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第二章:三つの扉 (一)
耳鳴りのような静寂のなか、九条湊の足元に転がった古い万年筆が、冷たい金属光を放っていた。
漆黒の野良猫はボロボロの翼を軽く震わせ、前足でその万年筆をツンと一押しした瞬間、車内の景色が激しく歪んだ。
ガタン、と腹を抉るような衝撃とともに、電車の窓ガラスの外に、おびただしい数の「光の扉」が浮かび上がる。それぞれの扉の向こう側には、別の時間軸の匂い、別の人生の気配が、生々しい熱を帯びて揺らいでいるように見えた。
「選ぶがいい、九条湊」
猫の低い声が、頭蓋骨の内側から直接響く。
「お前が捨てた可能性、あるいは、すり替えてきた現実の裏側だ。まずは一つ目、覗いてみるがいい」
猫が前足を鋭く振り下ろした。
もっとも強く輝く一つの扉が、音もなく開いた。




