230 死者の遺言
【俺はエレナだ。この音声を聞いている時、お前は俺の最後の姿を見ているはずだ。俺は黒邪翼ギルドの幹部として、竜玉を求めて竜血島へ来た。苦労の末、竜首山脈で数体の上竜族を狩り、竜族限定の伝説級武器――魔劍・魂喰をドロップした。俺は衝動的にこの大剣を装備し、その副作用『魂喰』を見落とした――毎秒0.5%のHPを失う。
もしHPが0になり、護心石を持っていなければ、この大剣に侵食される。奴は俺の死体を乗っ取り、他者を攻撃する。そしてこの武器は所有者を呪う。教皇の聖水で浄化されない限り、決して手放すことはできない。
つまり、今お前に語りかけている俺は……もう死んでいる。仲間のスタミナポーションは全部使い切り、補給も尽きた。帰還途中で三体の上竜族に包囲され、敗北し、隊は崩壊した。最後は一人、山脈の狭間で奇跡を待ったが……来なかった。
そしてお前は俺の死体――すなわちこの魂喰大剣の意志を倒した。だから、この大剣はお前のものになる。使うかどうかは慎重に決めろ。俺と同じ過ちは犯すな。この武器には固有スキル『血飲の宴』がある。与えたダメージをHPに変換できる。上手く使え……
もしこの音声を聞いているなら……ナスティア副長に伝えてくれ……俺は失敗した……すまない……俺は……失敗した……】エレナは嗚咽し始めた。
右半身の肉繭が崩れ落ち、紫黒の大剣がドンと地面に落ちる。
「オオ……ガァァァァ!」それは主から離れた瞬間、凄まじい竜の咆哮を上げ、山谷に響き渡った。
長短不揃いの両刃の大剣を持ち、刀身の内側には黒い邪竜の血が流れているかのように揺らめき、濃い紫の瘴気を放っている。
エレナは立ったまま泣き続け、砕け散った身体は雪上で光の粒となって消えていった。
「………………」誰も言葉を発せず、ただナスティアを見つめる。
ナスティアは無表情のまま群れから離れ、人目の届かない岩陰へと歩き、しゃがみ込む。胸が締めつけられ、口を押さえてすすり泣いた。エレナは裏切ってなどいなかった。最後まで約束を守り抜いた。それなのに、自分は彼女を竜血島へ送り込み、死なせてしまった。
「ナスティア様……」カルロフは重傷の身体を引きずりながら近づく。
ナスティアは咳払いをして横を向き、涙を拭って立ち上がる。
「何?治療しに行かないの?」眉をひそめ、不機嫌そうに振る舞う。
「皆にはガレ場で待機させています。あなたを邪魔させたくなかった。でも……心配で……」カルロフは自分の傷など気にも留めず、真っ先に彼女のもとへ来た。
「平気よ」ナスティアは肩をすくめて答える。しかし赤く腫れた目と震える鼻が、それを裏切っていた。
「大丈夫です、ナスティア様。誰も見ていません……」
ナスティアはちらりと彼を見て、唇を強く噛み、胸が激しく上下し始める。
「うっ……わたし……信じた人たちを……ここに送り出して……死なせた……最低だ……無能だ……」
瞼を閉じた瞬間、溜めていた涙が一気に溢れ出し、止めどなく流れ落ちた。
罪悪感は冷たい風のように全身を打ち、ナスティアの身体を震わせた。自分は罰を受けるべきだ、最後には必ず孤独になる、仲間など持つ資格はない――――そのとき、腰をぎゅっと抱き締められた。
カルロフがナスティアを強く抱き寄せる。
「頑張れ、ナスティア様。」
その身体は荒れ狂う海にそびえる岩のように頼もしく、抱き寄せられた瞬間、ナスティアの心の防壁は崩れ落ち、彼の肩に顔を埋めて泣き崩れた。
「ごめんなさい!!!うああああ!!!!」
「落ち着け……それより、あの大剣のことを考えないと……」カルロフは彼女が少し落ち着いたのを見て、苦笑する。
「オオ……ガァァァァ。」
「ギャオ……ガァァァァ。」
山脈の彼方から、いくつもの竜の咆哮が響く。ナスティアははっとして顔を上げ、空を見た。
二体の巨大な竜が、頭上で旋回している。
「こんな時に……?!」カルロフの胸が沈む。なぜ今、このタイミングで上竜族が現れるのか。
「魂喰の大剣……最後に咆えたでしょう。あれは……竜を呼ぶ声よ。」ナスティアは空を見上げながら、すべてを悟ったように呟く。
……
二つの巨大な影が山のように落ちてきて、大地が震える。
ゴオオオオオオ――――
遠方の山肌では、小規模な雪崩が起きた。二体の火竜が着地したのだ。
「………」誰もが黙ってその姿を見つめる。不安と混乱に満ちていた心が、逆に静まり返っていく。
先ほどまで猟竜団は荒れ狂う海の中でもがくように戦っていた。だが上竜が降り立った瞬間、その抗いは止まり、ただ波に飲まれるのを待つだけになった――――どうせ、もう助からない。
