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第2話 赤い傘

・転生特典


・・・窓から夕陽が差している。


景色から察するに、住宅街にある戸建ての2階、かな。

クローゼット脇の鏡から、青少年的な男子がこちらを見ている。


「あ、やり直し度が中程度ってこういうことなのか?」


つまりは、最強スキルを持つ高校生がエンジニアを目指す。

そういう設定か?


それにしても、窓の外に未来感はまるで無い。

本当にここは、いわゆる異世界なのか?


女神の提案を疑っていると、階下から母親らしき声がした。

「はるかー!ごはんできてるから降りてきなさーい」


まさか普通に名前を呼ばれると思ってなかった。

わかりやすくてよいけど、なんだか複雑な気分だ。


やや恐る恐る食卓につくと、懐かしさを感じる人物がいた。

まちがいなく父親だろう。


「さて、遥、明日の準備はできているか?」

「準備?」

「初日から忘れ物はいただけない。マイナス評価になるぞ?」

「は、はい」


知っているようで知らない人だ。さすがに違和感はある。

ただ、やさしい目の母親をみると、不思議に落ち着く気がした。


自室に戻ると、あまり意識していなかった机に目がとまった。

学園の案内らしき冊子や学習道具一式、制服まである。

間違いなく明日から通うであろう学園のソレだ。


・・・女神様さすが!


妙にうまかった味噌汁!

優しそうな雰囲気の両親!

眺めのいい2階の角部屋!

すでに実家がホワイトじゃないか!


ひとまずは女神のご加護・・・とかでいいのかな。

なんだかそわそわして、あまり寝付けなかった。


・赤い傘


「雨・・・か」

初日の朝にぴったりの嫌な天気だな、と少し笑う。


眠っている間に、少しだけ予備知識を授かったようだ。

ご加護かどうかはしらないけど。


前世、すでに前世か。それよりも少し未来といった世の中。

名前はそのまま「阿南遥」で18歳。父と母の3人家族。

親父の仕事はバイオメカトロニクス関係。

平たく言えば義手とか義足かな。親父はエンジニア職らしい。

単身赴任という選択も、あるにはあったようだ。

だが紆余曲折を経て、雨の転入初日を迎えたってわけだ。


はじめまして、阿南遥です。この学園には・・・

ありきたりな自己紹介を考えていると、赤い傘が視界に入る。

と、同時にその傘が大きくゆれる。


「あっ」


咄嗟に駆け出したが遅い。

「大丈夫ですか?」

立てます?と、手を差し出すも、彼女は地面を見たままだ。

僕の声にゆっくり顔を上げた彼女は、まるで・・・


  お人形のように綺麗だった。


しばらくじっとしていた彼女が僕の手を取る。

「す、すいません。大丈夫です。外は慣れてなくって」

慣れ?

