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第38章 館長の夜
その夜、館長は、研究員室に、一人でいた。
机の上には、
山田の記録。
花の記述。
観察会の所感。
そして、健二が、提出を保留している、
未編集映像の目録だけが、並んでいた。
館長は、順番に、読んだ。
誰の文章にも、少しずつ、違う焦りが、あった。
その焦りが、むしろ、信頼できた。
理解し切っていない証拠だったからだ。
そこへ、老師が、入ってきた。
ノックは、なかった。
館長は、驚かなかった。
「兄さん。」
「まだ、起きとるんか。」
「館長は、寝るのが、少し、遅い職です。」
老師は、机の上を見た。
「増えたな。」
「ええ。」
「どうする。」
館長は、しばらく、考えた。
それから、静かに、答えた。
「所有しないで、残します。」
老師は、うなずいた。
「それが、いちばん、むずい。」
「ええ。」
「できるか。」
館長は、少し、笑った。
「だからこそ、仕事に、なります。」
老師も、少しだけ、笑った。
二人は、しばらく、黙って、
机の上の紙を、見ていた。
制度の中の男と、
制度の外へ出た男。
二人が、同じ紙を、
同じくらい、壊したくないと、
思っている夜だった。




