第13章 四千万回
健二は、その夜、編集をした。
「喫茶トネリコ」のシーンは、四分七秒に、収まった。
自己紹介、武志の動画②、藤村の名前、そして最後の呼びかけ。
健二は、途中で、三回、泣きそうになった。
一回目は、武志が「ほな、俺やな」と言った瞬間。
二回目は、山田が「制度上は、偉いです」と言った瞬間。
三回目は、マスターが「私は、いいです」と言った瞬間。
健二は、最後の瞬間、マスターを、名前も知らないのに、
尊敬していた。
動画のタイトルを、入れる欄で、彼は止まった。
「十一段、師匠を呼ぶ」と入れた。
消した。
「喫茶店での告白」と入れた。
消した。
「十一段、真実を語る」と入れた。
消した。
最終的に、こう書いた。
師匠へ
それだけだった。
サムネイルは、武志がカメラをまっすぐ見ている、最後の一瞬。
説明文:
場所は、渋谷。
投稿した。
午後十一時四十七分。
翌朝、六時。
健二は、スマホの通知音で目が覚めた。
最初、目覚まし時計だと思った。
目覚まし時計は、こんなに鳴らなかった。
画面を見た。
再生回数、八百七十万。
一時間あたり、約八十万回。
前の動画より、早い速度だった。
健二は、起き上がった。
コーヒーを、淹れようとして、豆がないことに気づいた。
冷蔵庫を、開けた。
カップラーメンが、あった。
食べた。
食べながら、もう一度、画面を見た。
九百二十万。
次の通知が、来た。
テレビ局。
健二は、通知を、見なかったことにした。
その日は、午後まで、部屋を出なかった。
午後二時に、画面を見た。
一千八百万。
次の日の朝。
三千万。
次の日の夜。
四千万。
健二は、四千万回、という数字に、何の感慨もなかった。
数字は、もう、数字じゃなかった。
ただの、背景音だった。
彼は、新しいレンズキャップを見た。
三日前に、買ったときは、少し、高く感じた。
今は、安く感じた。
それが、金銭感覚の崩壊というものなのかもしれない、と、
健二は、思った。




