231 重荷を背負いし義人
「散開しろ! 狙撃手はすぐ伏せて配置につけ!」カルロフは狼の群れのように散って包囲するよう、味方へ命じた。
その時、雪山から何本もの細い煙が立ち上った。やがて蒸気が噴き出し、大量の冷たい雪解け水が山裾から流れ出す。山体そのものが柔らかく崩れ、徐々に縮んでいく……。
ブワッ――火竜が翼を震わせて咆哮した。全身の鱗を千度級の高熱まで引き上げ、雪山そのものを溶かしてしまったのだ――その鱗は赤く焼け、柔らかくなっていた。
「殺れ!!」カルロフは仲間を率い、命懸けの突撃を仕掛けた!
火竜が蛇のように首を曲げ、竜角を金色に染める。
「気をつけて! 火を吐くわよ!」ナスティアが叫ぶ。
「条頓悲歌!」カルロフは全身を紫の光に包み、正面から火竜へ挑んだ!
だが火竜は首を下げ、その口を地面へ向けた。カルロフではない。
カルロフはその動きを見て、一瞬だけ硬直する……。
「待て! 突っ込むな!!」カルロフは愕然とし、ほかの前衛を制止した。だが本人だけは、命知らずにも火竜へ突っ込んでいく。
「シュウウウウ~~ゴオオ!!」火竜は愚かではなかった――地面へ向けて火を吐き、火炎の輪が一気に広がる。死角のないまま、周囲一帯を呑み込んだ!
「うわあああ~!!」重装職たちは誰も消せない竜焔に呑まれ、地面を転げ回る。
HPは一気に激減し、全員が瀕死となった。
「カルロフ! どこにいるの?!」ナスティアは目の前の惨状に半狂乱で、前線へ駆け出す!
十数体の火だるまが地面を激しく転げ回り、凄惨な悲鳴が空に突き抜ける――どれがカルロフだ?
司教は聖職者隊を率いて前線へ駆け込み、倒れた前衛たちの応急処置にあたる。だが回復術も浄化術も、竜焔のダメージには太刀打ちできない。悲鳴が次々と途絶え、炎に包まれた人影はやがて静かに動かなくなる。その無力感は胸を締めつけ、内臓を引き裂かれるようだった……
火竜は全身を炎で包み、巨大な火球と化して急降下してくる!
「ここで……諦めるわけには……いかない……」司教長は悲痛の涙を流し、首の聖職者のネックレスを引きちぎった。銀の珠がチリンチリンと地面に落ちる。
ラロの経典を空へ投げ上げ、宙に浮かぶ聖書へ五指を広げて叫ぶ。周囲に青い光が弾けた。
「まさか……いいだろう!来い!」近くの聖職者たちも勇気を振り絞り、空の聖書へ手を伸ばす。
「応えてくれ!!聖徒ゴファン!!」
青い星陣が純白の光を噴き上げ、空中のラロの経典へ一直線に照射される。
経典は激しくページをめくり――ある一頁で止まった。
だが遅い。火竜は大口を開き、彼らを丸ごと飲み込もうとした。
「白の矢!!」ナスティアは無我夢中でスキルを放つが、あまりにも無力だった。
……………………
ドォン!!
火竜は突如、神力の一撃に弾き飛ばされ、数十メートル後方へ吹き飛ぶ。砕石の斜面には深い溝が刻まれた。
白いフードを被り顔の見えない存在。両手に白い蝋燭を捧げ、身の丈十メートルに迫る聖徒――ゴファンが、プレイヤーたちの中に現れた。
出現と同時に、直径の大きな金色の防護ドームが展開される。百人は収まるほどの広さで、白い経文がドーム表面に沿って流れるように浮かび上がっていた。
「グルルルルルルルルル!!」火竜は激怒する。ゴファンの出現が、その逆鱗に触れたのだ。胸の奥から淡紫の炎が揺らぎ、口を開くと灼熱の蒼炎を吐き出す。奔流のように金のドームへ叩きつけられた!
