第39章 名札
名札は、透明な、安いプラスチックだった。
紐も、細かった。
講道館のロゴが、小さく、入っていた。
その下に、印字。
非公式観察研究員
黒金武志
武志は、それを、首から下げた。
五秒で、外した。
「……恥ずかしいです。」
山田は、正直に、うなずいた。
「少し、そう思います。」
「少しですか。」
「かなり、です。」
武志は、また、下げた。
今度は、少し、長く、我慢した。
そのまま、渋谷へ出た。
コンビニに、寄った。
缶コーヒーを、買った。
店員が、名札を見た。
「講道館の方ですか。」
武志は、一瞬、止まった。
それから、少し、考えて、答えた。
「……半分くらい、です。」
店員は、意味が分からない顔をした。
でも、それ以上、聞かなかった。
外へ出ると、
健二と、花と、森が、少し離れたところにいた。
三人とも、名札を見た。
最初に、健二が、吹いた。
花は、笑わないようにして、失敗した。
森は、口元だけ、少し、崩した。
武志は、肩を落とした。
「……そんなに、変ですか。」
花が、首を振った。
「変、では、ないです。」
「じゃあ、何ですか。」
健二が、即答した。
「似合ってない。」
武志は、うなずいた。
自分でも、そう思っていた。
でも、似合っていないものを、
少しずつ、身に付けるのも、
たぶん、今の自分の、仕事だった。




