おかしな幼なじみ
近頃、アレンの様子がおかしい。
「よ、よう、白豚。元気だったか。偶然だな、何してたんだ? そうか今日は風が心地いいからな」
3日に1度はやって来るくせに元気だったか、も何も無いだろう。それに偶然も何も、ここはブランチフィールド家のタウンハウスだ。
今日もやってきたアレンに白い目を向けてため息をつく。本当に第二騎士団というのは暇で仕方がないらしい。
「これ……やるよ。別にお前のために買った訳じゃなくてたまたま、たまたま……あれだ、拾って」
「……まあ、フリージアね。ありがとう。……でも拾った?本当に?」
淡い黄色の花束をぶっきらぼうに突き出され、思わず顔が緩むが、美しく束ねられ柔らかな紙を添えて丁寧に紫のリボンが巻かれたそれを「拾った」だなんて一体誰が信じるというのか。
2日前は焼き菓子で、その前はスカーフ。そしてその前は飾り紐。
やたらと贈り物をしてくる幼なじみを不信感いっぱいに見つめると、彼は目を見開いて不機嫌そうに顔を逸らした。
それから侯爵家の息子のくせに「ちっ」と舌打ちをする行儀の良くない姿に俯いた。いくら慣れていても、そんな態度とられたらソフィだって傷つく。
そんなに顔を見るのも嫌くらいなのだったら、来なければいいのに。
「……もしかしてお兄様に何か言われたの?」
「…………」
「言われたのね」
兄、フィリクスは爵位を継いでからずっと領地で忙しくしていた。。
今頃きっと父と母と3人で領地運営についての引き継ぎに大忙しだろう。
デビュタントの為に王都にきたカミラにソフィが付き添っているのもそのせいだ。
戦争がなくて、もっと順調に引き継ぎが済んでいたら、フィリクスが王都に来ていたはず。カミラは陽光の貴公子の名を欲しいままにするフィリクスを付添人にできなくてさぞ立腹だったし、結局「お姉様は恥ずかしいから来ないで」と言われ、こっそり張り切っていたソフィは王都に来てまで屋敷に引きこもることになった。
これでは王都に来た意味が無いし、領地にいればよかったのかもしれない。
……何を言われたのかは知らないけれどアレンはおかしいし。
「アレン、はっきり言うけど、私は貴方と結婚しないから気を遣わなくていいの。貴方なら引く手あまたでしょうし、変な責任を感じることは無いのよ」
なんだかんだ言って面倒見のいい、というか責任感の強いこの幼なじみは、どうあっても責任を取ろうとしているらしいが、全然嬉しくない。
もしかしたら妹に甘い兄がアレンに結婚を強要しているのかもしれない。……うん、大いに有り得る。
カミラによるとアレンは結構人気があるらしい。「お姉様には勿体ない」とか「アレンはお姉様のせいで婚約者を作れない」だとか「社交界でアレンをめぐって争いが起きたことがある」だとか。
昔からことある事にアレンを褒め称える妹は実は彼のことを好きなのではないかとソフィは思うのだけれど。
「……お前、聞いてないのか?」
「何を? お兄様がなんて言ったの?」
ぼんやりしていたソフィをアレンは信じられない、みたいな顔で見つめていたらしい。
呆れたようにそう言われて首を傾げる。
「……まあ、いい。知らないならそれで」
「何? 何かあったの?」
腰に手を当てて、難しい顔をしたアレンがやけに深刻そうで、ソフィは身震いをした。
……な、なにかお兄様に大変なことが? それとも領地でなにか事件が起こったのかしら。……でもそれとアレンがおかしい事になんの関係があるって言うの?
……まさか、アレンの2人のお兄様に何かあって、爵位を継がないと行けなくなったとか?! それなら尚更こんな所で油を売っている場合じゃないじゃない。
「アレン、私の事は気にせず早くご実家に」
「白豚……いや、ソフィア・ブランチフィールド」
「やっぱり、何か大変なことがあったのね。幼なじみの頼みですもの。私に出来ることがあればなんでも協力するわ」
「俺と、結婚してくれ」
「そうね、まずは、詳しい話を……」
…………ん?
「…………ちょっと待って、アレンなんて言ったの?」
「こんなこと何度も言わせるんじゃねえよ!」
「……こんな事って、ああ、いつものアレよね。貴方が冗談で言ってる、いつもの……」
ははは。と引きつった笑みを浮かべながら恐る恐るアレンを見ると、ミルクティ色の柔らかなくせっ毛を持つ幼なじみは、顔を赤く染めて肩をプルプルと震わせていた。
「え、本当に、お兄様に脅迫されてるの? 私が結婚を望めないからって。そんな……それなら私がお兄様に」
「ソフィア」
「は、はい……」
「真面目に聞け」
「き、聞いているわ」
真面目じゃないのはアレンの方じゃない。
昔から私のことを白豚と言ってからかっていたくせに。私の頭にバッタを乗っけて、泣きわめく私を大笑いしていたくせに。アレンのくせに、なんでそんな真剣な顔してるの……。
「ようやくフェリクスさんの許しが出たんだ」
「お、お兄様の許し? なんの話し」
ようやく、ようやくって何? それじゃあまるでアレンがお兄様にずっと私との結婚を認めてもらいたかったみたいじゃない。そんなわけない。そんなわけない。
だって、散々デブだの豚だの、美形揃いのブランチフィールド家で唯一のハズレだの……。散々言ってきたあのアレンが? まさか!
アレンは未だに私の傷に負い目を感じて、責任を取ろうとしているだけ。そうに決まってるわ。
「ソフィア、俺と結婚しろ」
ムッとした顔をしながら乱暴にそう言った幼なじみの顔は耳まで真っ赤だった。




