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【クィーン・オブ・バイオレンス 〜「悲劇の聖女」の正体は元いじめ主犯格。共感で狂った世界で復讐者と地獄を争う〜】  作者: 風風風


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第5話「怪物たちの前夜祭」

「『シンパシー』の株式、

 ストップ安です!

 メディア各社からの取材依頼と抗議、

 それにクライアント32社からの

 契約解除通知……

 違約金だけで、

 数十億規模に膨らみます!」


社内に怒号と悲鳴が飛び交(か)っていた。


社員たちはPCの前で頭を抱え、

荷物をまとめて

逃げ出す準備を始める者すら

出始めている。


だが、

神田葵は社長室の椅子に深く腰掛け、

デスクに置いたタブレットで

暴露動画の再生数を眺めていた。


公開からわずか6時間で、

再生数は1,000万回を突破。


『ナックル』の動画のコメント欄は、

昨日まで葵を盲信していた信者たちの

怨嗟と、

「騙された」という怒りで

地獄絵図と化していた。


「葵さん!

 何とか言ってください!

 釈明会見を開くんですか!?

 それとも

 弁護士を入れて

 盗聴の違法性を訴えますか!?」


役員が泡を食って

葵の胸ぐらに掴(つか)みかからんばかりに

詰め寄る。


葵はゆっくりと顔を上げ、

冷ややかな視線で役員を射抜(いぬ)いた。


「釈明?

 盗聴?

 バカね。

 そんな裁判沙汰の法的な手続きなんて、

 世間は誰も興味ないわよ。」


「なっ……!」


「世間が求めているのはね、

『完璧に仕組まれた正義の制裁』という

 娯楽(ショー)よ。

 今さら

『盗聴は違法だ』なんて言ってみなさい。

『盗聴されて当然の悪党が足掻いている』

 って、火に油を注(そそ)ぐだけだわ。」


葵はデスクの引き出しから、

かつて自分が執筆した

ベストセラー著書を取り出し、

無造作にゴミ箱へ投げ捨てた。


「悲劇の聖女(神田葵)という

 コンテンツは、今日この手で廃業。……

 ここからは『史上最悪の悪女』として、

 第二幕を始めるのよ。」


役員が絶句する中、

葵のプライベート用スマホが重く振動した。


着信画面には——『非通知』。


葵はフッと口元を緩(ゆる)め、

迷わず通話ボタンをスライドさせた。


「……盗聴器の仕込み場所、

 ホテルの配膳スタッフを買収したのね?

 15年間の執念にしては、

 なかなか洗練された手口じゃない、

 由香ちゃん。」


受話器の向こうから聞こえてきたのは、

ノイズ混じりの吐息だった。


『……おめでとう、葵ちゃん。

「悲劇のヒロイン」の衣装、

 よく似合っていたよ。

 破り捨てるのが惜しいくらいにね。』


15年ぶりに直接聞く、三浦由香の声。


かつての

泣きじゃくっていた

弱々しい少女の面影は微塵(みじん)もなく、

低く、暗く、

底なしの憎悪を孕(はら)んだ声だった。


「感謝してほしいくらいだわ。

 私の肉声ひとつで、

 あなたの人生で一番のバズを

 提供してあげたんだから。」


『強がりもそこまでよ。

 あなたの会社は終わり。

 信頼も、金も、ファンも、全部失った。』


「そうかしら?」


葵は立ち上がり、

ガラス張りの窓から

眼下に広がる渋谷の街並みを見下ろした。


「あなたは

 私を『破壊』したと

 思っているでしょうけど、

 甘いわね。

 世間は今、どうなっていると思う?

『裏切られた元信者』と

『正義気取りの野次馬』が、

 私という

 新しい『叩いてもいい悪魔』を

 見つけて歓喜しているのよ。」


『……何が言いたいの?』


「人はね、

『可哀想な善人』を

 応援するのも好きだけど、

 それ以上に

『落ちた悪人』を

 叩きのめすのが大好きなのよ。

 どちらにせよ、

 私の手のひらの上で

 踊っていることに変わりはないの。」


葵は受話器を強く握りしめ、

言葉に毒を込めた。


「由香ちゃん。

 あなたは私を追い詰めたつもりで、

 自分自身を

 次の『ステージ』に

 引きずり出したのよ。

 暴露系YouTuberと組んで

 私を叩いた瞬間から、

 あなたもまた

『ネットの娯楽消費』の一部になった。

 もう引き返せないわよ?」


電話の向こうで、

由香がフッと短く笑った。


『……分かっているわよ、そんなこと。』


「え……?」


『あなたがそういう女だってことくらい、

 15年間毎日考えてきたから分かってる。

 あなたが「悪女」として

 逆張りのパフォーマンスを始めることも、

 世間の憎悪すら利用して

 次のビジネスを企むことも……

 全部、計算済みよ。』


葵の眉間が、わずかにピクリと動いた。


『葵ちゃん。

 私はあなたを

 社会的に殺すだけじゃ満足しない。……

 あなたが今まで積み上げてきた

「人の心を操る悪魔の技術」そのものを、

 私と同じ地獄の底に

 引きずり下ろして破滅させてあげる。』


『……明日の夜8時。

 ナックルのチャンネルで、

 生放送(ライブ配信)での

 直接対決を用意したわ。

 来なさい。

 逃げたら、

 あなたの会社が隠している脱税と

 インサイダーの資料、

 全部警察に持ち込むから。』


ブツッ、と通話が切れた。


ツートーンという機械音が空しく響く。


葵はスマホを手に持ったまま、

しばらく動かなかった。


(脱税とインサイダー……?

 会社の一番深い暗部まで握られている……!?)


背筋を駆け上がる、本物の寒気。


由香は単に葵の過去を暴くだけでなく、

葵の会社の財務や

内部の協力者までをも

完璧に手中に収めていたのだ。


「あは……あははは……っ!」


静まり返った社長室に、

葵の甲高い高笑いが響き渡った。


「最高……

 最高よ! 三浦由香……!

 あなた、ただの被害者じゃない……

 私以上の

『怪物』になって帰ってきたのね……!」


葵は手鏡を取り出し、

乱れた髪を指先で整えた。


鏡の中に映る自分の瞳には、

狂気と歓喜の炎が

メラメラと燃え盛っていた。


「いいわ。

 明日の夜8時……

 世界で一番醜く、

 世界で一番美しい

『空中分解』を見せてあげる。」


偽りの聖女と、狂気の復讐者。


二人の怪物が、

全世界の注目のもとで

直接対峙する

「地獄の生放送」まで、あと24時間。

明日 17:10 に、第6話を投稿します。

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