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天峰国物語〜混じりの仔と蔑まれた私が次期女王候補になるまで〜  作者: 音下 希乃


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一枝 一葉 四節 出会い

続きをお読みいただき、ありがとうございます。

週一投稿の予定でしたが、話のストックがまだあるので、無くなるまでは週に2回、水曜、日曜の夜9時に更新したいと思います。

どうぞ、お付き合いよろしくお願いたします。

 修練を終えて、私は痛む体を引きずりながら書庫殿へと向かっていた。


「う……」


 ーー萩太郎なんて、大嫌い……。

 最初の試合を終えてから、周囲から持ち上げられた萩太郎は調子に乗って何度も私をいたぶった。しかも、これ見よがしに強化の巫術を使って私の死角に回り、防具を着けていない生身の体部分を狙って突いてきた。

 道着の下はきっと青あざだらけだろう。


「い、たい……」


 周囲にいた子弟の中には強い癒やしの巫術持ちの子もいる。

 それでも、混じりに巫術をかけるのはもったいないと言わんばかりに誰も私に目を向けなかった。


「っ、ほんと、容赦ないですね……」


 ざぁざぁと枝を揺らしながら冷たい北風が白銀杉から吹き下ろしてくる。もうすぐ花咲の季節になるけれど、国の北側に位置している宮廷はまだまだ寒い。

 その寒さから逃げるように私は書庫殿に向かう道を逸れて蝋梅の庵に向かった。

 神楽殿と書庫殿を繋ぐ道から少し逸れたところにあるこの庵を見つけたのは、萩太郎との稽古が始まったのと同じ五年前。いまと同じように萩太郎に散々痛めつけられた後、泣きながらさまよっていた時に見つけた。

 主要施設からほどよく外れているこの庵の存在は父様ですら知らなかったらしく、お知らせしたときにはとても驚いていた。父様はすぐに松風様に報告。松風様は「初代様の遺物かもしれない」とすぐさま調査を入れたけどめぼしい発見はなく、調査が終わった後、白梅様から「最初に見つけた子に所有権を与えます」と正式に私が譲り受けた。

 萩太郎以外付き人がいない私には、修練の後に身支度を調える場所が必要だった。書庫殿に私室はあるけど、私室に向かうまでにいくつかの執務室を通る。そこを通る度に執務中の家人から「また駄目だったのか」と失望の目を向けられるのが耐えられなかった。庵に寄るのはその目を避けるのにもちょうどよかった。

 獣道よりかは少しだけ整えられた道を進んで庵までたどり着く。庵の横、一本だけ植えられた蝋梅が今にもこぼれそうなくらい花を咲かせている。微かな梅の香りと共に、庵から流れてきた風が優しく私の頬を撫でていった。

 その風は、なぜか、庵の外よりも暖かく感じた。


「っ、」


 その瞬間、張り詰めていた糸が切れてその場にう膝をつく。同時に、限界を迎えた目からぽろぽろと目から涙がこぼれていった。


 ーー一体、いつまでこんな風に過ごせばいいんでしょう?


 体はどこも酷く痛む。萩太郎から受けた傷だけじゃない、全身を激しく動かすから毎日筋肉痛だ。正直、自分の薙刀だって持ち上げるのすら辛い。でも、山神様に見つけてもらえるならと毎日頑張っているのに。


 山神様どころか、周囲の人にすら私は見てもらえない。


 どれだけ頑張っても、所詮“異物”で“混じりの仔”であることは変えられない。

 しかも、あと一月ほどで花咲の季節になる。神託の儀で力を示せなかったら、私は一体どうなるのだろう?

 書庫殿の書物には神託の儀に失敗した者の記録はなかった。

 一人も失敗していないのか。 

 失敗したという記録を残していないのか。


「っ、だれか…っ」


 痛いのはもう嫌だ。どれだけ修練を重ねても、巫術は授けてもらえないのだから。

 でも、神託の儀までに巫術を身につけなければ。


「だれか……!」


 周囲の誰もが、私を私として見てくれないのに。

 そんな中、神託の儀で無能を晒したら?

