第67話
「悪びれもせず、お父様に言ったんです。『この子は嘘をついてる。娘の私と他人の告げ口。どっちを信用するの? この子に罰を与えて』って。……本当に、なんて嫌な子だったんでしょう」
私は昔の自分を恥じ、自嘲した。
そして、語り続ける。
「その時でした。私は生まれて初めて、お父様にぶたれたんです。ショックでした。お父様はおおらかな人ですから、私に向かって体罰どころか、声を荒げたことすらありませんでしたから。そのお父様が、本気で怒ったんです。『横暴を諫めてくれる本当の友達を嘘つき呼ばわりして、あまつさえ罰を与えろとは何事か!』って……」
「…………」
「おかげで、目が覚めました。馬鹿だった私を諫めてくれた友達と、本気で叱ってくれたお父様には感謝してもしきれません。……これで、わかってもらえましたか? 私も昔は、キャロルだったんです。あの時、もしもお父様が私ではなく友達の方を罰していたら、きっと私は、今とは全く違う人間になっていたと思います」
「そうか……。だから、エリックとキャロルの現状が、『今とは全く違うきみ』の末路を見ているようで胸が苦しく、深く同情してしまうんだね」
ブライスは、やっと納得できたというように深く頷き、言葉を続ける。
「人の心は環境で大きく変化する。僕も生まれてすぐに存在を隠され、一時は『なぜこんなにコソコソと生きなければいけないのか』と不満を抱いたけど、近習に恵まれたおかげで、心を闇に落とさずに済んだ。良き人との出会いは、人生で最高の宝だと僕は思う。クリスタ。僕もきみも、きっと凄く幸せな人間なんだね」
「はい。私も心からそう思います。その幸せを、ほんの少しでもエリックとキャロルにも分けてあげられれば良かったのですが、結局私には何もできませんでした」
「そうかな? エリックはともかく、キャロルの心は、きみに諭されたことで人として正され、随分救われたんじゃないかな? そうでなければ、『自分が撃った子供にお金を渡してほしい』なんて言わないと思うよ。これまでは自分がすべてで、他人を思いやることなどなかった彼女にとっては、大変な成長だ」
「…………」
「あの様子なら、異国の地でこれまでのおこないを反省し、案外まっとうに生きていくことができるかもしれない。恐らくは異民族の有力者の元で、使用人のような立場になるのだろうけど、これまでのキャロルの人格ならきっと、激しく反発し、拷問に等しい体罰を受けていただろう。でも今のキャロルなら、そんなことはないはずだよ」
私は、そうあってほしいという願いを込めて、深々と頷いた。そこで、応接室のドアが外からコンコンとノックされる。ブライスが「どうぞ」と声をかけると、扉が半分開き、ハンスが顔をのぞかせた。
彼は今、フォーリー家で近衛兵をしている。今日は護衛として私に追従し、今まで外で待機していたのだ。懸命にフォーリー領民を逃がそうとした功績をたたえられ、お父様から高価な懐中時計を贈られたハンスは、その時計をこちらに掲げ、短針を指さしながら言う。
「お話し中申し訳ありません。お嬢様、次のお約束の時間が迫っております」
最近は、私も暇ではない。フォーリー家の長女として、いつまでもあの草原でぼぉっとしているわけにもいかず、いまだ完全に体調の戻りきらないお父様の代わりに、お母様と交代交代のような形で、公務に大忙しなのである。




