の資金はすべて高品質の兵器工場から来てる。一つ建てるのに57000竜貨もかかるんだ! ヴラジはサーバー統一後、各王都に即座にそれを建てた。誰もが安くて使える武器を手にできるように!
それに、新人がよく使う綿布が安いと思ってるのか?! 他サーバーじゃレベルが上がるにつれて、もう一束20狼貨まで跳ね上がってる。
うちのサーバーは9狼貨で買える。その理由が知りたいか? ヴラジだ!
あいつはインフレを予測していた。新人を守るために、あえて綿布の価格を抑え込んだ。そのせいで上位プレイヤーの不満を買い、何度も暗殺された。お前みたいな蟻どもが知るか? 知らないだろうな。全部、自分の中で飲み込んでたんだよ
望み通りの自由は手に入れたんだろう? その大計とやら、拝ませてみろよ! 教えてやる。あたしたちと戦ってる他サーバーのプレイヤーは平均レベル260、こっちより50も上だ。主力ギルド二つの戦力は、黒邪翼すら上回ってる。――自分たちがどれだけ愚かか、分かったか?!」
最後に一つだけ秘密を教えてやる。あたしはヴラジとは天と地ほど違う。あいつは常にサーバーのことを考えてた。でもあたしは……お前らみたいな思い上がったクズどもを、皆殺しにしたくて仕方ないんだよ!」ナスティアは額に青筋を浮かべ、バッグから橙金色の巨大な宝珠――竜玉を掴み出した。
「あいつはこれを残していけって言った……けどな、今ここで叩き割ってでも、お前らには渡さない!」ナスティアは竜玉を掲げ、そのまま地面へ叩きつけようとする――
「シールドバッシュ!」「影縛術!」「生体凍結!」
十数の拘束スキルが同時に襲いかかり、抵抗できないナスティアの動きを空中で凍りつかせた。
竜玉は太陽のように輝き、その場にいる者たちの欲望を残酷なほど照らし出した。
「全員注意しろ! あの宝珠を傷つけるな!」プレイヤーたちは神経を研ぎ澄まし、氷結されたナスティアを二分間じっと見据え、解除と同時に奪い取る構えを取る。
5――
4――
3――
2――
1――
無数の武器が一斉に突き出された!
キンキンキンキンキンキンキン――ナスティアの前に銀の盾が展開される。十数体の腕ほど太い銀羽蜻蛉が湖面から飛び立ち、すべての攻撃を受け止めた。
ナスティアは、自分を囲うように舞う銀羽蜻蛉を呆然と見つめる。
その直後、後方の反乱軍の魔導士たちの体が無数の銀針に貫かれた――北の森から数百の銀羽蜻蛉が殺到し、外周の敵を狂ったように襲撃する。
「宝珠を奪え! あいつはどうでもいい!」聖職者が怒鳴ると、数体の銀羽蜻蛉が大剣で叩き斬られた。
銀羽蜻蛉は装甲こそ厚いが火力は低く、プレイヤーを即死させることはできない。
その隙を突き、反乱軍の一人が防御の綻びから踏み込み、ナスティアの頭へ斬りかかる。
「氷の女に気をつけて!」近くで見ていたかみこが叫ぶ。
「させるかぁ!!」加奈は正面から大剣へ突っ込んだ。操っていた蜻蛉はバキッと真っ二つに斬られるが、ナスティアを守ることには成功する。
「本気なの、六口?! リスクが高すぎるよ!」ニフェトが焦りの声を上げる。
「一か八かだ! あいつを出せ!!!」
ニフェトは無言で頷き、隣の伝令プレイヤーに指示を出した。
……
ナスティアの周囲は混沌とした人と虫の乱戦へと変わっていた。
自分がどこにいるのかも分からない。銀羽蜻蛉の翅が反射する光は、まるで十数台のカメラがフラッシュを焚くようで、視界が真っ白に焼き付く。
足元の泥が突然盛り上がり、その衝撃で地面に叩きつけられる。
隆起した土塊は一気に膨れ上がり、腰ほどの高さの小山となった。
その表面から黒い鋭い棘が突き出し、ドン、と頂部が崩れ落ちる――次の瞬間、黒い6足の原基虫が地中から這い出し、反乱軍へと高速で突進した!
