第6話「地獄の生放送(地獄の公開処刑)」
「配信開始、5秒前……4、3、2……」
スタジオの赤いランプが点灯した瞬間、
画面上の同時接続者数は
瞬く間に50万人を突破し、
なおも勢いを増して
垂直立ち上がりを見せていた。
画面の左側には、
黒のスーツを隙なく着こなし、
笑みを浮かべる神田葵。
右側には、
顔を隠す黒い仮面をつけ、
微動だにせず座る三浦由香。
そして中央には、
この地獄のエンターテインメントを
お膳立てした暴露系配信者・ナックルが、
興奮を抑えきれない様子で
マイクに向かっていた。
「さあ始まりました!
今夜のゲストは、
ネット上を大炎上させている
『シンパシー』代表・神田葵さんと、
彼女の裏の顔を暴露した
三浦由香さんです!」
コメント欄は、
葵への罵詈雑言で
目も当てられない惨状だった。
『サイコパス女』
『人殺し』
『全額返金しろ』
『今すぐ消えろ』
葵は画面に流れる最悪の言葉の数々を、
まるで
極上のスパの
シャワーでも浴びるかのように
心地よさそうに眺めていた。
(いいわ、もっと燃えなさい。
憎悪でも何でもいい、
私に視線を集めなさい)
「神田さん」
ナックルが
意地悪な笑みを浮かべて葵に振る。
「先日流出した音声データについて、
何か言い訳はありますか?
『被害者の過去は集客コンテンツ』
『みんな
気持ちよく泣ける物語を買いたいだけ』
……ずいぶん酷い言われようですが?」
葵はゆっくりと足を組み替え、
マイクを引き寄せた。
謝罪の姿勢など、微塵も見せない。
「言い訳?
するわけないじゃない。……
だって、全部
私が言った通りの『事実』だもの」
スタジオの空気が凍りついた。
ナックルすら一瞬言葉を失う。
「みんな、私が謝るとでも思ってたの?
『騙してごめんなさい』って
涙を流して頭を下げると思った?
バカね。
私は
あなたたちが一番大好きな
『可哀想な物語』を
売ってあげていただけよ。
お金を払って勝手に感動して、
勝手に救われた気になっていたのは
あなたたちでしょう?」
コメント欄が狂ったように加速する。
葵の開き直りに、
世間の怒りは頂点に達していた。
だが、その時——。
右側に座っていた三浦由香が、
低く、静かな声で笑い出した。
「ふふ……相変わらずね、葵ちゃん。」
由香は仮面の下から、
洞察するような瞳で、葵を射抜いた。
「世間を煽って
『悪役』として開き直ることで、
注目度を維持し、
炎上マーケティングにシフトする……
それも
あなたの計算通りのシナリオでしょ?」
葵の眉が、わずかにピクリと動いた。
「でもね、葵ちゃん。
あなたがどれだけ悪役を演じようと、
もう手遅れなの。」
由香は
懐から一冊の黒いファイルを取り出し、
カメラに向かって掲げた。
「これは、
神田葵が代表を務める
『シンパシー』が、
過去5年間に渡って行ってきた
架空請求、インサイダー取引、そして
顧客の個人情報の売買リスト。……
そして何より、
あなたが
『悲劇のインフルエンサー』として
売り出してきた女の子たち全員の
『捏造した過去』の指示書よ。」
「……っ!?」
「あなたが作った
『偽りの被害者たち』はね、
今この瞬間、
私の呼びかけに応じて
全員が警察と国税局に出頭しているわ。
……葵ちゃん、あなたが作った帝国は、
もう跡形もなく崩壊したの。」
ナックルが声を張り上げる。
「な、なんとー!
警察と国税が動いている!?
これはマジのやつだ!!」
コメント欄は歓喜と興奮で溢れ返った。
『ざまあああああ!』
『警察きたー!』
『由香さん完全勝利!』
世間は、
葵という「悪魔」が完全に詰み、
破滅していく瞬間に、
最高潮のカタルシスを感じていた。
葵はファイルを見つめ、
ゆっくりと天を仰いだ。
手足の先から冷たくなっていく。
完璧だった自分の牙城が、
完全に崩壊したことを悟った。
(全部……全部、持っていかれた……!)
資金も、会社も、社会的立場も、
すべてを失った。完全な敗北。
だが——
葵の胸の奥から湧き上がってきたのは、
絶望ではなかった。
「……ふふ」
葵はゆっくりと顔を下げ、
由香を睨みつけた。
その瞳には、
血の混じった狂気が宿っていた。
「すごいわ、由香ちゃん。……
本当に、私を完璧に潰してくれたわね。」
葵はテーブルに両肘をつき、
由香に向かって身を乗り出した。
「でもね、勘違いしないで。
あなたが今、
世間に『正義の復讐者』として
もてはやされているその姿……
それ、15年前の私とまったく同じよ?」
「……何?」
「あなたは私を倒すために、
私と同じように
世間の『正義感』と
『他人の破滅を見たい欲望』を
利用した。……
ねえ、気持ちいいでしょう?
何十万人もの人間が、
あなたの指先ひとつで歓声を上げて、
私を叩きのめしてくれる気分は?」
葵は口元を歪め、邪悪な笑みを浮かべた。
「おめでとう、三浦由香。
あなたは私を殺すことで、
新しい『神田葵』になったのよ。」
由香の肩が、微かに揺れた。
仮面の奥の瞳に、
一瞬だけ動揺の色が走る。
「……私は、あなたとは違う。」
「いいえ、同じよ。」
葵は低く歌うように囁いた。
「あなたはもう、
普通の人間には戻れない。
地獄の底で私を呪い続け、
私を壊すためだけに生きてきた怪物が、
私を失ったあとで
どうやって生きていくの? ……
これからのあなたの人生は、
永遠に
『神田葵の影』に囚われ続けるのよ。」
「黙りなさい……!」
初めて、
由香の声に感情的な亀裂が入った。
同接数は100万人を突破。
全世界が見守る生放送の画面で、
二人の化け物は、
お互いの首を絞め合うように
睨み合っていた。
聖女の仮面は剥がれ落ちた。
だが、
それは終わりではなく——
二人の女が
共倒れの地獄へとなだれ込む、
最悪のバッドエンドへの
カウントダウンに過ぎなかった。
読んでくださってます方々に篤くお礼申し上げます。
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明日 17:10 に、投稿します。




