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第33章 書かない報告書
森は、警察署の端末の前で、
報告書を、二本、書いた。
一本目は、本当のことに、近かった。
黒金武志周辺、連日、群衆発生。
外部機関との接触あり。
講道館出入り、継続。
早朝、神社において、非公式訓練を確認。
森は、その四行を、三回、読んだ。
それから、全部、消した。
二本目を書いた。
渋谷駅周辺、雑踏警戒、異常なし。
終了。
森は、送信した。
送信してから、椅子に、深く、もたれた。
犯罪を、隠したわけでは、なかった。
危険を、見逃したわけでも、なかった。
でも、自分が、見たものの、いちばん大事な部分を、
制度に、渡さなかった。
それは、警察官として、初めての、種類の、判断だった。
夕方、森は、交番の前の、自販機で、水を買った。
二本、買った。
もう、完全に、習慣になっていた。
一本は、自分用。
一本は、たぶん、武志用だった。
そのことを、誰にも、説明できる気は、しなかった。
でも、説明できないことの中にも、
たまに、正しいものは、あると、
森は、最近、思い始めていた。