黒い岩は瞬時に焼け、透き通った琥珀色のガラスへと変わる。
聖徒ゴファンはただ静かに頭を垂れ、祈りを捧げ続けていた。火竜の猛攻など意にも介さない。
「グオオオ!!」火竜はさらに力を込め、紫の烈焔を吐き続ける。雪山は真夏のような熱気に包まれた。
両側の雪峰が溶け始め、地面の黒石は灰白色の粉へと焼き砕かれる。あたり一面にパキパキと崩壊音が響いた。
「うおおお!!」ゴファンの足元で司教長が竜に向かって吼える。首の血管が浮き上がっていた。
「………………」誰もが火竜を見つめたまま動けない。
だが金のドームの中は、まるで音を奪われたかのように静寂だった。まるで穏やかな教会にいるかのような安らぎに満ち、今すぐ眠ってしまいそうになる。ゴファンの聖光は、ラロそのものが降臨したかのように、すべてを優しく包み込んでいた。
全プレイヤーのHPが強制的に満タンまで回復し、健康を示す濃い緑色へと変わる。
「こ……これは……」ナスティアは自分の身体に付与された新たな状態異常を見て、言葉を失う。――神の救済、被ダメージ無効。
紫の炎がふっと途切れ、火竜は首を曲げてゴロゴロと咳き込んだ。
再び炎を吐こうとしたとき、色は金色へと戻り――やがて口を開いても、もう炎は出なかった。
火竜の全身の鱗はレモンのような鮮やかな黄色へと変わり、粘つくシロップのように柔らかく、半液体化していく。
「見ろ!」狙撃手が火竜を指差して叫ぶ。
【防御崩し —350% 残り139秒】
「チャンスよ!!!」ナスティアが火竜を指して叫んだ。
「でも俺たちの火力じゃ、一気に倒しきれない!!!」狙撃手がナスティアに叫ぶ。
「それでもやるしかない!この130秒が唯一のチャンスなのよ!」ナスティアは薔薇水晶の杖を抜いたが、どう動くべきか分からず立ち尽くした。
金のドームに浮かんでいた白い経文が徐々に消え、結界の輝きが薄れていく。
「ナスティア……必ず……竜玉を手に入れて……」司教長は力なく腕を垂らし、黒く濁った目で彼女に微笑んだ。
ゴファンはゆっくりと膝をつき、温かな両手で司教長の身体を包み込む。そして二人は一緒に、金色の光塵となって消えていった。
ビュオオオ――!刺すような寒風が吹き荒れ、生き残った者たちを現実へ引き戻す!
「グルルル!」火竜は動けないまま暴れ、爪と牙を振り回す。その姿は先ほどの威厳とはまるで別物だった。
「撤退した方がいいのでは?!」賢者が最も現実的な提案を口にする。
「撤退……?ここまで犠牲を出して……信じた仲間はみんな竜血島で死んだのに、私は逃げるの?踏みとどまっても竜玉を得られる保証はない、さらに犠牲が増えるかもしれない……でも、逃げれば……確かに生き延びられる……でも何も得ずにムー大陸へ帰るなんて……」ナスティアの脳裏に無数の思考が閃き、心の天秤が激しく揺れる。
「ナスティア……」カルロフは竜焔に焼かれ、全身が黒焦げとなったまま背後に立つ。その姿はまるで黒い悪魔だった。
「座って司教に治療してもらって!」ナスティアは彼の変わり果てた姿に涙を滲ませる。
「いや……俺たちは……行くんだ……時間がない……」カルロフはゆっくりと目を開く――そこには赤金色の竜の瞳があった。
ナスティアの全身に悪寒が走る。信じられない思いで視線をカルロフの右手へ落とす……そこに握られていたのは、呪われた伝説の大剣――魂喰だった。
...
行けっ! カルロフ!!(#`Д´) !!!