 父様ですら、私を見捨ててしまうかもしれないじゃない。


「私を…っ」


 ーーわたしを、たすけて。


「……やっと見つけた」

「え?……きゃっ!」


 私しか居ないはずの庵から男の子の声がした。

 誰?と思って顔を上げた瞬間、突風が私の顔めがけて吹き荒れた。風は蝋梅の花びらを巻き込んで、私の視界を黄色く染め上げる。その勢いに負けて私は思わず目を閉じた。

 風は一瞬で私の横を吹き抜けていく。風の余韻が私の毛先を撫でていった後、ようやく私は目を開けた。

 そして、蝋梅の横に佇む一人の男の子を見つける。

 背は私の拳二つ分くらい大きい。紺色の学生服らしい服を身にまとって、肩からは同じ色のマントが垂れている。目深くかぶった学生帽のせいで顔立ちはよく分からない。

 でも、そこから覗く金色の瞳がとても綺麗だった。


「天峰菜乃華さん、で合ってる?」

「は、はい!」


 ぼうっと綺麗な男の子を眺めていたら、突然名前を呼ばれて思わず声が裏返る。

 目が綺麗な男の子は声も澄んだ水のように綺麗だった。


「よかった。きみと話したくて何度かここに来てたんだけど、なかなか会えなくて。……今日が最後のつもりだったから、会えて良かった」


 そう言って微笑む男の子。


「私に……?」

「うん。あ、待って」


 うずくまったままだと失礼だと思って立ち上がろうとしたら、男の子に止められた。どうしたらいいか分からず腰を上げた中途半端な体制で固まっていると、男の子がすたすたとこちらに歩いてくる。

 そして差し出される右手。


「はい、どうぞ」

「え……?あ、はい!」


 差し出された手の意味が分からずに変な声を出してしまったけど、すぐに意図に気づいてその手を握る。

 力強く握られた手はそのまま私の体を引っ張り上げてくれた。


「ありがとうございます……」

「いえいえ、どういたしまして」


 立ち上がったら、男の子の顔は目と鼻の先にあった。顔の近さに思わず息を飲んでしまう。帽子の中の金色はそんな私と違って凪いだままだった。

 すると、ふわりと帽子の中の金色が私に向かって優しく微笑む。

 その目になぜか胸がざわついて、慌てて握られたままの手を離そうと振りほどこうとした。

 でも、男の子はにこにこ笑ったまま手を離そうとしない。


「あ、あの?!話って何ですか?!」

「ふふっ!あ、そうだった」


 慌てる私が面白いのか、くすくす笑った男の子は、ふと気がついたように声を上げる。

 そのまま、繋いだままの手を顔の前に掲げた。


「きみなら、これ分かるかなって思って……見てて」


 その言葉とともに金色の目が伏せられる。

 その瞬間、目の前の男の子の体から金色混じりの白い光の奔流が舞い始めた。


「な、なに……?!」

「……“癒やしよ。かの者に”」


 男の子が低く呟いた瞬間。

 周囲を舞っていた光の奔流がすべて私へと降り注いでくる。


「っ?!」


 ぶつかる!と思った瞬間、光は私の体に吸い込まれて消えた。

 それと同時に全身の痛みがみるみる内に引いていく。

 その時間僅か数秒。


「今のは……」

「癒やしの巫術だよ。で、やっぱりきみにも見えたんだね」


 いつの間にか離された手は、私の手だけ中途半端な位置で空中に留まっている。

 男の子の手は僅かにずれた帽子の位置を直していた。


「僕が知りたいのは、これだ。この光の奔流の正体」


 学生帽をまっすぐかぶり直して男の子は言う。


「この光の正体を一緒に考えてくれないかな?お嬢さん」


 そう言って、男の子はいたずらが成功したような得意げな顔で笑った。


お読みいただきありがとうございます。もし少しでも続きが気になる方がいらっしゃいましたらブックマークや評価、コメントをいただけますと大変励みになります……!!

次回は26日(日)夜21時に投稿予定です。

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