第34章 六千万回
動画「師匠へ」は、六千万回を、超えた。
講道館の問い合わせ窓口は、午前中で、疲弊した。
海外からのメール。
番組出演依頼。
講演依頼。
十一段認定証の販売についての、怪しい相談。
全部、来た。
山田は、朝から、三十七件、断った。
広報は、もっと、断っていた。
健二のところにも、別の種類の連絡が、来ていた。
「先生、次は、映画館でやりましょう。」
「武道ブームです。」
「黒金さん、主演で。」
健二は、全部、断った。
今は、撮るより、守る方が、仕事だった。
武志本人は、神社で、缶コーヒーを飲んでいた。
いつもの、あまり、美味しくないやつだった。
山田が、言った。
「六千万回、です。」
武志は、缶を見た。
「……多いですね。」
「多いです。」
「何人くらい、ですか。」
山田は、答えなかった。
答える意味が、ない気がしたからだった。
老師が、横から、言った。
「六千万でも、一人や。」
武志は、うなずいた。
「……俺が、変な歩き方したら、
六千万回、変に見えるだけですしね。」
老師は、少しだけ、笑った。
「そういうことや。」
再生数が、大きくなればなるほど、
武志の課題は、むしろ、小さくなっていった。
右足。
待ち。
呼吸。
雑を、減らす。
六千万回の外側で、
やることは、むしろ、はっきりしていた。