「オオオオオオオオオオオオオオオ!!!」一体の火竜が翼を広げて羽ばたき、プレイヤーたちの前に舞い降りる。高みから人間を見下ろし、あざ笑うように。
もう一体の火竜は別の峰へ歩いていき、大型犬のように尾を巻いて身体を包み込み、山壁に頭を預けて、金色の瞳を細めながら見物している。
プレイヤーたちはざわめき、ナスティアも驚きを隠せない。
威風堂々たる火竜はすぐに攻撃する気はないらしく、長い首を伸ばして前方の二人の女魔導士に顔を寄せ、強く匂いを嗅ぐ。二人は今にも鼻孔に吸い込まれそうになり、恐怖で全身が痙攣した。
ナスティアも嗅がれた瞬間、恐怖で身を強張らせ、目を閉じる。カルロフはすぐに彼女を背後へ押しやり、自分が前に出て火竜を睨みつけた。
火竜は左右に首を振りながら匂いを確かめ、蛇のように地を這って前進する。敵陣のど真ん中にいるにもかかわらず、まったく気にしていない。
「うわあああ!」後方の二人の暗殺者は、巨大な竜の頭が迫ってくるのに耐えきれず、悲鳴を上げて逃げ出した。
「ギャオッ!」火竜は突如首をもたげ、角が高熱を帯びて金色に輝く。口元が膨れ上がる。
「シュウウウウ――ガァァァァ~~~~」
金色の竜焔が一直線に数十メートルを貫き、逃げた二人を人型の炎へと変えた。やがて彼らは崩れ落ち、光の粒となって消える。
「グルル……グルル……オオ?!ガァァァァ!!」火竜は突如激昂し、翼を打ち鳴らして空へ舞い上がる。
後方にいたもう一体の火竜も警戒して立ち上がり、尾をゆっくりと揺らした。
「うおおお!!」カルロフは躊躇なく跳び上がり、剣を振り上げて竜の首へ斬りかかる。
その場にいた全員――ナスティアでさえも、呆然としたままカルロフの奇襲成功を見つめた。
皆はためらった。心の中で問いかける。――本当に、仕掛けるのか……。
「氷晶嵐!」
ナスティアはすぐさまカルロフに応じ、戦闘態勢に入った!
「泥沼術!」「天洪!」「静電荷!」
周囲の賢者たちも闘志を呼び起こされ、対竜戦術を開始する。地面一帯に、さまざまな状態異常スキルが重ねられていく。
「大口径ライフルに切り替えろ! 劣化ウラン毒徹甲弾を使え!」
狙撃手たちは重狙撃銃を構え直し、カチャリと装填した!
「стрелять!!!(撃て)」
ドォン!!!!
普段の乾いた銃声とは違い、重狙撃銃の発砲音は低く重い。劣化ウラン毒徹甲弾は前腕ほどの太さがあり、発射されると橙色の光球のようになって火竜へ叩き込まれた。
「オオオオオ~~~~ッ!!」火竜は何発も被弾し、空中から砕けた鱗を撒き散らす。翼膜にもいくつもの穴が開き、飛行速度が目に見えて落ちた。
痛みを受けた火竜は、すぐさま地上へ急降下し襲いかかる、三人の狙撃手へ一直線に襲いかかる!
カルロフと、残る三人の近衛兵が即座に駆け出した。
「注意しろ! 火を吐いた後は首の甲殻が熱で柔らかくなる! その隙を逃さず仕留めろ!」
狙撃手たちは何十キロもある重火器を抱えていて、まともに走れない。亀のようにのろのろと、火竜が落ちてくる地点から離れようとする。
神職者たちはすでにカルロフへ防御強化を重ねがけしていたが、それでも無傷では済まないだろう。
賢者たちが一斉に火竜へ水柱を噴き上げる。
「複数詠唱!」「強制読取!」ナスティアは低く詠み上げ――
「氷爆術!!!」
ドガッ――
ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ! 空中で合計七度、重たい破裂音が響いた!
ドゴオオオオオ~~~~!!!!!!!!!!
すべての水柱が巨大な雪塊へと変わり、火竜の上から圧し潰すように落ちかかった。
火竜の突進速度が一気に鈍る。
ナスティアはさらに一歩先を読み、金髪をなびかせて再び怒鳴った!
「氷爆術!!!」
ボフッ――
ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ、ボフッ! 空中で再び七度の爆音が炸裂した!
源魔師の「強制読取」により、ナスティアは本来まだ再使用できないはずのスキルを、もう一度強引に発動させたのだ。
小規模の雪崩が火竜の上から崩れ落ち、厚い雪が竜翼を押さえつける。火竜はひと声吼えると、そのまま岩場へ墜落し、厚い雪の下に埋もれた。
「フウ~~フウ~~~」後方のもう一体の火竜は、いら立ったように足踏みしながら戦いを眺めている。
少し寂しく感じます……(´;ω;`)
今日は一話追加しました!




