第27章 黒帯たちの午後
午後二時。
小会議室。
黒帯が、九人。
全員、成人。
全員、静かに、困っていた。
議題は、一つだった。
黒金武志を、どう扱うか。
七段の男が、最初に言った。
「段位が、ないのに、中心に、なり過ぎています。」
別の六段が、言った。
「中心にしているのは、我々です。」
その通りだった。
会議室は、少し、静かになった。
館長は、黙って、全員を見ていた。
山田は、壁際で、記録係をしていた。
記録係なのに、自分の心拍まで、記録されている気がした。
七段の男が、また、言った。
「一度、正式に、見せてもらうべきです。」
「何を、ですか。」と、五段の女性指導員が聞いた。
「技を。」
「本人は、技だと、言っていません。」
また、静かになった。
館長が、初めて、口を開いた。
「黒金くん本人は、何と。」
山田は、記録用紙を見た。
正確に、読んだ。
「別に。」
会議室に、少しだけ、笑いが、起きた。
笑いの後、空気が、やわらかくなった。
館長は、うなずいた。
「では、別に、では済まない部分だけ、
我々が、責任を持ちましょう。」
結論は、閉じた観察会だった。
公開しない。
記録は残す。
名前も、付けない。
黒帯たちは、それぞれ、微妙に不満を残したまま、
うなずいた。
山田は、議事録の最後に、こう書いた。
決定事項:見せてもらうのではなく、見届ける。
自分で書いていて、その表現が、
少しだけ、好きだった。