いや、そんなことより怪我がなさそうでよかった。


見たところ自分と同じくらいの歳だろうか。

でも白いワンピースの彼女は、学園に行く感じでもない。


雨に濡れて裾が少し汚れてしまったようだ。

「あの、これ。返さなくてもいいから。」

少し押し付けがましいかな。

ハンカチを受け取った彼女の返事を確認せずに、学園へ急いだ。


・学術研究都市


海に囲まれたその街は、学術研究都市や学研都市と呼ばれる。

やや人工的だが豊かな自然が特徴で、人口は約8万。

研究、教育、行政や企業などがコンパクトにまとまっている。

島の西側に景色が評判の桟橋。

東側には、釣りスポットとして休日に賑わう海釣り公園。


10年ほど前、超高速無線通網の実用化目的で建設された。

建設後は無線通信に関連して、様々な技術が集まってきた。

低遅延大容量ネットワークは遠隔操作技術と特に相性がいい。

重機など車両はもちろん、ロボットなどもその範囲。

現在この島は、機械制御技術のショールームといった様相だ。


アンドロイドなども闊歩する島だが、どこか歪な印象を受ける。

それはソフトウエア工学的な発展が前世と比べて遅いところ。

歩きスマホはいない。というかスマホもケータイもない。

家にあったPCも、親父が黒い画面で操作していた。


そういえばと、こちらに来た時のことを思い出す。

技術レベルが中程度、活躍余地が大きいとあった。

なるほどな。足して引いて中程度、ソフトウエアはこれから。

元ソフトウエアのエンジニアとして、いろいろできそうだ。

まずはじっくり学園生活で得意分野を探そう。

大学部から目覚ましい活躍で脚光を浴びる。うむ、完璧だ。


今日から始まる学園生活とアバウトなライフプラン。

そんなことを考えながら学園の門をくぐった。


・転校初日


「はじめまして、阿南遥です。この学園には・・・」

用意しておいた挨拶を完璧にこなしてやった、のだが。


まるで年下相手にドヤ顔しているようで、やや気が滅入る。

品定めでもするかのような視線もちょっと痛い。

いやまぁ、転校生なんてそんなもんだろうけど。


ざっと見た教室は見慣れた景色だ。

ただ1点だけ知らないものがある。机に浮かぶウィンドウだ。

うっすら僕の名前が示されている。

機械制御はすごいが、それ以外はイマイチと思っていた。

世の中の見方を少し変えないといけないかもしれない。


「では阿南くん、あそこの席だ」


自席に着こうとすると、小さく手を上げる男子と目が合う。

彼は屈託のない笑顔としか言えない表情で声をかけてきた。

「阿南だよな。俺は邑上。邑上めぐるだ。よろしくな」

「よ、よろしく」

「俺も最近転校してきたんだ。なにかあれば聞いてくれ」

「あ、ありがとう」


自分の席にも「阿南遥」と表示されているのが少し可笑しい。

軽く表示をつつくと、ウィンドウはくるりと向きを変える。

「それ、ちょっとつかいにくいよな。始まる前に教えようか?」

「だ、大丈夫だと思う。大まかな使い方はさっき聞いたよ」


たぶんいいやつだ。

ものすごく自然に友達になれそうな感覚が懐かしい。


・・・


授業内容は自分の高校時代とそんなに変わらなかった。

内容はいいとして、とにかくウィンドウ操作には手間取った。

あと、邑上の「な?」が記憶に残る授業だったかな。


ランチタイムを知らせる鐘が鳴る。

さっそく最初の友達からのお誘いがあった。

「さて、と。昼飯いこうぜ」

「あ、ああ」

「ここの食堂はな、なんと!タダなんだよ!」

「いや、それは聞いてる。知ってるよ」

「そっか、まぁ行こうぜ」

「そうだな」


食堂につくと、なるほど無料の理由がよくわかる。

たくさんの企業ロゴが壁に浮かんでる。親父の会社もあるな。

「メシ以外は金とるのがこの学園の面白いとこだよな」

「なんで食事だけ?」

「さぁ?胃袋つかむのが最強なんじゃない?」

「いつ付き合い始めたんだよ、それ」


メニューに目を向けると、それなりに種類があるようだ。

せっかく最初の食事だし外したくない。

これは、今まさに選ぶときなのか?使いどころか?


ふざけた女神の顔を思い浮かべてみる。

手元からマンガの吹き出しのようなウィンドウが開いた。


 ▽ 味噌ラーメンセット

  味噌感:MIN

  麺のコシ:MIN

  満腹感:MAX


なるほど?

こっちはどうだ?


 ▽ スープカレーセット

  ボリューム:MAX

  スパイス度:MAX+++


「なぁ邑上、これってさぁ」

「うん?」

「どれがいいと思う?」

「手?」

「いや、すまん。なんでもない」


他人からは見えないんだ。お約束だな。


 ▽ 和定食

  健康度:MAX

  多彩度:MID

  訴求感:今日はたぶんこれ!


そういう表示もありなのか。わかりやすいのか微妙だな。

まあ和定食が無難か。


残念ながら、ほとんどの席が埋まってしまっているようだ。

スープカレーを持った邑上も、どうしたものかと見回している。

そこへ、取って付けたようなアニメ声が聞こえてきた。


「あ、めぐるくん!めぐるくんだ!ひさしぶり!」

小柄な女の子が屈託のない笑顔で手を振っている。

ん?ちょっと前に見たような気がするな?いやいいか。


「おおー!絵里ちゃん!久しぶりだな」

「邑上、あの子知り合い、だよな?」

「おう。中等部まで一緒だったんだよ」


「絵里ちゃんもここだったのかよ!」

「こっち空いてるよ!いっしょにたべよ!」

「そうするわ、遥、いいよな」


突然名前で呼ばれてびくっとしたが、少しうれしいかもしれない。


邑上と彼女のもとへ行くと、自己紹介してくれた。

「はじめましてー、わたしえり、しおみえり、よろしくね」

「は、はじめまして、阿南です。阿南遥」

「かたいぞー。おねーさんが、やさしくかいほーしてあげよーか」

「い、いえ、大丈夫。大丈夫です」

「そう?ま、いっか。んで、めぐるくんはいつからここ?」

「先週かな、なんか急に決まったんだよ」

「へー、ぜんぜんわからなかった!これから毎日会えるね!」

「毎日でなくてもよくね?」

「だめです。みんなでいっしょに、ごはん食べないとです」

「なんでだ?」

「それは、えりが干からびちゃうからなのですよ」


よくはわからないが、干からびたら大変だ。

でも仲良しなら、たしかに一緒がいい。


「はるかくん? も、だからね?」

「そ、そうなんだ」

「えっへん」


なにがそんなにエッヘンなのかは、皆目見当がつかないが。

ともかく、食事はこの3人と決まったらようだ。


「なんだこれ!辛すぎるだろ!非常識に辛いだろ!」


めぐるの魂の叫びに、汐見さんが呼応する。

「さすがだね!えりは無理だなー。てゆーか、みんな無理」

「こんな辛いとわかってりゃ他のにしたのに」


やっぱりカレーがハズレだったのか。

自分の定食は別に当たりってほどではないが、結構うまい。


「だいじょーぶだよ、めぐるくん!はい!お水!」

「おう、すまんな」


うけとった水をガブガブ飲みながら腹に詰め込むめぐる。

豪快だけど、どこか憎めない。

ん?誰かに似てるか?気のせいか?


それはともかく、こいつはいいやつなんだと思う。


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