第24章 観察される男
黒金武志が、講道館に出入りし始めて、三日。
見学者は、増えた。
でも、見学されているのが、初心者クラスなのか、
黒金武志なのかは、だいぶ、怪しくなっていた。
廊下を歩くと、視線が、集まった。
道場の端に座ると、反対側の端にも、人が、増えた。
ノートを持つ者。
腕を組む者。
何も持たずに、ただ立つ者。
武志は、ずっと、気づいていた。
でも、気にしないことにした。
気にすると、制度の方に、引っ張られる気がしたからだった。
昼過ぎ、四段の指導員が、武志の隣に座った。
四十代の、男だった。
「黒金さん。」
「はい。」
「ひとつ、伺っても。」
「どうぞ。」
「あなたは、相手の、どこを見ているんですか。」
武志は、道場を見たまま、答えた。
「持つ前です。」
「……持つ前。」
「もっと前かもしれません。」
「もっと前、とは。」
武志は、少し考えた。
「その人が、今日は、何を怖がって来たか、です。」
指導員は、しばらく、黙った。
それから、小さく、笑った。
「それは、履歴書に、書いてありませんね。」
「書かれへんでしょうね。」
その日の夕方、道場の外で、同じ指導員が、
別の指導員に、こう話していた。
「あの人、技を見てへん。」
「じゃあ、何を。」
「人を見てる。」
その会話を、山田は、廊下の角で、聞いた。
聞いてから、何も言わず、研究員室の札を、
少しだけ、まっすぐに、直した。