ザシュザシュザシュザシュ――前衛の反乱軍が一瞬で血飛沫を上げる。
原基虫の鋼の顎は鋏のようにプレイヤーの装甲を切り裂き、そのまま骨へと深く食い込んだ。
「なんだよあれは?!」
「うわああ!」
「早く魔法で止めろ!!」
反乱軍は即座に複数の範囲魔法を放ち、湧き出る原基虫へと叩き込んだ。
数で勝る原基虫は反乱軍を押し返し、ナスティアを守るように前進する。
「火だ! 火を使え! あいつら火に弱い!」
火魔法が虫族に特に有効だと気づいた反乱軍は、即座にいくつもの火炎旋風を召喚した。
ナスティアはそれを見て水魔法で虫族を守ろうとするが、薔薇水晶の杖を失ったことで威力は激減し、ほとんど効果がない。
足元を焼く炎の痛みを無視し、手の中の竜玉を見つめる――胸の奥にさまざまな感情が渦巻く。
振り上げようとするが、土砂降りのような感情が押し寄せ、この思い出の詰まった宝を壊すことができない。
原基虫は外殻こそ硬いが火には弱く、地面はすぐに焼け焦げた死骸で埋め尽くされた。
「六口、損害が半分近い! 撤退する?!」ニフェトが叫ぶ。
「もう少し耐えろ! かみこ、あいつはいつ来る?!」六口は虫族戦士を操作しながら叫ぶ。
「風速が変わらなければ、五分以内」
「ニフェト! 防御強化と攻撃速度上昇の加護を使え!」六口はプレイヤーの顔に食らいつきながら命じ、その視点の凄惨さに制御室の観衆が息を呑む。
「了解! 虫族加護スキル、発動!」
ニフェトが操作すると、すべての虫族が光の膜に包まれた。
火を恐れなくなった虫族を前に、反乱軍は後退を余儀なくされる。
「突っ込め! ナスティアを攫う!」聖職者が怒鳴る。
その瞬間、青空が一変し、灰色に染まった。
湖面が波打ち、ザワザワと白波が立ち始める。
プレイヤーの耳元で唸るような強風が吹き始めた。
太い幹の木が空から落下し、ドンと地面に叩きつけられて砕け、危うくプレイヤーを押し潰すところだった。
虫族も反乱軍も戦闘を止め、吹き飛ばされないよう必死に地面にしがみつく。
雷を帯びた黒雲が轟き、湖一帯の気温が急激に下がり、震えるほど冷え込む。
「来た……」かみこが眉をひそめて呟く。
「竜……竜巻だ!!」誰かが空を指して叫ぶ。
見上げると――高さ十メートルほどの小型の竜巻が森から現れ、まっすぐ湖へ向かって進んでいた。
「逃げろ!!」災害級の天候に遭遇したことのないプレイヤーたちは恐怖に駆られ、森から一斉に逃げ出す。
「もう無理だ!! 地下に潜れ!」六口の号令で、数百の虫族が一瞬で地中に消えた。
枯れ枝や木片が雹のように降り注ぎ、冷たい雨粒が空から叩きつけられ、暴風が唸る。
聖職者は崩壊する隊列を止められず、わずかな者だけが彼の周囲に残った。
ナスティアは竜玉を抱きしめて地面に伏す。聖職者は決断し、暴風の中を這って近づき、竜玉を奪いにかかる。
力任せに引き剥がすと、竜玉はナスティアの腕からもぎ取られた。彼女は叫び、残った反乱軍が助けに向かうが、立ち上がった瞬間に風に巻き上げられる。
聖職者とナスティアは暴風の中で竜玉を奪い合う。
力では敵わず、竜玉は徐々に引き離されていく……
ナスティアは咄嗟に判断し、聖職者へ魔法を放つ――
「重力歪曲!」
「ぐっ……うわああ!!」
体重の大半を失った聖職者は一瞬で風にさらわれ、雷鳴轟く空へと消えていった。
「重力歪曲!」ナスティアは今度は竜玉に魔法をかけた。それはボウリング球のように泥へと深く沈み込み、両手でしっかりと掴んで体を支える。
竜巻は森を削り取りながら進み、進路には破壊の跡だけが残った。
湖水が大量に吸い上げられ、空へと巻き上がる。ナスティアが風災に飲み込まれようとしたその瞬間――
周囲が不意に静まり返った。砕けた落ち葉が抹茶の粉のように舞い落ちてくる。
凍えるような寒さで紫がかったナスティアの体が、ふっと温もりに包まれた。厚手のセーターが空から舞い降り、彼女の身にまとわりつく。
ナスティアはそれを掴み、乱れた金髪をかき分けて空を見上げた。
七色に輝く魂が宙に浮かび、優しく彼女を見つめている……
……
ナスティア、すごすぎる……。
そして、ようやく届きました。
次回、ついに「第四種接触」の意味が明らかになります。




