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奏でられたパンツァデュオ

 澄みきった湖。周りは木々に囲まれ、風でざわつき落ちた木の葉が水面に波紋を広げる。やがて雨粒がこぼれ、湖と雨と風の三重奏。そこに雷鳴が加わり四重奏。人為的ではなく、すべては自然の力が作り出す情景。それが、私がクラシックを聴いているときに目を瞑って作り出す、頭の中の幻想の世界。その中に身を投じることで、日常を一時的だが忘れることができる。その世界には、わたし以外の人間が入ることは許さない。


「なあヒビコ」


 幻想の世界にいた私の体は、間の抜けた男の声の力で強引に、現実世界へと呼び戻された。


「なによ!」


 間の抜けた男の声。私の幼馴染み、ダンゴの声だ。私とダンゴは、二人でクラシックのコンサートを聴きにきていたのだ。たしかに演奏は終わったが、もう少し幻想に浸っていたかった。


 コンサート会場を後にし、私達は道を歩きながらコンサートの感想を語り合っていた。というより、私が一方的に語っていた。


「ダンゴはなんのクラシックが好きなの?」


「おれ?うーん…そうだな…ショパン?」


「ショパン?ショパンの何の曲が?」


「曲じゃねぇよ。ショパンそのものが好きなんだよ」


「え?」


「あと、モーツァルトも好きだな」


「ど、どんなところが?」


「ショパンって名前聞くと、なんだかパン食べたくなるんだよ。モーツァルトに関しては、イタリアン系の料理を連想してしまう!とくに『ツァ』の響きがいい!モッツァレラ!ピッツァ!うああ食べたい!」


 駄目だ。この男と何故私はクラシックを聴きに来たのだろう。合わない。不釣り合いだ。クラシックに関心の欠片もないこの男と感動を分かち合おうなんて、考えた私が馬鹿だった。このあと二人で昼食を食べようと思っていたが、帰りたくなってきた。


 そう思っていたその時だ。私のお腹から、ソプラノ歌手が風邪で喉をやられた歌声のような音を奏でた。

 それと同時に、ダンゴのお腹からも音が聞こえてきた。テノール歌手が歌の最中に嘔吐でもしたような音色。


 お腹での二重奏の後、私とダンゴはピザ屋に入った。モッツァレラチーズとトマトが奏でる、味のハーモニーを思う存分堪能していたら、クラシックなどどうでもよく思えた。


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