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第37章 見せない技
佐伯の、一回目は、届かなかった。
二回目も、届かなかった。
三回目で、ようやく、触れた。
触れた、はずだった。
でも、触れた瞬間には、
もう、自分の軸が、遅れていた。
佐伯は、畳に落ちた。
投げられた、感じは、なかった。
押された、感じも、なかった。
終わった、感じだけが、あった。
立ち上がった佐伯は、
すぐには、礼をしなかった。
しばらく、武志を見ていた。
それから、ようやく、深く、礼をした。
「……今のは、投げられていません。」
武志は、少し、困った顔をした。
「……はい。」
「でも、終わっていました。」
「……はい。」
佐伯は、館長の方を、一度だけ、見た。
そして、静かに、言った。
「見せてもらった、というより、
見せてもらえなかった、に近いです。」
館長は、うなずいた。
老師は、少しだけ、笑った。
「正解や。」
観察会の、空気は、そこで、少し、変わった。
再現する会では、なかった。
理解した気になる会でも、なかった。
ただ、自分の理解の届かなさを、
ちゃんと、引き受ける会だった。
山田は、ようやく、一行、書いた。
今日、いちばん、残ったのは、分からなさの、質だった。




