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ひきこまれるクラシック

 受験勉強の際、机の上に漫画本を置いておくのは危険な行為です。理由は言うまでもないですね。家の大掃除の際に昔のアルバムを見つけてしまった時と同じような結果が訪れてしまいます。スマホもそうですね。集中力の大敵になるでしょう。

 漫画本とスマホさえ封じてしまえば、勉強に集中できるのか?

 それは間違いです。最大の敵は、睡魔という名の大敵。方程式をひとつ解くたびに、重力を逆らい続けてきたまぶたは、重力に押しつぶされていく。

 それに対抗するにはカフェインがいい。紅茶、コーヒーを飲めば、睡魔は一時的に去っていく。ただ、カフェインに頼ると明日の朝がきつい。この方法は金曜、土曜の夜にしか使えない。日曜の夜にこれをやったら月曜日の朝が悲惨なことになる。

 そんなあなたにおすすめなのがこのCD!この『死ぬほど集中できるクラシック』を聞くことによってあなたは何にも邪魔されることなく、ひとつのことに集中できる!



 たまたまつけてたテレビでやってた通販の宣伝。それに惹かれて私はこの『死ぬほど集中できるクラシック』を購入した。二万円もしたが、これで私もきっと、死ぬほど勉強がはかどるだろう。

 早速深夜、受験勉強の最中にそのCDを再生してみた。流れてきたクラシック音楽は、なんというか、心がやすらぐ曲だ。曲の世界にひきこまれる。受験によるストレスが、私の体から少しずつ蒸発していくような感覚だ。

 なにが『死ぬほど集中できる』だろうか。だんだん体が重くなってきた。勉強どころではない。クラシックを聴いているうちに、私の上半身は磁石のように、机の上へと吸い寄せられていった。


 気が付くと私は、広い野原の中に立っていた。どこからか川のせせらぎが聞こえてくる。

 少し歩くと、川が見えてきた。すると川のすぐ側で、緑色のグランドピアノを弾いている一人の男性が見えた。私は、その男性に見覚えがある。

「先生…?」

 私が声をかけると、男性は私の方を振り向いた。

「倉科くん…」

 私の名を呼ぶその男性は、私の高校の音楽教師、滝沢先生だった。

「先生…」

 滝沢先生は、私が初めて愛した男性だ。毎晩私は先生のことばかりを考え、受験勉強が手につかない。だからあんなCDの宣伝にひっかかってしまったのだろう。

 川を前にして、私は先生の演奏を延々と聴き続けた。このまま滝沢先生と一緒にいたい。そう思った。


 しかし滝沢先生は半年前、交通事故に遭い、植物人間となっていたはず。なんでこんなに元気なんだろう?

 でもそんなことはどうでもいい。先生とこのまま一緒にいれるならそれでいい。ずっとこのまま先生の演奏に…先生だけに集中したい。


 朝。自室の机にうつ伏せになっている少女。母親が起こそうとすると、彼女の体は体温を失い、ひんやりとしていた。



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