第66話
ブライスは、静かに頷いた。
「そうだね。でも、国王陛下と父上からすれば、これでも温情をかけた方なんだよ。ラスールを手先にして、いずれは自分が王となる野望を抱いていた右大臣ギブラの一族は、全員処刑されたからね。王に反逆の意思を示した者とその血族が辿る末路は、それだけ厳しいものになるということなんだ」
「はい……」
「気休めに聞こえるかもしれないけど、金鉱山の労働環境も、昔に比べれば改善されているようだから、若く健康なエリックなら、どうにか生きて刑期を務められるかもしれない。キャロルも、元貴族であることが考慮され、少なくとも死ぬまで使いつぶすような主人には売られなかったはず。だから、あまり気に病まないようにね」
「はい……」
ブライスがせっかく私を元気づけてくれているのに、力ない『はい……』という返事を、二回も続けてしまった。そんな私を見てますます心配になったのか、正面に座っていたブライスが場所を変え、私の隣に移動し、そっと手を握ってくれた。
「クリスタ。きみは、どうしてそんなに優しいんだ? 確かにあの二人は哀れな面もあると思うけど、僕はきみほど同情することはできないよ」
「…………」
「きみが僕に送ってくれた手紙がなければ、僕はあの私争の現場に向かうのが遅れ、彼らの手によってフォーリー領民が虐殺されていたんだ。そして、きみもどうなっていたことか……。それを思うと、今でも冷や汗が流れるよ。本当に、危機一髪だった」
あの時、ブライスが来てくれたのは、私が彼に送った手紙がきっかけだった。
ブライスは、大公様が目星をつけた悪徳領主と思しき貴族たちを順々に調査していて、フォーリー家とウォード家の直接衝突が始まった日は別の領地にいたのだが、私の手紙で一刻の猶予もない事態が起こっていると知り、わずかな手勢を率いて駆け付けてくれたのだ。
実際、彼の言う通りだ。ほんのわずかな違いで、私は死んでいてもおかしくない。それなのに、どうしてこれほど、キャロルとエリックに同情してしまうのか。
……その理由が、私にはわかっていた。私は、ブライスの手を静かに握り返しながら、彼の目を見て、心の奥深くにしまった思い出の箱を紐解くように語り始める。
「……ブライスさん。私、昔はそんなに良い子じゃなかったんです。いえ、ハッキリ言えば悪い子でした。悪戯も、いっぱいしました。何といっても領主の娘ですから、誰も私に強く物申すことはできません。それで、調子に乗ってたんです」
ブライスは、口を挟まず、ただ真剣に私の話を聞いてくれていた。
「そんなある日の事でした。私のやんちゃぶりを見かねた友達の一人が、お父様に告げ口したんです。『最近のクリスタはいくらなんでも酷い。領主様、彼女の為にもちゃんと叱ってください』って。その時、私はなんて言ったと思います?」
「なんて言ったの?」




